方針決定
僕が異世界人だと暴露した事で、場は一時騒然となったが、ようやく落ち着きを取り戻しつつある。
僕が今まで身内にしか話してこなかった秘密を告白する気になったのかと言うと、現国王であるアイツと僕の関係を提示すれば、僕の案を採用してくれる可能性が上がるかもと言う打算からだ。
「セイドリックさん。そんな訳でして、現国王をぶっ飛ばして、停戦させるように話をつけてきます。皇帝とは、出来れば話し合いで解決したいと考えているんですが。王国が止まるなら、帝国も停戦に応じると思うんですよ」
「お前の案は採用しよう。それが一番被害が出なそうだしの。だが、現皇帝との話し合いは無理だろうな」
セイドリックさんからの言質は取った!
しかし、皇帝との話し合いが無理と言うのは、どうゆうことだ?
僕が首を傾げていると、セイドリックさんがその事について説明し始めた。
「現皇帝は、SSSランクでな、今から15年ほど前に姿をくらましたと思ったら、いつの間にか皇帝になっておった。あやつは、無類の戦闘狂の上に実力主義者で、自分より弱い奴の言う事はあまり聞かんのじゃ。まぁ、皇帝と言う立場になった事で多少は改善されたようだがのぉ」
何それ!? 世界に2人しかいないSSSランクの冒険者が現皇帝!!? しかもかなりはた迷惑な性格だし!
「つまり、話し合いに持ち込むにしても、戦わない事には始まらないと?」
「そう言う事だ」
「…分かりました。言い出したのはこちらです。何とかします。ただ、セイドリックさんには皇帝宛てに停戦を呼びかける手紙を書いてもらいたいんですが?」
帝国はリンに頑張ってもらおう。
リンに丸投げする事を心の中で決意する。
「分かった。それぐらいは問題ない」
「あと、今両国の尖兵として戦っている、獣人とエルフの奴隷なんですが、どうやら無理矢理さらってきてようなんですよ。そこで相談なんですが、奴隷の生け捕りの手伝いをして欲しいんですよ」
「手伝えって言うが、お前のパーティーは帝国と王国の方で手一杯じゃないのか?」
「そこは大丈夫です。うちの使用人たちを使いますので。大体、Bランクほどの実力はあると思いますよ?」
僕らの替わりにフェルたちが働くと言うと、セイドリックさんは思案顔になる。
「……生け捕りした後はどうする? 奴隷契約があるだろ?」
「そこは、僕がなんとかしますよ。一応、当てはあるので」
「……お前ら。両国の小競り合いから本格的な戦闘へと替わった時に、奴隷たちを生け捕りにしてこい」
数瞬の間黙り込んだセイドリックさんは、主に3バカ向かって、命令を下す。
「何で俺たちなんだよ!」
「儂も同じ意見じゃ」
「そんなのに時間を使いたくないわ」
案の定、3人は不満を爆発させる。
「うるせぇ! 普段、問題ばかり起こしてるんだ。こんな時ぐらい、黙って働け! それとも、ギルドマスターの権限で、1ヶ月ほど奉仕活動でもするか?」
『……………………』
「あと、両国の兵士を殺すなとは言わんが、ある程度は加減せいよ?」
奉仕活動がそれほど嫌なのか、黙り込む3人。セイドリックさんは、黙り込む3人が命令を受けることを了承したと受け取り、やり過ぎるなと釘を刺す。
「マスター? 私たちはどう動くんですか?」
指示を出されなかったフリーシアさんとフローラさんがセイドリックさんへと質問する。
「フリーシアは、斥候として奴隷たちの場所を探索してやれ。フローラは、捕縛した奴隷たちを収容地まで護送する時の護衛だな」
「分かりました」
「分かったわ」
この2人は、セイドリックさんの指示にいちいち噛み付いたりはせずに素直に返事をする。
「あぁ、フローラは人手がいるだろうから、Sランク冒険者の手を借りる事を許可する。人選もお前に任せる。お前なら間違った人選はせんだろ」
「分かったわ。それじゃあ、私は先に動き始めるわね」
そう言うだけ言ってフローラさんは退席してしまった。
「マスター、私も斥候として動き始めます。ノゾムさん、ある程度情報を集めたら、屋敷の方に行きますので、使用人たちには話を通しておいて下さい」
「了解しました」
僕の返事を聞いたフリーシアさんもさっさと退席してしまった。
「じゃあ、俺たちには新入りの屋敷の場所を教えろよ。新入りのところの下っ端が動くのに合わせて俺たちも動いてやるからよ」
ゼルフがアーシャさんに詰め寄っている。聞こえてくる話からして、あいつらの集合場所もうちの屋敷になるみたい……。
しかもあいつら、僕の返事を聞かないで退席しやがった。
「さて、儂はこれからお前さんの屋敷へと行くとするか」
「へ!?」
この爺さんは何を言っているんだろう?
「何を呆けておる? いくら、フリーシアとフローラがお前さんのパーティーの実力を認めたとは言え、それを鵜呑みにするわけにはいかんだろう? だから、儂自らがその実力を確かめに行くのじゃ」
確かに、言っていることは正しい。正しいが、それは今じゃなくてもいいんじゃないか? と言い返したい。が、これから行う作戦に実力が無い人間が参加して無駄に命を散らすのは阻止したいと考えているのが判るだけに、言い返せないのが悔しい。
「仲間のうち2人は、セイドリックさんも見たことがあるはずですよ? 僕が模擬戦にされた時にいたので」
ギルマスの来訪を回避したい僕は、無駄だと分かってはいるが、ささやかな抵抗を試みる。
「…そう言われればいたな。お前さんと戦っている間、恐ろしい殺気を儂だけに放っていたヤツが…」
リンさ~ん! 貴女、そんな事していたんですか!? セシリアは大人しくしていたって言うのにさ!
「2人ほど」
僕は思わず、ずっこける。
前言撤回! リンもセシリアも何しているのさ! 100歩譲ってリンは分かるけど、セシリアは何で? 貴女、セイドリックさんを見てブルブルと震えてませんでしたか?
「それは、大変失礼しました」
今更ながら、セイドリックさんに謝罪する。
「構わん。それにしてもそうか。あの時の2人もおるのか。……よし。アーシャ! お前さんもついてこい!」
「何、寝言を言っていますか。これから、色々と準備に追われるんです。マスターのお戯れに付き合う時間などありません」
「いや、ギルマスとしての命令だ。拒否権はない。それに理由もちゃんとある。第三者の証言が必要だからな」
「……分かりました。ですが、もう少々お待ち下さい。少しでも作業が進むよう引き継ぎをしてきますので」
抗うことを諦めたアーシャさんは、肩を落としたまま部屋を出て行く。その後ろ姿は哀愁が漂っていて、思わず心の中でエールを送ってしまう程だった。
「それで、アーシャさんまで連れてくるって事は、僕の時みたく、闘う気ですか?」
「軽くだ。いつ事態が動くか判らんからな」
だったら、余計な事などしに家にこないでいただきたい。と、言っても無意味なんだと判っているので、屋敷にいるリンたちにご愁傷様と念を送っておくことにした。
ありがとうございます。
追伸(9月19日)
リアルの関係で年内の更新は不定期になります。