暴露
「さて、どのように戦争を止めるかだが…」
「んなもの、両軍の本陣へと突っ込めばいいだけじゃねぇか!」
セイドリックさんの言葉に被せて、バカ丸出しの提案をする猪。
「「「「「「「ハァ~~~~~」」」」」」」
僕を含めた全員が、深い深いため息をつく。
「何だよ? さっさと頭を潰しちまえば、手っ取り早いだろぉが?」
確かにそうだけど、それだと真っ向から喧嘩を売るようなもんだし…ね?
「バカタレ! そんな事をすれば、王国と帝国がワシら自由都市を潰すために手を取り合ってしまうわ!!」
「なら、どうすんだよ?」
自身の意見を反対されたのが気に食わないのか、ふれ腐れ気味に訊いてくる。
「そんなの、双方に気付かれる事なく制圧すればいいのよ」
ゼルフの問いに答えたのはユティシアだった。
「だからどうすんだよ!」
具体的な事を言わなかったユティシアにゼルフが苛つきながらも再度問う。
「私が作ったアイt」
「却下じゃ!」
ユティシアの案を最後まで言わさずに却下したのは、ヴォルツだった。
「何故?」
最後まで言わせてもらえなかったのが不満なのか、あからさまに不機嫌となったユティシアは、ヴォルツに却下の理由を訊ねる。
「どうせお前さんの事じゃ、制圧を建て前に新作アイテムの実験でもする気なんじゃろ?」
「…それが何か?」
ヴォルツの言葉を否定しないところをみるに、図星なのだろう。
「何か? じゃない! 戦場をお前さんの新作アイテムなんぞの実験場にされたら、こっちはたまったもんじゃないわい!!」
「私のアイテムが貴方に迷惑をかけたかしら?」
「『ギルドが認めた』アイテムなら迷惑どころか、大いに役立っとるから文句は無いわい」
「だったら」
ユティシアが何かを言おうとしているが、ヴォルツはそれを許さない。
「ただし、お前さんの新作アイテムだけは駄目じゃ! あれは、一種の災害じゃ! お前さん、無駄に戦火を広げる気か!」
「彼女の新作アイテムって、そんなにヤバいんですか?」
ギャーギャーと言い争っている2人を尻目に、話題となっているユティシアの新作アイテムについてフリーシアさんに訊ねてみる。
「あの変人が作る新作アイテムは、脳筋が言うように災害と同種の被害をもたらす場合があるんです。過去に100人規模の盗賊退治に件のアイテムを使用したのですが…」
「…? どうなったんです?」
「盗賊全員が呪いにかかりました。さらに、使用された土地までも呪いによって、アンデットが大量発生。現在では、その土地の解呪に成功してはいますが、未だに生物は住み着いていないそうです」
うっわぁ…。そりゃ確かに災害だよ。ヴォルツが却下するのも納得だ。
「…ちなみに、盗賊たちの呪いって何だったんですか?」
「本人は、ステータス低下の呪いとしてアイテムを作ったそうですが、実際は生命力を徐々に失う呪いでした。しかも、効果範囲が根城にしていた山一帯だった為、山に住む生き物全てが呪いによって生命力を失い、その生命力に誘われるかのようにアンデットが大量発生したという訳です。
しかも、当の本人は、『ちょっと失敗失敗』ぐらいにしか思ってないから、さらに質が悪い。
だいたい、何で呪いの効果範囲内にいるのに、アイツだけ呪いにかからないのか? おかしいと問いただしたら、自分はいかなる呪いも受け付けないアイテムを装備していたとか言うし。呪われた土地の解呪や大量発生したアンデットの処理諸々の事後処理は全てこっちに回ってくるし! これだけの大災害を引き起こしてなお、盗賊の討伐料はキッチリ貰っていくし、ホント嫌になる。
その他にも、空気中に漂っている魔力が尽きるまで燃え続けるアイテムのせいで帝国南部では、砂漠となりましたし、雨を降らせるアイテムは3日ほど降らせる予定が1ヶ月近く降り続いたり。しかも、そんな時に限ってフローラは姿をくらます為に、事後処理は基本的に、私かヴォルツに回ってきます」
おかしいなぁ? いつの間にか愚痴になっているぞ? これは地雷だったか?
それにしても、ユティシアの新作アイテムは恐ろしいな。聴いている限り、ホントに災害だよ。
「ノゾムさん、聞いてますか!」
「うぇ!? え、えぇ。聴いてますよ。けど、それだけ被害を出しているのに、どうしてまだ冒険者でいられるんです?」
まさか、愚痴がまだ続いていたとは…。まぁ、ヴォルツとユティシアの言い争いもまだ続いてるみたいだし、いいのかな?
僕は、フリーシアさんの愚痴を止める為に、一つの疑問をぶつけてみた。
「それは簡単です。あれが帝国、王国に抱え込まれたら、パワーバランスが崩れるからです。なので、ギルドは被害の方には目をつむっているんです。これは、猪と脳筋にも言えることなんですけどね」
言われてみればそうか。
SSランクになれるような人材がフリーならスカウトしないはずがない。ギルドとしても、戦力の流失は抑止力としての意味を成さなく為、力のある冒険者は問題児であろうと手元に置いておきたい訳だ。
そして今までの話で判った事は、SSランク《彼ら》に任せていては、被害が拡大する一方だと言う事。それは、奴隷契約で無理矢理戦わされているエルフと獣人たちが無駄に死ぬ事を指している。
やっぱり、当初の予定通り、僕らが動いた方が良さそうだな。
色々教えてくれたフリーシアさんにお礼を告げ、僕は混沌としているこの場に一石を投じる為、立ち上がり注目を集める。
「ちょっと宜しいでしょうか? 僕から一つ提案があるのですが…」
立ち上がった事で、言い争いを見ているだけだったセイドリックさん、アーシャさん、フローラさん、フリーシアさんが、そして、僕の発言で言い争っていた3人が僕へと注目する。
「僕のパーティーで両国のトップに戦争を止めるよう直訴しに行こうかと思ってまして」
「ぐわっはっはっは!! 笑わせてくれるぜ! 新入り如き言葉で戦争が止まるなら、始めっから戦争なんて起こるはずないだろ?」
馬鹿でかい声で笑うゼルフが僕の案を一蹴する。
「ゼルフ、こやつの言葉を額面通りに受け取るな。こやつは、城におる国王と皇帝を倒し、停戦させると言っておるのだ」
ヴォルツが僕の言葉の真意を代弁してくれる。
…この人、本当に脳筋なのかな?
「問題は、そこの坊やとそのパーティーに、それだけの実力があるかどうかだけど?」
ユティシアが僕らに実行できる実力を持っているか怪しんでいる。
「多分ですが、1対1なら僕は、あなた方には負けないと思います。パーティーのメンバーも、大半はあなた方と同等の力を持っていますよ」
アイラさんとルージュは除くけど、と心の中で呟く。
「ほぉ…」
この言葉にいち早く反応したのはヴォルツだった。目つきも鋭いモノになっている。
「その事については、私とフローラが保証します。彼女たちの実力の一端は確認済みです。その中でも、リンスレットさんは私たちより強い可能性があります」
フリーシアさんが僕の言葉に嘘はないと証言してくれる。
「おいおい、それだけの実力があるのに、リンスレットとか言う名を聞いたことねぇぞ? そいつ、冒険者なのか?」
リンは、冒険者登録してから一年程だからね、知らないのも当然じゃないかな?
「僕のパーティー、リンスレット、サキ、セシリア、イリスの4人は、間違いなく冒険者ですよ。リンスレットはS。他の3人はBだったはずです」
「ん? リンスレットって名はチラッと耳にした事があるぞ? 確か…。そうそう、数ヶ月ほど前、ターニン付近にあるダンジョンを片っ端から踏破している3人組がおると。そのうちの1人の名が、件のリンスレットだったはずじゃ」
ヴォルツはリンの事を聞いたことあったようだ。と言うか、僕を捜すためにダンジョン捜索をしていたのは聞いたけど、リンたちのダンジョン捜索は結構話題になってたんだ。
「ふ~ん。じゃあ、面白そうだしやらせてみたらいいじゃない?」
意外にもユティシアは、僕の意見を支持してくれた。
「その前に、皇帝と国王を叩き潰すとか、そんな事して大丈夫なんですか?」
フリーシアさんが至極当然の疑問を挟む。
「…普通なら大問題なんだろうが、少なくとも今の帝国なら問題なかろう。トップがあやつだしのぉ」
「…あぁ。そう言えば、そうでしたね」
彼女の疑問に答えたのはセイドリックさんだった。どうやら、皇帝の事をよく知っているみたいだ。
とにかく、帝国側は問題ないみたいだな。
「王国も今の国王なら、叩き潰しても問題ないですよ」
「新入りが何で断言できるんだ?」
王国の方も問題ないと告げる僕に、ゼルフが疑問を抱く。
「アイツとは、長い付き合いでしたからね」
「長い付き合いだぁ~? 確か、今の国王って、異世界から召喚された勇者なんだろ? それなのに長い付き合いってどうゆうこった?」
「簡単な事ですよ。僕も召喚された人間なんです。ただし、召喚された頃は弱すぎた為、先代の国王から厄介払いされたんですけどね」
『なっ!!?』
この場にいる全ての人間が驚愕に包まれる。特に、僕がヒトからヴァンパイアへと種族が変化したのを知っているフリーシアさんの驚き具合は、他の誰よりも強かった。
ありがとうございます。