戦況
「全く。お前らはいつまでも仲が悪いのぉ。仲良くしろとまでは言わんが、せめて喧嘩せんで会話する程度にならんのか?」
話し合いを始めると言った本人が、開口一番に僕以外のSSランク者の関係性について物申した。
「「「「「無理!!」」」」」
そして、僕以外の5人は口を揃えて即答した。
って!? フローラさんも!? さっきの言い争いに我関せずでいたけど、まさかフローラさんもほかの4人とはそりが合わないのか?
いや、フリーシアさんとは仲が悪い訳じゃないだろう。北の島まで、一緒に行動していたぐらいだし。
「おい、じいさん。そいつ誰だ?」
今更ながら、ゼルフが僕に気が付き、セイドリックさんに問う。それを切っ掛けに僕と面識のない残り2人も僕へと視線を向ける。
「…新しくSSランクに昇格したノゾムじゃ」
「へぇ~」
「ずいぶんと若いのぉ」
「新しい昇格者なんて、何時ぶりかしら?」
ゼルフ、ヴォルツ、ユティシアが各々僕を値踏みするように鋭い目つきになる。
「ほれ、お前も自己紹介ぐらいせんか!」
いきなり無茶ぶりをしてくるセイドリックさん。
「ノゾムです。とりあえず、よろしくお願いします」
言われた通り自己紹介をする。が、その内容は、名前以外の何も分からないものだった。そんな僕は内心で絶叫していた。
ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!! 自己紹介って簡単に言うが、何を言えばいいんだよ! そもそも同業者への自己紹介なんてした事無いから何を言えばいいか判らないよ!!
「お前なぁ。レベルやスキルを言えとは言わんが、せめて前衛か後衛、はたまた中衛なのか、それぐらいは言わんか」
内心で無茶ぶりをしたセイドリックさんへの文句を言っていると、その本人が僕の自己紹介へのダメ出しをしてきた。しかしそれは、今の僕にとっては助け舟でしかない。
「えっと、一応とこでも一通り戦えます」
この一言に3人の眼光がより鋭くなった。
「なんだ、お前もそこの色物と同じなのか。なら、大したことないな」
ゼルフがその鋭い眼光とは裏腹に、溜め息混じりに見下す台詞を捨て吐く。
「そこの猪。死にたいのなら、キチンと死にたいと申し出なさい。きっちり殺ってあげるから」
色物《禁句》を言われたことで殺気を全開にするフリーシアさん。
「しかし、その猪の言う事にも一理ある。あれもこれもと手を出すオールラウンダーよりも、一つを極めんとする専門職の方が強いに決まっているじゃろう。まぁ、中にはアイテムだよりの軟弱者もおるがのぉ」
ヴォルツがゼルフの言葉を肯定する。そして、最後の言葉をユティシアに向けて言い放った。
しかし、残念な事に僕には当てはまらないんだなぁ。ステータスがぶっ飛んでいるってのもあるけど、吸血のおかげでスキルも揃っているんだよね。まぁ、スキルレベルにはばらつきがあるのが欠点だけど…。
「私は、何でもかんでも、筋肉で片づける野蛮人とは違うのよ。私の時間は、錬金術を極める為にあるの。それ以外の些末事で、時間を無駄にしたくないのよ」
「ならお主は何故冒険者なんぞやっとるんじゃ?」
もっともな疑問をヴォルツが口にする。
「そんなのお金の為に決まってるじゃない。錬金術にはお金が掛かるのよ」
「今のお主なら、その金策すら錬金術でどうにかなるじゃろう?」
「い・や! 何で私の貴重な時間を、無駄な物作りに割かなきゃいけないのよ。それに、私の必要とする素材は、そこいらの冒険者じゃ採って来れないの」
ユティシアって、本当にエルフなんですかね? 長寿のエルフが、時間を無駄にしたくないって言ってるの初めて聞いた。
「お前ら、黙らんか!!」
「「「「「っ!?」」」」」
あっという間に騒がしくなった4人に堪忍袋の緒が切れたセイドリックさんは、殺気と威圧を全開にして、僕たちに叩きつける。
僕以外の5人は、それに気圧され一瞬で黙る。僕は何て事ないので平然としている。
「全く、なんで他人の自己紹介からお前らが言い争いになるんじゃ? もういい。さっさと本題に入る。アーシャ」
「はい」
「うおっ!?」
突然現れたアーシャさんに驚きの声を上げてしまう僕。
「ノゾム様?」
「い、いつからそこに?」
「最初からいましたが?」
えぇ~。絶対いなかったよ? いなかったよね? …いなかった? SSランクが濃すぎたせいで、自信がなくなってきた。
「いえ、それならいいです」
「? では、現在の王国と帝国の戦争の状況ですが、開戦してから一週間ほど経ちましたが、依然として前哨戦のつもりなのか、双方ともに、尖兵での小競り合いをしています。尖兵は、帝国は獣人。王国はエルフを主体ですね」
っ!!? エルフだって!? まさかあいつ、エルフの村がある南の森を襲ったのか!!
「兵数ですが、斥候の報告によると、獣人が7000に対して、エルフは500といったところです。しかし、エルフには護衛の兵が3000は付いていますね」
500!? ちょっと待て! 南の森に住んでいたエルフって300ぐらいじゃなかったか? それが500? まさか、他からも無理やり攫ってきたのか?
「王国側はよく3000も兵を割いたな」
「これは、ほとんどが傭兵のようです。その傭兵を壁代わりに魔法で退けているみたいですね」
「にしても、その兵数差でよく、未だに小競り合いレベルで済んでるな。もう開戦して1週間だろ? 普通なら、王国側の尖兵が敗走して、本格戦闘に入ってもおかしくはねぇ頃だろ?」
ゼルフが現状の不可解な点を上げる。
「それが、斥候の話によると、双方何かを待っているみたいだ、との事です」
「何じゃ? お互いに切り札の到着でも待っているのか?」
「そこまでは、ちょっと…」
ヴォルツがその何かが双方の切り札じゃないかと予想する。
「そこらへんは今考えても時間の無駄だろう。それよりも、両軍の総数はどれくらいになっとる?」
セイドリックさんが判らない事よりも、判る議題へと話を進める。
「えっとですね…。王国が約8万。帝国が約5万ですね」
「おいおい、帝国も王国も全戦力を注ぎ込んできたのか!?」
「は?」
「新入り、どうかしたか?」
ゼルフの全戦力と言う言葉に、僕は驚きの言葉を漏らしてしまった。
「いえ、全戦力と言う割には双方少ないと思いまして…」
話を振られたので、素直に疑問に思った事を口にする。
「何を言っているんだ? 住人の数から見れば多いぐらいだろ?」
「ちなみにですが、王国と帝国、あとはこの都市のの人口ってどれくらいなんですか?」
「王国は15万ほどです。帝国は11万ぐらい、自由都市は5万ほどだったはずです」
僕の質問に答えてくれたのは、アーシャさんだった。
この世界の人口が少ないとは思っていたけど、この数字はその予想を遥かに上回るモノだ。よくよく思い返してみても、人が多い王都やこの都市にしても、日本の渋谷のスクランブル交差点や原宿の竹下通りのような、人であふれる光景をこの世界では見た事がない。
幾ら人間の天敵がいるとは言え、この広い大地にたった約30万人しか人間がいないのは、どう考えても不自然だ。
「…それならこの数字も納得です。勉強不足ですみません」
とりあえずはこの事は頭の隅に留めておくとして、話を本筋に戻そう。
僕が頭を下げたのを見て、アーシャさんが話を再開する。
「では、話を戻します。尖兵による小競り合いによる引き延ばしもそろそろ限界の為、そろそろ両軍の本格戦闘が遅くても明日か明後日には、早ければ今日中にもと予想されています」
「でだ。王国と帝国が、戦争をしない為の抑止力として存在するこの自由都市は、起きてしまったこの戦争をどう止めるか話し合い為に、お前たちを招集したんだ。今日なら、SSランク全員が揃うとフローラが言っておったからの」
なるほどね。それで僕が顔を出す今日、本部にSSランク冒険者が全員揃っているのか。
自由都市が即時介入しなかったのは、全員揃ってないとこの戦争は止められないとかフローラさんに言われたのかな?
ん~、まぁいいか。それよりも、ここからが僕にとっては本題だ。しっかりと独自に動く許可を得ないと。まぁ、最悪の場合は、伝えるだけでも構わないんだけどね。
ありがとうございます。
SSランク同士の会話が無駄に弾んでしまって話が進まない…