昇格試験
ブクマ100件突破しました。
ありがとうございます。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
「それなら、報酬とは別に幾つか条件を飲んでいただけるなら受けてもいいですよ?」
「私の出来る範囲内であれば飲みましょう」
せめてもの抵抗として条件を提示する事にした僕にカードスは即答してみせた。
「1つ目ですが、通常通りのCランク昇格試験を受けさせてください。指名依頼の方はちゃんと受けますのでご安心を。
2つ目は彼女の冒険者登録を秘密裏にしてください。
3つ目は2つ目がOKならお話しします」
とりあえず、要求の通りそうな物を言う事にした。無茶を言って相手の機嫌を損ねても、損をするのはまだこっちだしね。
カードスも特に想定外とは思ってないようで表情ひとつ変えないでいた。
「今挙げた2つとも問題ないですが、理由を聞いてもよろしいですか?」
「1つ目の条件はあまり意味はありませんが、2つ目と3つ目の条件を飲んでいただけたら、僕に1つだけ貸しが作れるからです」
「ほう…。なら3つ目の条件も聞いていいですか?」
僕の言った理由にカードスは興味を示したようだ。
「3つ目の条件はリンにもCランクの昇格試験を一緒に受けさせて欲しい事です。しかもあなたの推薦で特別に」
「それだとキミの借りは2つになるのでは?」
「なりませんね。なぜなら3つ目の条件はあなたのギルド内での評価にも繋がるはずですから」
「どうして、そう断言できるんです?」
「『短期間でSランクになる人材を発掘した人』と、なればどうです?」
そうなれば借りを作ることにはなるけどSランクになる事でその借りは返せる。なので3つ目の条件は言わば商談に近いかな?
だから実質、秘密裏にリンの冒険者登録してもらうのぐらいしか借りを作らなくて済む。
そもそもリンの冒険者登録も周囲の冒険者に種族がバレるかもしれないから登録しないだけだから断られても問題はない。
「…なるほどね。しかしそれなら貸し借りをなくそうとは思わなかったのかね?」
「思いませんね。貸し借りをなくしてしまうと、あなたに裏切られて、種族の事を国に報告されるかもしれません。しかし、借りを残しておけばその間はあなたも裏切りはしないでしょう。自分よりも強い者を好きなときに利用できるんですからね。これほど便利な駒はないはずですから。そうなればこちらも借りがあるうちは、ある程度の安全は確保されるので」
「…こちらが条件の3つとも貸しだと主張したり、もしくは貸しをさっさと使って国に密告してしまうとは思わないのかね?」
「その程度のヤツなら貸し借りがあってもなくても僕たちの敵じゃないので問題ないです」
「ふ、ははははは!」
僕が敵じゃないと言い切ったのがそんなに面白かったのかカードスは思いっきり笑いだした。
「試すような事をして悪かったね。こちらは最初に言ったとおり、キミたちの敵に回るような事はしないさ。キミがもう少し常識内に収まっていれば話は違っただろうがね。私も命は惜しいからね。だからキミが言った条件は全部飲むよ。もちろん貸し借りと言う駆け引きなしでだ」
「………」
いきなり態度が変わったのが信用できずカードスを睨むことにした。リンも同じ様な心境らしくては睨んでいた。カードスも僕たちの心境を察したのか、苦笑いしていた。
「そんなに急に信用は出来ないよな。それならキミが言うように1つ貸しをつけておこう。そしてキミが次にこの町に来たときに返してもらうってのはどうだろう?」
「…まぁ、それなら…。リンもいいかい?」
「私はノゾムが納得したならそれでいいわ」
交渉が纏まったのでリンはようやく臨戦態勢を解いた。それにしても一矢報いることは出来たのかな?
「じゃあ、面倒な駆け引きはこれぐらいにして、昇格試験の説明をお願いしたいのですが?」
「それは彼女から説明してもらうか。ミリムよろしく頼むよ」
「分かりました、カードス様。この場で説明を開始してもよろしいでしょうか?」
カードスが試験の説明を受付の女の子もといミリムさんに任せた。
彼女がいるのすっかり忘れてた…。
まぁ、カードスがこの場にいさせたぐらいだから問題はないと思いたいなぁ。
「説明が終わったら指名依頼の話をするから、ここで説明を始めて構わないよ」
「では、カードス様から許可も出ましたので説明を始めたいと思います。ノゾムさんもよろしいですね?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ノゾムさんたちが受けていただくCランクへの昇格試験はオークを10体討伐して来て下さい。期限は一週間でお願いします。今回は昇格試験なので受験者以外でパーティーを組むのは禁止とさせていただきます」
「えっと、僕たちは2人なんですが、他にも受験者はいるんですか?」
「Cランクへの昇格試験者はいないですね。そもそもこのイーべの町は王都が近いので、昇格試験はそちらで受ける人がほとんどなんですよ。そっちの方が顔を覚えてもらえるので」
確かに冒険者なら顔を覚えられた方が、冒険者としては仕事がしやすくなるから、昇格試験とかは大きな町に行くよね。
それにしても、本来はこの試験何人でやるんだ?
「本来は6人パーティーでやるものですが、先ほどの話を聞いている限り2人でも問題はないと思いますよ。他に何か質問はありますか?」
心を読まれた?もしかして顔に出ていたかな?
「それなら質問はないです」
「終わったようですね。では指名依頼の説明をしましょうか」
カードスが昇格試験の説明が終わったのを見計らって、指名依頼の話をし始めた。
「依頼内容は北の森で目撃された普通じゃないオーガの調査、そして出来る事なら撃破。期間は昇格試験と同じ1週間ほどで頼みます。報酬は金貨3枚、オーガの種類によっては追加で報酬を払います」
「質問なんですが、報酬額って多くないですか?」
「いやいや、本来報酬ってのはパーティーで均等割りするものなんだよ。基本は6人パーティーだから、金貨3枚を6人で分けると、1人銀貨50枚になるから、そこまで多いものでもないのですよ。キミたちは2人だし、パーティーだけの関係ってものでもないから報酬を分ける必要もないだろう? だから多く感じるんだよ」
「なるほど、他人とパーティー組んだ事ないので知りませんでした」
「ふへぇっ!?」
「リン? どうしたの?」
「ど、どうもしないわよ! 気にしないで!」
どうしたんだろう? 急に顔を赤くして?
とりあえず、本人も言ってるし気にしないでおこう。
「他に質問はあるかな? なければあとは報告を待っているよ」
「分かりました。また1週間以内にお会いしましょう」
カードスの話も終わったので、僕たちは部屋から退出して寄り道もせずに宿に帰る事にした。
宿に戻ってから待っていたのは夕飯でもなくリンの説教でした。
「一体何考えているのよ! あんな怪しいやつに借りを作るようなことして!」
「しょうがないじゃん。リンは気付いてないかもしれなかったけど、カードスのやつ、僕たちを見ていきなり看破のスキルを使ってきたんだよ。僕だけじゃなく、リンのステータスもバレたんだよ?」
「看破って私の偽装のスキルじゃ隠せないじゃない!? ノゾムはよく気付いたわね?」
観察の上位スキルにあたる看破の事をリンに伝えたらお説教モードが解除された。
「つまり僕たちには選択肢は無かったんだよ。指名依頼を断れば、冒険者に種族の事を言いふらすって言われたしね。下手をすれば、そこから国にバレたら討伐隊が出される恐れもある」
「それはそうだけど…」
討伐隊と聞いてリンもその可能性を考え始めたのか、その表情が暗くなる。
ヴァンパイア種族と言うだけで討伐隊が組まれる。それだけヴァンパイアって種族は世界から嫌われている。
以前、リンに聞いた話だと、昔、ヴァンパイア種族はその高いステータスだけで世界を征服できると言われていたらしい。それを恐れたヒト族の王族がヴァンパイア狩りを決行したらしい。ヴァンパイアたちには世界をどうこうする意思は無かったのに…。
ヴァンパイア種族は魔族の治める大陸に逃げるが、そこでもステータスの高さが災いし、魔族からも討伐対象として追われる事になったようだ。ステータスでは圧倒していても数の暴力には勝てず、ヴァンパイア種族は絶滅の一途を辿る事になったらしい。
ちなみにリンはそんなヴァンパイア狩りから生き残った者達が作った村で生まれたらしい。その村もリンが魔眼の件で村から追い出された後に国にバレて滅ぼされたみたいだ。つまりこの世界にはリンと僕以外のヴァンパイア種族はいないらしい。
「だけど、それも今のうちだよ。冒険者ランクを上げて、信用と信頼を一般人から勝ち取れば国も簡単には手出しできなくなる。それに旅を続けていれば、種族を気にしない人にも会えるかもしれないよ?」
「確かにそうね。私たちが平穏に生活するには色々足りないわね。自身の力にしろ、社会の立場にしろ、仲間だったりね」
暗くなってしまったリンを励ますように今後の方針を言ってみると多少気を持ち直してくれたらしい。
「それじゃあ、明日から昇格試験の為にオークを探すけど、最初はゴブリンの巣があった場所に行かない?」
「…そうね。あそこならゴブリンの死体があるから、オークが寄って来ている可能性があるわね。ゴブリンの死体処理忘れていたけど、私たち運がいいわね!」
「確かに忘れてはいたけどさ。運か良かったのかな? まだいると決まったわけじゃないよ?」
「それもそうね。とりあえず明日に備えてご飯食べてさっさと寝ましょう」
リンの意見に賛成して夕飯を食べて寝ることにした。
翌朝
朝ご飯を食べた僕たちは2時間かけてゴブリンの巣があった崖の上まで来ていた。
「はぁはぁ」
「リン大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃ、はぁはぁ、ない、わよ…」
僕たちはステータスの数値任せの移動で2日かかる道のりを2時間で終わらせたけど、リンはかなり辛かったようだ。ちなみに前回の帰りは4~5時間かけて帰った。
30分ほど休んでリンも落ち着いたようだ。
「全く、あなたは私から見ても規格外なんだから、もう少し私に合わせて行動してよ。ついて行くの大変なのよ」
「ゴメンゴメン。それより見て」
僕の謝罪が軽いのが不満らしくリンは半目で睨んでいたけど、僕が指を指した方向を見てくれた。
「…いるわねオーク」
リンの言うとおり、180cmぐらいある二足歩行の豚ことオークがいるのだ。
やつらは僕の倒したゴブリンを食べていた。さすが悪食と言われるだけの事はある。
「洞窟内にもいそうだね。このまま突っ込んで倒しちゃう?」
「それなら私が魔法で洞窟の外にいるオークは一掃しちゃうからノゾムは洞窟内から出てきたやつをお願い」
外にいるオークは6体か…。洞窟内に何体いるかわからないけど4体いれば試験終了だ。
「りょーかい。そう言えばリンが魔法で戦うの初めて見るけど、いけるの?」
「舐めないで。オークごとき余裕よ。それより準備はいい?」
「いつでもどうぞ!」
僕は昨日ゴブリンから奪った剣を構えてリンに答える。
「じゃあいくわよ!『イラプション』!!」
リンが唱えたイラプションは火魔法のLV2の1つで、効果は一定範囲内を燃やす魔法だ。
普通の魔法使いが使用した場合はオーク相手なら足止めぐらいにしかならないが、リンも一般人からかけ離れたステータスの持ち主だ。オークなんて敵でもなかった。一瞬とはいかなかったけど、オークたちは悲鳴をあげながらのた打ち回りあっという間に絶命した。
そして洞窟内から悲鳴を聞きつけたオークが出てきて周囲を警戒し始めた。運がいい事にオークは4体だけだった。
僕はオークがこれ以上洞窟から出てこない事を確認して崖を滑って降りていった。巣の入り口に着地した僕は、一番近くにいたオークの首を刎ねる。
「まずは1体」
いきなり現れた僕にオークたちは混乱し攻撃してこない。その隙を突いてもう1体の喉に剣を突き刺した。2体目を倒される間にオークも混乱から抜け出したようで手に持った槍で攻撃してきた。
しかし、ステータスの数値が違いすぎるせいか、オークの攻撃は僕には止まって見える。僕は槍の一撃を掻い潜り、オークの胴を真っ二つに切った。
最後に残ったオークは流石に勝てないと思ったのか、逃走し始めた。だけど、そんなのは彼女が許さなかった。
「『ファイアボール』!」
いつの間にか崖の下に来ていたリンが火魔法のLV1の1つ、ファイアボールを放ってトドメをさしていた。ちなみにファイアボールは火の玉を相手にぶつける魔法で普通ならオークを1発で仕留める威力はない。
「リンありがとう。お陰で逃がさずにすんだよ」
「何言ってるのよ。ノゾムも魔法使えるんだから私が手を出さなくても大丈夫だったでしょ?」
「…あっ!」
「何?もしかして自分が使えるの忘れていたの?」
忘れていました。しかしそんな事言えるはずもなく…。
「ソ、ソンナコトナイヨ」
「………」
リンのジト目に耐えながら素材回収をしていると森の奥から雄叫びが聞こえてきた。
「ガガガガガアアァァァァァ!!」
雄叫びを聞いた僕たちは1つの結論に達した。
「「オーガ!」」
僕たちは頷き雄叫びのした方に向かっていった。
ありがとうございました。