アイラとの話し合いと戦力の振り分け
「さて、アイラさんは…っと」
「あら、望君?」
おっと、目標人物発見。
「ちょうどいい所に。これからアイラさんを捜そうとしていたんですよ」
「私を?」
「そうです。なので、どこか腰を落ち着かせる場所に移動しませんか?」
「ちなみに、話の内容は?」
「アイラさんの目的に関する事」
誰が聞いているのか分からないので、詳しくは言葉にしない。だけど、これだけでもアイラさんの表情を引き締めるには十分だった。
「なら、私の部屋に行きましょうか? そろそろイリスも戻ってくるだろうしね」
「分かりました」
アイラさんの勧めに従って彼女の部屋へとついて行く。
コン、コン、コン。
「イリスです」
「入っていいわよ」
「失礼します。…って主様?」
「お邪魔してます」
アイラさんの部屋に到着してすぐにイリスさんもアイラさんの部屋に来た。
僕がいる事を不思議に思う彼女にひとまず挨拶をする。そして、魔法で周囲に音が漏れないようにしてから、2人に僕がここに来た理由を話す。
「…なるほど。私も元天使だけど、その神託は知らなかったわね」
「イリスさんが?」
話した内容は、この世界に来てすぐに王国の騎士団長から聞いた神託に関してだ。
「私は、天使の中でも、神様付きの天使だったからね。アイラ様に回ってこない情報は、私も知りようがないのよ」
「もちろん私も神託に関しては、一切知らないわ。神託の内容を知っていれば、もっと楽だったんたけどね」
「えっ!? アイラさんも知らないんですか? それで、どうやって神託を狂わせる気だったんですか?」
イリスさんが知らないのはまだしも、神託を成就させないと言っていたアイラさんが、意外すぎだった。
その事を指摘された当の本人はと言うと…
「いや、ね? あいつの神託は、どう転んでも争いが起きるじゃない? だから、ね? 争いの噂を耳にしたら、それを収めに向かえばいいかなって…ね?」
この人は…。そんな後手の受け身でよく神託崩しをしようと思ったな。
まぁ今とは違い、協力者がいない状況だったから、それしか出来る手段がなかったとも言うが…。
それはそうとして、言っておかないといけない言葉がある。
「いくら何でも、無謀すぎ。もう少し、現実を見て下さい」
「はい…」
「とりあえず、話を戻すと言うよりは、ここからが本題なんですよ」
本題と聞いて2人は表情を引き締める。
「今回の帝国と王国の戦争、これを裏で手引きしているのは、間違いなく魔人です。なので、帝国、王国に潜入してこれを撃破。その後に皇帝と国お、…。兎に角、両国に停戦してもらうよう呼びかける。そんな風に考えているのですが、どうでしょう?」
僕の考えを聞いた2人は難しい顔をして考える。
「幾つか聞きたいんだけど、いいかしら?」
暫く考えていた2人だったが、アイラさんが唐突に口を開く。
「どうぞ」
「望君が聞いた神託と魔人の動向。これについてはどう考えているの?」
「今回の件で、魔人と言うより、神タナトスが管理神の配下なんじゃないかと言う可能性が出てきました」
「主様、どうしてかしら?」
「あくまでも予想なんだけど、一つは、魔人が自由都市以外の国全てにいること。一つは、戦争が始まったこと。この二つが管理神の配下の可能性である理由かな」
「主様、もう少し、ちゃんとした説明が欲しいのだけど…」
イリスさんは、眉をハの字にして僕に追加の説明を要求してくる。
「まず、魔人がこの世界にある全ての国にいると言う事は、各国の情報を耳に出来ると言う事。つまり、王国の神託の内容を知っていて、なお戦争を起こした事になる」
「それが、どう繋がるのかしら?」
「王国への神託の内容は『異世界から勇者を召喚し、ヒト族を一つにまとめ、魔族を討ち滅ぼせば、イーベル王国はさらなる繁栄がもたされるだろう』だよ。そうなると、この戦争の次に標的になるのは…」
「魔族!!」
「その通り。そしてここで問題となるのは、魔族は魔人の駒となっている事。仮にも打倒管理神を掲げているのなら、自身の手駒に矛先が向くような流れを見逃すかな?」
仮に、僕が魔人を使える立場にいて、打倒管理神を目指すなら、この戦争が始まる前に魔人を使って、両国の兵士を皆殺しにするだろう。魔人には、それだけの力があると見ている。
両国にいる魔人が国の内部にどれだけ入り込んでいるかは判らないけど、戦争が始まった時点で魔人に動きがないと言うことは、裏で手引きをしたと考えるべきだろう。
「なるほどね。私は帝国と王国に潜入する件は賛成だけど、編成はどうするの?」
説明を聞いて納得したアイラさんは、次の疑問を口にする。
「僕は王国。リンは帝国に行くのは決まってますね。サキ、セシリア、ルージュには、大陸に戻るまでにどちらに行くか決めてもらいます」
「私たちは?」
「2人に任せますよ。僕とリンが分かれた事で、戦力が偏る心配もなくなりましたし」
「それなら、私は帝国に行こうかしら? 王国は、ルージュを連れ出した関係で行きたくないのよ」
「アイラ様が帝国なら、私も帝国に行きます」
「分かりました。2人とも帝国ですね」
イリスさんらしい理由につい笑いがこみ上げる。
「望君。フェルたちは、どうするの?」
「彼らにはかなり酷ですが、戦場に出てもらおうかと思っています」
「の、ノゾム! アンタ!!」
僕の言葉にイリスさんが、普段の呼び方を忘れるほどの怒りを僕に向ける。
「イリス、落ち着きなさい」
そんなイリスさんをアイラさんはなだめる。
「しかし!」
「イリス、聞こえないの?」
「っ! 申し訳ございません」
アイラさんの迫力に押し黙るイリスさんは、アイラさんに向けて頭を下げる。
まぁ、イリスさんの怒りはもっともだ。
イリスさんは僕たちの中で一番、使用人組をかなり可愛がっている。それは、自身が選んだナナ、ネネの双子だけではなく、使用人組全員にまで及んでいる。
「言葉が足りなかったね。フェルたちが戦場に出るのは、帝国の奴隷となった獣人たちの保護が目的なんだよ。決して、戦争で殺し合いをしてこい、と言ってるわけじゃないよ」
現在、帝国にいる獣人の奴隷のそのほとんどが、大罪スキル色欲によって帝国に送られた者たちだと思う。なので戦争を隠れ蓑に、その者たちを保護してしまおうと考えたのだ。で、戦争が終結した後に、奴隷から解放して島に返してしまおうと言う魂胆だ。
「…早とちりして、すみませんでした」
補足説明を聞いたイリスさんは、顔を真っ赤にし、蚊の鳴くような声で謝った。
「いえいえ、こちらも言葉が足りなかったので、気にしていませんよ」
「それで、望君。今の話、ギルドにはどう説明するの?」
話が途切れたのを見計らって、アイラさんが一番の問題点を上げてきた。
そもそもフリーシアさんが北の島に来たのは調査が最大の理由だけど、それ以外にもう一つあった。
それが僕へのメッセンジャーだった。彼女は戦争の情報を話し終えた後に、本部から招集がかかっているからと伝えてきた。
フリーシアさんに招集理由を訊いたのだけど、彼女も理由までは知らなかった。
まぁ、ギルドが何を言ってきたところで、突っぱねる気満々なんだけどね。
「とりあえず、ありのまま説明して、理解を得られればよし。無理なら勝手に行動しようかと」
「下手な立ち回りのせいで、ギルドを敵に回さないようにね?」
ため息を付くアイラさんに気づかない振りをしながら部屋から退出する僕。
さて、あとは大陸に着くまで一休みしようかな?
ありがとうございます