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終盤~終結~




 ―ノゾム―


 「あ、が…うぅ」


 獣が抵抗できなくなるまで骨を折り続けた結果、目の前には獣化が解け、美女に戻った彼女がいる。手足が変な方向に曲がっていて呻いているが。


 「や、やっとか…」


 抵抗がなくなったのを確認して、ようやく気を緩める。

 そう言えば、いつの間にか雨も止んでいる。それどころか、綺麗な月が出ていて、周囲は月明かりで照らし出されている。


 船に乗ってから今まで不運な事が多々あったけど、最後の最後で雨に助けられた事で運がようやくプラマイ0になった感じかな?


 「はぁ~。…よし。あんたには、まだ聴きたい事があるんだが?」


 息を整え終えた僕は彼女に声をかける。


 「…な、何かし…ら?」


 顔に脂汗を浮かべながらも、僕の問いに反応する彼女。


 「この島での真の目的についてだよ」


 「多少は、頭の…回るあ、あなたなら、もう…答えは、判っ…ているで、しょ?」


 「おおよその予想は出来たよ。あんたとは、その答え合わせがしたいんだよ」


 「なるほど、ね。いいわよ。勝者の、特典とし、て、その…答えが、な、何点なのか…点数を付けて、あげる…わ」


 苦痛に顔を歪めながらも無理して笑みを浮かべる彼女。

 そんな彼女を不覚にも美しいと思ってしまい、密かに気を引き締める。


 「獣人を帝国側にした事、魔物をこの島に集めた事、自由都市の上位冒険者を、この島に来るよう誘導した事。その事から予想出来たのはあんたらの目的は、帝国と王国の戦争を勃発させる為の下地作りってところかな」


 「…なるほどね。かなり、いい線まで、いってるわね。点数…にするなら、90点って、ところか、しら?」


 なっ!? 正解じゃない!?


 採点された答えに驚きを隠せない。


 「いったい、何が間違っているんだ?」


 「いくら、勝者だからって…全ては教えてあげない、わ。その悔し、がる姿が、私の溜飲を下げて…くれるんですもの」


 チッ! 今ここに、リンがいてくれれば…。


 彼女から無理に聞き出すのに時間をかけるより次に移った方がいいと判断した僕は次の質問をぶつける。


 「なら、次の質問だ。戦う前に話していたあんたら魔人の背後にいる神の名を教えてもらおうか」


 「知ってどうする、のかしら?」


 「仲間に、神様(元同業者)がいるから、彼女への手土産で、名前ぐらいは持ち帰りたいんだよね」


 「あなた、もしかして、あの元勇者たちと一緒…に転移してきた異世界、人? タナトス様とは、別の神と接触し、た疑いのある…あの?」


 「やっと気が付いた? それに背後にいるのはタナトスって言うんだ」


 「っ!!」


 僕の正体に気が付いた彼女は口を滑らせ、自分の主の名前を口にしてしまう。


 それにしても、タナトス…か。たしか地球(向こう)では、死を司る神の名前だったかな?

 それはさて置き、彼女はチョロいな。これは、今回の件は別の魔人が発案したような気がするな。


 「聞きたいことは聞けた。次は、あんたのスキルで誘惑を解除する方法なんだけど…」


 「私が死ぬ以外に、私の誘惑から抜け…出す手段はない、わ」


 彼女は、僕の言葉に被せて言い切った。まぁ、これは最初から予想していた事だ。

 そうなると、吸血でスキルを奪うのは止めた方がいいか。下手をすると、服従対象がそのまま移る可能性だってある。魔物は倒せばいいけど、人はそうもいかない。かと言って、男に色目を使われるのはゴメンだ。

 大罪スキルを身に宿すと必ず魔人種になるリスクもあるし、これからも大罪スキルは吸血しない方がいいだろう。


 「なら、あとは他の魔人に関する情報か。外見の特徴、どこにいるのか、能力、洗いざらい話してもらおうか?」


 「「ノゾム(君)!!」」


 彼女からさらに情報を聞き出そうとしたところで、聞き覚えのある声が聞こえた。






 「リン、サキ! そっちも無事片付いたみたいだね」


 「ノゾムこそ、無事で良かったわ」


 「なかなか戻ってこないから、心配してたんだよ?」


 2人とも、僕が無事だった事に心から安堵している。


 「何で、あなた、が、ここにいるのよ!? 『グラトニー』!!」


 3人で互いの状態を確認していると、彼女はリンを鬼のような形相で睨みつけながら叫ぶ。


 「リン?」


 「リンさん…」


 転移陣を守っていた魔族たちと同じ事を言う彼女に対して、リンは僕たちから離れ、彼女へと歩み寄る。


 「あんたの言う『グラトニー』は、私の双子の妹のカリンよ」


 「「っ!!」」


 「何を言っているの? 『グラトニー』からそんな話、訊いたことがないわ!!」


 リンの言葉に僕とサキは驚き、彼女は嘘だと叫ぶ。


 「あなたが信じる信じないはどうでもいいの。私が訊きたいのは2つ。ヴァンパイア種は他にも生き残りがいるのか。『グラトニー』と呼ばれているカリンは、今どこで何をしているのか、よ」


 リンは包帯を外し、魔眼である金色の瞳で彼女を射抜くように見つめる。


 「金色の瞳? 『グラトニー』じゃない?」


 「最初からそう言ってるわ。それよりも早く、私の質問に答えて」


 「ヴァンパイア種? それって、『グラトニー』が子飼いにしている…連中の事かしら? あと『グラトニー』の居場所? そんなの教えるわけ、ないでしょ」


 「………………」


 彼女の言葉に一切反応せずジッと見つめるリン。多分、心を読んでいるんだろう。


 「リン、ついでに『グラトニー』以外の魔人に関する情報もお願い」


 僕の注文に無言で頷くリン。


 「ノゾムからのお願いだから、さっさと答えて。あなた以外の魔人の情報を教えて」


 「さっきから何なの!? 幾ら訊かれても、教えるわけないでしょ!! あなたたちバカなの!!」


 まぁ、普通はそうだよね。いくら身動きがとれないとは言え、尋問もせず情報を開示するわけないよね。仮に情報が提示されたとしても、簡単に喋るやつの情報なんて信用出来ない。

 なのに、尋問もせず質問ばかり。バカと言われてもしょうがない。

 しかし、リンにはそれだけで十分。心を読めるリンだからこそなんだけどね。


 「…もういいわ。全部分かったから」


 「え? 何を言っているの?」


 「…カリンは帝国にいるのね。他のヴァンパイアたちも」


 「何故それを!?」


 リンの言葉に驚く彼女。しかし、リンの言葉はまだまだ続く。


 「『プライド』、『ラース』が王国内部、『スロウス』、『エンヴィー』、『グリード』は魔族の国にいるのね。それ以外の事はほとんど知らないのね」


 「………」


 「何故って考えているわね。私の眼に宿っているスキルのおかげよ」


 「じゃ、じゃあ…」


 「あなたの考えている通り、私の眼の前では隠し事は不可能よ」


 彼女は、リンの言葉に絶望の表情になる。その表情を見て、僕は彼女に仕返しする提案をする。


 「そうだ、リン。今回の騒動の本当の目的も調べてもらってもいいかな?」


 「っ!!?」


 「ノゾムの予想が外れたの?」


 リンがえ? って感じで訊き返してくる。


 「いい線はいってるみたいなんだけど、満点ではないみたいなんだ」


 「そうなんだ、別にいいわよ。それz」


 「がはっ!!」


 リンが心を読むために彼女へと振り返ろうとした瞬間、彼女が予想外の行動に出た。

 折れていたはずの腕を動かし、自身の(武器)で自分の胸を貫いたのだ。


 「お、おい!」


 「こ、れ、以上…は、好き勝、手に…覗かれる、わ、わけにはいかな…わ」


 そう言って彼女は息を引き取った。


 「とりあえず、みんなと合流する為に、集落へと戻ろうか」


 「…えぇ」


 「うん…」


 いつまでもここにいてもしょうがないので、戻る事を提案する。リンたちもそれに乗る。


 それにしても、まさか自殺するとはね。もう少し情報が欲しかったけど、しょうがない。収穫もあったしよしとしよう。



 彼女の最後の行動(自殺)に思う事がなくもないけど、いつまでも敵の事を考えていてもしょうがないので、みんなと合流した後の事へと頭を切り替えながらこの場を後にした。

ありがとうございます。


この章も次の話で終わり…だと思いま、す?

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