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終盤~天候の助け~




 ―ノゾム―


 「ほらほら、さっきまでの威勢はどうした?」


 闘うのに理想的なしなやかな上に密度のある筋肉を全身に纏う獣の拳や蹴りを必死にガードし続ける。


 さっきまでとは全く違う。攻撃の一撃、一撃が体の芯まで響く。それに、とてつもなく速い。目で追うので精一杯。なので、とにかく致命傷となりえる攻撃だけは全力で防ぎ、それ以外は無視する。

 多少の傷ならオートヒールでどうにかなる。一応、えぐり取られた脇腹は再生で修復済み。


 「余計な事を考えてると、すぐ死ぬわよ?」


 「しまっ!?」


 思考に防御以外の考えが過ぎった次の瞬間には、獣の膝蹴りが僕の腹を捉えていた。その衝撃により、僕は100mほど吹き飛ばされてしまう。

 結果、獣の膝蹴りによって、意図せず距離を稼ぐことになった僕は、打開策を模索する。




 「がはっ! はぁー、はぁー」


 何だあれは? いくら闘気や獣化で身体能力が上昇したとは言え、あれはおかしい。あれじゃあ、完全に別人じゃないか。もしかして、あれが色欲スキルによる人体改造の効果なのか?

 いや、そんな事よりも現状をどうにかしないと…。身体硬化、身体強化、龍の逆鱗、龍の鱗と自己強化スキルは既に使っている。こんな事なら付与術スキルを使う魔物でも探しておくべきだった。あれがあればもう少し戦いらしい戦いになったかな?

 こうなったら、どこぞのギルドマスター《リビングデット》みたく、再生頼りのノーガード戦法でいくしかないか? だけど現状、相手の攻撃力を受けきれていない。一撃食らう毎に体勢を崩してしまう。ノーガード戦法でいくなら、最低でも相手の攻撃を受けてもびくともしない防御力が必須だ。つまり、今のままでは、ノーガード戦法もやれないと、言うわけだ。


 マジでどうしよう? 完全に手詰まりなんだけど…。


 「…雨?」


 この限られた時間の中で、現状を打破する為の作戦を考えていると、不意に鼻にポツリと雨が落ちてきた。


 「余所見とは随分余裕じゃないか? いいよ、死ね」


 「がっ!?」


 雨に気を取られ、空を見上げてしまったばかりに、獣を懐へと侵入させてしまう。

 そして、獣からの一撃が胸の真ん中を捉える。

 バキボキと肋骨が折れる音が鳴り響く。しかしそれだけで済んだ。済んだけど、獣の渾身の一撃の威力は凄まじく、再度吹っ飛ばされてしまう。



 …けど、何とか生き残れた。


 攻撃を受けた瞬間から全力の再生。さらに、回復魔法を重ね掛けしてなんとか胸を貫かれる事だけは回避出来た。

 もちろん、それ相応の代償もあった。


 「うっ…。魔力を使いすぎた」


 代償は魔力の大量消費だ。今のだけで残魔力の半分ぐらいを消費してしまった。その為、今は軽い目眩が僕を襲っている。


 くそっ! 相変わらず、再生スキルは燃費が悪すぎる。

 だけど、今ので起死回生の一手を思いついた。


 「まだ生きてるとか、あなた本当にヒトなの? さっきから殴っている感触も鱗を殴っているかのようだし」


 獣が僕という存在に疑問を持ち始めたみたいだ。


 「これでも人であるつもりだよ?」


 「よく言う。まぁ、あなたの正体なんて、あとでグラトニーにでも調べさせるとするか。だからさぁ、もう死んでくれよ」


 言い終わるとほぼ同時に獣が僕の懐へと踏み込んでくる。そして、貫手による突きを僕の胸目掛けて放つ。


 「まだまだ死ぬ気はないよ?」


 「なっ!?」


 だけど、その突きは空を切る。

 僕の声が自身の背後から聞こえてきた事と必殺の一撃を回避されたことの二つに獣が驚愕する。


 僕が必殺の一撃を避けれたのは、さっき思いついた起死回生の一手のおかげだ。


 起死回生の一手

 その正体は、雷魔法を自身に纏わせる事で、自分の速度を飛躍的に向上させる事だった。

 簡単に説明すれば、魔法拳の全身版みたいな感じかな? ぶっつけ本番だったけど、想像通りの効果を得られて良かった。


 「あなた、なんて、とんでもスキルが使えたの!?」


 全身をバチバチいわせている僕の姿を見た獣は、気になる事を口にする。


 「精霊…化?」


 そもそも精霊って、妖精族の元となった存在? だっけ? あまり詳しく覚えてないんだよなぁ。


 獣は僕が首を傾げているのを見ると、もう一度僕の全身へと目をやる。


 「…違う。あなたのそれは精霊化じゃない。精霊化しているなら、肉体は傷つかない」


 獣の言葉通り、現在進行形で僕の体は纏う雷のせいで傷ついている。僕はそれを再生スキルによって無理矢理修復し続けているのだ。

 体の修復に雷の維持のせいで、魔力が湯水のように消えていく。

 だから、ここから先は短期決戦。

 雷の速度を駆使して、獣に反撃の機会を与える暇なくケリを付ける。


 そう決めた瞬間、地面を蹴り獣の背後へと回り込む。獣は、僕に気付いていない。僕は無防備な背中に拳を叩き込む。


 「がっ!?」


 殴った次の瞬間には既にその場からは離れていた。獣が振り向いた時には、既に僕は背後へと回り込んでいた。そして、再び背中を殴る。離脱する。これを繰り返す。


 一撃離脱ヒットアンドアウェー

 ようやく上回れた速度で相手を封殺する作戦だった。


 だが、相手は獣。同じ作戦は永くは通用しない。現に、完全に拳が入ったのは最初の5発ぐらいで、そこからはどんなにフェイクを混ぜても、微妙に外されてしまう。

 それは、徐々にだけど獣がこの速度に対応し始めていると言うことだ。



 …まただ。完全に虚を突いたはずなのに、また反応された。視認出来ていないはずなのに、どうやって? どんどん雨も強くなっているんだ、嗅覚だって無意味なはず。  …っ! そうか! 直感のスキルか! あれの感覚に身を委ねているのか。

 なら、直感による完全回避が出来るようになる前に体力を削り取ってやる!


 獣の回避方法のカラクリに当たりを付けた僕は、攻撃の勢いをより苛烈にしていく。

 ここからは、時間との勝負だった。

 僕の魔力が尽きるか、獣の体力が尽きるか、はたまた、獣が僕の速度に対応出来るようになるか。


 一秒、コンマ一秒が果てしなくゆっくりと流れるような感覚に支配されたこの攻防を制したのは…。









 「はぁー、はぁー」


 僕は、息を切らして立ち尽くしていた。纏っていた雷はなくなっている。いや、なくなったのではなく、自分の意志で消したのだ。これ以上は纏っている意味がないから。


 「ど、どうしたんだい? もう…自分の体を痛めつけるのは、止めたのかい?」


 「も、もう、続けても意味ないですからね。こんな短時間で対応できるようになるとは思わなかった」


 そう。この獣は、この短時間で雷に匹敵する速度に対応して完全に回避してみせたのだ。


 あ~、どうしよう。本当に手詰まりなんだけど。なんか、雨も本降りになってきたし。僕の心模様を表しているみたいだ。


「…雨も鬱陶しいし、さっさと決着を付けようじゃない?」


 そう言う獣だけど、本人も少なくないダメージを負っている。満身創痍の僕と比べればまだまだ動けそうだけど。


 獣は言い終わるなり地面を蹴って距離を詰めてくる。そこから始まる怒涛の攻撃。拳が、蹴りが、爪が、牙が、一つ一つの攻撃全てが、僕の命を刈り取る為だけに繰り出される。それらの攻撃を満身創痍の体に鞭を打って奮い立たせ対処する。


 ……?


 小さな違和感だった。だけどもその違和感は徐々に大きくなっていった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 最初は、獣の身体能力がダメージによって落ちているのだと思った。しかし、そうではないみたいだ。その証拠に…


 「くそっ! まだこれだけ動けるなんて! 今までやられていたのは、私を油断させる為だったんだね!!」


 獣は悪態をつきながら攻撃をし続けている。つまり、獣の動きが低下しているのではなく、僕の方の動きが良くなっていると言う事だ。


 しかし何でだ? 何故急に僕の動きがよくなったんだ? すでに強化系のスキルは使っている。なのに何でだ?


 僕は自身の事なのに、何が起こっているの分からずに困惑しながらも、獣の攻撃を捌いていく。


 「くそっ! くそっ! くそ~~!!」


 攻撃が当たらない事に苛立ち、徐々に動きが大雑把になっていく。そんな隙を見逃せるほど、余裕のない僕は、放たれた右ストレートをかいくぐり懐へと潜り込み、がら空きの胸に肘鉄を打ち込む。


 「がっ!!?」


 もろに入った肘鉄によって獣が吹き飛ばされる。その時、水飛沫が顔にかかる。


 ……?


 顔にかかった水飛沫を腕で拭いながら、頭の片隅で何かが引っかった。


 何が引っかかった? 雨? そうじゃない。()()()()()()()()()のはずだ。

 ……水? そうか、水だ!

 分かった! 何で、急に身体能力が上がったのか。

 その訳は、水で体が濡れたからだ。正確には、体が濡れた事によって、あるスキルが発動したのだ。

 そのスキルとは『水纏』だ。

 この水纏はこの島に来る途中にニブルートルから奪ったスキルだ。ぶっちゃけ、雨の水で濡れた程度で発動するとは思っていなかった。纏うと言うから、海とかの水中でないと発動しないと思い込んでいた。


 よし! それなら!


 天候に助けられた事に気が付いた僕は、雷に変わる属性()を身に纏い、吹き飛ばした獣に追撃を仕掛ける。


 「がはっ! ゲホゲホ。…あ゛? 今度は、水?」


 水を纏った状態の僕を不思議そうに見る獣。そんな獣を横目に背後へと回り込む。

 背後へと回り込んだ僕は、殴りにいかずサブミッションを仕掛ける。下手に殴りにいってもまた順応されてしまうからね。


 「ぐ、がっ? ぎゃああああああああああああ!!」


 僕はなんの感情も抱かずに次々と獣の腕や足の骨を折っていく。しかし、獣は絶叫を上げながらも、折れた骨を色欲のスキルで治していく。が、それすらも片っ端から折っていく。ただひたすらに、スキルが使用できなくなるまで折り続ける。

 獣の絶叫を上げ続けるも、それは鳴り響く雷によってかき消されてしまい、周囲へと漏れる事はなかった。

ありがとうございます。

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