終盤~魔人~
―ノゾム―
「ねぇ? どこまで吹き飛ばされればいいの?」
「…『エアハンマー』」
僕の先を行く女性の言葉を無視して、追加のエアハンマーを放つ。
…そろそろいいかな?
サキと別れてからかなりの距離を稼いで、見晴らしいい草原まで移動した僕は、そろそろこの茶番を終わりにして、次へと移る事にした。
「あら? もういいのかしら?」
「もう、十分離れたからね。それで、始める前に幾つか聴きたい事があるんだけど、答えてくれるかな?」
エアハンマーで吹き飛ばされる勢いがなくなり、地面に降り立った魔人らしき女性は少々残念そうに語りかけてくる。
僕は、それに対して短い言葉で答えた上で、こちらからも話を振ってみる。
「いいわよ。同族や魔族以外の人と話すなんて久々だから、何でも答えてあ・げ・る♪」
あざとく色気を蒔きながら返答する彼女。
確かに、見た目は絶世の美女と言ってもいい彼女だが、不気味な力が滲み出ている今は、そのあざとい色気も恐怖心を煽る一つの要素でしかない。
「じゃあ、遠慮なく。ねぇ、貴女って本当に魔人?」
僕の質問に、彼女のケモノ耳がピクリと反応する。
「…どうして、『魔人』と言う言葉を私に向けるのかしら? 私はただの獣人よ?」
「その言葉は嘘だ。僕は、この島に来る前に1人の魔族から『ラスト』と言う人物が、この島で獣人を襲撃する計画を立てていると聞き出した。そして、貴女は魔族から『ラスト』と呼ばれていた」
自分が魔人である事を否定する彼女に対し、僕は一つ一つ、証拠を突きつけていく。
「そんなのただの偶然じゃなくて?」
「それもない。魔族は基本的に、同族以外の種族の下に付くことをよしとしていない。だから、見た目が獣人である貴女に、魔族が付き従っているのはおかしい」
「……………」
反論する言葉を無くした彼女にトドメの一言を突きつける。
「そもそも、『魔人』って言葉に疑問を持たない事自体、問題なんだよ。世間一般では、魔族が世界を滅ぼそうとしている存在として認識されている。『魔人』なんて言葉は、魔族か魔人ぐらいしか知らないんだ」
「…………………」
「ただ、疑問もある。僕は、魔人は魔族と同じ見た目をしていると聞いている。だけど、貴女は魔人ラストと呼ばれているのに見た目は獣人。さて、もう一度訊きますよ? 貴女は本当に魔人ですか?」
「あーはははははは!! あなた、バカではなさそうね。そうよ。あなたの予想通り、私は、元獣人よ」
あ~、やっぱりそうか。彼女がラストと呼ばれた時から、何となく予想はしていたけどさ。
「何らかの外的要因によって、後天的に種族が変わったんですね」
「ええ、そうよ。疑うのなら、確認してみたら? 持っているんでしょ? 鑑定系のスキル」
確かにそれが一番手っ取り早い。今まで使わなかったのは、相手を下手に刺激しない為。魔人クラスの相手になると、使用すれば直感スキルが無くてもほぼ確実にバレるからな。まぁ許可も出たことだし、要望通り視てみますよ。
【名 前】 ミア
【年 齢】 22歳
【種 族】 魔人(元虎人族)
【職 業】
【レベル】 218
【H P】 528732/528732
【M P】 32678/32678
【筋 力】 233289
【防御力】 253075
【素早さ】 294391
【命 中】 218210
【賢 さ】 103916
【 運 】 29
【スキル】
体術LV8 魔法拳LV7 縮地LV8 カウンターLV7 爪術LV8 空歩LV6 咆哮LV8 威圧LV8 気配察知LV6 火魔法LV5 直感LV7 闘気LV7
【ユニークスキル】
獣化
【固有スキル】
色欲
固有スキル【色欲】
人間を罪に導く可能性があると見做されてきた欲望や感情がスキルとなったもので、通称『原罪』。全ての罪の元を辿ると、この原罪へと還る。色欲はその原罪の一つ。
・自身の身体をある程度任意で弄ることが出来る。
・あらゆる生命に有効なフェロモンを生成する事が出来る。
固有スキルの色欲。これの2つ目の能力で獣人や帝国兵、さらには魔物をも操っていたのか。と言う事は、敵の中に魔物を操る能力をいるかもしれないと思っていたけど、全部彼女の仕業だったのか。
それにしても、ステータスがほぼ全て僕と同等とか、ホントこの世界の住人が異世界人に頼るのも納得だよ。
「どうかしら? 私は魔人だったでしょ?」
「そうですね。つまり、他の6人も元の種族は全員バラバラって訳だ」
僕の何気ない一言に彼女のケモノ耳が再び反応する。
「…何で、6人と言い切るのかしら? もしかしたら、もっといるかもしれないし、もっと少ないかもしれないわよ?」
「それはないよ」
僕は彼女の言葉を一刀両断する。
「だって、大罪って7つなんだよ。魔人が大罪で呼ばれている以上、7以下にも以上にもならない。例外で既に死亡したって事があれば、7以下になるけどね」
「よく知ってるのね。確かに魔人は全部で7人よ。けど、それが何?」
彼女は特に慌てる事もなく、ただただ開き直るだけだった。
「別にどうもしないよ。最初の質問は、あくまでも『貴女は魔人ですか?』なんだから。それ以外はただのオマケだよ。だから、次の質問ね?」
「随分とマイペースに話を進めているけど、その質問に答えr」
「あんたたち魔人のバックにいる神様の名前を教えてよ?」
「っ!?」
喋っている彼女を無視して、僕が質問を突きつけると、彼女は驚き言葉を詰まらせる。
「どうやら本当に神様がいるのか。幾つかの可能性の中で、一番当たって欲しくないモノだったんだけどなぁ」
「いったい、何を根拠に決めつけるのかしら?」
「今、あれだけ驚いた表情をした人のセリフじゃないよね? まぁ、いいけど」
ため息をつきながらも、彼女の言う根拠を教えてあげる為、言葉を続ける。
「あんた、さっきの会話で『大罪』って言葉を受け入れたよね? 実を言うと、この世界には『大罪』って言葉は存在しないんだよ?」
何故、そんな事を知っているのかと言うと、実はラストと言う名前を初めて聞いた頃に、サキに訊ほいた事があるのだ。切っ掛けは、スロウスって魔人らしき名前を覚えていたからところに、ラストと言う魔人の名前が出てきたからだ。おかげで、大罪って気づけた。
で、サキに『大罪で名前を呼ばれているのが、魔人の特徴なのか?』と。サキの答えは、『タイザイって何?』だった。
「だから何だって言うの? 私たちの間ではそう呼んでいるから、違和感がなかっただけで」
「それも嘘。だって、スキルの説明欄には通称『原罪』って書かれているんだよ? だったら、他の大罪スキルにも同じように通称と書かれている筈だ。普通なら説明欄にある通称を使うよね? なのにそれを使わないって言うのは、キミたち魔人よりも上の存在がそう呼んでいたのを真似たんじゃない?」
「……………」
「ここでのだんまりは僕の言葉を肯定しているのと同じなんだけどね。まぁ、いいや。でだ、この世界にない言葉を知っているのは、転移者、転生者あとは、神の3択。あとはカマを掛けただけ」
「なっ!? この私がカマに引っかかった!?」
何かショックを受けているみたいだけど、僕からしたらいいカモだったんだけどな?
「もう少し訊きたい事があr」
「これ以上、アンタには喋らせないよ!」
僕の言葉を遮り、戦闘態勢に移行する彼女を見て、内心で舌打ちをする。
もう少し情報を引き出したかったんだけど、そうもいかないか。
魔人は後天的になる種族。その魔人の背後には神がいる。この2つを得られただけでも良しとしよう。まぁ、余裕があったら戦闘をしながら情報を引き出してみるけど、どうなる事やら。
ありがとうございます。




