終盤~魔女の実力~
―リンスレット―
「さて、アンタたちには知っている事全て吐いてもらうわよ?」
私は、目の前にいる魔族たちに向けて敵意を飛ばす。
「いくらグラトニー様と瓜二つだからといって、調子に乗るなよ!!」
「たかだか女1人、俺たちの敵じゃない!」
「むしろ、貴様を捕らえて、グラトニー様の前に突き出すのも見物だ」
私の敵意の籠もった視線を受けて、魔族たちは戦意を高まらせる。
それを見て、私が包帯を外し戦闘態勢を整えようとしたのと同時に、彼らの後ろにある魔法陣が輝き出す。
「女1人には過ぎた戦力だろうが、まぁしょうがあるまい」
魔族の1人がそう呟くと、魔法陣から数体の魔物が姿を現す。
「また面倒なのを引っ張り出してきたわね…」
私は魔法陣から現れた魔物を見てため息をつきたくなった。なぜなら、出てきた魔物が厄介な魔物だったからだ。
「さぁ。行けヒュドラたちよ! 目の前の女を叩き潰せ!!」
『GYAAAAAAAAAA!!』
そう。魔法陣から現れた魔物とはヒュドラの事だ。しかも8mぐらいのが全部で4体。
ヒュドラとは、首が9つある四足歩行型のドラゴン。こいつが厄介と言われるのは、その再生能力にある。
ノゾムクラスの再生能力を持っているため、首の一つや二つを消し飛ばしても、平然と再生するのだ。まぁ、再生持続時間って言うか、魔力がノゾムとは比べるまでもないので、どうとでもなる。
「とは言え、前衛がいないこの状況でのヒュドラは面倒なのよね」
こちらに向かってくるヒュドラたちに対して、愚痴が漏れる。
悪夢の迷宮なら、再生能力を無視して倒すことは可能だと思うけど、それには相応に魔力を注がないとダメだと思う。さらには、悪夢の迷宮を命中させる為の足止めも必要になる。
そう考えると、悪夢の迷宮で倒そうとするのは、効率が悪そうね。
「しょうがない。魔女と呼ばれた私の力をみせてあげるわ」
この場にノゾムがいなくてよかった。
『GAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
4体のヒュドラによるブレスが私を襲う。流石に、9つ全ての首からではなく、1体につき3つのブレスだ。
ヒュドラのブレスを身体能力だよりの方法で回避しながら、ヒュドラたちとの距離を詰める。
しかし、詰め寄ってくる私に対してヒュドラたちは、黙ってはいない。
ブレスを吐いていない首が接近する私めがけて振り下ろされる。
下手に避けても、後の第2第3の首の振り下ろしで最終的には逃げ場を無くすと判断した私は、迫り来る首を迎撃する為に魔法を放つ。
「『チェインボム』」
ドカカカカカカカカカカ!
チェインボムの連続爆発によって振り下ろされていた首は吹き飛んだ。なので今は、首の代わりに肉片と血飛沫が私に降りかかっている。
「汚い雨もあったもの…ねっ!!」
降り注ぐ血や肉片の雨を無視し、首を吹き飛ばした個体へ接近、そして思いっきり蹴り飛ばす。
私に蹴られた個体はそのまま吹き飛ぶ。その威力は他の個体をも巻き込み数十mほど後退して止まるぐらいだ。
さて、4体中2体が大きく離れた今、この隙に数を減らすのが得策ね。
「『マッドプール』」
まずは足止めとして沼を作る。まぁ、このクラスの魔物になると大した効果は見込めないけど、それでも数秒稼げれば十分。その隙に私はヒュドラの背中を駆け上る。
「GAAA!! GA!」
自身の背中を走り回る虫を9つの首で振り落とそうと試みるヒュドラ。しかし、自分の身体にダメージを与えないようにしているせいで、思うようにいかない。
「ふー。これ使うのは、久々だから上手くいくかしら? 『簒奪の劍』」
背中の中心へと到着した私は、ここに到着するまでの間に準備していた魔法を唱える。
魔法名をトリガーに、私の手の中に出現したのは、長さ80㎝ほどのシンプルな作りの真っ黒な剣。
その真っ黒な剣を逆手で持ち、ヒュドラの背中から心臓目掛けて剣を突き刺す。剣は抵抗なくヒュドラの鱗を突き破り、刀身が肉に到達する。
「GUGYAAAAAAAAAA!!」
響き渡るヒュドラの絶叫。そして、私を振り落とそうと暴れ出す。しかし、私は踏ん張りながら振り落とされないようにしながら、この剣に秘められた能力を解放する言葉を紡ぐ。
「簒奪者よ、私の欲しいモノを掠め盗れ。私の欲しいモノは『生命力』なり!」
私の言葉を受けて、真っ黒な剣が妖しく光り出す。そして、その光は痛みで叫び暴れているヒュドラを包み込むように広がっていく。
「GYAAAA…AA…A、…A」
光がヒュドラを包み込むと次の変化が訪れる。光に包まれたヒュドラから、真っ黒な剣がナニかを吸収するかのようにドクンドクンと脈打っている。
それに合わせてヒュドラは徐々に弱っていく。そして、が光に包まれてから20秒も経たないうちに、ヒュドラは絶命してしまった。
「成功して良かったわ」
久しく使っていなかった魔法の成功に安堵した私は、そのまま吹き飛んでいないもう一体のヒュドラを同じように倒す。
「残りは、あの2体ね。…ついでに転移陣も破壊しちゃおうかしら?」
ヒュドラを片付けでも、追加されるのは面倒だしね。
思いついた案を実行するために、ヒュドラと転移陣の射線が重なる位置に移動する。
目的を達成出来る位置まで移動したところで、簒奪の劍の切っ先をヒュドラへと向けて構える。そして、簒奪の劍のもう一つの能力を使用する。
「簒奪者よ。奪いしモノを力として解き放て。『リリース』!」
リリースの言葉をトリガーに、簒奪の劍に貯蓄されていたヒュドラ2体分の生命力が魔力に変換され、一筋の光線となって放たれる。
光線の太さは直径5mを越え、地面をも削り取りながら突き進む。
ヒュドラたちは身体のほとんどが光線に飲み込まれた。それでも簒奪の劍から放たれた光線は勢いを落とすことなく突き進み、予定通り転移陣をも巻き込んだ。
『…………………』
ここからでは少し離れているため、ハッキリとは見えないけど、転移陣の近くにいた魔族たち4人は、口を開けポカーンとした表情のまま固まっている。
私が使用した簒奪の劍は私が創ったレベル9に該当する闇属性に属する魔法だ。
一見、ただの黒い剣を作る魔法に思えるが、実は恐ろしい能力を秘めている。
ヒュドラの生命力を奪った事でも分かる通り、相手からナニかを奪う能力を有している。
ただし、その能力を使うには、相応の制限もある。
それは、奪うモノの大きさと与える痛みがイコールにならないと奪う事が出来ないのだ。
それともう一つの能力、相手から奪ったモノを力に変換して、解き放つ事が出来る。こっちはそのままの意味なので、特に説明する必要はないかな?
閑話休題
「くっ! 殺せ!」
「俺たちは絶対に口を割らんぞ!」
「ふごふご!」
「………」
ひとまず、呆けていた彼らを拘束したのだけど、聞いての通り素直に話してはくれなさそうだ。
ちなみに、1人は正気に戻った瞬間、舌を噛もうとしたので、口に布を噛ませて自殺を出来ないようにした。
「大丈夫よ。すぐに話したくなるから」
「な、何をされても、く、屈しないぞ!」
それはそれは、楽しみだわ。だけど、ノゾムの手助けにも行きたいから、早く終わってくれる事を期待しているわ。
「本当に、口を割らないわね」
「…………」
あれから、色々と試してみたけど、口を割ってくれない。それこそ文字通り、体にも訊いてみたのだけど、彼らが屈する事はなかった。まぁ、流石に言葉を発する気力はないみたいだけど。
「そろそろ、ポーションを使うのも勿体ないから、最後の手段にいくわ」
私の最後の手段と言う言葉に、彼らは多少反応するも、暴れるなどの抵抗する様子はない。正確にはする体力もないと言うのは正しいけど。
「先に誤っておくわ、ごめんなさいね。じゃあ、いくわよ。『甦る想い出』」
「がああああああああああああああああああ!!!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」
「ん! ん゛~~~!!! ん゛~~~~~!!」
「あ゛あ゛あ゛あああああああ!!」
私が魔法を使うと、4人とも絶叫を上げる。それもそのはず。ついさっきまで、無傷だった彼らは今、体のいたるところで傷が勝手に生まれて続けている。
実はこれ、先ほど使った魔法の効果なのだ。
甦る想い出
術者が対象者につけた傷、怪我を一気に蘇らせる魔法。属性は闇、レベル9に値する私が開発した魔法だ。ただし、甦る傷の痛みは2倍~5倍とぼ強力になっている。
この魔法の効果で、彼らは私が尋問した時に体に刻まれた傷が今一斉に蘇っているところ。その痛みが付けられたら時以上のものになっているのだから、その苦しみは想像を絶するわ。
「やっぱり、この魔法を使うと精神が壊れるわね」
一度に強烈な痛みを受ける反動なのか、この魔法を受けた者の末路はだいたい2パターンに分かれる。
一つは、さっきも口にした通り、精神が壊れ生ける人形と化すパターン。
もう一つは、稀なパターンで気を失うパターン。
普通なら後者の方が多いはずなのだけど、強烈過ぎる痛みが気絶を許さない。結果、気絶パターンが珍しくなる。
「まぁ、こうなってくれないと、やりたい事が出来ないんだけどね」
私はこれからする事の前準備の為に、左目を覆う包帯を外し、。そして、顕わになる赤い目。私の左目に宿るスキル魔眼。実はノゾムたちにも教えていない能力がある。それは…
「あなたの記憶を覗かせてもらうわよ」
そう言って私は、生ける人形化した魔族たち、1人1人の目を魔眼の目で覗き込む。そうする事で、彼らが今まで生きてきた記憶を視る事が出来る。
これが、ノゾムたちも知らない魔眼の能力。対象者の記憶を覗き見する力だ。ただし、この力を使うにあたっての条件が、対象者の精神状態を可能な限り死者のような状態にしないといけない、と言うものだ。
つまり、甦る想い出は魔眼のこの能力を使用可能にする為だけに生まれた魔法と言う事になる。
余談だけど、ノゾムと出逢う前は悪夢の迷宮や簒奪の劍、甦る想い出などを駆使して身を守っていた為、私はいつの間にか魔女と呼ばれるようになっていた。
「……いた! カリ…ン!」
魔族の記憶を覗く事、3人目で目的の彼らがグラトニーと呼ぶ人物を見つける事が出来た。
そして、その人物は私の予想通りの人物だった。
「けど、何で生きているの?」
あなたは、あの時死んだんじゃなかったの? 貴女が生きているのなら、他の家族も生きているの?
その人物の名前はカリン。
私の妹で瓜二つなのも当たり前だ。カリンは私と同じ日に生まれた双子なのだから。
だけど彼女…いや、ヴァンパイア族は、私以外滅んだはず。
なのに、魔族の記憶の中の彼女は、生きている。
その事実に、私は言葉をそれ以上紡ぐことができなかった。
ありがとうございます。