終盤~VS魔族~
—アイラ—
「そろそろ転移陣が見えると思うので、正確な位置を私が空から確認しましょうか?」
さっきから魔物が途切れる事なく私たちを襲ってくるので、転移陣も近いのだと思ったのだろう。イリスが上空偵察を買って出る。
「止めときなさい。ただでさえ、私たちの位置はバレていると思うのに、空なんて飛んだら格好の的にされるわよ? 地上からなら魔物を盾に出来る分、狙い撃ちされるリスクも減るわ」
魔物がこちらに向かってきている事で否応なしにバレていると思っておくべきだ。
「分かりました。ですが、そうなると転移陣の正確な位置が判らないのですが、どうしましょう?」
「イリス? あなた、もう少し考えなさい? あっちが魔物の向かう方角で私たちのおおよその位置を把握出来るのなら、その逆も出来て当然でしょ?」
「あっ!」
はぁ~。イリスは私といると一直線の思考になる傾向があるわね。私の為に何か役に立ちたい気持ちは嬉しいけど、もう少し考えてからにしてほしいわ。
「そういう訳だから、このまま魔物が現れる方向へ行くわよ」
「はい!」
立ちはだかる魔物を片手間に排除しながら駆けること10分弱。私たちは、転移陣だと思われる魔法陣が描かれている? 設置されている? 場所に辿り着いた。
そして、転移陣だと思われるモノの傍に、褐色肌で黒髪の男女が計4人いた。間違いなく魔族だろう。ちなみに、男女ともに2人ずつだ。
「驚いた! まさか、ここまで辿り着くヤツがいるなんてな!」
男の1人が驚きを露わにする。
「こいつらが、SSランクの冒険者なんでしょ? ソイツらはバケモノって話だし? そんなヤツらじゃないと、あの魔物の数をどうこう出来るわけないじゃん?」
2人いる女の内、ちょっと頭の軽そうな方が、私たちを勝手にSSランクだと決めつける。
いや~、私たちは違うわよ? ここの転移陣から出てくる魔物との相性が良かっただけよ? 冒険者のランクだって、イリスはAランクで、私に至ってはBランクよ?
「それじゃあ、作戦通りでいくわよ?」
もう1人の女がこちらにも聞こえる声で周りに確認をとる。
もう少し声を抑えて、隠す努力をしてほしいわね。これじゃあ、警戒して下さいと言っているようなものよ?
私たちが呆れているのを余所に、最後まで口を開かなかった男が転移陣の上に乗る。すると、頭の軽そうな方の女が転移陣に魔力を供給し始める。
転移陣から光が立ち上り、次の瞬間には男の姿は無くなっていた。
しまった! 油断し過ぎた! みすみす敵を逃がしてどうするの?
心の中で猛省しながらも、チラリとイリスへと視線をやると、彼女もしまった! って、表情だったので私と同じように油断し過ぎたのだろう。
「あとはアイツらの体力を削るわよ!」
私たちの心情などお構いなしで、残った3人は魔物を私たちにけしかける。
が、そんなモノ《魔物》は私たち…いや、私には無意味だ。だって、支配領域は未だに展開中だから。
「えっ?」
「はあぁ?」
「おいおい…」
魔物が私たちの元へと到達する前に消滅するのを見て、三者三様の困惑の声が聞こえてきた。
「イリス!」
「はい!」
相手が立ち直る前に、そして逃げ道を塞ぐ為にも、さっさと転移陣を無力化する。
イリスは呼ばれただけで、私の考えを汲み取ってくれたのか、返事をすると同時に駆け出す。私も遅れる事なくそれに続く。転移陣までの距離はおおよそ30mだけど、いけるかしら?
「なんなんだよアイツら!?」
「知らないわよ! き、きっと強力な固有スキル持ちじゃないかしら?」
「それなら、長くは続かないわね。このまま、大量の魔物をぶつけ続ければ、すぐにでも魔力が尽きるわ」
まぁ、普通はそう思うわよね。確かに魔力支配は結構な魔力を消費するけど、それを補うぐらいじゃ有り余る魔力《死霊系魔物》をそちらが提供し続ける限り、私が魔力切れに陥ることはないわよ?
「クソッタレ! マジでどうなってやがんだよ! 魔物が足止めにもなりゃしねぇ!!」
「それなら私たちでやりしかないでしょ? 『フレイムランス』!」
「『サンドニードル』!」
私たちの歩みを止めるどころか、足止めにすらなっていない現状に、ついに魔族たちも魔法を撃ち始める。
「風よ。獣の如く斬り裂き蹂躙せよ。『スラッシュファング』!!」
「「きゃああああ」」
「うわっ!?」
しかし、それらの魔法はイリスの魔法によって消し飛ばされてしまった。本当なら、支配領域を展開している私には、無意味な攻撃だったのだけど、イリスは私の領域が魔法にも効果がある事を敵に気付かせない為に、あえて魔法で迎撃してみせた。この辺りは事前に話し合っていた事なので、私も相手の魔法をわざと支配しなかった。
それにしても、今の魔法。2人とも詠唱破棄か。この辺りはやっぱり、魔族なだけはあるわね。だけど、気になるのは、使った魔法の方。フレイムランスはともかく、もう1人のサンドニードル。何故下級魔法? …もしかして、魔力を節約している?
不信に思った私は、相手に看破のスキルを使い、情報を得る事にした。
最初からスキルを使わなかったのには理由がある。
ステータスが視れると言っても、それはあくまでも数字でしかない。相手の実力をある程度は計れても、それが全てではない。戦闘中に成長するかもしれないし、数値やスキルでは表せない力を持っているかもしれない。それに視る為には集中しないといけないので、どうしても隙が出来てしまう。こればっかりは並列思考を使っても改善さる事はない。
なので、余計な先入観や慢心を持たないようにするため、そして隙を作らない為に視ないようにしている。
あとは、スキルに頼らなくても相手の実力を計れる目を養う為でもある。
閑話休題
それで、彼らのステータスは…っと。ふむふむ、レベルは80台。まずまずね。職業は全員魔法使い。各数値も1だいたい万前後。高いのでも1万後半。種族的にもみても平凡と言ったところ。…やっぱり魔力はかなり減っているわね。そうなると、彼らは転移陣の守護者と言うよりは、起動の為のエネルギーと言ったところかしら? スキルも特筆するものはないし。間違いなさそうね。
「イリス。相手は消耗しているから、デカい魔法はほぼないと思っていいわ。さっさと、制圧して転移陣を破壊するわよ」
「はい!」
イリスに相手の情報を最低限伝え、距離を一気に詰めようとしたところで、転移陣が再び光り出す。その光を警戒し、私たちは歩みを止める。
「は、ははは! これで終わりだ!」
転移陣の光を見て、魔族の男が嗤い始める。それに同調するように女の魔族たちも嗤い始める。
そして、光が収まるとそこには最初に転移陣へと消えた魔族の男と数体の魔物がいた。
「あれは…グリムリッパー? それにワイトキング、シャルフリヒター!?」
イリスが魔族とともに転移してきた魔物の正体に驚く。
順に死神、死霊王、処刑人の別名を持つ死霊系の魔物の中でも最強格の魔物たちだ。
その実力は、SSランクが相手じゃないと討伐は無理だろうと言われているぐらいだ。仮にSランク以下で討伐に挑むのであれば、30人規模で挑まないと駄目だと言われている。
「いけ!」
転移陣で戻ってきた男の命令で、グリムリッパーたちは私たちへと襲いかかってくる。
『は?』
が、グリムリッパーたちは私の支配領域内に入るやいなや動きが止まり、最終的には今までの死霊系の魔物たちと同じように消滅してしまった。それを見た魔族たちは、揃いも揃って目を点にして固まってしまった。
「隙あり!」
連中が固まってる隙にイリスが距離を詰め、鞭によりまとめて意識を刈り取る。
私もこの隙を突いて転移陣を支配領域内に入れて稼働しないようにする。こっちから動かす人がいなくても対となる方からの干渉が無いとも言えないからね。
「流石は最強格の魔物ね。一瞬で消滅しないなんてね。一ヶ月前の私なら、ヤバいかったかも」
魔族たちを無力化し終えた私は、先ほどのグリムリッパーたちが、一瞬で消滅しなかった事を思い返していた。
実は連中の動きが止まった時、抵抗された感覚があったのだ。多分、その時に私の力量が足りなければ、支配できなかったかもしれない。簡単に言えば、反逆ね。
「私たちはこれからどうします?」
「まずは、転移陣を写しましょう。それから、こいつらを船まで連れて、そこで情報を吐かせるわよ」
これからの指示をイリスに出す。
さて、この転移陣は今後の私たちの役に立ってもらいましょうか。
ありがとうございます。
 




