終盤~無双道中~
—アイラ—
「イリス! 20秒時間を稼いで!」
「分かりました!」
私はイリスに時間稼ぎをお願いし、周囲の魔力を支配下に置くために意識を集中させる。
私の固有スキル『魔力支配』は、魔力を原動力としているモノ全てに対して絶対的な力を発揮する。
魔法であれば、他者のモノであれ強制的にコントロール権を奪う事が出来る。
生き物であれば、体の自由どころか生死すら自由に出来る。
こうしてみると、ホント規格外よね。なのに、望君ってば、このスキルを使って、一瞬で他人に魔法を覚えさせるなんて言う、とんでもない使い方まで開発してしまった。これで理論上は、全ての生き物は才能、種族関係なしに全属性を習得出来る事になった。魔法を得意としているエルフや魔族は涙目になるわね。まぁ、その作業を私がする気がないので、実現する事は無いけど…。
っと、話が変な方向に行ったわね。
私は今、イリスと2人で東にある転移陣を目指している。こちらは死霊系や魔法生物など、魔力で構成されている魔物が主戦力なので、私たちに任された。
その道中、移動の片手間で相手にするには面倒臭い量の死霊たちと遭遇したので、私の固有スキル《マジック・ルーラー》で一気に殲滅する事にしたのだ。
イリスは鞭を取り出し、スカル系魔物への牽制をしつつ、下級魔法でゴースト系魔物を寄せ付けないように立ち回っている。
「もういいわよ。ひとまずは、私から半径10mは常時支配領域にしたから。これで移動に集中できるわ」
支配領域の展開が完了したので、前衛を任せていたイリスさんに声をかける。
それと同時に領域内に存在する魔物の魔力を全て抜き取る。それだけで死霊系は存在を維持できず、霧散してしまう。スカル系は、霧散しない代わりに、身体を動かす為の魔力が無くなったので、骨がガラガラと崩れ落ちる。
「いつ見ても、魔力生命体には無敵ですね」
「支配領域を展開さえ出来ればだけどね」
割と便利そうに思える魔力支配だけど、使用するには高い集中力が必要とされる。今回の規模でさえ、20秒かかった。しかも、これは並列思考をフルに使ってだ。並列思考なしなら、5~10分はかかっていただろう。
つまり、魔力支配は単独戦闘で使用するのは難しいのだ。格下ならまだしも、格上相手なら確実に悪手でしかない。
「イリス、残り魔力は?」
「そろそろ半分を切りますね」
「それじゃあ、移動しながらになるけど、魔力を譲渡するわ」
「すいません、アイラ様の手を煩わせてしまって」
申し訳なさそうに頭を下げるイリスへと先ほど魔物から徴収した分の魔力を送りつつ、私たちは歩みを再開する。
「そう言えば、アレ以外にもレベル9の魔法は創ったの?」
「いえ…。もう少しで出来るのは幾つかあるんですが、どれも最後の一線が…」
「まぁ、そうよね。そう簡単に出来るのなら苦労はしないわよね」
私の言うアレとは、敵を殲滅する為に使った煉獄の瞬焔の事だ。
簡単に言えば、炎を超圧縮した火球を炸裂させ、火柱を起こす魔法。
ただし、炸裂させた時の熱波と、熱波の届いた範囲内に1テンポ遅れて巻き起こる火柱の2段攻撃になっているのが肝。さらに炎は、耐火スキル持ちでも耐える事の出来ないほどで、その威力は炎系の魔物の中でも上位に連なるケルベロスでさえ、焼き尽くせるほどの火力を誇っている。
ちなみに、イリスの言う最後の一線とは、レベル9の魔法開発における最大の障害の事だ。それは、イメージ通りに発動するかと言う事。
もう少し詳しく言うと、詠唱と魔法のイメージが一致しないと魔法は発動しない。
私たちは詠唱破棄、詠唱短縮のスキルがあるから、実際に使用する際は口にしなかったり、簡略したりするけど、魔法を開発する際は、その詠唱も1から創りあげないといけないのだ。そして、自身の思い描く魔法のイメージと詠唱が一致してようやく新しい魔法の完成となる。
閑話休題
「アイラ様はこの数の魔物がどこから連れてこられたか分かりますか? 私としては、大陸からにしては多すぎると思うのですが…」
転移陣へと向かっている道中で、イリスがそんな質問を私にしてきた。
「そんなの、あなたが今言った言葉がそのまま答えになるじゃない」
「私の言葉が…ですか?」
私の回答にいまいちピンとこない彼女は首を傾げる。仕方がないので、ため息を1つつき、解説を始める。
「はぁー。いい? あなたも言ったように、この数は大陸中に存在する魔物の数を軽く超えているわ。だけど、大陸には…、いえ、この世界には地上以外にも魔物が存在する場所が数多くあるでしょ?」
「っ!! ダンジョンですか!?」
「それも、かなりの数だと思うわ。そうでもないと、この数は説明できない」
魔物の多種多様性とこの数から大陸中の魔物の他にも、ダンジョンに巣食う魔物までも連れてきているのは間違いないだろう。どうやって従えているかまでは分からないけど。
「っと。お話はこれまでね。前方にゴーレム種の大群。さて、どう切り抜けようかしら?」
駆けながら話していたのだけど、前方に見えるゴーレムたちのせいで、それも中断する必要が出てきた。
「今まで通り、魔力を抜き取るのではダメなんですか?」
「それだと、アレを領域内へ招き入れないといけないわ。そこで魔力を抜けば、崩れてくるゴーレムの体に進路を塞がれてしまうわ」
ゴーレムの大きさは小さいので3m、大きいのだと5mを超えている。そんな連中を全て残骸に変えれば、それは敵から障害物へと変わるだけ。先を急いでいる私たちにはそれは避けないといけない。
「言われてみれば、そうですね。では、崩れ落ちてくる瓦礫は私にお任せください」
そう言ってイリスは愛用の鞭を携え、私の前に出る。
「魔力はアイラ様に回復してもらって全快。これなら、アレを使っても余裕ね」
イリスが何やら独り言を呟いていたと思ったら、ゆっくりと歩き始めた。…どうやら、鞭の射程圏内まで接近するみたい。
「さて、私たちは忙しいので、さっさと退いて下さいね?」
「GOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
鞭の射程圏内よりほんの少しだけ外の所で止まったイリスは、ゴーレムたちにそう問いかける。が、しょせんは明確な意思などないゴーレム。自分たちの目の前に立ちはだかった敵を排除する為に、その豪腕を振り上げるも、私はその腕がイリスへと振り下ろされる前に、魔力を徴収する。
それにより、腕が振り下ろされる代わりに崩れ落ちてくるゴーレムの体だった瓦礫がイリスを襲う。
が、そんなものはイリスの振るう鞭によって、全て明後日の方向へと飛んでいってしまった。
これにはもちろんネタがある。そのネタとは彼女のユニークスキル『反転』だ。
このユニークスキルは、『本来の性質や起こる事象とは正反対のモノにする』と言う能力を持っている。
つまり、本当なら傷を癒す回復魔法もこの反転を使えば、ダメージを与えるモノへとなってしまう。今回は、瓦礫の『落ちてる方向』を鞭で反転させたのだと思う。
この反転にも欠点はある。それは、魔力の消費量が多いという点。なので、普段はあまり乱用は出来ないけど、私と組んでいる今、その欠点は無意味と化す。
「アイラ様、急ぎましょう」
向かってくるゴーレムの群れを一掃し終えたイリスが先を促す。
「そうね。まだ、半分をやっと超えたぐらいだものね。機動力的には私たちが一番低いから、もしかしたらもう他の場所は終わっているかもね?」
「いくら何でも、それはないと思いますよ? まぁ、フリーシアたちは終わってそうですが…」
あの組が一番近いし、当然よね。むしろ終わっててくれないとSSランクの力を疑うわ。
「それよりも、私はルージュが少し心配よ」
「確かに。彼女は一番レベルが低いですからね」
「それは大丈夫よ。ソリューやヴェーラーもいるし、フェリエルにも細工はしてある。問題はあの娘が暴走しないかよ」
セシリアで抑えられるかだけが問題なのよ。今のところアレを抑えられるのは望君だけなのよね。
「…あぁ」
イリスも私の言いたい事が分かったようで苦虫を噛んだような表情になる。
「まぁ、賽は投げられたのだから、私たちに出来る事は祈るだけよ」
「セシリア、頑張るのよ」
イリスは私たちとは反対の地にいるセシリアに祈り始める。私はそれを苦笑いしながら見守る。
私たちは、そんな雑談をしながらも魔物を屠りつつ、転移陣目指して駆けていくのだった。
ありがとうございます。
まずはアイラ、イリスペアとなります。




