中盤~援軍~
—リンスレット—
「やあああああああ!!」
「あははははっははははは!!」
私の放ったスラッシュファングによって出鼻を挫かれたケルベロスたちへとうちの前衛陣が切り込んでいく。ルージュの様子がおかしいけど気にしない。気にしてはいけない。
出鼻を挫かれたケルベルスたちは、抵抗らしい抵抗も出来ないまま、サキとルージュに屠られていく。ルージュの従魔もヴェーラーとソリューを中心にしてケルベロスの相手をしている。
セシリアはルージュやその従魔たちの死角を狙おうとしているヤツを優先して処理している。
「みんな、散開!!」
「いくわよイリス?」
「はい!」
「「『レイ』!!」」
私の合図で、魔物たちから距離をとる仲間たち。そして、そこへアイラとイリスの2人が魔法を叩き込む。
2人が使った魔法は、光の魔法のレイ。効果は光弾の雨で敵を殲滅する魔法だ。
ひとまず、今の一撃で最初の襲撃分は全滅したようだ。
「お疲れさま。まず、セシリアは索敵。こちらに近付いてくる魔物の有無の確認。他のみんなは、傷の手当て等をして次の襲撃に備えて」
ケルベロスを処理し終えたからみんなに次の指示を出す。見た感じ、掠り傷などは多少あるものの、戦闘に支障がでるほどの怪我はないと思う。
そして、新人たちの方も今のところは問題なく回っているようね。
一通りみんなの状態を確認した所でセシリアが戻ってきた。
「大変で、す! 集落の方角…以外にも、北と東からも接、近してくる魔物…が!!」
「魔物の種類と数は?」
セシリアからの報告に驚きはしなかった。驚きはしなかったが、とうとうそっちからも来たかとしか思わなかった。なので、私はケルベロスの時みたく、慌てずに魔物の詳細を訊ねる。
「集落側は、ウルフ種を中、心にサイクロプス…やオーガな、ど亜人種も多数、います。北…は昆虫系の魔物、東はガー、ゴイルや死霊系、の魔物で、共に空を…飛んでいます」
魔物の詳細を聞いて、舌打ちをしたくなった。その訳は、空からの魔物がいるからだ。
そもそも、満足に空中戦を出来るのは、イリスだけしかいない。サキも出来なくはないけど、翼や羽を持つ者と比べれば、どうしても見劣りしてしまう。さらにセシリアなんてもってのほか。こんな所で切り札を使わせるなんて有り得ない。
「…うん。北は私とイリスで抑えるわ。東はアイラに任せるから、全て徴収していいわよ。サキ、ルージュは正面をお願い。セシリアはキツいだろうけど、全体のフォローをお願い」
私の指示にみんなが頷く。
「ノゾムを一発殴るまで生き残るのよ!」
『はい!!』
最後に私たちの目的を言葉にし、士気を高め、第2ラウンドの開始の合図とする。
「イリス、そこから離脱して! 雨を降らすわ」
「分かったわ」
「『アシッドレイン』!!」
空中で攪乱しながら戦うイリスへ声をかけ、彼女がその場から離れるタイミングで魔法を発動する。酸の雨により多くの蟲たちが溶け墜ちる。しかし、中には酸にも耐えれるのもいる。
むしろ、今はそちらの方が多いぐらいだ。
「『ヒートエリア』!!」
なので、そんな奴らは蒸し焼きで処理をする。
ヒートエリア
一定範囲内を超高温にする火魔法。範囲内の最高温度は術者のスキルレベルで変化する。
イリスのヒートエリアにより、アシッドレインの生き残りは全滅。私たちはすぐさま次の蟲を相手にする。
あれから、私たちは休む暇なく魔物と戦い続けている。どの方角からも途切れることがないのが原因だ。
時折、周囲を見渡すと、サキたちも新人たちも同じ感じみたい。
唯一、アイラだけは自身の固有スキルと相性の良い、魔力生命体系の魔物を相手にしているだけあってかなり余裕が在るみたい。
現に、今も時折サキたちへ援護の魔法を放っていたりする。
「イリス! 残り魔力は?」
「あと、7割かしら?」
あれから1時間ほどでこれだ。私は魔力量が多いから、まだ1割も使っていないけど、このまま魔物の終わりが見えなければ、近い内に魔力が底をつき戦闘続行不可能になってしまう。そうなる前に転移陣を破壊しなければ…
「リン!」
「!? くっ、『アースジャベリン』!!」
イリスの呼び声で、自分の目の前に迫っていた蟲に気が付き、ギリギリのところで回避をする。そして、追撃の魔法を撃ち込む。
アースジャベリン
土の槍を撃ち出す魔法で、消費魔力量によって槍の硬度を変えられる。さらに、術者のイメージによって形を変えられるのも特徴の一つ。
「ほんっとうにキリがないわね」
「ぼやく暇があったら、手を動かさないと、アレに飲み込まれるわよ?」
「…そんなの絶対嫌よ!」
イリスの一言で自分の全身を蟲が這いずり回るところを想像をしてしまった。…そんな未来は断固回避しないといけないわね。
とは言え、このままだと数の暴力に屈してしまうのは避けられない。
いっそのこと、少数で転移陣の破壊に行こうかと思った時、セシリアが海の方を気にし始めた。どうしたのかと声をかけようとしたら…
「ふ、船がこの島に近付い…ています!」
と、みんなに聞こえるような大声で、その理由を私たちに伝えてきた。
「船って、海がこんな状況なのに!? まさか、帝国?」
「違うみたいよ? 帆に帝国の印がないわ」
この状況で帝国兵が加われば、私たちは全力で戦わなくてはいけなくなる。それは転移陣を破壊しに行く余力がなくなる事を意味している。
そんな最悪の展開が頭を過ぎったけど、上空から見ていたイリスがそれを否定してくれた。
さらにイリスはそれを証明する証拠として、サハギンたちが船を襲っていると言っている。
私も海を見てみるけど、船は発見できたがサハギンたちが襲っているかまでは流石に見えなかった。
「味方かどうか分からない以上、気にしてもしょうがないわ。今は目の前の事に集中しましょう」
船が到着するまでもう暫くかかると思った私は、視線を船から魔物へと戻そうとした。が、その時、視界から消えそうになった船からキラリと光が放たれたように見え、それが何なのか確認するために再び視界に船を納めようとした次の瞬間、それが私の頬を掠めながら飛来した。
「これ…は」
私の頬を掠めたのは、無骨な大剣だった。
これがあの船から飛んできたの? そんなバカな…、いや、知り合いに1人だけ、そんなバカな事が出来そうな人がいたわね。
飛来したモノを見て私は船に誰が乗っているのか見当が付いた。
「リン! さっきの船なんだけど、もの凄い速度で進んでるんだけど!?」
私が思い至るのと同時ぐらいにイリスが戸惑い気味に報告してくる。
それって、私たちが着たときのように風魔法の追い風で速度を上げているって事? あれって意外と魔力の消費が激しいから並の冒険者じゃ、とてもじゃないけどあの距離からこの島までたどり着く事は出来ない。そうなると、あの船にはアイツ以外にも別の実力者が乗っている事になる。
私がそんな事を考えている間にも、船は島に到着した。そして、船から降りてきたのは、私の予想通りの人物だった。
よく
「やっと到着しましたよ。あっ! リンさーん! 大丈夫ですかー?」
地面に降りるなり、この殺伐とした雰囲気に似合わない声色で私に話しかけてくる彼女こそ、私の頬を掠めた大剣の持ち主、フリーシアだ。そして、いつの間にか私の隣にいるし。
「大丈夫ですけど、手が足りないですね」
「そうなんですか。あと、ノゾムさんはどこですか? 彼女に視てもらったら、この島にいるって言うんですが」
彼女? 見てもらう? 彼女は何を言っているんだろう?
「ノゾムなら単独行動中よ。それよりも貴女の言う彼女って誰よ?」
「先読みの占い師」
先読みの占い師? 聞いた事ないわね?
「誰よそれ?」
この状況でもったえぶった言い回しにイラっと来た私は、少し怒りを顕わにしながら知らないと言う。
「あれ? 彼女は会った事有るような口ぶりだったんですがね? ほら、彼女ですよ」
「あ、あれは!」
フリーシアが先読みの巫女と呼ばれている人物を指さす。それにつられて視線を指が差す方向へとやると、そこにはいつぞやのダンジョンで私たちを助けてくれた女性が立っていた。彼女の名前は確か…
「彼女こそ、先読みの巫女の異名を持つSSランクの冒険者、その名もフローラ!」
ありがとうございます。
さて、実に約70話ぶりに登場したフローラさん。みなさんは覚えていますかな?




