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リベンジ

誤字修正しました。


間違ってのリンのせいじゃない。

間違ってもリンのせいじゃない。




 初戦闘でひどい結果を出した僕はさんざん吐いたあと、少し移動して大きな樹に寄りかかって休んでいた。

 この辺りは暫く安全だって言うから、リンは僕にかかった血を洗い流す為の川を探しに行ってしまった。


 「それにしても、まさかここまで情けないとは…」


 自分でももう少しは何とかできると思っていただけにさっきの戦闘はかなりショックだった。

 なんであんなにも動けなったのか考え込んでいるとリンが戻ってきた。


 「あっちの方に川を見つけたわ。とりあえずそこでゴブリンの血を洗い流しましょう。ノゾム、歩ける?」


 「大丈夫、何とか歩けるぐらいには回復したよ。元々外傷があったわけでもないからね」


 そうリンに伝えると彼女はひとまず安心したようだ。

 リンの案内で川に到着すると、彼女に周辺の警戒をしてもらうために席を外してもらった。

 彼女がいなくなったのを確認してから、ゴブリンの返り血を浴びた防具とシャツを脱ぎ川で洗い始めた。もちろん服を洗いながら僕自身首から上を洗いました。


 そうして30分ぐらいしてリンが戻ってきた。

 僕は自身の無魔法で服と防具を乾かし終えていて彼女が戻ってきた時にはゴブリンの返り血を浴びる前の状態へと戻っていた。

 リンも僕の状態を見て問題ないと判断したのか、ようやくさっきの戦闘について触れてきた。


 「ノゾム…、さっきの戦闘の事なんだけど、聞いてもいい?」


 「うん…」


 「それじゃあ聞くけど、一体なにがあったの?ノゾムの実力なら問題なく倒せると思っていたのだけど?」


 リンの質問は至って普通の質問だった。

 確かにステータスの数値だけを見れば、ゴブリン如きに遅れをとるはずがないから、彼女にはさっきの僕の姿がありえないものだったんだと思う。

 だから、僕は今、自分の思っている事を素直にリンに話した。


 「ステータス上の数値でなら間違いなく倒せていたよ。けど、僕にはそれを簡単には実行出来なかった。その理由だけど、まず僕にとっては初めての命の奪い合いだったんだよ。だからゴブリンの殺気にのまれてしまったんだと思う」


 「初めて?盗賊とのあれは?あれだって命の奪い合いでしょ?」


 「あの時は我を忘れて挑んだからその感覚が薄かったし、その後の惨劇も、僕は死にかけていたから他人の死に構っている余裕なんてなかったんだよ」


 だからこそ、ゴブリン如きにビビってしまったんだけど…。


 「それにもう1つ理由があるんだけど、普通に殺気にのまれたぐらいなら、押し倒された後にでも対処出来たとは思うんだけど、僕は盗賊に殺されかけたが原因で、押し倒されて死が頭をよぎったら、その時の事を思い出してパニックになっちゃったんだよ」


 「ノゾム…」


 理由を聞き終えたリンはとても辛そうな表情をしていた。多分、今回の件も自分が原因だと思っているに違いない。

 だから僕は、勘違いしている彼女の考えを指摘する事にした。



 「何そんな顔してるの?もしかして自分が今回の件を引き起こしたと思っているの?」


「………」


 「…あのさ、前回の盗賊は僕が弱いのに分をわきまえなかったせいだし、今回のは精神が弱いのが原因だ。間違ってもリンのせいじゃない。確かに盗賊の件はリンが関係はしているけど、弱いのにキレて盗賊に喧嘩売ったのは僕だよ。だから、原因は僕の忍耐力の低さだよ。それをリンのせいになんかしない。そんなのはただの責任転嫁だ。今回のもただ覚悟が足りなかった、それだけだよ。だから相手の殺気にのまれたし、パニックも起こしてしまった。ただそれだけの事だよ。リンが責任を感じる必要はないんだ」


 「…分かったわ」


 リンはひとまず理解はしたようだ。納得はしていないようだけど。

 僕は今回のようにならない為にどうしたらいいか、その対策を考えながら町に戻る事にした。

 町に戻るまでは僕とリンの間で会話は一切なかった。僕は考え事に没頭し、リンはまだ落ち込んでいたからだ。





 町に戻りギルドで依頼の達成報告をしていると受付の女の子から今の僕にはちょうどいい情報が入ってきた。


 「ゴブリンの巣ですか?」


 「そうです。今日他の冒険者のパーティーから報告がありました。北の森でゴブリンの巣が発見されました。しかもかなり大きいらしいです」


 僕はそれを聞いてちょうどいいと思った。

 結局、先ほどから考えている件の打開策は、とにかく慣れるしかないと思っていた。

 この先も人やヒト型の魔物を相手にする度に吐いたり、殺気に飲まれていてはそのうち本当に命を落としかねない。それなら吐かなくなるまで、殺気にのまれなくなるまで慣れるしかない。

 だから、このゴブリンの巣はちょうどいい相手になると思う。

 問題はどうやってリンを関わらせないか、かな?

 今回のは僕1人で乗り越えるべき問題だ。この先もリンを1人にしないためには絶対避けては通れない。けど、それをリンに話したところで絶対反対すると思う。なら内緒で事にあたるしかない。

 そんな事を考えながらも僕は、受付の女の子との会話を続けて巣の情報をもらう事にした。


 「もしかしてその巣のせいでこの辺りではあまり見ないオークも見るようになったんですかね?」


 「可能性はありますね。オークが餌を求めて来たのところにゴブリンの巣があったので仲間に連絡したのかもしれませんね」


 「ちなみにですが、巣の位置って教えてもらってもいいですか?なるべく近づきたくないので」


 「構いませんよ。えっと…森のこの辺りになります。この町からだと近いようで遠いのが発見を遅れさせた原因で巣が大きくなってしまったようです」


 確かにこの町から普通に歩けば2日ぐらいかかりそうだ。


 「場所は分かりました。しかし巣ともなれば、ゴブリンの上位種もいそうですね。僕みたいな新人は近づかないようにします」


 「上位種は何種かいると予想されています。ただ、巣が大きいので確認は出来なかったと報告に上がってました」


 「まぁ僕には関係ない話ですね。それよりランクを上げないと依頼を受けられないですし」


 「ランクと聞いて、お伝えしなければいけない事があるのを忘れていました。ノゾムさん、ランクアップ試験に必要な依頼数を超えましたので、Eランク昇格の試験を受ける事が出来るようになりました。昇格試験の申し込みをしますか?」


 おっと、巣の情報以外のものが出てきた。そっか、昇格かぁ…。今は冒険者になったばかりの頃とは違って、ランクアップしても問題はないから出来る事ならランクアップしたいけど、今はそれより僕の精神面を鍛えるのが最優先だ。


 「えっと、昇格試験はいつになりますか?」


 「次は…、3日後になりますね」


 「それなら、申し込みお願いします」


 「ノゾム!?」


 今までうつむいて会話に参加していなかったリンが驚いて声を荒げて僕の名前を呼んだ。多分彼女はさっきのことがあるから暫くは昇格試験を受けないと思ったのだろう。


 「なに?」


 「なにじゃないわよ!一体なにを考えているのよ!」


 「それについてはあとで話すよ」


 そうリンに言って、受付の女の子に明日にでも説明を受けにくると言ってさっさとギルドを後にした。そうでもしないとあの場所でリンと言い合いになっていたと思うから。せめて言い合うにしても泊まり木に戻ってからの方がいいからね。





 ギルドを後にした僕たちは泊まり木に戻り食事をし体を拭く為のお湯を頼んで部屋に戻った。もちろん会話は一切なかった。ギルドでの続きを始まらせないようにリンに口を開かせなかったのがいけなかったのか、途中から完全にへそを曲げてしまった。


 僕は今のリンの不機嫌を利用する事にした。部屋にお湯が届くと昨日みたく「剣を振ってくる」と伝えて外に出た。


 この状況でする事は1つだけ。

 ゴブリンの巣を潰す事。そうする事で僕はこの先を生きていくための力を手に入れる。


 とにかくやるからには行動あるのみ!タイムリミットは3時間ぐらいかな?しかし巣まで遠い。巣までは2日かかってしまう。だけど、『普通』に巣に向かえば2日かかる道なら『普通』に向かわなければいいだけのこと。

 幸い僕は普通じゃない。ステータスの数値に任せた速度で走れば1時間かからないと思う。だからリンが気付く前に終わらせて宿に戻る。そしてその時改めてリンに全て話せばいい。


 僕は町の外に出ると誰もいない事を確認してゴブリンの巣がある方へ向かって出せる速度の7割で走り始めた。




 森を走る事約1時間

 今僕は、ゴブリンの巣の近くまで来ていた。ここにくるまで何回か魔物を見たけど、向こうが気付く前に走り抜けてしまった。

 ここからはゴブリンの連中に気付かれたくないから走るのは止めた。


 ゴブリンの巣自体は見つけやすかった。巣は崖に穴を掘って作った物だった。僕は崖の上で巣の様子を見ていた。

 

 「様子を見ている限りだと、入り口に3匹見張りっぽいのがいるぐらいか…」


 ここで見ていても何も変らないので僕は行くことにした。

 巣のゴブリンを殲滅するのに特に作戦なんてものは考えていない。ステータス数値に任せた強引な正面突破でいくつもりだ。ただ、今回魔法は使わないつもりだ。今は生物の命を奪う事に慣れなきゃいけないからだ。多分だけど、魔法だと殺す感覚が伝わらない様な気がする。とにかく、あとは突っ込むだけだ。余計な事は考えるな。

 


 僕が巣の正面に姿を現すとゴブリンたちも気付いて襲い掛かってきた。

 向かってくるゴブリンたちを見て僕は再びゴブリンたちの殺気にのまれそうになる。


 「はああああああぁぁぁぁぁぁぁ」


 その殺気にのまれないように、僕は腹の底から声を出し、剣を抜いてゴブリンたちに向かって駆け出した。ゴブリンたちは素手の為、僕を押し倒そうと飛び掛ってくるヤツ、足に噛み付いてこようとするヤツ、背後に回ろうとするヤツと連携みたいな事をしてきた。

 僕は正面にいた飛び掛ってきたヤツに向かって剣を力任せに振り下ろし斬り捨てた。肉を斬った感触に腹の底からこみ上げてくるものがあったけど、無理やり押し戻し、足に噛み付こうとしてるヤツの頭にこれまた力任せに剣を突き立てた。またも慣れない感触に吐きそうになるけど、背後に回ったヤツがそれを許さなかった。ヤツは剣を突き立てて動きの止まった僕の背中に飛び掛ってきた。それに気が付いた僕は吐き気を押し戻して振り向きながら剣を水平に振りぬいた。剣は運よくゴブリンの体を横に真っ二つにした。


 ひとまず最初の戦闘が終わり僕は緊張の糸が切れてその場で吐いてしまった。しかし、そんな僕に休憩は無いらしい。


 「グギャガガガガァァ」


 運悪く最後に倒したゴブリンが生きていて最後に仲間を呼んだらしい。

 巣から続々とゴブリンが出てくる。

 僕は吐いたばかりの体に鞭を打って巣から出てくるゴブリンたちを睨みつけた。

 自分たちを睨みつける僕を見たゴブリンたちは叫びながらいっせいに襲ってき始めた。


 「いいよ、かかってこいよ!僕はそんなお前たちを殺してこの先を生き抜く強さを手に入れてやる!!」


 そう叫びながら僕は剣を握りなおしてゴブリンたちに向かっていった。








 どれくらいゴブリンを殺しただろうか?

 剣は最初の方で僕の力任せの扱いに耐え切れなくなって折れてしまった。

 それからは素手でゴブリンを殺していた。直接伝わる肉を貫く感触にも最初は吐きそうになったけど、途中からそんな事を感じる事もなくなった。

 何も感じなくなったわけじゃなく、そんな事に気を囚われる暇が無くなっただけだった。

 なんせ魔法が飛んでき始めたからだ。原因はメイジゴブリンだ。1匹の獲物をいつまでも殺せないゴブリンの上位種が前線に出てきてしまったのだ。

 他にもソードゴブリンやタンクゴブリンなんて言ったやつらも出てきたようだ。

 僕はまずソードゴブリンに狙いを定め、一気にそいつの元に向かって駆けて移動した。ヤツは反応出来ず、僕が放った右ストレートで顔が吹き飛んでしまった。そうして、倒したソードゴブリンから剣を奪って、ゴブリンを屠っていった。

 そして今、最後の1匹と思われるメイジゴブリンを殺して周囲の確認をしていた。


 「終わった…かな?流石に疲れたなぁ」


 移動する気も起きなかったので僕は少しだけ巣から離れて休む事にした。


 「なんとか目的達成かな?」


 「どんな目的でここに来たのかなノゾムは?」


 「ひぃっ!」


 僕はここにいるはずのない人物の声が聞こえてつい驚いてしまった。


 「リン?どうしてここが?」


 「そんなのノゾムを追いかけて来たに決まってるじゃない。それより私の質問に答えて!」


 リンは僕を睨んで誤魔化す事を許さない雰囲気を出していた。


 「僕がここで何をしていたか聞きたいんだっけ?それは僕の精神的弱さを無くす為だよ」


 「だからって何で1人で?私に声を掛けてくれてもよかったじゃない」


 「それじゃあ意味が無かったからだよ。これは僕が1人でやらないとダメだったんだよ。そうじゃないとこの先リンと一緒にいれないと思うから。僕はリンの影に隠れて生きていきたくないんだよ。キミの隣で生きていたいんだよ。そうじゃないとリンは僕に一生負い目を感じて生きていく事になると思うから」


 僕は正直に思っていた事をリンに話した。それを聞いたリンは


 「そ、そんな事言われたら怒るに怒れなくなるじゃないのよ…」 


 と、諦めたようにため息をついた。


 「とりあえず帰ろうか?」


 「じゃあ、帰ったら覚悟しておいてね?怒りはしないけど、黙っていなくなった分のお説教は聞いてもらうからね!」


 それを聞いた僕はゴブリンたちを倒し終えた時以上の疲労を覚悟して町に帰るしかなかった。



多分ですが年内最後の更新になるかもしれません。

なので今年最後のご挨拶を

まだ書き始めて1ヶ月ですがお付き合いいただきありがとうございます。

来年も拙い文ではありますがお付き合いいただければ嬉しいです。

それでは皆様よいお年を!

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