中盤~戦線崩壊~
「……は?」
中央ルートからの情報を元に、魔法陣の残存魔力を計算していたら、突然、中央ルートの分裂体が一体消えた。
あまりにも急に思考が途切れた為、理解が追いつかずに間の抜けた声が出てしまった。
そして、次の瞬間にもう一体の分裂体から送られてきた映像は、数体のドラゴンの姿だった。どうやら、先ほど消えた分裂体はドラゴンに食べられたみたいだ。
だけど、それでも疑問に思う事がある。
「ちょっと待って! いくら何でもドラゴン数体の接近を許すほど、魔力の調査に集中する訳ないだろ!」
そう。分裂体が食われるまで、索敵系スキルに反応が無かった事だ。気配察知に熱源察知、さらには魔力察知と揃っているのにも関わらず。
何か原因があるはずだと思った僕は、分裂体に周辺をよく探らせた。
「っ!! いた! こいつは、カクレオンか! だけど、こいつは魔力までは隠せないはず…。いったい…。あれ?」
分裂体がドラゴンの背に魔物がいる事に気が付き、その魔物の正体を突き止めた。
背に乗っていた魔物の名前はカクレオン。地球で言うカメレオンみたいな姿で、体調は2mほどと、人間より少し大きい。
能力は名前の通り、隠れることを得意とする。厄介なのは、地球のカメレオンとは違い、周囲の物と同色になって隠遁するのではなく、風景に溶け込んでしまうというところだ。所謂、透明になれるのだ。
まぁ、厄介ではあるけど、無敵ではない。実体はあるし、攻撃すると透明効果が切れる。気配と熱源の索敵スキルには引っかからなくなるが、魔力察知だけは引っかかる。
だけど、今回は魔力察知にも引っかからなかった。
何故? と思ったところで、ある事に気が付いた。
「ここら一帯。僕の魔力しか感知出来ない?」
そう。何故か、これだけ魔物がいるにも関わらず、分裂体は僕の魔力しか感知出来ていない。
これはどう考えてもおかしい。気配や熱源のスキルには反応があるのに、魔力察知だけ反応が無いなんて…。
「…いや、待てよ? もしかして?」
僕は一つだけ思い至った予想を確かめるべく、分裂体に指示を出す。
それを請け、分裂体はその場から離れる為に、北へと駆け出す。
すると、数㎞ほど北上した所で周囲の魔物たちの魔力を察知出来るようになった。それにより、僕の予想は確信へと変わった。
「まさか、魔法陣の周辺は僕の魔力で埋め尽くされているなんて…」
ドーピングマジックの弊害なのか原因は定かではないけれど、それでも分かっている事は魔法陣の近くでは魔力による探知が出来ないと言う事。これはカクレオン唯一の探知手段が無くなったって事を意味する。しかも、その状況を自分で作ってしまったのだからどうしようもない。
「とにかく、中央ルートだけにカクレオンがいるなんて事はないだろうから、他の場所でも魔法陣からは離れて戦うしかないな」
こうなってくると、媒体となった武器を地中に埋めたのは正解だったな。地上にだった場合は、この状況下でも媒体の防衛に分裂体を割かないといけないところだった訳だし。
「とは言え、本当に放置する訳にはいかないんだよなぁ」
掘り返されて媒体を動かされる方が魔力探知出来ないより遙かにヤバい状況になるしね。
なので、魔法陣の周辺では戦わない。けど、媒体を埋め込んだポイントが目視出来る位置で戦う。
いやぁ唯でさえ、空の魔物の対応に追われているのに、これじゃあジリ貧どころかあと数時間もしない内に戦線が崩壊するな。
「っ!?」
各分裂体に指示をだそうとしたところで、今度は東側にいる分裂体が一体やられた。
東側にいる他の分裂体によると、スペクターなどの強力な魔物が現れてそれにやられたみたいだ。
って!! スペクター!? 死霊系の中じゃ、上位の中でも中位ぐらいじゃないか!?
中央…と、言うより北の転移陣からはドラゴン、東の転移陣からはスペクターを始めとした死霊系の上位種。
こうなってくると、西と南の転移陣からも今までとは比べものにならないレベルの魔物が現れるって事だよな?
確か、西側は昆虫系の魔物がメインだったな? 南側は…どうなんだろう? 南側の魔物って、今のところはゴブリンやオーク、オーガなどの亜人系、オルトロスなどのウルフ系ばかりだったな。それの上位種ってなると…。
僕の思考を肯定するかのように、僕本体の索敵スキルにその魔物が引っかかった。
「…ケルベロス」
本来は上級のダンジョンか魔族が住む島にしかいないとされるウルフ系上位種の魔物の中でもかなり上の方に位置する魔物。普通はこんな所にいるような魔物ではない。
まぁ、それを言ったらスペクターなんかもそうなんだけど。
とにかく、件のケルベロスは一匹ではない。他の場所と同じく数体はいる。
そして索敵スキルには反応がないが、とんでもなくデカいのもこちらに向かっているのが見える。実物を見るのは初めてだけど、多分デイダラボッチだろう。
デイダラボッチとは、一言で言うなら巨人。その大きさは個体にもよるが、平均15mと言われている。今回のはだいたい平均並の大きさで収まっているみたいだ。なので、最初に作った壁を乗り越えられる心配はないかな?
「ちぃっ!!」
一匹のケルベロスが吐き出す炎を避け、接近を試みるも、3つある頭で炎を吐かなかった残り2つの頭が接近を許すまいと火球を連射で吐き出し、僕に接近させる隙を与えてくれない。そこに、他のケルベロスも火球攻撃に加わってきた。それに対して僕は思わず舌打ちをしてしまった。
四方八方から飛んでくる火球を避けながら隙を伺っていたら、よけた火球が後方で爆発した後に何かが崩れる音がした。
その音が気になって視線を向けると、氷の壁の一部が崩れ落ちた音だと知る。
「回避すらさせてくれないってか」
火球を避ければ、氷の壁が壊され他の魔物たちがリンたちの元へと押し寄せる事になる。なれば、この火球は全て受けきらないといけない。
「魔法剣『水千』!!」
剣に水を纏わせ、太刀筋と共に水しぶきを飛ばす魔法剣。剣から飛んだ水はウォーターカッターのように鋭い切れ味を誇る。
イメージとしては、傘についた水を振って飛ばす感じ。
散弾のような攻撃が出来るから、対多数用に重宝している魔法剣である。
迫りくる数多の火球を水千で斬り裂く。斬り裂かれた火球はその場で爆発していくので、斬り漏らした火球はその爆発に巻き込まれ爆発する。
鳴り止まぬ爆発音と視界を奪う爆炎。僕は気配察知でケルベルスたちの位置を確認し、不意打ちに備える。案の定、ケルベルスたちは僕の正面から側面へと移動していた。なので、そちらに向かって魔法の1つでも撃ち込もうとした瞬間、嫌な感じが背中を駆け上がって来たので、慌てて横っ飛びをし、その場から逃げ出した。
ゴオッ!!
次の瞬間、それまで僕が立っていた場所を僕の身長以上の巨大な岩が通り過ぎた。
「なっ!?」
突然の事に驚きはするものの、そのまま呆けそうになる思考を無理やり繋ぎ留め、岩の飛んできた方へと視線を向けると、爆炎が閉じる寸前だったけど、岩を投げ込んだ犯人だけは分かった。
犯人はデイダラボッチだ。まだこちらとの距離は300mほど離れているが、そこから投げてきたようだ。
「…どの索敵スキルにも反応しないんだから、ただの岩の投擲は厄介だな。って!! 氷の壁!!」
岩が落ちてきたじゃなく通り過ぎたって事は、通過した先にある物にぶつからないと止まらない訳で、その先に在るものって言ったら…。
ゴガアアアン!!
岩は氷の壁に突き刺さり止まった。僕は、砕けなかった事に安堵するも、それは早かった。
デイダラボッチによる岩の投擲は一度ではなかったから。次々と飛来する岩に僕はどう対処すべきか一瞬悩んでしまった。
悩んでしまったが故に、僕が守ってきた氷の壁は飛来する岩によって粉砕される事となる。
ありがとうございます。
現在のノゾム君の状態
分裂体 5体生存
ドーピングマジック 残2発?
残魔力6割以下?




