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序盤~本当の意味での開戦~




 足の速いウルフ系の魔物を殲滅してからついに、南側の第二陣となる魔物たちが索敵スキルに引っかかった。編成はゴブリンやコボルトなどの下級魔物が大半だった。上位種の反応は今のところ無いので、向こうの作戦は数便りの蹂躙だと思う。


 「それにしても、さすがゴブリンとコボルト。数が桁違いだ」


 第一陣のウルフたちと比べても、その差は歴然。数えるのが億劫になるほどだ。これだと仕掛けた罠もすぐ使えなくなるだろう。


 「魔力は…最初に使った分は、まだまだ回復していないけど、さっきの第一陣に使った分ぐらいは、回復している…か」


 この後、どれほど消費するか想像できない魔法が控えているだけに、魔力の無駄遣いは避けたいところだけど、そうも言ってられないようだ。


 「絶対、タイミングを見計らっていただろ…」


 そう言うのも、北西側にも第二陣の反応を捉えたからだ。こちらも南側同様にゴブリンやコボルトばかりだ。どうやら、向こうの狙いは数による蹂躙ではなく、挟撃が真の狙いだったみたいだ。

 挟撃は問題じゃない。時間をかければ問題なく対処できる。ただ、その間に敵の第三陣が確実に到着する。そうなれば休む暇なく戦い続ける羽目になる。それだけは避けたい。敵の戦力の底が見えていない今は特に。

 そうなると、とるべき行動は一つしかない。

 範囲魔法で殲滅するしか選択肢が残っていないのだ。魔力の温存とか言っている場合じゃない。


 「そうなると、まずは全体の足を止めるとするか」


 南と北西、両方の第二陣が糸トラップエリアに進入する。案の定、数が多すぎるせいで全体の一割も減らせない内に糸トラップエリア全体が死体で埋まってしまった。

 魔物たちは、死体を踏みつぶしながらも前進を続ける。その速度は多少なりは落ちてはいるが、死体で埋め尽くされているエリアを抜ければ、元の速度に戻るので気休めにもならない。





 「そろそろ大丈夫か。『マッドプール』!!」


 僕は第二陣の先頭が、集落まであと1㎞というぐらいまで接近するのを待って、足止め用の魔法マッドプールを使用した。しかも今回のマッドプールは、深さを10mほどに設定してある。そして、飛び越えられないように、1㎞ほどの幅を持たせてある。それを先頭の魔物の足下、さらに西の壁から南東の壁を繋ぐように出現させる。

 もちろん、いきなり足下が沼となった魔物たちは、脱出する前に沈んでいく。沼の範囲外だった後続も、止まろうにも自分の後ろに押され、次から次へと沼に落ちていく。

 それでも落ちた仲間を足場にして進む魔物にちょっとだけ恐怖を覚えた。

 が、その手段で対岸までの1㎞を渡るのを僕が黙って見ているはずもない。


 「『ブリザード』」


 氷魔法のブリザード。一定範囲内に吹雪を発生させる魔法。もちろんただの吹雪ではない。雪1つ1つに凍結効果があり、触れた所から凍っていくのだ。魔力抵抗が低い者は一瞬で氷のオブジェと化す上に、凍死するまでは意識が残るという、割とエグい魔法である。

 そのブリザードをマッドプールの上を進行中の魔物たちへと放つ。ゴブリンやコボルトに魔力抵抗値が高い奴などいるわけもなく、呆気なく全員が氷のオブジェとなった。


 「あとは、マッドプールを解除してっと…」


 本来、足止め用の魔法であるマッドプールは深さは足首から深くても膝下ぐらいまでしかない。しかし、今回は10mとかなり深くした。この状態で、沼の中に生き物がいる現状、魔法を解除するとどうなるのか?

 答えは、沼が地面に変わるだけ。簡単に言えば、生き埋めだ。ステータスが高ければ脱出出来るだろうけど、ゴブリンやコボルト程度ではどだい無理な話。

 さて、第二陣を炎や雷なので対処しなかったのには理由がある。まぁ、もったいぶるような言い方になったけど、ただの柵代わりにしたかっただけだ。障害物があればそれだけ突破に時間がかかるからね。炎や雷だと原型が残らないので、氷付けにして強度を持たせたのだ。






 「おっ? 4ヶ所目と5ヶ所目も到達したか。残り2ヶ所は…まだまだ時間がかかりそうだな」


 第二陣の事後処理をしていると、分裂体の方にも動きがあった。西ルートと東ルートがそれぞれ次の目的地に到着したのだ。

 現在は、西ルートはその場に留まり、魔物がこちらに流れて行くのを完全ではないにしろ食い止めている。東ルートは、最後の目的地を目指して北上している。

 中央ルートだけど、魔物の数と質がまた一段階上がった為、進行速度がまた落ちてしまっている。この分で行くと、東ルートももう少ししたら進行速度が落ちそうだな。


 「…どの分裂体も結構ダメージを受けているな」


 ステータスの数値的には、1対1であれば下位のドラゴン種であっても、問題なく対処出来るぐらいなのだけど、やっぱり数の暴力には抗えない。

 ただのゴブリン程度なら、いくらいても問題ないけど、ゴブリンの上位種やそれと同レベルの魔物では、流石にノーダメージではいられない。

 そして、傷を負えば動きは鈍る。動きが鈍れば更に傷を負う。あとは、負の連鎖の如く傷を増やすだけ。


 「せめて、あと残り2ヶ所に辿り着くまでは、もってもらわないと…」


 とは言っても、こちらもこの場を突破されるわけにはいかないんだけどね。


 そう思いながら、たった今新たに察知した反応の方角を睨みつける。

 多分、今度の第三陣は本隊だろう。本隊と言っても、ここから近い転移陣から転移してきた魔物の中ではってのが付くけど。

 その証拠に先頭はオークやトロールといった中位の魔物ばかりだけど、ちらほら上位に入るハイオーガやケルベロスなんかが混じっている。これは後ろの方は上位ばかりだと思った方がいいかな?


 「兎に角、僕自身が前に出ないと」


 氷のオブジェによる壁を背にする形で第三陣と対峙する準備をする。


 氷のオブジェを背にするのには理由がある。

 僕自身が白兵戦をすれば、確実に大半は集落を抜けることが出来てしまう。こればっかりは1人しかいないのだから仕方がない。だから、そうならないように、最終防衛ラインをこの氷のオブジェにするのだ。

 もちろん、このままだと駄目なので、簡単に突破されないように強化を施す。そうすることで、破壊に時間をかけさせる。


 「そろそろ射程圏内だ。喰らえ『ラビリンス』『スピリット・ミラージュ』」


 十分接近してきた第三陣に向けて、僕は魔法を放つ。


 魔物に放ったラビリンスとは、迷路を作る魔法ではなく、方向感覚を狂わせる魔法だ。属性は闇。

 これにより、真っ直ぐこちらを目指していた魔物たちはそれぞれが四方八方に散り始めた。さらに幻覚を見せるスピリット・ミラージュによって、同士討ちを誘う。


 「流石に抵抗値が高い魔物が多い。思ったよりも混乱が少ないな」


 一応、魔法の範囲はかなりの広範囲へと広げて放ったが、効果が出たのはオークなどの中位クラスまでで、ハイオーガなどの上位クラスの魔物にはほどんど効果が見られなかった。範囲内の魔物全てに効果があればもっと楽になったんだけどなぁ。

 愚痴っていても事態は好転しないので、内心でほどほどに愚痴を零しながらも白兵戦の準備を始める。アイテムボックスから剣を取り出す。現在使用している剣は、以前苦労して倒した、グラドドラゴンの牙から造った剣だ。

 ちなみに、リンたちの武器もこのグラドドラゴンを素材とした武器に変わっていたりする。


 「それじゃあ、いっちょやりますか」


 僕は、あえて声に出す事で気合を入れ、同士討ちで混乱している戦場へと駆け出す。

ありがとうございます。

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