序盤~孤独なる開戦~
「ひとまず2ヶ所か…」
僕が呟いた2ヶ所とは、魔物の侵攻が始まった時点で、目標地点に着いた分裂体の数だ。
もう少し時間があれば、3ヶ所は行けたんだけどな。これからは、魔物を相手にしながら目標地点を目指さないといけなくなる。それまで、ここを突破されないと分裂体が破壊されないで時間を稼がないといけない。
「まぁ、そうは言っても、ここに来るのは日の出ぐらいまでかかるだろうけど…」
いくら一般人だと歩いて3~4日かかる距離しかないとは言え、魔物だって走り通せるほど体力がある訳じゃない。そんなのが出来るのはAランク以上の魔物ぐらいからだ。だから敵がそんなのしか用意してないのであれば、こちらの敗北は必至だっただろう。
しかし、最初に分裂体が察知した魔物にはゴブリンやウルフと言った下級魔物ばかりだった。この後や、既に魔物で埋め尽くされているであろう北や東側はどうだか分からないけど、今のところは数による物量作戦みたいなので、まだこちらにも勝機はある。
「チッ! やっぱり、島の北半分は既に魔物で埋め尽くしていたか。…それに、こっちもそろそろ準備が必要だな」
夜が明けそうになった頃になってようやく分裂体が目標地点3ヶ所目に到着したが、そこは既に魔物で一杯だった。そして、本体である僕の索敵スキルにもついに魔物を捉え始めた。
「やっぱり第一陣は、足の速いウルフ系か…」
まだ目視出来る距離までは来ていないが、過去に遭遇した事のある気配ばかりなので、その気配の魔物を記憶の底から引っ張り出す。
ん~。…ウルフにハイウルフが大半だけど、中にはオルトロスもチラホラといるな。あとアンデット系のウルフもいるみたいだ。
ちなみに、オルトロスとは簡単に説明すると双頭の犬。大きさはライオンぐらいで、強さは中の中から中の上ぐらい。
まぁ、サイクロプスやワイバーンなんかと比べると格下だけどね。
「よくもまぁ、こんなに集めたもんだよ。いったいどこから集めたんだか…。下手したら大陸中の魔物を引っ張ってきているんじゃないか?」
魔物の出所について考えていると、分裂体の方が魔物との戦闘を開始したようだ。戦い始めた分裂体は今のところは単独行動をしている個体はいないのでそこまで不安はないかな? 向こうの魔物はゴブリンなどの数を武器とする奴らが先陣にいるみたいで、分裂体はそいつらと戦っている。中にはゴブリンナイトなどの上位種もちらほら混じってるみたい。この分だと、コブリンキングがいてもおかしくない感じたな。
「さぁて、頑張るとしますか」
分裂体の方の情報を確認している間に、ウルフたちは目視できる距離まで迫ってきていた。
「…先行部隊は、1000匹ぐらいかな?」
南側の壁伝いにこちらに向かってくるウルフたち。北西側からはまだ反応が無いので、もう暫く放置で問題ないかな?
こちらに迫っている南側のウルフたちが集落まであと10㎞ぐらいと言う所で突然倒れ始めた。
「ちゃんと効果が出たようで良かった」
僕はウルフたちが倒れたのを確認して一息付く。
ウルフたちが突然倒れたのは、もちろん僕が仕掛けた罠にかかったからだ。仕掛けた罠は、糸生成スキルで鋭利で強度のある糸を作り、ウルフたちが倒れ始めた辺り一帯に張り巡らせだけ。それも地面スレスレに。
目的はウルフたちに糸を踏んでもらうこと。そうする事で踏んだ時、地面を蹴る時のどちらかで足の裏を切る。
そして、転倒。先頭が転けた事で、先頭は敵から後続の障害物に早変わり。転けた魔物は、後続に踏まれまくって命を落とす。後続は転けた仲間に足を引っかけ転倒、そして自分より後ろを走っている仲間たちに踏まれ、絶命する。
何も馬鹿正直に全ての魔物と戦う必要は無いからね。まだまだ先は長いんだから、少しでも楽して数を減らさないとね。
「…頃合いだな。『サンダーシャワー』!」
転けた魔物によって、後続の移動速度が目に見えて落ちたのを見計らって何度か魔法を叩き込み、生き残りを殲滅する。
「とりあえず、先陣は潰せたかな?」
索敵スキルに反応が無いのを確認し一息付く。そして、北西側からはまだ来なさそうなので、今の内に、ウルフたちの死体を処理し、新しく糸を張り直す。
この作戦も使えて次が最後かな? 多分、次からは張り直すような暇がないぐらいの魔物が押し寄せてくるだろうし。もしくは、飛行型の魔物によって罠として機能しないのどちらかたろう。
そうこうしている内に、北西側に反応が出た。こちらもウルフたちの群だったので、先ほどと同じ手順で殲滅する。
そうして北西側の罠を仕掛け直した僕は次の波が来るまでの僅かな時間を休息と分裂体の状況確認にあてる。
分裂体は現在、3つに別れてそれぞれの目的地に向かっている。それぞれのルートは島の西側を北上する組、島の中央を通りそこから北上する組、そして、島の南を経由し東側へと行きそこから北上する組だ。
だけど、その3つとも魔物との戦闘が始まっているので、進行速度が落ちている。特に酷いのが、中央組。先陣がゴブリンだったけど、現在はゴブリンナイトやジェネラルなどの上位種ばかりに変わっている。
「早いところ、他の分裂体も向かわせたいけど…」
そうは問屋がおろさないと言う感じで、残り2ヶ所も中央ほどではないにしろ、そこそこ面倒な種類の魔物と戦闘している。西側は現在昆虫系、東側はアンデット系と、それぞれ先陣を突破した辺りから出始めた魔物だ。
面倒な理由は主に昆虫系はゴブリン以上の数に、アンデット系は物理攻撃が効かないのがいたりするだったりする。
「このペースでいくと、西はあと3時間ほど、東が4時間から5時間。中央は…予想できないな」
これは少し予想外だ。特に中央の魔物の質の高さは。上位種や高位の魔物もいるのは、ワイバーンの件から予想は出来ていたけど、それでも全体の1割ぐらいが良いところだと思っていた。
しかし、今の中央を見る限り、下手をすると全体の3割ぐらいはいるかもしれない…。だけど、
「それよりも問題は、空だよなぁ…」
僕は曇りのない空を見上げながら呟く。空を飛ぶ魔物が今のところ見えないが、この先絶対出てくるはずだ。これだけ多種多様な魔物を揃えていて、翼を持つ魔物がいないって事はまず有り得ない。それにワイバーンもいるし事だしな。…それにしても空はどう対処しようか。
実は、空に対する対策は全く出来ていなかった。理由は、高さに制限がない、障害物がない事の2つが大きい。そのせいで罠を仕掛ける事も出来ない。いっその事、空は無視しようかなぁ…。
——ノゾムーーーーー!!
いや、空の魔物も目に付いたものは全て撃ち落とす。そうじゃなければ、何の為に1人になったのか分からなくなる。
別れ際のリンの叫び声が妥協しそうになっていた僕の心に活を入れる。
————お前は、いつもそうやって自分1人でなんでも決める上に、全部を1人で背負い込むよな。
————まぁ、お前がそう決めたって言うのなら、俺は何も言わないけどな。
————けどな…いや、何でもねぇ。
…今のは? …確か、最後までの1人になるまで僕の親友でいてくれたアイツの言葉?
心に活が入ったが入った瞬間、唐突に元親友から言われた事が頭を過る。何で今、アイツの言葉を思い出した?
「っと、今はそんな事を考えている暇はないか」
何故、アイツの言葉を思い出したのかを考えようとしたところで、魔物の第二陣が索敵スキルに引っかかった。なので問題を先送りして、思考を戦闘思考にシフトする。
さて、第二回戦の始まりだ!
ありがとうございます。




