決別
遅れました!
「あり得ない!! 助けてもらう側がそんな風に脅してくるなんておかしいわよ!!」
リンの怒りが爆発した。理由はもちろん、さっきガルムさんとした会話の内容についてだ。
「しかも、セシリアを抱え込もうとしているのも気に入らないな」
サキも怒っている。ただリンみたく爆発はしていないけど、眉毛がかなり吊り上がっている為にその怒りはかなりのものだろう。
「みんなの怒りは分かるけど、今はそんなのに時間を割いている暇はないよ」
「確かに。ぐずぐずしていたら、主様とリンが魔法陣を破壊しに行く事も出来なくなってしまうわね」
イリスさんが僕の言葉に同調してくれる。
ちなみに、魔法陣破壊計画はガルムさんとの会話と一緒にみんなに話してある。
「セシリアはどうしたい? 多分、ガルムさんの集落に行けば、今度こそ始祖の生まれ変わりとして囲われ、自由の無い生活を一生送る羽目になると思うけど?」
まずは、当事者であるセシリアの意見を聞いてみる。
「私は、あの、人たちが怖いで…す」
「怖い?」
「あの人…たちは、私じゃ、ない人を私に押し付け、てくるか…ら。そして、その人に依存…しているから。だか、ら怖いです」
セシリアはセシリアであって始祖ではない。例え、始祖の生まれ変わりが確かであっても、今を生きているのは始祖ではなくセシリアだ。
だけど、ガルムさんたちは、セシリアの事を決して、『始祖様の生まれ変わり』とは言わず、『始祖様』と呼ぶ。それは、セシリアから見れば自分を否定されているのと同義だろうしね。
「じゃあ、セシリアはガルムさんたちが怖いからって見捨てるの?」
「っ!!」
自分でも卑怯な言い方だとは思うけど、セシリアにはもう少し考えてほしいのでこんな言葉を選んだ。
「確かに赤の他人を押し付けられた上に、崇拝されるのは怖いと感じるかもね。だけど、だからってその人たち全てを無条件で切り捨ていいわけじゃない。中には、良い人もいるかもしれない。
だから、セシリアがしなくちゃいけない事は、周りが押し付けてくるそいつと自分は別人なんだって言葉にする事。そうした理解される為の努力をした上で、相手が判ってくれないなら、その時は切り捨てればいい」
「………」
人見知りのセシリアに酷な事を言っているのは承知だ。だけど、セシリアの為にも自分の意志をハッキリ伝えられるようになってもらいたい。その為には、今回の件は良い機会だと、僕は考えている。
「少しだけ時間をあげるよ。今の状況じゃ、そんなに長くはあげられないけど…」
「……はい」
セシリアは絞り出すように返事だけはしてくれた。しかし、目に見えて落ち込んでいるのが判る。なぜなら、頭の上の耳は垂れ下がっているし、尻尾もしょんぼりしている。
「リン、アイラさん。ちょっとセシリアの事お願い。僕は向こうの様子を見てくるから」
「セシリアは任せて」
「気を付けてね」
2人にお願いしたのにはちゃんとした理由がある。
リンはセシリアとの付き合いがこの中では一番長い分、他の仲間よりも踏み込んで話を聞く事が出来るだろう。
アイラさんはその長く生k…ん、んん゛。…経験を生かして、この場を上手く纏めてもらおうと思ったんだ。途中でアイラさんから殺気を感じたけど、この場を任せられる…はずだ。
セシリアにあげた考える時間を有効活用する為に、こっそりとガルムさんたちの様子を見に来た。ぶっちゃけ、彼らが僕たちの返事待ちの間に何をしているのか気になったのだ。まぁ、予想は『始祖様が助けてくれるから~』とか言って、何もしていないなんだけどね。…予想が外れてくれるといいんだけど。
スキルを頼りに気配を消し、集落の様子を覗き見る。すると、目を疑いたくなるような状況が目に入ってきた。
それは…
「おい! 料理はまだまだ必要だぞ! 何? 人数が足りない? 事後処理をしている所から人数を割くしかないな。誰か! 麓まで行って、何人か連れてこい!」
「おう!!」
ガルムさんの命令で1人の獣人が走っていく。それを見送ったガルムさんは自身の作業へと戻ってしまった。
その光景をかげながら見ていた僕は言葉を失い、そして、この場を後にする。
予想を遥かに上回る状況に僕は落胆を通り越して、ガルムさんたちに対する興味が失せてしまった。僕の中では、帝国だろうが魔物だろうがどうぞ勝手に襲ってくださいって感じになってしまった。
それもそうだろう。この魔物が襲ってくるかもしれない状況でセシリアの歓迎会をしようとしているのだから。多分、彼らの中では、セシリアが自分たちを助けてくれる事を疑っていないのだろう。
「ノゾム君、おかえり。あっちはどうだった?」
みんなの所に戻ると、サキが出迎えてくれた。
「…ひとまずは、セシリアが答えを出すまではナイショかな?」
「…そう」
僕の雰囲気に何か察したサキは、はぐらかした僕に追及をしてこなかった。
「ノゾム様。セシリアさんが呼んでいます」
ガルムさんの所から戻ってどれくらい経っただろう? 獣人たちの事は放置し、僕自身はとある事に挑戦していた。そんな中、ようやくルージュが僕を呼びに来たので試していた事を中断して、セシリアの所へと向かう。
「分かったよ。それでルージュから見て、セシリアはどう?」
「かなり悩んでいました。それにしてもノゾム様も鬼ですね。普通、こんな切羽詰まった状況で、突きつける問題じゃありませんよ?」
「僕的には、こんな状況だからこそ、突きつけるべき問題だと思うんだよね」
「どうしてですか? 普通に考えれば、もっと精神的にゆとりがある状況で考えないと、まともな答えなんて出せませんよ?」
ルージュの言う事は正論のようで、僕からしたら綺麗事にしか聞こえない。
「自分の本心ってのは、極限の状態でこそ自覚できるモノだと思うんだ。精神的にゆとりがある状態では、保身や楽な考えと言うのが邪魔して、自分の本心なんて言うのは自覚できないんだ」
まぁ、中にはそんな状態でも自分の本心をはっきりと出せる人もいる。ただ、セシリアはこのタイプではないので、今の状況を利用して自分の心と向き合ってもらっているのだ。それこそ、魔物の侵攻が始まったとしても、だ。
もちろん、そうなった時の為に、防衛の準備をさっきまでの間に整えようと思っていた。
しかし、獣人たちの考え方に愛想尽きたので、侵攻が始まったとしてもセシリアが答えを出さない以上、僕たちは動く気はなかった。
「そう言うものですか?」
「ルージュもそのうち分かると思うよ?」
王族だしね、と言う言葉は口にしなかったけど、心の中では付け足した。
「…ノゾム、様」
「答えは出たのかな?」
セシリアの元に到着した僕は、まだ不安そうにしている彼女を安心させるように努めながら声をかける。
「はい」
「聞いてもいいかな?」
僕の問いにしっかりと返事をするセシリア。そして彼女が出した答えは…
「私は、同族と共に…この危機、を乗り切りたい、です!」
「獣人たちは、セシリア…いや、始祖に頼る気満々だよ? 現に今だって、戦いの準備などせず、歓迎会の準備をしているぐらいだよ? そんなヤツらなんて切り捨てても問題ないよ?」
「もち、ろん共に戦うよ、うに説得しま…す!」
「それは始祖としての幻影を利用するのかな? それなら、アイツらも共に戦うかもね」
彼女を試す為に、あえて思ってもいない事を口にする。
「私は…私として彼、らに頼みます!」
「だけど、アイツらはそう見ないよ? それでもセシリアは、セシリアとして話すのかな?」
「はい!」
いつも通りのつっかえながらの言葉だけど、瞳に迷いはない。どうやら、本当に答えを出せたみたいだね。
「そっか。それがセシリアの出した答え何だね」
「はい。ノゾ、ム様に買っていただ…いてから、今日まで色々な人た、ちと出会いまし、た。その中には、最初は怖くても話し…てみると優しい人、たちも沢山、いました。
種族の違う…私にでも優しくしてく、れる人たちがいるのに、私が怖いか、らと言う理由で、同族を拒、絶したら、今まで私に優しくして、くれた人たちに顔向けで…きないと思ったんで、す!!」
セシリアが答えを出せたのは、今日までの出会いがあったからなんだね。人間は、環境次第でいくらでも変わると言うけれど、セシリアがいい方向に変われた事を、僕自身とても喜ばしく感じるよ。
「なら、早速獣人たちと話をしないといけないね。アイラさん、今は何時ぐらいですか?」
待っている間は、自分の事に集中していたので時間が分からないんだよね。
「あと1時間もしないで、侵攻が始まるわよ」
今から転移陣を破壊しに行くのは無理か。仕方がないか。代わりにセシリアが大きく成長したのだから。
「セシリア。獣人たちの説得は任せるよ。失敗したら、僕たちは獣人たちを見捨てるから」
「大丈夫、です! その時は、私もこの島に…いる同族は見捨て、ます! 共に戦ってくれない同族の為に、同族たち…よりも大切な仲間、たちを危険に晒した…くないです!」
セシリアの言葉にリンたちは笑顔になる。同族よりも大切な仲間と言う言葉が嬉しかったようだ。
「じゃあ、行こうか」
「はい!!」
元気よく返事しながら僕の後ろにつくセシリアをしり目に僕は、4度目となる獣人たちの集落へと向かう。
ありがとうございます!
来週は遅刻しないよう頑張ります