ミッション5「連合王国は誇り高かった」
お待たせしました。
ギヨームは行儀が悪いとは思いつつも、煙草に火を点けた。
「あ、窓開けておきますよ」
「…ギヨームさんよ…俺様にもそれ一本くれ」
さりげなく非喫煙者を気遣うスヨーヴィンを一瞥して、
額に手を当てながらウィンダリアウスもギヨームから貰った煙草に火を点けた。
「ふぅー……どうにも俺様たちの国の周りは騒がしくってしょうがねーや
…っていうかこれ、煙管より吸いやすいな」
「陛下…」
「わーってるよ」
何か真顔なクラップフェンが差し出してくる灰皿に名残惜しそうに
煙草を捻り潰して消すウィンダリアウス。
「で、戦場は?」
「フラヌベルガー西海岸線領土を中心とした…海戦です!」
「やれやれ…(クラップフェン)」
「どうしようもありませんな(ゾンゲル)」
「太陽王国って戦いのセンスだけは酷いですよね…(シュリール)」
「所詮、理屈と虚栄だけの富裕層…(シオン)」
「どう考えても間抜けよねぇ…(マウナ)」
「まぁ、得手不得手は誰にでもあるものです(スヨーヴィン)」
大きくため息をつくアウグストゥス七騎士たち。
「たいちょー? ボクには何のことやら…」
「ノースジャックはお前が最初に来た場所だろうからわかるが、あそこは海洋国家だ。
対して基本は陸戦のフラヌベルガーは初っ端からアウェーだ」
「あ、それはダメダメですね」
ギヨームは吸い終わった煙草を灰皿へ落とした。
「潜入させているスパイたちの情報が正しければ、戦場の兵力差に関しては
数だけはフラヌベルガーが6:4で優勢だ。が、あの国には
巨大軍艦とワイバーン騎士で構成された海戦特化の部隊が居るんだよなー」
「仮にそれを海戦に慣れないフラヌベルガーが数で押し切ったとしても、
後方には主力の海龍騎士たち…『サーペントジャック騎士団』…
そしてノースジャックのシンボルともいえる
森界術師の遠隔戦略魔法師団がおよそ10師団待っている」
下級とはいえ人間の十数倍強いドラゴンを駆る連中の集団がいる
ノースジャック相手ではどう見てもギヨームのようなイレギュラー無しでは勝てない。
「統一帝国の公爵家のプライドなんて捨てちまえばいーのによ」
「それが出来ぬから太陽王国などと名乗っておるのです」
「ま、何にせよ日和見してた方が良いな」
………。
……。
…。
そして再び会議室へ集合するギヨーム達は、報告書を前に頬を掻いた。
「あっさり負けて海岸線分捕られてどうすんだよ太陽王国…」
「絶対王政の、暗黒面が露出した結果」
「ところで、シオンはどうして毎回俺の隣なの?」
「監視」
「監視対象に接触してたらもうそれ監視じゃなくね?…」
ギヨームは別な報告書に目を通す。
「そういえばすっかり忘れてたが、アウグストゥス以外の大国は
どこもかしこも植民地持ってるんだな」
「国力が大きくなれば、自然とそーなるわな」
「植民地と言えば、フラヌベルガー船籍の船が
最近大量に南海岸から行き来しているとの報告も上がってますな」
「大方戦争での負け分を取り戻そうと躍起になってんだろーな?」
「多分やってる」
「でしょうねぇ」
「アーブリクファ大陸の亜神族の神殿荒らしとかも
やっているのでしょうね…未知なる亜神族の魔道具とか…むむむ…許せない…!」
「陛下、もしその推論通りの行動であれば、当分フラヌベルガーは
国際的には馬鹿な事をしない可能性が高まりそうですぞ」
軽く背を伸ばすウィンダリアウス。
「んじゃー俺らがやることも大体決まってくるなー…
…ってことでギヨーム。ちょっとアンタに頼みたいことがあるんだよ」
「俺に? 正直俺は内政云々はからっきしだぞ?」
「なーに、大したことじゃないんだわ…まぁアンタ一応食客扱いだから
あんまりこういう扱いしたくないんだが…如何せん俺様達の国は
万年人材不足なもんでねー…」
「猫の手でも借りたいってか」
「悪いなー」
………。
……。
…。
ギヨームとアルク+何故かついて来たドゥルーシの帝女姉妹たちは
船に揺られていた。
「うぐ…こ、このような場所で…誇りあるドゥルーシの姫が…」
「船酔いは体質だけじゃなく、慣れも必要ですからね。
たいちょー? 酔い止めとかあります?」
「ジアゼパムしか無いな、大人しくしてるしかないだろう」
「だ、そうですよユーリ。大変でしょうけど、大人しく横になってましょう」
「ぐぐぐ…何故ジルは平然と昼寝できてわらわがこのような目に…」
「むにゃ…んふふ~…もう食べられませんよ~」
「おのれぇ…わらわの目の前で目障りなモノを揺らしおってぇ…!
いつか絶対に引き千切っ…うっ…!?」
真っ青な顔をしたユーリがどう見ても大噴射手前の表情になる。
「俺外に出てるから介抱よろしくなアルク」
「お任せください! たいちょー!」
………。
……。
…。
船の汽笛を背景に、ギヨーム達は港に降り立った。
「……船旅なんて大嫌いじゃ」
「大変だね~ユーリちゃん~」
「さあさあユーリ。ボクの肩を貸しますから歩きましょう」
「ここが、ノースジャックか」
ギヨームは辺りを見回す。道を行き交うのは人と妖精と思わしき者達。
「ノースジャック。その昔伝説の勇者に協力したという
妖精の三部族が開祖と言われる国で、厳密にはイーグニウス炎王国、
スラッシュロード剣王国、ウィンドルール風王国の三国分立による
連合王国だそうです。主要構成種族は人間、妖精族、
獣人、小鬼だそうです。
少数種族は鍛冶職人として蛇人ですね。
参照させていただいた資料からの抜粋ですが」
いつものようにいきなりギヨーム達の前に現れるトリス。
今回は何故かクミンも同時に現れた。
「ゴブリンなんてどこにも居なかったんだが」
「此の惑星。小鬼小柄だが全て粒揃い美男美女。妖精との区別困難」
「マジか、妖精たちはどうやってゴブリンと仲間を見分けてるんだろ」
「……羽じゃ」
未だ青ざめた表情のままのユーリがアルクに連れられながら近寄ってくる。
「羽?」
「妖精たちは感情が高ぶると背中から魔力の塊の羽を出す…
この間シュリを驚かせてしまったときに知ったことじゃが…」
「へぇ…あれ? ってことはシュリールは妖精なのか?」
「ボクが聞いた話だとハーフらしいですよ」
ちなみにそれを後日シュリールに聞いてみたとき真っ赤な顔で怒られるのだが、
それはまた別の話だ。
…。
ノースジャック城は古の時代に森界術師たちが大樹に魔法をかけ続けて
世界樹と見まがうほどの大きさに成長させたものを
内部からくり抜いていくように加工して作られた城だそうだ。
「森の濃い香りがぷんぷんしますね。たいちょー」
「ああ、これは喫煙者の俺でもわかるよ」
「船酔いにも効いている気がするのぅ」
「何だか眠くなってきますね~」
ギヨームは事前にアウグストゥス王国から持たされた親書を見つめる。
「すんなり通してくれれば良いんだが…」
「たいちょー。ウィンダルさんは前もってお手紙出してたらしいですよ?」
「とはいえ、門番の兵士の能面みたいな表情がのぅ…」
「いつ瞬きしてるんでしょうかね~」
どちらかと言えばメルヒェンチックな風貌の門番たちは
まるで石像なのかと言いたくなるくらい無表情で微動だにしない。
「えーと…あのー…事前に通達してたアウグストゥスの者ですが…」
久しぶりに社会人に良くある初対面には低頭姿勢で門番に尋ねるギヨーム。
「何用か」
対して全く抑揚を感じさせない声で此方を見やる門番。
身長は妖精なのでギヨームより低いのだが妙な威圧感を感じるので
ギヨームは早くもニコチンの力を借りたくて仕方なくなった。
「これ、アウグストゥス国王からノースジャック国王陛下への親書なんですけど」
丁寧に封をされた親書の印がちゃんと見えるように門番に渡す。
「………」
「………」
きっちり五分後。
「………こちらへ」
「………っぬはぁ…!」
「何で息止めてたんですか、たいちょー?」
「…お主もジルもそういうところは似た者同士なのじゃな」
「「?」」
揃って首を傾げるアルクとジルベル。
外観とは打って変わって、ここは本当に大樹の中なのかと思いたくなるくらい
「ザ・お城」な内装に軽く眩暈を覚えるギヨーム。
「喫煙所があったら迷わず行きたい」
「ノースジャックの王様たちと謁見を終わらせたらですよ。たいちょー」
「とはいえ…噂ではノースジャックの謁見の間は
三国の面子云々の為に三方からそれぞれの三国王に睥睨されるようになる
構造だと聞くぞ? ギヨームよ。お主大丈夫なのかぇ?」
「先に喫煙所的な場所探してきてもいい?」
「嫌な事は先に済ませた方が良いですよ、たいちょー」
「可愛い妖精さんが一杯いますね~」
この時ばかりはジルベルがある意味羨ましい性格だと思うギヨームだった。
…。
円状の広間に立つギヨーム達の前にそれぞれの国の垂れ幕が下がった入口から
驚いたことに宙に浮く玉座に乗って三人の王が現れる。
「イーグニウス炎女王陛下、スラッシュロード剣王陛下、ウィンドルール風王陛下!
三国王陛下の御成りである!」
宙に浮いているがゆえに円状の広間の、というかギヨーム達の頭上で
その周りをグルグルと回ってこちらを見下ろしてくる。追っていると目が回りそうだ。
「…ギヨーム…! 頭を垂れるのじゃ…!」
「あ、やべ…」
ユーリに促されるまま少しあわてて彼女たち(アルクは知っていたようだ)と
同じような姿勢で床に膝をついて頭を下げた。
何だか首の後ろがチリチリしてるような気がしたが、気にしないよう努めた。
「……親書を我が従者に」
頭下げたままでどの国王の従者に渡せばいいんだろうかと思っていたら、
足が見えたので、その足の人物に渡せばいいのかと思って親書を差し出すギヨーム。
「………」
その状態のままで十数分待たされて地味に首が痛くなってきたので
痛覚遮断機構のレベルを1まで解除しようかなと
ギヨームが首をプルプル震わせていたら、
「面を上げよ」
と言われたので顔を上げるギヨーム達。
目の前には相変らず少し上でこちらの周りをクルクル回りながら
宙に浮いた玉座に座る三人がこちらを見下ろしている。
とりあえず一番若くて綺麗な女の子がイーグニウス炎女王陛下だという事は
他の二王がまず人間の姿じゃないって時点でわかった。
「………アウグストゥス王の言いたいことは理解した。
我らとて馬鹿な遠征などは考えていない。
それがフラヌベルガーと我々の大きな違いの一つだ」
「じゃあ…あ、いや……それでは…」
「しかし我らは貴国との交流も望まぬ」
「……そ、そうですか…」
まぁ戦争が終わっていきなり他の国と同盟とかするのはアウグストゥスとドゥルーシ
でさえ本来はありえない事だし、この返事も当然と言えば当然だった。
…。
ただノースジャックもギヨーム達を手ぶらで返すほど薄情でもなかった。
時間も丁度午後だったのでノースジャックのアフタヌーンティでおもてなしされたのは
交流拒否の徒労感を和らげてくれた。
「どうせならノースジャックの料理とかも食べてみたかったんだが」
「やめておくのじゃな。わらわの国の食事も栄養重視で少々味気ないが、
ノースジャックの国の料理はもっとドギツイそうじゃぞ?」
「ここの料理を口にしたとき、どうしてボクは
たいちょーと同じアウグストゥスに飛ばされなかったのかと心の底から思いました。
ハギスとかスターゲイザーパイとか、何処のクトゥルフ神話だってレベルですよ」
「…暴言が過ぎるとは思うが…本当に苦労したんだな、アルク」
「ということで慰めてください。たいちょー♪」
ギヨームの腕に両腕を絡めてくるアルク。
ゲーム時代だったら情け無用の連続ヘッドショットものだったが、
今のアルクは外見を偽っていないので許すことにした。
~オッサン(自分がそうなのだとは認めたくないが)趣味の女子と言うのは
大人になってからその有難味を痛感するものなのだ~
何を馬鹿な事を考えてるんだ俺はと心の中で呟いて咥え煙草をするギヨーム。
「うぐ…また、港町へ行かねばならぬのか…」
「楽しい船旅をもう一回ですね~」
「今から行けば夕暮れ時には港町ですね。たいちょー」
「そうだな」
何とも和気藹々(?)な雰囲気で城下町を発って数分後、
ギヨーム達の目の前に馬鹿でかいスライムが数体出現した。
「面倒くさいから無視で」
「でも無視したらスライムたちが街に行くんじゃないですか。たいちょー」
「流石に使者であるわらわ達が帰った後にこのスライムどもが来襲となったら、
あのお堅いノースジャックの事じゃ、どんな因縁を吹っかけられるかわからんぞ」
「あらら~? 私たちを食べても多分美味しくは無いですよ~?」
「…魔物のせいで地球よりも国際関係メンドくせぇ…」
ギヨームは渋々アイテムストレージから愛用のショットガンを取り出す。
「アイスビーム系のエレメンタルアーツとか…グレネードの冷凍弾とか、
持ってりゃ良かったな」
「たいちょー。ボク、持ってますよ?」
アルクはエクストラ武器「88mmロングレンジキャノン『アハトアハト』+19」を
見せつけるように構えてドヤ顔していた。
「……冷凍ナパームブラスター弾頭か?」
「にひひ♪」
果てしなく期待した表情でこちらを上目遣いに見つめてきやがるので、
気乗りしなかったが、ギヨームはアルクの頭をナデナデしてやった。
最後はガシガシとちょっと乱暴にしてやったが、逆効果だった。
「ッシャア! 掛かってこいやぁ腐れ○○○の糞ゲル共がぁ!」
声そのもの野太いオッサン声に偽装してた昔と違って可愛いんだが、
凄く懐かしいゲーム時代を思わせるような気迫を発しながらアルクは叫んだ。
何というか、リアルのアルクは実は元ヤンとかだったりするのだろうかと
ギヨームは思っていたら、シュコン…と軽い音を立ててから
アルクの『アハトアハト』が火を噴いた。
捉え切れない速度で飛ぶ弾頭は、スライムの上空に上がったかと思うと
大爆発を起こして夥しい数の冷凍ビームを撒き散らした。
「げっ! やべ! 対波動シールド展開!」
ギヨームは慌ててユーリ達の前に立って紫色のエネルギーシールドを展開させた。
あと少し遅かったら冷凍ビームは弾かれることなくユーリとジルベルを
あのスライムたちのようにアイスキャンディーと化していただろう。
「たいちょー! 遠慮なくぶっ壊しちゃってください!」
「ああ、任せろ…ただ次からは”撃ちます”とか一言頼むな」
「さーいえっさー♪」
ギヨームがスライムをショットガンでかき氷にするのは十分も掛からなかった。
「さて…帰ろうk――」
ギヨームが肩をコキコキ鳴らしながら歩き出そうとしたその時、
トリスから体内通信が入る。
「(普通に降りてこいよ)」
「(しかしながらついつい追跡をしてしまったもので)」
「(何にだよ)」
「(もうすぐ接敵します)」
「(え?)」
ギヨームはトリスから送信されてきたMAPデータを見る。
するとギヨーム達の後方、
すなわちノースジャック王国の門から扉を突き破り、ノースジャックでは
あまりお目にかからないドゥルーシ製のアースリザードの馬車…
いやこの場合は蜥蜴車が此方に向かってくる。
「…ユーリ…?」
「知らんぞ。大体あの程度の蜥蜴車はもう型落ちしてて帝国ではもう走っておらんわ」
蜥蜴車のアースリザードがギヨームに気付いて急ブレーキをかける。
表情は流石にわからないが、瞬きを繰り返しているので怯えているようだ。
「何だってんだぁ!? 蜥蜴が止まりやがったぞ?!」
「時間稼ぎのジャイアントスライムも何処で道草食ってんだよ!
さっきから予定外のことだらけじゃねえか!」
等と口論しながら全身真っ赤の衣装を身にまとった男たちが数人出てくる。
「トリス。スキャンよろしく」
「服の下に来ている鎧にフラヌベルガーの紋章が有りますね。
ついでに先ほどの女王様もそこの蜥蜴車の中に居ますよ」
「超キナ臭いですね。たいちょー」
ギヨームは頭を掻き毟りながら、蜥蜴車から出てきた男たちを
とりあえず行動不能にするため愛用のリボルバーで撃ち倒しまくった。
「ふべ?!」
「うどぅや?!」
「ギョオェェ?!」
赤装束の男たちは昭和のシューティングゲームの雑魚キャラ宜しく、
コミカルに地面に転がった。その後「よ~しよしよし♪」と
アースリザードたちをあやすように支配していくアルクを一瞥した後、
車の中を改めてみれば謁見の間で目を合わせないように
気を付けながらチラ見したノースジャックの女王陛下が、
見るからに強力そうな魔導の拘束具で雁字搦めにされた挙句に猿轡を噛まされた
その手の人から見たら垂涎モノな状態で見つかった。女王陛下は
案の定もの凄く助けを求める表情だ。
「Oh…」
一旦女王様から視線を外したギヨーム。
しかしすぐさまトリスにスキャンを頼み、拘束具が自分にも解除可能か見てもらった。
「レベル39の呪縛系エレメンタルアーツと似ていますね。
この程度であればギヨーム様のデバフ系エレメンタルアーツで外せるでしょう」
ギヨームはそれを聞いて即座に拘束具にハイデバフAを掛けて外した。
「か…感謝いたします…アウグストゥスのお方…」
「いえ、成り行きで行っただけの事です。御気になさらず」
「たいちょー。アースリザードの完全支配も終わりましたー」
「ああ、お疲れ」
ちょっとまたノースジャックに寄らなきゃいけないけどまあいいか、
女王様を助けたと言う恩で不味いと噂のノースジャック料理でも…
と考えながら煙草を咥えたギヨームの視界の端に、
胴体を何発も撃たれて尚も動く赤装束の男の上半身を捉えた。
「その生命力…恐れ入る…!」
ギヨームが赤装束の男の脳天を打ち抜くよりも早く、男の握り拳が輝いた。
「おいトリス! 今の光は?!」
「現在解析中です…」
「やられたのぅ…」
「え、ちょ…ユーリ…! そういうフラグ構築マジやめt――」
咆哮が轟く。現実世界なら聞き覚えが無くても、ゲーム時代なら
大体みんなこんな感じの咆哮が辺り一帯に轟く。
「あのー。ユーリ…つかぬ事をお聞きしますが…
ボクやたいちょーにも分かるように簡潔に教えていただきたいのですよ」
「フラヌベルガーはアーブリクファ大陸に植民地を抱えておる」
「うん」
「アーブリクファは昔から亜神族の地じゃ」
「え、フラヌベルガーってエルフの奴隷持ってるの!?」
「話を逸らすでないわ…古代のエルフが遺したモノには、
”魔物を凶暴化させてから呼び寄せる”という下種な代物がある。
さっきの輝きは…」
「もういいです聞きたくないです」
「あら~? ねぇねぇ皆さん~北方から何かが一杯飛んできますよ~?」
ギヨームは望遠カメラをオンにして、北方を見た。
「あっそう…連中が呼んじゃったのは…よりにもよって…」
「ドラゴンですね。ギヨーム様。解析が遅れて申し訳ありません」
ギヨームは一応愛用のバズーカ『インペリアルダウン』を装備した。
「アルク。分かってるな!? お互い手ごろな威力の遠距離銃器は単発だ…
一匹でも撃ち漏らしたらゲームオーバーだからな!?」
「わかってますよ♪ たいちょー♪」
「何楽天的に構えてんだよ! ドラゴンだぞドラゴン?!」
「たいちょー。とりあえず一匹撃ち落としてみてから考えましょうよ」
シュコン! とアルクの『アハトアハト』が火を噴いた。
弾丸はドラゴンの群れと思わしきモンスターの群れの前で炸裂し、
先ほどのスライムをアイスキャンデーに変えた冷凍ビームの雨を降らせた。
「あん…? あ、何だあいつらただの大型ワイバーンか、超弱いな。
ゴミみたいに撃墜出来ちゃったじゃん」
「そのセリフが一番わらわたちを驚かせたぞぇ?!」
実際ただのワイバーンであっても一体殺すのにアウグストゥスの魔法騎士
30人小隊、ドゥルーシのゴーレム兵でも五人隊は必要だと言うのに、
ユーリ達の目の前でギヨームとアルクは彼女たちにとっては得体の知れない
魔法の大筒をブチかましてあっさり次々と撃墜していく。
距離が遠いのでアレが本当にドラゴンなのかはユーリ達には分からないが、
もしアレがドラゴンの群れだと言うのならば、
あの二人は大陸中の超大型クラスの大戦級魔物を全て
殺し尽くせるかもしれないという実力を持っているのだという現実に
ユーリは直面することになるのだが、彼女には殺虫剤を吹きつけられて
蚊のように落とされていく空飛ぶ魔物の群れが、はっきりドラゴンだという事は
幸か不幸か、ユーリにも、そして呆然とするノースジャック女王もわからない。
「良し、帰ろう」
「たいちょー。ノースジャックの女王様を放置するのは流石に駄目ですよ」
「お構いなく…もうすぐ騒ぎを聞きつけて私の近衛たちが…あ、来ました」
地響きがするので何事かとノースジャック方面を振り向いたギヨームは固まった。
「おのれアウグストゥスの犬め! ドラゴンを蹴散らして力を見せつけた挙句
我らの女王陛下を…! 万死に値するぞ!」
五階建てビルを余裕で覗き込めそうな背丈の武装した巨人達が、
此方を睥睨しながら怒鳴り散らして来たら誰だって固まるものだ。
「俺は何か悪いことしただろうか…」
「たいちょーは何も悪くないですよ?」
ギヨームとアルクはそれぞれ武器を構える。
「使者殿…! 彼らは短気なだけです…!
我が国民に対する無益な殺生だけは…!」
ノースジャック女王はギヨームの裾を掴んで嘆願してきた。
余計にギガス達の顔面が青筋だらけになっていく様には、
流石のギヨームもちょっと泣きそうになった。
「……わ、わかってますよ…そんな顔しないでください女王様…
…アルク…対巨人用の麻酔弾なんて――
「持ってますよ。たいちょー」
――流石に持ってるわけ…え、ちょマジで持ってるの!?」
「前に”ガンパウダーなら腐るほどある”って言いましたよ?」
そう言ってアルクは愛用の『アハトアハト』に
88mの馬鹿でかい紫色の弾丸を装填する。
ギヨームは生まれて初めて(当り前だ)「ギガスを殺さずにただボコッて無双する」
という離れ業を挑むこととなった。
その無双シーンにユーリが頭を抱えないはずがなかった。
何が凄いって一撃で小さな砦を粉砕しかねないギガスの一撃を
片手添えたとはいえ腕一本で「げ?! 何かミシミシ言ってる!?」とか
言いながらも大して顔色を変えずに振り払いながら大ジャンプして
ギガスの延髄にミドルキックを食らわせて卒倒させるギヨームとか、
大きいのに素早い動きをするギガスの脳天に「当たっても眠るだけ」という
不思議な弾を正確に命中させてやっぱり卒倒させるアルクとか、
開いた口が塞がらないノースジャック女王陛下や
蝶々と戯れながら目の前の巨人大戦を眺めるジルベルと並んで
眼をこすりながら額を抑えられないわけがない。
…。
……。
「大変ご無礼をお掛けいたしました…!」
頭にタンコブだらけのギガスの兵士長と思われる者がギヨーム達に土下座している。
「いや、良いんだよ…おかげで近接戦闘の勘が鈍って無かったのもわかったし」
「しかし…女王陛下をお助けした方をよもや誘拐犯と間違えてしまうなど…!」
「だからもう過ぎたことは良いってば」
馬鹿デカいギガスのオッサンが咽び泣くシーンとか誰得なのかわからないので、
というかもうさっさとアウグストゥスに帰りたいギヨームは
「というわけで女王様のご帰還を宜しく」とギガス達に
ノースジャック女王を丁寧に引き渡そうとしたのだが、
「アウグストゥスの使者殿」
「ん? あ、いや…何ですか女王様」
女王様に裾を引っ張られた。
「私の名はアルテナ…アルテナ・ダーナニア・イーグニウスと申します…
先の謁見ではお名前すらお聞きしないと言うご無礼をお許しください」
「へ…? あ、いや失礼…俺はギヨームと申します…あー…
本名は浪岡浄司なんですが…ギヨームで大丈夫です」
「わかりました…それではギヨーム様も、私の事はアルテナとお呼び下さい」
「え、え…? いやでもそれは…」
「謁見の際は一切の交流を望まないと示しましたが…それはあくまで
ノースジャックとしての総意であり…イーグニウス炎王国の総意ではありません。
命の危険からお救い頂いたこのご恩…先ずは炎王国と正統王国の国際交流から
始めさせていただきたいのですが…」
「え、マジすか!? あ、いやこれまた失礼…こちらこそ宜しくお願い致します!」
「よかったですね。たいちょー♪」
「ギヨームめ…全く次から次へと面白い事をやりおるのぅ…」
「みんな仲良くなれて良かったですね~」
こうしてノースジャックとアウグストゥスも電撃同盟への足取りを揃えることとなった。
イーグニウスが結ぶのならばスラッシュロードもウィンドルールも
例え嫌だとしても同盟を結ばなければ国家の威信に傷が付くだの云々あるらしいが、
政治には疎いギヨームにとっては正直どうでもいい話だった。
ミッション6に続く
ミッション6のタイトルが未定なのはご容赦ください…