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ミッション4「太陽王国は早かった」

どうもお待たせいたしました。

ドゥルーシ帝国の使節団との交流から数日。

アウグストゥス王国はかつて無い喧騒の渦に包まれる。

やはりこの間の「アウグストゥス・ドゥルーシ電撃同盟締結」は

多くの他国に衝撃を与えたようで、真意を確かめるべく

様々な国々から使者がひっきりなしに訪れて、ウィンダリアウスが

久しぶりに王様らしい仕事に忙殺されることとなったそうだ。

しかし流石にそこまでは知ったこっちゃ無いギヨームは、

折角だからやってきてしまった異世界のアウグストゥス王国を

咥え煙草でワイン片手に散策でもしてやろうかと思っていた。


「やっぱりたいちょーだ! ギヨームたいちょー! ボクです!

アルチョム・ベラドラケンです! あの時はおじ様スタイルでしたけど!

地球連邦軍第17部隊『クリークフォース』大隊副隊長のアルチョムです!

今まで黙ってましたけど、ボク女です! 本名は白城優希しらぎゆうき

間違いなく生まれたときから女です! 男じゃなくてごめんなさい!

でも実は設定ネーム気に入らないんで今後はアルクって呼んでください!

あああおおおおたいちょーに会えたあああああよかったあああああ!!」


と言いながらギヨームの足元でむせび泣く女…かつてのゲーム時代の仲間…?

といえば仲間であったアルチョム・ベラドラケンが現れなければの話だが。


「お前…本当にアルチョムなのか?」

「肯定。否定要素希薄」

「を?!」


アルチョムのちょうど頭の天辺から少し上に、何処からとも無く

トリスによく似た『シーカー』らしき物体が現れる。


「おやクミンXX-0754さん。貴方でしたか…これはもう彼女が

アルチョム・ベラドラケンである理由としては十分すぎますね」

「姉御。おひさ。地球連邦標準時間百三七時間三十六分二十三秒振り」

「その様子だと救難信号も未だ地球連邦本部に届いていないと推測されますね」

「肯定。姉御進言通り。地球連邦本部未だ連絡無也」

「うぐぇぇえぇぇぇええええんたいちょおおおおおおおおおお!

ボクを慰めてくださいよおおおおおおおおお! そのおじ様の香りに満ちてそうな

その両腕でええええええ! そして耳元でアルクって言ってえええええええ!」


起き上がり様に再び抱きつこうとしてきた超泣き顔なアルチョムことアルクを

やっぱり無情に残像が出るレベルの速さで避けるギヨーム。


「前より手心を感じる避け方がいぶふっ!」


再び地面に激突するアルク。ギヨームはアルクに「ナノリメイカーA」を施した。


「…確かに昔はお前に銃をぶっ放してたからな…

ちゃんとフレンドリィファイアOFFで」

「あー…やっぱりたいちょー優しいぃ…」


正直描写して良いものか悩まされる蕩け顔でギヨームを見つめるアルク。


「何はともあれ、”たいちょー”とやらに会えて良かったのぅ」


今までアルクに気を取られていて、彼女が突進してきた方向から

自分に向って歩いてくる人物がいるなど気づきもしなかったギヨームは

嘗ての<アブソルト・ユーゲント>時代なら、速攻でヘッドショット

されてもおかしくない状況であったと言う事に気付いて

心の底で自分自身の迂闊さに小さく舌打ちした。


「お二人さんは?」

「うむ。わらわはな…」

「ドゥルーシ帝国第三位帝位継承帝女殿下ユーリ・ゾンネカイザー・ドゥルーシ。

後方女性ユーリ実姉第十八位帝位継承帝女殿下ジルベル・ルリエン・

アマデウス・ドゥルーシ様也」

「こらぁ! ジルは兎も角わらわの名乗り場面を与えんかぁ!」

「キレッキレですねクミンさん」

「否。未だ姉御に及不如およばざるがごとし

「っていうかユーリ。クミンちゃんに気負いしないんですね」

「『可視精霊』ごときで一々帝国の帝女むすめが驚いていては――

「あわわわ~…! ねぇねぇユーリちゃんユーリちゃん! あれ何~?

あれって精霊さんだよね~! わぁ~凄い凄い~お姉ちゃん初めて見たよ~!」

―――貴様のその胸の脂肪の塊今すぐ引き千切ってやろうかぁ…!」


ギヨームは、とりあえず煙草に火を点けた。


…。


不必要な注目を避けたかったギヨームは、その場の一同を連れて

王国より貸し与えてもらっている客間へ。

1人じゃ色々と心細かったので、来る途中で出会ったシュリールや

何かこっちを遠くから見てたシオンにも手伝ってもらって色々話すことにした。


「…結局お前もログアウトは出来なかったんだな?」

「逆立ちしてもダメでした。クミンちゃんもその点だけはゴミカス…

痛い痛い痛い!? ちょ?! クミンちゃん電気ショックは止めて

地味に痛いごめんなさいボクがあばばばばばばばばばばばば!?」


シュリールはギヨームとアルクの話に色々ついて行けなかったので

大使として参上したドゥルーシの姫ユーリとジルベルに今後の

アウグストゥスとドゥルーシの交流について色々話を進めていたのだが、


「おいコラ! 超カワイイ子が来るんならまず俺様に言え!

…そして初めまして美しきお嬢様がた、遥々帝国より俺様の…我が王国へようこそ」

「ぬわ!? 何じゃ貴様?! 何処から湧いてきた!?」


女がらみのことには先祖代々耳ざといのか、

仕事を放置プレイしてきたウィンダリアウスが乱入してきたのだ。

ほんのり憤慨しているユーリを一旦無視したウィンダリアウスは

けしからん発育をしたジルベルをまず口説こうとする。


「おお…美しき月女神アルテミスに愛されし貴女のお名前をお教えください…

おっと失礼…俺様…じゃなかった我はこのアウグストゥスの王、

ウィンダリアウス・クリークフランヴェル・アウグストゥス九世(キリッ」

「あらあら~わざわざどうもご丁寧に~。私はドゥルーシで帝女の一人をしてます~。

ジルベル・ルリエン・アマデウス・ドゥルーシと申します~」


ぺこりと一礼したジルベルの胸が下着を付けていないがごとく揺れた。

ウィンダリアウスは鼻からトマトソースっぽいものを垂らした。


「なぁ、ギヨームさんよ。俺様はこういう瞬間に立ち会うたびに

生きてて良かったって思うんだよ」

「あ、そう。良かったね」


実際ギヨームもジルベルのそれをついつい目で追ってしまったので

余りウィンダリアウスを咎める気にはならない…というか

こんな風にポンと自分の娘を大使に遣わすのってどうなのって考えていた。

考え過ぎてシオンがこちらを凝視するのも構わずトリスと体内通信するほどだ。


「(なぁトリス。このお姫様達が大使とかさ…カイン帝の腹を疑いたくなるんだが)」

「(己の娘をつい最近まで敵対していた相手にホイホイと差し出すのです。

色々と先を読みあおうという挑戦的な意図があるかもしれませんね)」

「(…マジかカイン帝。どんだけだよ…)」


実は先ほどから色々アルクがギヨームに(一方通行に)話しかけているが

ギヨームとしてはあの二人の若い姫たちの今後をついつい日本人にありがちな

悲観的なモノの見方で考えてしまっていた。考え過ぎて咥え煙草が

フィルターまで焦がしていることに気付かないほどだ。


「……ちょいアルク」

「だからボクは言ってやったんですよ…って何ですかたいちょー?」

「一回黙ろうか」

「あ、はい」

「えーと…ユーリ帝女殿下にジルべル帝女殿下…で良かったかな?」

「む?」

「何ですか~?」


ウィンダリアウスが目線で「おい邪魔すんなよ」と訴えているが、

ギヨームはシュリールに「目つぶしで」と目配せ(何故か通じた)する。


「ところでお姫様方は…護身術的なものはありますか?」

「宮廷魔術師達からは水と土の魔術の素養はあると言われておるが…」

「護身術って何ですか~?」


これは駄目だ。カイン帝…あのオッサンマジ無いわー。

マジ下衆いわー。マジ鬼畜だわー。俺以上にマジ外道だわー。

と頭の悪そうな台詞を脳内で吐き散らしたギヨームはアイテムリストを出す。


「たいちょー? どうしたんですか?」

「ちょっとな」


リストをスライドしまくるのが煩わしくなったのか検索を掛けるギヨーム。

ちなみにユーリたちはギヨームの行動に目を瞠ってしまう。


「のう…アルクよ。ギヨーム殿は何をしておるのじゃ?」

「え…? アイテムストレージからアイテム探してるだけですけど?」

「アイテムストレージ…?」

「早い話がギヨームが暮らしてた"世界の果て"の固有魔術らしいぜ? 俺様も最初は

何の冗談だよって思ったんだが、改めて目の前で金貨とか魔導具の山とかを

出し入れしてるのを見せられてからはなぁ…」

「アルクよ、つかぬ事を聞くが…どれだけのモノを出し入れできるのじゃ?」

「え~と、ですね…全く同じモノは最大999個で…

…入れられるモノの種類は…う~ん…あっ、

確か1000種類を越えたところで面倒なのでもうやめましたね」

「「「「?!」」」」


アルクがサラッと言った言葉に

ギヨームの行動を不思議そうに眺めるジルベル以外が絶句した。


「ユーリ帝女にはこれと…ジルベル帝女にはこれと、これと、これ…」


ギヨームはテーブルの上にそれぞれ色の違うこぶし大のクリスタルを四つ出した。


「あれ? たいちょー。これ継承クリスタルじゃないですか?

しかもこれ…もう全部ボクたち覚えてるやつですよね? これどうするんです?」

「察しろ」


ギヨームはテーブルの上に置いた四つのクリスタルのうち一つを、

訝しげにそれを眺めるユーリに。

残り三つをぼーっと見つめるジルベルの手前に寄せた。


「そのクリスタルに触れてみてくれ。ちょっと確かめたいことがあるから」

「……触った途端に爆発したりせんじゃろうな?」

「無いから」

「綺麗ですね~♪」


胡乱気な表情でギヨームに質問するユーリとは対照的にジルベルは

三つのクリスタルを両手に抱えた。すると彼女の手の中のクリスタルが

淡く輝き、かすかな光が彼女の体を柔らかく包み込んだ。


「な、何じゃこれは!? おい貴様…!」

「大丈夫だから…っていうか普通にスキル継承できるんだな」

「たいちょー。ジルさんに何のスキル継承させたんです?」

「『ナノリメイカー』に『ハイデバフ』に『ショックウェーブ』だな」

「わお! 後方支援もこれでバッチリですね!」


ギヨームとアルクの会話はサッパリだった他の面々は、

光が消えたジルベルに表面上は何事も無かったのを確認する。


「ジル! 大丈夫か?」

「何がですか~? あれ? クリスタル消えちゃいましたね~」

「何とも無いのかぇ?」

「あれれ? 言われてみれば頭に覚えの無い魔術が~…?

あの~ウィンダリアウスさん~ちょっと宜しいですか~」

「ん? 何々ジルベルちゃ…じゃなかった。ジルベル姫。我で良ければ…」


ジルベルは魔術の詠唱を始める。すると彼女の足元に紫色の魔方陣が現れる。


「ん…?! 待てジル! その色の魔方陣は波動属性の…!」

「其の周囲、弾けよ『衝撃波動ショックウェーブ』」

「え、ちょ――」


ジルベルを中心に衝撃波が放たれる。

ニヤケ顔のウィンダリアウスは盛大に吹っ飛び、壁に激突。

ユーリは咄嗟にシュリールとシオンが前に出て

魔法障壁マジックシールド』を発動したので大事には至らかったが、

ギヨームとアルクは変な方向に仰け反ってしまった。


「おう、おうふ…」


恐らく後頭部を強打したのだろう。

ウィンダリアウスはそこを押さえながらピクピクしている。


「腰にちょっとダメージ来たな」

「鍛えてなかったらヘルニアになってるかもですね。たいちょー」

「あらら~? これ攻撃魔術だったんですか~?」

「ば…か、仮にも帝族なら魔術書の一冊くらい読まんかぁこのばか者ぉ!」

「まぁまぁ~じゃあコレどうでしょうか~?」


そう言ってジルベルが再び詠唱を始めると、今度は即座に灰色の魔方陣が表れる。


「其の加護を、崩せ『高位強化打消ハイデバフ』」


ジルベルを中心に真空波が放たれる。

今度は流石にその場の誰も(ウィンダリアウス除く)が身構えたが、

吹っ飛んだりはしなかった。だが、


「…指輪の付与魔術エンチャントが…消えた…?」

「嘘…? えっ?! 私のペンダントのも…!?」

「あらら…たいちょー…?」

「…どえらい事になったな」


残る『ナノリメイカー』は回復用エレメンタルアーツだったが、

念のために色々と用心してから使わせることにしたのは言うまでもない。

ちなみにユーリに寄越したほうは『マシンゴーレム作成スキルB+』の

スキル継承クリスタルである。きちんと説明したら喜んで使用してくれたようだ。


……。


…。


アウグストゥス王国もそうだが、現代の地球と違って国境の隣が他国とは限らない。

何故なら国家の存在しない地域には「魔物」が普通にいるからだ。

そしてこの世界には「亜神族エルフ」や「ドワーフ」等と言った

人型の列強生物がいる。そんな連中の無法者集団なんかも当然存在する。


「アウグストゥス国境外の北方地域…ここは街道以外の通行は

冒険者以外は原則として禁止しています。今更説明する必要は

無いかもしれませんが、私達の国は奴隷制を廃止する前から

存外他種族に優しいので、迫害されたりとかで結構移民も来ます」

「当然そこから冒険者にすらなりそこなうならず者どもとかも出ますねぇ」

「道理で…討伐依頼にオーガ盗賊団とか冗談みたいなのもあるわけじゃの」

「オーガって魔術や戦技アーツ使っても強いですものね~」

「そんなモンなのか?」

「そんなモンなんですよ。たいちょー」


現在ギヨームたちはスヨーヴィンとマウナ率いる王国騎士団と共に

アウグストゥス王国の陸側の玄関口でもある北方平原に来ていた。

ちなみにシュリールとシオンは先ほどのジルベルによって解除されてしまった

魔導具のエンチャントを掛け直しに行き、傷を治してもらったウィンダリアウスは

魔術発動を探知して駆けつけたクラップフェンに連行された。


「しかし、いくらギヨーム殿がついているとはいえ…

仮にもドゥルーシの帝女殿下お二人を連れてのオーガ盗賊団の討伐は…」

「お二人はギヨーム殿から何やら凄い魔術を教わったとお聞きしましたが…

一アウグストゥス騎士としてはぁ…」

「実際気を抜いてたとはいえアウグストゥス七騎士の一人でもあるウィンダルを

結構な距離で吹っ飛ばしたからな。どの程度の実戦効果があるか

今把握しておかないと、それこそ生兵法は怪我の元ってやつだからな」


忠告しようとしたスヨーヴィンとマウナを遮るギヨーム。


「というわけで、ユーリ。ジルベル。俺が対物理フィールドを初めとした

シールド系を張り巡らすから、討伐対象を見つけたら

思いっきり継承したエレメン…魔術を発動してみてくれ」

「うむ! わらわが生み出したゴーレムがどれ程のものか楽しみじゃ!」

「思いっきり~…? 王様にしてしまったような感覚で良いんですか~?」

「ああ、何しろ相手は盗賊だ。そういう手合いには基本的に手加減駄目だから」

「そうですね。たいちょーの言うとおりです。あいつらは降参したと見せかけて

隙あらば背中刺すとか色々してきますからね。悲しい万国共通ですよ」

「まぁ今となってはそれがちょっと楽しみだったりするんだけどな?」

「そうですね♪ たいちょー♪」


何やらギヨームとアルクの周りをドス黒い空気が、

ユーリとジルベルには怖気を感じる無邪気な雰囲気を漂っている気がするが…

気にしたら負けだろうと思ったスヨーヴィンとマウナは斥候の報告を待つことにした。


「こちらヤマドリ。鳥の巣応答願います。どうぞ」

「こちら鳥の巣。報告を求む」


ドワーフを初めとしたアウグストゥスの技術者たちの徹夜作業も相まってか、

スヨーヴィンたちにも『魔導通信機』が何機か回ってくるようになった。

今のところ傍受される心配が無いはずだが、コードネームで呼び合うのは

ギヨームの熱い説得が端を発している。


「本隊より西の一里先に盗賊団の拠点らしきベースキャンプを発見。

視認できた盗賊の数は13体」

「拠点の状況を知りたい」

「現在捕らえた魔物を焼いている。食事かと思われます」

天幕テントの数は?」

「距離の都合上正確な大きさは判別できず。が、30ほど確認できました」

「了解。引き続き観察を頼む」


通信機を懐にしまい込んだマウナを羨ましそうに見つめるスヨーヴィン。


「駄目ですよスヨーヴィン。そんな顔をしても貸しませんからねぇ」

「殺生な…」

「一日中頬ずりしていれば流石の陛下もドン引きですよ」

「くっ…これ以上の自重は拷問だ…」


スヨーヴィンの様子に肩を竦めるマウナ。


「…ところでギヨーム殿。本当に私達は後方で待機していて宜しいのですか?」


いくらギヨームが先のドゥルーシとの戦いで凄まじい戦績を見せたとはいえ、

相手は一体倒すのに冒険者が四人以上のチームを組まねばならないオーガ…

それが何十体もいる盗賊団である。


「討伐に付き合いたいって言い出したのは俺たちだからな。

それに駄目そうならすぐに撤退できるように二人に動いてもらうよ」

「まぁ、そうであれば…」

「殿は私に任せてくださいギヨーム殿。今や貴方は我が国に欠かせぬお方だ」


スヨーヴィンの言動が一々イケメンなのはもう無視することにしたギヨーム。


「ユーリ殿下。ジルベル殿下。俺の背中辺りに手を当てておいてくれ…

…よし、いくぞ。対物理フィールド、対光学、火炎、電撃、波動シールド展開」


ギヨーム、ユーリ、ジルベルの体の周りが黒い陽炎のようなものに覆われ、

回転する赤、黄、白、紫の盾のような障壁バリアに囲まれる。


「何か、ゴワゴワするのぅ」

「ちょっとくすぐったいですね~…ふぁ? 綺麗なガラスみたいなのが

クルクル回ってますね~」

「トリス。俺の真上に行ってくれ。アルク、後方宜しく」

「了解しました。俯瞰撮影を開始します」

「おkです! たいちょー!」


トリスがテレポートを数回繰り返して

砂粒ほどの大きさにまで見えなくなるのを確認した後、

ギヨームとユーリ達は敵の拠点に進攻を開始した。

ちなみにアルクは何気に平原に溶け込みそうな色合いの偽装ギリースーツを

装着して真後ろからこちらを追ってきている。

後方宜しくと言っただけでそれ以上の事をするのを見て、ギヨームは

アルクが間違いなくゲーム時代の自分の隊の副長を務めていたアルクだと言う事を

改めて理解した。


「ギヨーム様。前方800m先に敵7体です」

「確認した。これより陽動を仕掛ける」


ギヨームは愛用のリボルバーを抜き、最も近い距離のオーガの足を撃った。

別に当たらなくても良かったのだが、見事にオーガの片足を吹き飛ばして転倒させた。

ほんの数秒オーガ達は絶句したが、ギヨームが追撃でトドメを差した時点で

オーガ達はこちらの存在を確認したのだ。


「流石は戦鬼オーガ…普通は狼狽するモンだが…ユーリ殿下、ジルベル殿下。

敵の残りが殺到してくる。迎撃準備を」

「うむ! 早速わらわのゴーレムの実力を測ってやろうぞ!

あとギヨームよ。わらわの事はユーリで良いからな」

「迎撃って何ですか~? あ、私もジルで良いですからね~」

「…分かった。じゃあ、ジル。さっきみたいにショックウェーブを

何時でも放てるように準備しててくれ」

「は~い」


揃って詠唱を始める姉妹。先に詠唱を終えたユーリは両手を合わせ、

地面に触れる。すると地面に大きな茶色と水色の魔方陣が現れ、

魔方陣から銀色の刺々しい風貌のゴーレムが顕現する。


「ミスリルか?」

「惜しいのぅ。亜神族魔月銀イシルディン精神感応金属オリハルコン

柔軟性を出すため琥珀金エレクトラムを混ぜて作ったゴーレムじゃ。

名付けるとすれば…重魔銀シュヴァルミシールゴーレムとでも付けようかの」


ドヤ顔で次々と重魔銀ゴーレムを顕現させていくユーリ。


「準備できましたよ~?」

「ジルもか、よし。じゃあユーリはとにかくそのゴーレムで

オーガどもに接敵、可能なら確固撃破。ジルは俺が許可するまでそのままだ」

「よぅし! 行けい! わらわの機兵たち!」


ガォォォンと音を上げて重魔銀ゴーレムたちはこちらの十数メートル手前まで

迫ろうとしていたオーガ達と白兵戦を開始する。


「ぬう…オーガどもはやはり存外しぶといのぅ。わらわのゴーレムたちが

傷だらけになっておるわ」

「あれだけの重合金ゴーレム相手にそれだけの力があるのか…

こっちのオーガは舐めてかかったらヤバイな…ところで後何体出せるんだ?」

「え? 全部出してしまったぞ?」

「あの~~。私いつまで待ってればいいんです~?」

「…おいトリス。他の敵の動きを教えてくれ」

「異変に気付いたオーガ達が、喧騒を聞きつけて続々こちらへ来てますね」

「…数は?」

「80です」

「マジか」

「マジです」


ふと前方を見れば、殺気立ったオーガ達が何かを叫びながら

綺麗に手入れされた凶器を片手にこちらへ猛ダッシュしてくるのが見えた。


「ジル。秒読みするから0と言った時点でぶちかま…発動してくれ」

「わかりました~」

「9…8…7…6…」


殺到してきたオーガ達の半分にユーリのゴーレムたちが飲み込まれた。

残り半分はここからでもわかる殺気に満ちた眼光を向けながら突進してくる。


「5…4…3…2…1…」

「お、おいギヨーム? 半分がこちらに…!?」

「0!」

「其の周囲、弾けよ『衝撃波動ショックウェーブ』」


オーガ達の凶刃がギヨームに当たるか当たらないかの距離に達した瞬間。

ジルベルのショックウェーブがオーガ達を薙ぎ払った。


「おお! やはり波動属性は有能じゃな! ジルも漸く帝国の姫らしくなって

父上もお喜びになるじゃろう!」


ユーリのセリフにギヨームは他の帝子や帝女達が

どんだけ物騒な連中なんだろうと思いつつ、のた打ち回るオーガ達を見まわす。

手足を骨折している様子はあれども、誰一体として致命傷には至っていないようだ。


「初期ならこんなモンだろうな…じゃあ後は俺とアルクに任せてくれ」


物足りなさそうなユーリとジルベルを後ろに退かせ、

装備を愛用のショットガン「デーモンストライカーD4F+105」と

ヘビーマシンガン「ミーティアX-AMHM+95」に切り替え、

数歩前進するギヨーム。いつの間にか横にはアルクもいた。


「アルク、お前は∞銃器無いけど大丈夫か?」

「リロードツール完備でガンパウダーは腐るほどありますので

大丈夫です。全く問題ありません」


アルクは両手に「対戦車ガトリング『グレイヴメーカー』+76」を装備し、

偽装ギリースーツを解除した。


「相変わらず連射モノが好きなんだな」

「何を仰るんですか、たいちょー。連射モノこそ

VRFPS系の醍醐味じゃないですか」


暢気な会話をする二人に数体のオーガが血走った目をしながら

残像が見えそうな勢いで凶器を振りかぶってくるが、


「お先に」

「あっ」


と軽いノリでギヨームにショットガンを撃たれ、直撃した一体は上半身を

挽肉が如く吹き飛ばされ、手や足を損壊させられる。

痛みにもがく者達も漏れなくトドメを刺していく。


「ずるいですよたいちょー!」


と言いつつ別段怒っているわけでもないアルクは

両手のガトリングガンを、仲間を一瞬で撃破されたオーガたちにバラ撒いた。

運悪く集中的に食らってしまったオーガの一体は数秒で原型を留めていない

肉塊となってしまう。また一発一発の威力が高いため、

足などに食らってしまったオーガはその場に立つことが出来ず倒れていく。

恐ろしいのはそういった倒れた連中を逃さず優先的に撃ち殺すことだろう。

スヨーヴィンとマウナは談笑を交えながらオーガ達を血祭りに上げていく

ギヨームとアルクを遠巻きから引きつった顔で見つめていた。


「間近で見ると、我々アウグストゥス七騎士の自信も折れそうになるよ」

「…空からの攻撃だけでも反則モノでしたから」

「ギヨーム殿どころかアルクさんも同じ領域の人だったことにも驚きだよ」

「彼女さえ一騎当千…いいえ一人軍隊ワンマンアーミーだなんて…」

「私達と彼らの共通点は、男女で隊長副長という点だけだな」

「でしょうねぇ…」


結局オーガの全滅には三十分もかからなかった。

オーガの死体処理くらいは出来るかなと思っていたら

ギヨームとアルクが「素材回収」と言いながらオーガの死体を

ある意味芸術的に解体していく様を目にして、

スヨーヴィンとマウナ以下騎士団は一旦考えるのをやめた。


「この肉片の山と化した方はどうしたもんかな」

「焼却処分が無難じゃないでしょうか。たいちょー」


色々と反応に困る行動をするギヨームとアルクに

スヨーヴィンは気を取られ過ぎていて、彼らの前にある肉片の山が

不自然に動くのに気付くのが遅れる。


「ギヨーム殿!」

「あん?」


スヨーヴィンの叫びに笑いながら咥え煙草に火を点けようとした

ギヨームの後ろにある肉片の山から一体のオーガが飛び出す。

ギヨームの反応よりも早くオーガの凶器がギヨームの横腹に叩き込まれた。


「たいちょーッ!?」

「そんな?!」


その場の全員がギヨームの無残な最期を目に…することはなかった。

多少仰け反っただけでギヨームは微動だにしない。

というか叩き込まれた凶器が粉々に砕け散った。


「…舐めてたわ、お前らオーガを」


ギヨームは能面のような表情に変え、装備を全長20メートルは軽く超える

エクストラ武器「斬機神剣≪ゴッドブレイカー≫+7」に切り替え、

自分に一撃を加えたオーガに真一文字に振りぬいた。

オーガは真っ二つになったかと思った瞬間、文字通り蒸発した。


「たいちょー!? 大丈夫ですか?!」

「素の防御力で耐えたから怪我はないよ。ちょっとビビったけど」

「思わずエクストラ装備ですもんね。たいちょーの小心者♪」

「ちょっと気を抜きすぎてたな」


スヨーヴィンとマウナ以下騎士団は改めてギヨームの底の知れなさを痛感した。


…。


事後処理をつつがなく終えたギヨーム達は、

ウィンダリアウスも気絶から回復したとのことで

今後の方針云々を決めるために円卓がある会議室へ集まった。


「まずは改めて俺様達の王国へよーこそ、ドゥルーシの姫さま方」

「はい~。改めて今後とも宜しくお願いしますね~」

「なんじゃ。もう芝居がかった口調はやめたのか?」

「お子ちゃまにはまだまだ俺様の魅力は通じねーってわかったからな」

「ふん。お子ちゃまで悪かったのぅ」

「悪い意味で言ったんじゃねーよ」


クラップフェンなどの真面目なメンツがこれ見よがしに咳払いをするので、

ギヨームはやれやれと思いながら話を切り出すことにした。


「とりあえずアウグストゥスとドゥルーシの同盟は細かな微調整を除いて

締結が完全なものとなったわけだが…俺は政治だの内政だのはあんまり

得意じゃないから何を優先的に進めていくつもりなんだ?」

「そこんとこは何気に俺様も勉強中だったりするんだなーこれが」

「…おいおい」


そこから結局グダグダな雰囲気になっていくように思われたのだが、

会議室に息を切らした伝令兵が飛び込んで来る。


「何事だ!」

「フ…フ…フ…フラヌベルガー太陽王国とノースジャック連合王国が…

交戦状態に入ったとのことです」

「早っ!? 太陽王国尻に火が付くの早すぎじゃね!?」


最初に反応したのは素っ頓狂に叫んだギヨームだった。


ミッション5「連合王国は誇り高かった」に続く

全然話が練り込めてないのが、我ながら情けないですね…。

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