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ミッション3.5「ドゥルーシ帝国のお姫様達+1」

連投とか言って二回で終わるダメ野郎ですみません。

ドゥルーシ帝国の平均起床時間は7時である。

というのも帝国全土には巨大な時計塔があり、帝国が定めた「健常生活定刻」に

準じた時刻に鐘を鳴らす…要するに国中に馬鹿でかい目覚まし時計があるようなものだ。


ガンガンゴンギン! ギンゴンガンゴン! ガンガンガンゴンギーンガンゴン!

ギンゴンガンゴン! ゴンガンゴンギン! ギンギンゴンガンガーンゴンゴン!

ゴンゴンギンギン! ガンガンガンゴンギン! ギンガンガンゴンゴンガンガンギン!

ガーン! ガンゴンギンギンゴンガンゴン! ガンガンゴンゴンギーンガンゴン!


地球の「第九」に良く似た楽曲の鐘の音が東西南北から響いてくる。

これで目覚めないのはおそらく死人だけだ。


「うぅぐ…父上ぇ…全箇所一斉演奏はやはり止めるべきなのじゃぁ…!」


天蓋つきのベットから蘇った死人の如く起き上がった金髪碧眼の少女は、

おそらくこの時計云々に関係しているであろう己の父親に対して

怨嗟じみた文句を言いながら両手を鳴らした。


「おはようございます姫様」

「御髪を梳かせていただきます」

「お体を拭かせていただきます」

「お脱ぎになる下着はこちらの籠へ」

「新しいお着替えはこちらでございます」

「お手を拝借いたします」

「おみ足はこちらへお通し下さい」


と、両手を鳴らした途端部屋になだれ込んで来た侍女メイド達に

あれよあれよと整えられて、死人の如き動きしていた少女は

見目麗しい姿にものの五分で変貌した。


「お鏡はこちらです」

「……うむ…目脂めやにも綺麗に落ちておるな。ご苦労様じゃ」

「ありがとうございます姫様…ちなみにお化粧は…?」

「要らぬ。顔が突っ張ってしもうて仕方が無いのじゃ」

「畏まりました…本日の香水は何を…?」

林檎アプフェルの香りがするものが良いのぅ」

「承りました」


首元などに林檎の香りがする香水を吹き付けられ、ようやく少女は

ベットから降りる。降り際に侍女に素早く靴を履かせられたのは、

もはやオートメーションと言っても差し支えないものだった。


「ちなみに父上は何時ごろに起きたのじゃ?」

「皇帝陛下は日の出と共にお目覚めです」

「真夜中に寝て日の出か…父上はよく体を怖さぬものじゃのぅ」

「皇帝陛下ですから」

「ええ、皇帝陛下ですから」

「くふふ…違いないのぅ…ところでジルは起きたのか?」


姫様と呼ばれた少女…ユーリ・ゾンネカイザー・ドゥルーシの言葉に

侍女一同は罰の悪そうな顔で目を逸らした。


「ジルベル・ルリエン・アマデウス・ドゥルーシ…我が実姉ながら

呆れ恐ろしいヤツよのぅ…」


…。


一体何百人収容できるのか分からないほどに広大な食堂に、

これまた何百人席につけるのか分からないほど大きなテーブルの上座に

たった三人だけ座っていた。とはいえ侍女たちが沢山並んでいるので

寂しさはこれっぽっちも感じられない。


「父上。他の兄様や姉様は?」

「私に習いすぎてもう朝食を済ませて公務へ向かったよ」


ユーリに答えながら一切の隙を感じさせないナイフ捌きとフォークの動きで

豪勢な朝食を口に運ぶのはカイン・マシーネンツァーリ・ドゥルーシ三世。


「はう~…眠いです~」


目を閉じたまま眠い眠い言いながらも朝食を口に運ぶ速度だけは

父カインに負けていない、全体的にけしからん発育をした体のジルベル。


「ジル…いい加減に目を覚ますのじゃ。父上の前じゃろうが」

「構わん…見ていて愉快だ…が、ユーリ。お前は脇が甘い、フォークは左手で扱え」

「うぐ…」

「いつ如何なるときも隙を見せるな」

「何故ジルは良くてわらわは駄目なのじゃ…?」

「アレはもはや暗殺者すら気を緩ませてしまう動きだから構わんのだ」

「理不尽じゃ…」


しばらく無言でそれぞれが各々のスタイルで朝食と格闘する三人。

メインが皮むき必須なヴァイスヴルスト(白ソーセージ)だから余計に

静かにしつつも真剣な顔つきになってしまう…のか?


「…はも? あふぇ? んぐ…もう朝ごはんでしたか~?」

「お早うジルベル。お前だけは起床時間を二時間ずらしても良いかもしれん」

「ふぇ? ふぁ!? お、お父様~? お、おはおはお早う御座いまふ~!」


ジルベルの言動に、こめかみに青筋を浮かべるユーリと

何処と無くニヤニヤした表情を浮かべているように見えるカイン。


「折角だ。お前達二人が私と朝食を共にしたのだから、このままお前達に

今日以降の公務を私から伝えよう」


待ってましたとばかりに姿勢を正すユーリ。

ジルベルは「んぐ?」と食べ物を喉に詰まらせたのか慌てて

コップに注がれた牛乳をあおる。


「我が帝国が先日アウグストゥス王国と電撃同盟締結したのは知っているな?」

「勿論じゃ父上」

「え? ビリビリしちゃう同盟って何ですか~?」

「ジル! そういう意味の電撃ではないぞぇ!」

「フッ…まぁ良い。その後使節団を派遣し、彼の国の真意も図れた。

よもや本当に同盟を望んでいるとは思わなかったのだがな」

「ふむふむ…」

「ふぇぇ…」

「実際同盟は完全に締結した。そこでお前達の出番が必要となったのだ」

「おお…」

「ほぇぇ…」

「使節団の返礼としてアウグストゥスからは即座に親善大使がこちらに派遣されたが、

ついつい仕事の忙しさにかまけて我が帝国側からは大使を送りそびれたのだ。

これでは我が国の誠意が示せぬ。そこでだ、お前達二人にはアウグストゥスへ

帝国大使として、以降は向こうで我が帝国の公務を執り行ってもらいたい」


……。


…。


ケンタウロス型ゴーレムに牽引される馬車に揺られながら、

ユーリは複雑な表情を浮かべていた。


「父上は…ジル諸共わらわを人質込みで…」

「ほわぁ…あたり一面ブドウ畑ですよ~ユーリちゃん~」


大使は基本的に代えの利く人材を登用するものだが…そうでない場合は

相手国に対して「人質代わりにしても良い」という意味でも使われる。

逆に言えばそれだけ相手国に信頼してもらいたいという表れでもあるが…

また少しだけ裏を返せば「人質程度の役には立つ」という意味でもあるので…

ユーリが何ともいえない表情になるのも無理は無かった。


「所詮三位…帝位継承権三位以下…わらわが甘んじすぎた結果じゃ…」


ちなみにジルベルは継承権十八位…そういう意味ではユーリより酷い。

生まれた順に継承権が決まらないのはドゥルーシが何気に実力主義を

取り入れているためだ。それゆえにユーリも良い待遇だったが…


「しょっちゅう脇が甘いと言われておるが故なのか…?」

「ふぇ…? ブドウ畑の次は…変な葉っぱ畑ですね~…何の葉っぱでしょうか~」


ユーリもふと外を見る。なるほど確かに変な葉っぱ…!?


「煙草の葉ではないか…! そうか、ブドウと二毛作を…!」


煙草はその高値にもかかわらず平民から貴族まで幅広い愛好者がいる。

ドゥルーシ本国では早々に工業化したため、近隣諸国を併呑するか貿易しなければ

満足に煙草などの嗜好品の類が得られない。


「しかし煙草の葉は病気に弱い…だからこそ市場価値も高いというのに…」


多分アウグストゥス王国は何らかの手段で煙草の葉を

病気を気にせずに大量に栽培する手段を得たのだろう…

それでいて煙草を欲しがる連中はドゥルーシにはそれこそ腐るほどいる…

なるほどアウグストゥス王国がドゥルーシとの同盟を希望した一因は

これなのだろう…とユーリが考えを巡らせていたら


「たいちょー…ここにいるかな…?」


自分達の護衛を任せて同乗させた冒険者の女がそんなことを呟いた。


「うん…? お主、先日の戦いで部隊長とはぐれたのか?」

「へ? あ、いやボクは違うんですよ…ボクの場合はずっと前のことですよ…」

「ふぅむ…良ければ聞かせてくれぬか? わらわは余所の話を聞くのが好きでな」


本当は一人で何かを考えてばかりいるのが嫌だったのもあるが、

吟遊詩人や冒険者の話を聞くのが好きなのは紛れも無く本当のことだ。

どのみちアウグストゥス王国の王都カエサルに着くまでずっと馬車の中なのだ。

ユーリはその冒険者が「じゃあ、聞いてください」と言って語りだす言葉に

耳を傾けることにした。


…。


「そうか…最後の任務だが、いつも通りその"たいちょー"とやらの元へ

馳せ参じようとして…」

「そのまま変なメー…指令書を受け取って流し読みしてたら、

いつの間にかノースジャックって国の近郊に居たんですよ…」

「ぐぅ~…すぴ~…んにゃ~…」


神隠しに遭った者の話は殆ど聞いたことが無かったユーリは、

ついついもっと話を引き出そうと質問をしていく。

ちなみにジルベルは昼寝していた。ユーリはそのムダに大きな胸の脂肪の塊を

思い切り形が変わるまで乱暴に揉みしだいてやろうかと一瞬思ったが、

空しくなる気がしたのでやめた。


「ノースジャックは帝国よりも面倒くさい階級社会じゃから、

大変じゃったろう?」

「ホントですよ…貧民街スラムには期待していたガチでムチムチで

ほんのり汗臭そうなおじ様なんて影も形も無いですし…

貴族様は貴族様でなんか線の細い所謂イケメンか

テラキモスなメタボ親父とかエロジジイばっかりで超つまんないですし…!」


時々聞いた事のない単語が飛び出してくる事にも興味が尽きなかった。

やがて馬車の向こう側に絵画で見たことのあるアウグストゥスの王城が見えてくる。


「おぉ? もうじき王都カエサルじゃ! こらジル! 起きろ!」

「…ふぇ? もう晩御飯ですか~?」

「ええい! これでも食らえ!」


ユーリは手のひらからゴルフボール大の水弾出してジルベルの顔面にぶち当てる。


「はぶゅ?! ふぁぐ…酷いよユーリちゃん~」


とりあえずユーリはジルベルにハンドタオルを投げつけ、

馬車が止まるやいなや外へ飛び出した。


「あ! ちょっとお姫様? 先に出ちゃったら護衛のボク達の意味が?!」


先ほど身の上を語っていた女がユーリを慌てて追いかけた。

だがユーリは馬車の外に飛び出したが、馬車のすぐ傍で王都を眺めており、

何処かへ駆け出したわけではなかったので、女が心配するような出来事は無かった。


「おぉ…帝城とは違ったおもむきがあって美しいのぅ…

絵画で見るよりも綺麗じゃ…」

「お姫様~? 一応私に『クリアリング』させて下さいよ…」

「くりありんぐ?」

「あ、いえ安全確認ですよお姫様?」

「ユーリじゃ」

「え?」

「わらわの名はユーリ・ゾンネカイザー・ドゥルーシ…まぁユーリで良い…

…っと…そういえばお主の名前を聞いておらんかったな」

「あぁ…えっと…ボクの名前はシラギ…じゃなかった…

アルチョム・ベラドラケンって言います…ボクもアルクで良いですよ」

「ふむ…? お主女なのにドゥルーシ北方の男児のような名前なのじゃのう…?」

「あ…まぁ…ボクの名前には色々と事情がありまして…」

「まぁ良いわ。アルクよ、短い間かもしれんが、よしなに」


冒険者には王侯貴族の暗部に匹敵するような

身につまされる過去を抱えた者もいると知っていたユーリは、

アルクのことを深く追求しなかった。


「いえ、こちらこそですよユーリ…様?」

「じゃからユーリで良いのじゃ。話を聞かせてもらった礼代わりじゃ」

「ユーリちゃんはいつも誰かと仲良くなるのが早いですね~…あ、

私はジルベル・ルリエン・アマデウス・ドゥルーシって言います~

私もよくジルって呼ばれるので~ジルで良いですよ~」

「あ、はい。こちらこそですジルさん」

「ジルで~良いですよ~?」


微妙に苦笑しながらアルクはジルベルと握手も交わした。


…。


馬車と護衛に報酬を渡して解散させた後、

(アルクは厚意でアウグストゥスの役人と会うまで護衛をしてくれるとのこと)

一時間ほど指定されていた冒険者ギルドで待っていたのだが、

痺れを切らしたユーリはジルベルとアルクを連れて王城まで向かっていた。


「全く…アウグストゥス人は時間にルーズじゃと聞いておったが…

一時間も遅刻するとは何事じゃ…! 仮にも大使とはいえ

帝族のわらわ達を蔑ろにしてタダで済むと思うなよ…!」

「まぁまぁユーリ…アウグストゥスにはドゥルーシみたいにあちこちに

時計があるわけじゃないから…そればかりは仕方ないよ」

「しかしアルクよ…お主は"たいちょー"に長時間待たされても平気なのかぇ?」

「たいちょーに会えるなら何万年でも待ちますよ(キリッ」

「………」


どうにも"たいちょー"なる人物を心酔しているらしいアルクに

聞いた自分が馬鹿だったと思っていたユーリの前に、道を行き交う

民衆の中に混じるアウグストゥス騎士の中でも明らかに浮いた風貌の騎士を見つける。

もしかするとアウグストゥスの偉い騎士かもしれないと思ったユーリは、

その騎士に話しかけようとして


「た…た…た…たたたたたたたた…!」

「んむ? どうしたのじゃアルク?」


その騎士を目にしたアルクがプルプル震えながら「たたたたたた…」と

ぶっ壊れたように言い続けることに不穏を感じて止まった。


「たたたたたたたたたたたたたたいちょおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


アルクは前を行き交う民衆を微塵も気にせず次々と弾き飛ばしながら、

例の騎士に向かって一直線に突き進んでいった。軽く残像を残して。


「?」


例の騎士はちらりとアルクを一瞥したら、

自分に向かって両手を広げて飛び掛ってくるアルクを、

アルク以上に素早く残像を残しながら無情で避けた。


「ぉぉぉヴふっ?! …かはっ…」


避けられたアルクはそのまま地面に激突した。


「何かすごく懐かしい感じがしたな…」

「クリークフォース副隊長を髣髴とさせる動きでしたね、ギヨーム様」

「…やめろ。あの野朗のことはあんまり思い出したくないんだ」


何処からとも無く現れた『可視精霊』と思われる存在からギヨームと呼ばれた

騎士は、煙草に火を点けながら、地面に激突したまま

ピクピクしているアルクに銀色の霧のようなものをぶっ掛けた。


「………やっぱり…」

「ん?」

「やっぱりたいちょーだ! ギヨームたいちょー! ボクです!

アルチョム・ベラドラケンです! あの時はおじ様スタイルでしたけど!

地球連邦軍第17部隊『クリークフォース』大隊副隊長のアルチョムです!

今まで黙ってましたけど、ボク女です! 本名は白城優希しらぎゆうき

間違いなく生まれたときから女です! 男じゃなくてごめんなさい!

でも実は設定ネーム気に入らないんで今後はアルクって呼んでください!

あああおおおおたいちょーに会えたあああああよかったあああああ!!」


銀色の霧に包まれたかと思ったアルクが、電光石火で飛び起きて

矢継ぎ早にギヨームに言葉を浴びせかける様に、ユーリはどうしたらいいのか

隣で?????状態のジルベル並みに困っていた。


ミッション4「太陽王国は早かった」に続く

投稿は明日以降…今日はもう出ないよ赤だm…ごめんなさい

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