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ミッション3「勢いでやらかした停戦からの同盟」

久しぶりの連投いっきまーす!

空には煙を吐き出す数多くの鉄塔が如き煙突がそびえる工場地帯。

土を魔術で生成して作った魔導コンクリートでならした道路には

アースリザードと呼ばれる馬より大きな四速歩行のトカゲを駆る騎士や

時折体の数箇所から蒸気のようなものを噴出するゴーレムに牽引される馬車などが

きびきびとした動きの手信号を合図に整然と行き交っている。

道を歩く兵士は金属製のゴーレムと見紛うような全身鎧姿。

一般国民ですら何かしらのプレートメイルを着用している。


「ジークスラーヴァ! ドゥルーシ!」

「われらはムテキのドゥルーシきしだん!」

「いざおとせやノースジャック!」

「コウマンなフラヌベルガーもやっつけろ!」


流石に子供はプレートメイルを装着していなかったが、

細かく作りこまれたおもちゃの刀剣や仮面をつけてごっこ遊びに興じている。

もう言うまでもないことかもしれないが、ここはドゥルーシ帝国。

かつて統一帝国の一師団に過ぎなかったドゥルーシ騎士団から始まった大帝国。


「今週の帝国新聞見たか?」

「ドゥルーシの東南調査兵団が音信不通になったってヤツか?」

「新聞では黒い光がどうのこうのって…」


冒険者が集う酒場ではそんな話が囁かれていた。

聞き耳を立てているのは見た目からは想像できないほどに存在感が無い初老の男。

『アウグストゥス七騎士』の一人ゾンゲルである。


「後方部隊が先遣部隊からの通達で駆けつけたころには

わずかばかりの物資とかを残して誰一人居なくなってたんだってよ」

「待てよ。ご自慢のゴーレム兵はどうしたんだ?」

「影も形も無いってさ」

「おいおい帝国新聞らしくない内容だな」

「いや内外の鼓舞か痛烈批判だけのよりは部数取れるだろ…」

「通達じゃあアウグストゥスの国王と接敵したから意気揚々だったとか」

「んでさっきの件だろ? こりゃあ本陣からそこそこの部隊が

送り込まれるんじゃね?」

「一週間は掛からないな」

「四日だな」

「ノースジャックなら翌日だぜ」

「バカ野朗。あの戦闘民族国家と何だかんだで慎重なドゥルーシを一緒にスンナ」


冷えたエールを一息で飲むゾンゲル。


「ふむ…一旦帰りますかな」


何気に酒代を置かずに席を立ったのは突っ込まないでおこう。


………。


……。


…。


聞きなれないアラーム音に叩き起こされるギヨーム。


「おはようございますギヨーム様。連邦標準時間で朝7時ですよ」


半端なく眠そうな顔でギヨームは窓の外を見た。空が白んでいる。


「現地時間だと朝5時になっているかどうかすら怪しいんだが…」


寝ぼけ眼を擦りながらギヨームはアイテムストレージから煙草を取り出して

いつもの様に喫煙しようとし、激しくむせる。


「ぶっほ!?」


しかしそれで目が覚めたギヨームは、首を傾げながら色々と見回す。


「ログアウト」


沈黙。


「接続終了」


沈黙その2。


「システムコール。ログアウト」


沈黙そのs…ギヨームはメニュー画面を開いた。


「………」


スライドできそうなところをスライドしまくる。


「………えー……」


今度はむせないように気をつけながら煙草を吸うギヨーム。


「…っていうかメールの送信先…地球連邦諜報部って何?」

「何を当たり前なことを仰るのですかギヨーム様。

ちなみにメールは圏外ですので救難信号以外出せませんよ?」


トリスの言っていることも何かおかしかった。

本当に問題が発生したとき、トリスはムカつくイケボではなく

無機質にもほどがあるロボ声でヘルプナビに入るはずなのだが、

どういうわけかムカつくイケボのままだ。


「おいおい…バグかよ」

「ギヨーム様の脳内がですか?」


流石に銃は自重したギヨームは、デカい騎士剣をトリスめがけて振り下ろした。

無論テレポートで避けられるが、ここはやっておかねばならんのだ。


「………」


ギヨームは落ち着かない様子で部屋をうろうろする。

数分後、間取りを把握してなかったが故に

タンスの角に小指を強打して飛び上がった拍子に

すっ転んでベッドの柱に頭を強打する。


「…! …!! …!!!」


声にならない叫びを上げながらのた打ち回るギヨーム。

打った所から妙な感覚がしたので手をやると


「出血…してる」


思えばあの時最初に撃ち殺した獣や捌いている怪鳥から漂ってくる血なまぐささ…

リアルではキツくて呑めない銘柄の酒や煙草の味…

ついでに言えば寝る前に感じた尋常じゃないレベルの汗臭さ…

出会った面子との酒宴でのやり取りもそうだった…


「……おいおい…まさか…ガチでリアルな『異世界』ってやつ…?」


ギヨームは頭の怪我を『ナノリメイカーα』で治療した後、

ベッドに腰掛け、枕元の灰皿で煙をくゆらせていた煙草をゆっくりと吸い直す。


「辟易するわぁ…」


とはいえこれしか馴染みの煙草もないし、紫煙と一緒に深呼吸をすれば

色々とぐじゃぐじゃになった頭の中に平穏が戻ってくる。


「わからんことも多いな……………が、今は仕方ない」

「自己完結できたようで何よりですギヨーム様」

「トリス…俺の生活圏を確保したいんだが」

「……せっかくこの国の王族と恩着せ側な知り合いになれたのですから、

それを利用するのが手っ取り早いでしょうね」

「と、なるとこの国の国際問題に係ることも増えるって事だが…」

「…生体レーダーに反応があります」

「!?」


ギヨームは反射的に素早く装備を固め、

ついついドア向こうに「クリアリング」を行おうとして


「おや、熱心ですな」


普段は存在感が無いくせに

アップで見ると心臓に悪い濃い顔の初老騎士ゾンゲルが眼前に登場。


「どわあああああああああああ!?」


思わず発砲しそうになったのをトリスに止められたギヨームは

ゾンゲルの後ろにウィンダリアウスとシュリール、

そして謎の美少年っぽい人物を合わせた三人が立っていることに気づく。


「おーいゾンゲル。その職業病大概にしとけよー?」

「いやはや…どうにもドアに近づくときは気配を殺したくなりますもので」

「しかしギヨームさんは凄いですね。

ゾンゲル殿がドアに立っていることに気づくなんて」

「え? あー…」


ギヨームは頬を掻いた。するとトリスがギヨームに信号を送ってくる。


「(どうやらこちらではサーチ系のエレメンタルアーツは

発展していないのかもしれませんね)」

「(多分な)」


念のため体内通信で会話をしたギヨームとトリス。


「……今、そこの『精霊』と何をしたの?」

「んん?! 君もしかして女の子か!?」


トリスとのやり取りに何か気づいた美少年…

かに思われたが実は美少女だった騎士シオンの質問に質問で返すギヨーム。


「……それは、見れば…わかる…はず…………はず…」


表情は変わらないがどんどん落ち込んでいく雰囲気を醸し出すシオン。


「おいおいギヨームさんよ。うちの最強騎士ちゃんを泣かせるなよー?」

「あ、いやそんなつもりじゃなかったんだが…」

「流石ギヨーム様。外道修了者ゲスマスターは伊達じゃありませんね」


トリスを何とかしてとっ捕まえようとするギヨーム。

だが捕まえられない。ギヨームのストレスは上昇一方通行だ。


「朝っぱらから大所帯で悪いなーギヨーム」

「いや、大所帯って…」


そこでギヨームは先日の酒宴でのやり取りを再び思い出す。

今ここに並んでいる四人はアウグストゥス王国最高戦力である

『アウグストゥス七騎士』の面々であるということに。


「…あぁ、確かに大所帯だな。何かあったのか?」

「それこそ先日の大逆転劇に端を発することでございますな」


聞けば"趣味も兼ねた"ゾンゲルのドゥルーシ帝国潜入捜査で、

先日の一件がドゥルーシ帝国軍本営に伝わり、数日中に

前回よりも大規模な調査兵団が組まれることになったという事だ。


「神隠し再現のつもりで頑張ったんだがなぁ…」


ギヨームは後々のことを考えて

「ドゥルーシ兵の死体とかヤバそうなモノは片付けた」

つもりだったのだが、


「どっちにしろ不振がられるさ、しょーがねーよそればっかりは」


とウィンダリアウスに突っ込まれて終わった。


「で、だ。恥を忍んでアンタの―」

「おk、いいよ」

「―力を借りたいって…良ーのかよ!? まだ話にすらなってねーよ?!」

「じゃあ歩きながら詳しく…話の内容次第では俺からちょっとした提案もあるし」

「提案って?」

「…この国にはドワーフとか亜神族エルフもいるんだろ?」


………。


……。


…。


東南調査部隊の音信不通から数日…

ドゥルーシは近い将来の大戦に備えて数千機の有人ゴーレム兵を用意していた。

それだけでは不安だったのかあまつさえ新型のゴーレム兵も用意していた。

それは今までの近距離戦闘特化から一線を画した超長距離砲撃を可能とする、

近接戦闘主体だった今までの戦争の形を左右しかねない新型だった。


「この部隊をアウグストゥスごときに使うかもしれないと思うと…

少々勿体無い気がするなぁ」


新型の隊長機を駆るドゥルーシ軍東南方面大隊長は

そんなことを言いながら行軍の指揮を執っていた。


「獅子は兎を殺すのにも全力を尽くすものですよ隊長」

「そうですよ。我がドゥルーシは如何なる相手にも油断無く全力を示す大国だと

いうことを各国に伝えるには又とない機会なのです」


そりゃそうだと相槌を打った大隊長は遠見の魔術で前方を確認した後、

部隊に全体停止の号令を出す。


「敵部隊は…連隊か?」

「正確には8000人規模の四連隊ですね」

「流石はアウグストゥス。兵の命を第一に考えているゆえの兵力だな」

「兵力だけなら我が軍不利ですが…

…連中がどんな逃走劇を見せてくれるのか楽しみですね」

「フラヌベルガーの連中よりは多少、梃子摺てこずるだろうがな」


そんな感じで軽く笑いあうドゥルーシ軍だったが、

遠見の魔術で前方を確認し続けていた兵士の一人が言った言葉に

その場が騒然とすることになる。


「報告! 敵部隊から一人…妙な光沢の金属鎧を着た騎士が…」

「騎士がどうした」

「そ、空を…空を飛びました…! く、雲に突っ込む高さまで!」

「は?」


…。


高度を滞空するギヨームは俯瞰でドゥルーシ軍とアウグストゥス軍の配置を見ていた。


「あー…テステス…『魔導通信機』の感度チェック…本陣どうぞ」

「こちら本陣。感度良好なり、感度良好なり…どうぞ」

「数だけで見ればこちらの有利。が、敵陣営に千近いゴーレム兵と

未確認ゴーレム兵百十数機…新型と予測される…どうぞ」

「こちら本陣…ってちょ、陛下何を――

――よーギヨーム。アンタほんとに空にいるのか? こっちからじゃ

太陽が眩しくてアンタの姿がロクに見えないんだが?

っていうかこの『魔導通信機』便利だな…伝令兵の百倍は使えるぜ? …どーぞ?」

「あのー王様? 俺が言うのもなんだけど、一応段取り守ってくれません? …どうぞ」

「おいおいギヨーム。俺様のことはウィンダルで良いってば…どーぞ!」


正直ギヨームはウィンダリアウスから緊張感を感じられないのは

流石に如何なのだろうと思っている。


「えー…俺からの報告を聞いてはいるから余計かもだけど、

敵勢力には新型と思われるゴーレム兵が百十数…150機いる。

推測だから鵜呑みにはしないで欲しいが、この新型…両肩部分に

馬鹿でかい大砲と思われる武装が搭載されている。多分長距離から

こっちを攻撃してくるタイプだ。だから距離をつめないと一方的に

られるだろうから、俺がちょっと『絨毯爆撃』じみた攻撃を仕掛けて

敵の動揺を誘ってみるから、手前の爆撃が止み次第微速進軍してくれ…どうぞ」

了解スィ。『絨毯爆撃』の意味は微妙に分からなかったが、

敵陣営に相当ヤバそうなことをする事だけは何となく理解したぜー。

一応終わったらもう一方よろしく頼むわー…どーぞ」

「王様…いや、ウィンダル…終わりっぽいときは『どうぞ』要らないから…どうぞ」

「えっ? そういうモンなの?」


通信機を道具袋にしまうギヨーム。


「……まぁ、うん。異世界だもんな…風情とか…期待しちゃ駄目だよな」

「ギヨーム様がバカなのがいけないのだと思いますね」


ギヨームはトリスに銃を乱射した。


「さて…行きますか」


ギヨームは「対宇宙戦艦バズーカ≪インペリアルダウン≫+211」を装備し、

ドゥルーシ軍が展開されている方面へ滑空した。


…。


空から何か光が放たれたと思ったとき、新型ゴーレムが配置されていた陣営が

閃光と爆音を伴う大爆発を起こした。


「何だ!? 何が起こった?!」

「そ、空から! 空から砲弾のようなものが…!」


空から飛んできた砲弾のようなものは、次から次へとゴーレム兵が配置されている

部隊を中心に降り注いでくる。ドゥルーシ兵士達はパニックを起こしていた。


「総員部隊を一旦散会させろ! 絶対に固まるな!」

「隊長!」

「何だ今度は!?」

「アウグストゥスが進軍を…!」

「くっ…! 各員迎撃準備! 固まるのは五人小隊までだ!

軍馬戦車チャリオット部隊はどうなっている!?」

「未だ馬が制御しきれません!」


無理もない。爆音と閃光で動揺しない馬はいないのだ。


「仕方ない! 前線はアースリザード騎士中隊と切り替えろ!

アウグストゥスめ…! 一体どんな戦略魔法を開発したというのだ?!」


…。


俯瞰視点の画面を見つつ、超長距離連続爆撃をしながら

ギヨームはトリスに戦況を確認する。


「味方は何処から動いた?」

「定石どおり先陣から動きました…が、先頭に王様がいますね」

「ウィンダル…! やっぱりアイツ猪武将だったのかよ…」

「あ、クラップフェン様に殴られて下がりましたね。

先頭はスヨーヴィン様…ザ・イケメンに切り替わりました」

「……じゃあいいや」


ギヨームは敵前線のすぐ傍まで降りる。背後に味方の進軍を確認した後

近接武器を「ニンジャスレイヤーANK+243」に換装する。


「対物理フィールド、対火炎、対雷撃、対光学、対波動シールド展開!」


ギヨームの体の周りが黒い陽炎のようなものに覆われ、

回転する赤、黄、白、紫の盾のような障壁バリアに囲まれる。


「トリス! 痛覚遮断機構ペインアブソーバーの最大レベルは?!」

「……地球人類生命維持限界は10までです」

「レベル2までを許可しろ!」

「甚だ不本意ですが…痛覚遮断機構、レベル2解除します」


…。


ウィンダリアウスは目の前の光景に良い意味で現実味を感じられなかった。


「ハハッ…こいつぁすげーや!」


数十分前にギヨームが空高く飛び上がったことにも目を疑ったが、

今現在自分よりも先でドゥルーシ兵相手にこれまた見たことのない光り輝く剣を

振り回して敵をヤマドリタケの如くサクサクと切り倒していくのだ。


「せっかく貰った"この剣とか"も役立つ前に終わるんじゃねーの?」


ウィンダリアウスが見つめる剣は、ギヨーム曰く

亜神族魔月銀イシルディン精神感応金属オリハルコンの合金」から

鍛え上げられた一品…しかも大量生産品仕様だという。

ちなみに亜神族魔月銀イシルディンとは、昨今はメジャーすぎて有り難味の薄れた

魔銀ミスリル亜神族エルフの秘術でさらにパワーアップした金属だ。

伝説などではマイナーだが、聖剣や魔剣の材料になることも多い超希少金属である。

一度試し切りをしたから分かるのだが、これほどの一品が大量生産品だと

述べたギヨームの言葉は信じられなかったが、

「鍛冶師はドワーフと一眼鬼サイクロプスが中心? …ちょっと待ってろ」

と言ってその翌日にはこの剣を何十本も持ってこられた日には

正直目を回しそうになったものだ。


「この鎧…丈夫さに反して部屋着が如く軽い…一体全体どんな作りをしているのだ…?

かつての我が祖国の技術を以ってしても作れるかどうか…」


ウィンダリアウスをぶん殴って本陣先頭まで連れ戻したクラップフェンを初め、

先陣を駆るスヨーヴィンを除いた『アウグストゥス七騎士』や

精鋭部隊などの兵士達が剣と同様の材料で作られた防具の感想を語り合っていた。


「材料に現実味を感じられないですけどねぇ…」

「でも、ここに存在する事実は否定できない」

「……副隊長マウナ様…銀の装備が似合いすぎる…!」

「シオンちゃ…シオンきゅんマジ天使…!」

「美少年と美青年の白銀騎士アルジェントカヴァレリーア…!」

「…!? な、何? 何なの?! 貴方達その目を止めなさい!」

「寄るな…失せろ倒錯者ども…!」


美少女と美女を男装させて倒錯するアホどもを見て

頭を掻き毟りたくなったウィンダリアウスは、抜剣して皆の注目を集めた。


「聞けぇ! 今敵前線は混乱の渦だ! 我等に味方したギヨーム殿が

今その一身に敵を引き付けている! 受けた恩を今返さずは

アウグストゥスの恥だ! 総員抜剣せよ! 負ける戦は漏れなく逃げよ!

勝てる戦は逃さず勝つべし! 今こそ全軍! 突撃とぉつげきぃぃ!!」

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」」」


銀色に輝くアウグストゥスの大兵団がドゥルーシ軍に向けて走り出した。


「陛下…結局突撃するのですか…」

「しょーがねーだろクラップフェン。

これはマウナちゃんとシオンちゃんの為でもあるんだぜ?

つーかゾンゲル何処だよ?」

「スヨーヴィンの後ろに続いて先陣でしたが」

「………ずるいぜじーさん。俺様だって先陣したかったんだぞ?」

「ゾンゲル殿はスカウト力が高いからこそ許しているのです」

「俺様王様のはずなのに権限薄くない?」

「良き国家は王族が自重することから始まります」

「お前の祖国自重してねぇじゃん」

「……だから抜けてきたのですが」

「あ、やべ、最後尾じゃん! ちょ! 俺様の分残しておけよー?!」

「やれやれ…」


…。


ギヨームが大暴れしている前線から少し離れたところにドゥルーシ軍本陣。


「報告! アウグストゥスが全軍移動を開始しました!」

「一気呵成過ぎて笑う気にもなれん! というか前線のあのバケモノは何なのだ!?」

「情報が殆ど存在せず不明です! アレが空から大量の爆撃をしてきたことだけは

確認済みなのですが…!」

「私が聞きたいのはそんな言葉じゃ――」


大隊長を初めとした本陣中央が

前方から信じがたい速度で迫り来る砂煙をまとった物体に

オガクズのように吹き飛ばされ、砂煙が晴れたところからギヨームとトリスが現れる。


「……あれ? この辺に敵部隊の隊長っぽいのが居るはずなんだが」

「タクティカルアーツ:ストームチャージで突っ込んだ拍子に

一緒に吹っ飛んでしまったと考えられます」

「マジで…あ…マジだ…っていうかグロいな…人の部品が転がってる…」

「何を当たり前なことを仰るのですかギヨーム様。推定時速1058キロで

体当たりされてバラバラにならない生身の人間は何処にもいないでしょう?」


何気に会話しながら「ミーティアX-AMHM+95」を乱射して

幸か不幸か巻き込まれなかったドゥルーシ兵たちを蜂の巣にしていくギヨーム。

そんな様子を見た他の無事なドゥルーシ兵が戦意喪失したのは言うまでもない。


「ひぃぃ! 命だけは…!」

「ギヨーム様。降伏勧告ですよ」

「やっとか…爆撃の段階で早々にしてほしかったんだが」


今まで「地上で大規模な」近、中距離で戦ってきたドゥルーシ兵の誰もが、

まさか「たった一人から高々度から爆撃を受け、そのまま近距離で蹂躙される」

などと夢にも思っていないはずだ…無茶を言うなという話である。


…。


「……驚きましたね…敵本陣がすでに壊滅してますよ」

「流石ですな、ギヨーム殿」

「あ、お疲れ様です」


ギヨームが投降してきたドゥルーシ兵達に縄を掛けていたところへ

騎馬に乗ったスヨーヴィンとゾンゲル率いる部隊が到着した。


「ウィンダル…ああいや王様は?」

「陛下がいる本陣はまだ抵抗を続ける残存敵勢力の掃討中ですね」

「帝国方面へ逃走および移動をした連中もすでに追撃部隊を向かわせましたな」

「…あんまり聞きたくないんだけど…こちら側の死傷者は?」

「調子に乗って大怪我をした連中なら軽く二千人を突破しましたが、

驚いたことに死者は0ですね。いやぁ…この防具の凄いこと凄いこと…

ギヨーム殿! この防具は一体どんな仕掛けが施されているのです?!」


鼻息荒くギヨームの肩を掴んでくるスヨーヴィン。


「落ち着いてくれスヨーヴィンさん。そういう話は

国に帰ったら鍛冶師達に聞けばいいだろ?」

「! そ、そうでしたね…いやぁ申し訳ない…ついつい気になると駄目ですね」


ギヨームから一歩退いて頭を掻くスヨーヴィンと肩を竦めるゾンゲルを見て

少し気が抜けたギヨームは煙草に火を点けた。最初に咽るのはご愛嬌かもしれない。


「ってことは、アウグストゥスの勝利も目と鼻の先ってことだな…」


ギヨームはそう呟いて魔導通信機を取り出す。


「こちらギヨーム。本陣…いやウィンダル。まだ通信機持ってるんだろ?

応答せよ。どうぞ」

「おーう! こちら俺様! すげーなギヨーム! こっちからでも

分かるくらい敵本陣グッチャグチャじゃねーか! 今残存勢力掃討中だけどよ。

もう生身百十数人とゴーレム兵十数機しかいねーから。ちょっと待ってろよ!

…おいそこ! 取り逃がすなって! ドゥルーシ本国に情報を渡させんなよ?!

…なぁギヨーム。いっそこのことをさっさとドゥルーシに教えてやっても良くね?

あ、どーぞ」

「ドゥルーシにも多分俺らが開発した魔導通信機に

近い通信手段は持ってるはずだから、そこは今更話しても仕方ないな。どうぞ」

「そうかそうか。でもまぁこれでドゥルーシの奴らも暫く大人しくなるな!

…うを危ねぇ! 大人しく寝てろこの野朗ッ! おっと…どーぞ?」

「その様子だと大丈夫そうだなウィンダル。

俺の通信機ゾンゲルさんに渡しておくから、後の連絡はゾンゲルさんに頼む」


通信機からウィンダリアウスの「アンタはこれからどうすんだ?」等といった

声が聞こえるが、かまわずゾンゲルに渡すギヨーム。


「お預かりして宜しいのですかな?」

「ちょっとまだやることがあるんだよ」

「やる事ですか? ってあれ? ギヨーム殿?」


スヨーヴィンは確かにギヨームを見ながら聞き返したはずなのだが、

瞬きした瞬間にギヨームの姿は消えた。これにはゾンゲルも驚いていた。


……。


…。


蒸気機関のような何かの駆動機関のエネルギーで自動演奏をする

パイプオルガンに良く似た巨大な機械を背景にした玉座の間がある。

玉座の天井からは、垂れ幕状に加工されたドゥルーシの軍旗と国旗が下がっている。

玉座には誰も座っていないが、そのすぐ前に顎に手をやりながら立つ男が居る。

男は静寂を打ち破るように言葉を発した。


「戦闘、敵勢力アウグストゥスノ謎ノ空中攻撃ヨリ開始…か」


ドゥルーシ帝国は遠く離れた人々とのやり取りに帝国の技術研究機関が開発した

「魔導電信機」を使うことで、未だ伝令に飛脚や伝書鳩、早馬などを扱う他国とは

一線を画した新鮮な情報交換ができる。ちなみにギヨームが開発した

魔導通信機との違いは持ち運びには少々難な大きさと、

通信機のような音声ではなく、魔術で記述された文章でのやり取りだろうか。


皇帝陛下カイゼルンツァーリ。まだ最初の電信です。

敵の何らかの作戦に無様に騙された可能性がございます」


最初に言を発し、皇帝陛下と呼ばれた男こそ、

カイン・マシーネンツァーリ・ドゥルーシ三世…

大ドゥルーシ機士帝国の第三代皇帝その人だ。

まだ四十に満たない年齢にもかかわらず、その貫禄は見る者達の息を飲ませる。


「プローツェ大公家にバーストリオン最大侯爵家…

そしてファンガリア辺境伯爵家の帝国御三家縁の兵達も居るのにか?」


ドゥルーシ三世は自分のすぐ傍に控える帝国御三家の総代三人を一瞥してから

自分に意見をしてきた大臣の一人を見やる。


「い、いえ…そんなつもりでは…」

「ご報告参上仕りました!」


玉座の間に駆けこみ、一旦停止した後綺麗に跪く兵士。


「申せ」

「……はっ…戦況、我ガ方不利。正体不明ノ人型怪物、我ガ軍蹂躙セリ。

至急増援サレタシ…で、ございます」


カインと帝国御三家以外の面々は各々目を瞠ったり狼狽を始めた。


「静粛に、プローツェ大公爵」

「はっ…誤報と考えるのは早計でしょう」

「バーストリオン最大侯爵」

「魔導電信機を装備した斥候は既に放っております」

「ファンガリア辺境伯爵」

「増援準備は整っております」

魔導戦車クラントヴォルフは?」

「抜かりなく」

「では…」

「いや、もう全部終わってるから」

「「「「「!?」」」」」


いつの間にかカインの前には見たことの無い光沢を放つ鎧を着た

見慣れぬ男…ギヨームが立っていた。


「貴様ぁ! 何者だぁッ!」


一番近くに居たプローツェ大公が魔力を帯びた剣を抜いてギヨームに斬りかかる。


「やめとけって」


プローツェ大公の剣は確かにギヨームの首目掛けて叩き込まれたはずだったが、

小気味良い音を立てて大公の剣は綺麗に折れた。

ちなみに折れた刃はくるくる回って玉座にサクッと刺さる。


「……!」


色々な意味で口をパクパクさせてしまうプローツェ大公。


「おのれ侵入者め!」


取り巻きたちが懐から魔導小銃を取り出しギヨームに撃ちまくるが、


「だから意味無いってば…あーでもマシンガンも既に開発成功してたのね」


ギヨームの体に命中した銃弾は先端がひしゃげて足元に転がるだけ。

無論傷一つ付かない。弾切れして初めてその事実を知った取り巻き達は茫然自失する。


「バ、バケモノめぇ!」


激昂したバーストリオン最大侯が周りの空気が揺れるほどに

両手に充填した魔力の塊を放とうとする。


「止せ、最大侯。玉座の間が壊れる」


カインがそれを静止した。


「流石ドゥルーシ皇帝陛下。話が早くて助かるよ」

「何者だ…貴様もしや邪神マグナデウスかその眷属か?」

「いや、人間だよ…一応? っていうか何この懐かしい感じ」


あれ程の攻撃を何の苦も無く防いでただの人間なものか…! と思ったカイン。

顔にこそ出ないが、カインの背中にはおびただしい量の汗も噴出していた。

鎧とマントが無かったらバレるレベルだ。


「今回は手荒な歓迎でしたねギヨーム様」

「「「「「!?」」」」」

「『可視精霊』だと…?!」


ギヨームの傍にパシュンと音を立てて何処からとも無く転移してきたトリスに

その場に居た者達は無論。流石のカインも驚く。


「お前の登場もここの皆さんには今は手荒だと思うぞ」

「おや、それはクソマスタ…いえ、愚主共々失礼いたしました。

私はこちらの外道修了者ゲスマスターギヨーム様の『シーカー』を勤める

トリスAS-0982と申します。お気兼ねなくトリスとお呼びしやがれ下さい。

ご希望なら様付けでも結構だ遠慮すんなですが」

「おいトリス。その口上はこの場全てに対する盛大な侮辱と受け取れそうなんだが…

…まあ、今回に限っては問題ないか」


気がつけばカインの鼻の穴に愛用のリボルバーを突っ込んだギヨーム。


「むぐ?!」

「皇帝陛下!?」

「こここここの、ぶぶぶぶぶ無礼者がぁ!」


取り巻き全員が抜剣や詠唱を始めようとしたが、


「止せ。二の舞だ」


カインの一声で全員が苦しげな表情を浮かべながら大人しくなる。


「ごめん。突きつけるつもりが勢い余っちゃった…」

「構わん…どの道我々の不利に変わりは無い…して、貴様の目的を聞きたい」

「慧眼痛み入ります皇帝陛下…非常に面倒くさい事を承知で言います。

どうか俺の味方するアウグストゥス王国と、迅速な同盟締結をお願いしたい」

「ふ…確かに面倒事だな…もし断れば?」


ギヨームは何処からとも無く馬鹿でかい樽のようなものを取り出して、

カインの真横に置いた。置かれた瞬間軽く地響きがする。


「この"大量破壊炸裂爆弾ハイパーナパームボム"をドカンと一発しようかな、と」


カインはギヨームが爆弾と言った樽のようなものを見つめる。

そこからはおどろおどろしいレベルの魔力が感じ取れた。


「概算ですが、アレを爆発させたらこの城の上半分くらいが無くなる計算です。

少なくともこの玉座の間に居る面々は"俺を除いて誰も助からない"自信があります」

「言ってくれるな…」


これがブラフならどれほど楽しかっただろうか…カインはそう思った。

だが先ほど見たように、ブラフと見抜くには困難な魔力が篭っている大樽を見せられ、

下手な攻撃はまるで通用しないギヨームなるこの男の目が…

かつて大規模な破壊作戦を命じた自分と同じ、狂気者と紙一重な

達観者の目をしていたのが、カインを現実に嫌でも引き戻してくれた。


「…その案を飲もう」

「ふぅ~…マジで爆発させなくて済んで良かったわ…」


ギヨームは大樽に寄りかかって一服をする。


「…じゃあ同盟締結のために色々とお話したいことがあるんですよ」

「あまり突拍子の無い話はするなよ。大公どもの精神が持たんぞ」


こうして後に「七日戦後同盟」と呼ばれるアウグストゥスとドゥルーシの

電撃同盟締結が始まった。


ちなみに話を終えて帰還したギヨームが事の顛末をウィンダリアウス達に話したが、

ドゥルーシからの使節団が来るまでの半月はまるで信じてもらえなかったそうだ。


ミッション4「太陽王国は早かった」に続く


連投の反動がスランプというフラグに繋がるかもなのはご愛きょ…ごめんなさい

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