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ミッション2「俺と連中の戦力差にドン引き」

とりあえず浄司は一回カメラをOFFにする。


「トリス。ここの大気組成教えてくれ」

「ヘルメットを被っていない状態で今更言う事でしょうか…?

………解析完了……大気組成は窒素50%、酸素40%、地球宜しく微量元素1%ですね」

「9%足りないんだが」

未源物質ダークマターです。エレメンタルアーツの発動が可能なようです」

「マジかよ…所謂”魔法”も使えるって事か…!」


浄司は改めてカメラをONにして、百十数キロ離れたところにある都市を眺める。


「…エルフがいる」

「地球で言うところのオーガもいますね」

「…普通に手から火球を出したな」

「ギヨーム様もエレメンタルアーツ使えるじゃないですか」

「アレは…まぁ…十分魔法…だけどさ」

「で、どうするのですか? そんな何処からどう見ても『宇宙そらから来ました』

としか主張できないような格好でそのままカチコミですか?」


もう面倒くさいので浄司はトリスに愛用のリボルバーを六発ぶっ放した。

トリスは近距離をテレポート移動できるので当たらない。


「残念ですか?」

「知ってる」


浄司はアイテムストレージから「バルシェム星人騎士騎士剣+87」

「バルシェム星人の騎士兜+27」「バルシェム星人の騎士鎧+35」

「バルシェム星人の騎士盾+41」「バルシェム星人の騎士靴+19」を取り出して

今現在の装備を背負ってる銃剣以外それと取り替えた。


偽装ギリースーツとしては及第点です」

「うるせえ」


騎士と銘打たれてはいるが、このシリーズに冠されている「バルシェム星人」とは

≪アブソルト・ユーゲント≫では広大な銀河帝国を築く怪物異星人である。

故にここでもオーバーテクの塊なのだが、意匠デザインとしては

騎士に見えないこともないだろう。


「文明レベル16世紀相当なら銃剣は槍と言い張れば何とでもなる…!

拳銃もまた然り…!」

「地球の16世紀を舞台にした三銃士なんて作品がありますものね」

「良く知ってるなトリス」

「しかし今はあれも最期は腐り果てて…ダルタニャンがアラミスと…」

「ニャメロン!(やめろと言いたかったが噛んだ)」


浄司はこの後小一時間ほどトリスに愛用のリボルバーをぶっ放し続けた。


………。


……。


…。


「生きてるかシュリちゃーん?!」

「どうにか!」


アウグストゥス王国東側防人部隊は着実に追い詰められていた。

敵の御旗は見忘れようもない黒十字…人が乗れるゴーレムを完成させ

それを半世紀かけずに戦闘用へ昇華させ戦線に浸透させた

アウリシア西北の超大国ドゥルーシ機士帝国だ。


「やー…参った参ったwちょっと肩慣らしでシュリちゃんの調査隊にお邪魔したら

その先でこれだもんなぁwww」


笑いながら向かってくるドゥルーシのゴーレム兵を中の人間ごと切り捨てる

アウグストゥス王国現国王、ウィンダリアウス。


「ウィンダル様! 笑えません!」


ウィンダリアウスを叱咤しつつも群がる敵を所謂「回転切り」で吹き飛ばすシュリール。

ちなみにこの二人以外は直属の精鋭部隊以外全員敗走している。


「多寡が200の兵力差…されど200の兵力差ってかー…」

「せめて三分の一が生身なら…!」


無いモノねだりをしても現実の戦力差は埋まらない。

如何にウィンダリアウスとシュリールが一騎当千の魔法騎士であっても相手が悪い。

敵は『機士』と呼ばれる有人ゴーレム兵を軽く数千体以上保有するドゥルーシだ。

『アウグストゥス七騎士』全員が揃っていれば話は変わるかもしれないが…


「あの男だ! 炎熱卿フレイムロードウィンダルを何としても討ち取るのだ!」


「ヤツさえ倒せればアウグストゥス王国は我らが帝国ライヒの手中も同然!」


国王であるウィンダリアウスは前線に顔を出しすぎなのだ。

敵に異名もろとも素性が知られてしまっているのも最早どうしようもない。


「ばーか。そう簡単に俺様が討ち取られるかっ……てーのぉ!!」


ウィンダリアウスは剣を両手持ちにして気合を込める…すると剣から

尋常ではない規模の火炎旋風が顕現する。

第七階位魔法剣『焦熱地獄剣ジェナエム・イグニス』である。

それを己目指して殺到してくるゴーレム兵十数機に勢い良くぶちかました。


「ガァアアァァア?!」

「火炎耐性を…突破しただとぉ…?」


まともに食らってしまったゴーレム兵はその場に蹲る。ゴーレム兵そのものは

それほど傷を負ってはいないが、中の人間が高温に耐えられるという保障は無いのだ。


「怯むなぁ! 後方部隊が到着すれば最後は我らの勝利である! 貴様らは

あの二大騎士どもの体力を削りさえすれば良いのだ! 押して引けぇ!」


色使いが違う指揮官と思われるゴーレム兵が叫ぶ。

ゴーレム兵達は専用のボウガンや投擲武器に装備を切り替えて残存勢力を展開してくる。


「ジリ貧だなー…」

「陛下! もうお引き下さい!」

「おいおーい? 俺様がシュリちゃんに殿しんがりやらせると思ってんのー?」

「こんな状況でふざけるのは止めてください! 貴方が倒れたら

王国の存続もヘッタクレも無くなってしまいます!」

「どっちにしろ七騎士が一人欠ける時点でアウトじゃねー?

どーせだからゾンゲルかスヨーヴィン辺りが来るまで死ぬ気で頑張ろーぜ?」

「敗走した兵士達をアテにしすぎです!」


思いつく限りの遠距離魔法剣術で敵部隊を迎撃しつつもシュリールは

ついつい額を押さえてしまう。


…。


「……言語解析できたか?」

「太陽系言語とベルタ星系言語の類似率が共に70%を越えておりますね」

「つまり問題ないって事だな?」


先ほどの戦場から数百メートル離れた草むらからそれを眺める浄司とトリスは

俯瞰視点のカメラ画面も見つつ淡々と会話をしていた。


「それで、どちらに加勢するのですか?

もちろん外道修了者ゲスマスターなギヨーム様は多勢に無勢な

あの黒十字の旗側ですよね?」

悪漢ピカレスクロールプレイは嫌いじゃないが、

俺は小学生時代から多勢に無勢ってのが大嫌いなのを知ってて聞くんだな?」

「勿論です。しかしながら勝利は目前だと思っている相手の

鼻をへし折った挙句に足元を掬うゲス行為になるとはご理解してやがりますか?」

「本当にお前ってヤツは…」


浄司はリボルバーと銃剣にジャム等が無いかを確認する。


「銃剣の弾は…620発か」

「あの有人機の耐久力次第では…ムダ撃ちに厳重注意でしょう」

「可能ならばブッ刺してからのゼロ距離ファイアを心がけるよ」

「何にせよ接敵してみるしかないのでしょうね」


まずは小手調べのためにリロード弾数∞の愛用のリボルバーと

バルシェム星人の騎士剣+87を装備する浄司。


「この距離から当たるかな…?」


…。


肩で息をするようになったウィンダリアウスとシュリール。

数メートル手前には相変わらずドゥルーシ機士が何十体も布陣している。


「直属兵も殆どやられちまったなーw」

「…本気で笑えませんよ陛下」


まぁアウグストゥス王国兵達は負けそうになったら基本逃げるので

死人は数える程度しか居ないのがある意味救いだ。


「ク…ククク…天下のアウグストゥス七騎士もたった二人ではな…!」


ドゥルーシ機士団の指揮官が二人の前に歩いてくる。


「おーい。言っておくがもうお前は俺様の間合いに入ってんだぞ?」

「ふ…私が死んだところで帝国が終わるわけじゃない…だが、貴様はどうなのだ?

アウグストゥス国王陛下殿?」


指揮官の目配せに一斉にボウガンを構えるゴーレム兵達。


「出張ってきちゃってサーセンw」

「………ぬぐぐ…!」


不利な状況にも係らずニヤケ顔を見せ付けるウィンダリアウス。


「…無駄な悪足掻きをするなと言ったところで、

貴様らは最後の最後まで抵抗するのだろうな」

「当たり前だろー? 俺様はこれでもアウグストゥス統一皇帝の直系だぜ?」

「……ここで正統王国の歴史が潰えてしまうのは悲しいですが、

意地を通せずに死ぬのは騎士としてもアウグストゥス人としても恥です…!」

「……ごめんなシュリちゃん」

「謝るのは無事に生き延びれたらにしてください」


浅く呼吸をしたウィンダリアウスとシュリールは鬼の形相で武器を構える。

その気迫にドゥルーシ兵達も思わず一歩退く。


「く…! 良かろう! ならばその意地と共に死n」


ドゥルーシの指揮官の後方に居たゴーレム兵数体が突然倒れる。


「「「!?」」」


突然の事態にウィンダリアウス達も思わず目をみはる。

尚も後方のゴーレム兵達は倒れていく。見れば彼らには場所こそ違うが

その殆どが綺麗に風穴を空けられていた。


「な…何だ? 何が起こっプフェ――」


指揮官の頭が綺麗に吹き飛んだかと思えば生身の兵士達の十数人も同様に

頭を綺麗に吹き飛ばされて倒れていく。

ドゥルーシ兵全体に混乱が起こるのもお構い無しにどんどんゴーレム兵も

生身の兵も風穴だらけにされて倒されていく。


『Aaa, Dameda yappa toosugi te heddosyotto

seikouritu gekihiku dawa』


「…? 何だ…? 言葉…っぽいよな?」

「!? 陛下! 敵の東後方から見慣れない鎧姿の騎士が…!」


見慣れない鎧姿の騎士は、先進国のドゥルーシ帝国でさえ

未だ単発ポンプアクション連射が限界だとされている銃…

だがあの騎士は未だリロード無しで五連発が限度とされている"拳銃"を

半端ではない速度で連射しながら走ってくる。


「何だあの化け物は?!」

「接近戦だ! 下手な間合いを取るな!」


何とか冷静に対応しようと接近戦に動いたゴーレム兵だったが、


『ore no senaka ni seotteiru kenn wo miroyo?』


謎の騎士は背中に背負った、

体長とほとんど変わらないサイズの剣らしき物体でゴーレム兵たちを

中の人諸共チーズのように斬ってバラバラにしていく。


「うわああああああああ!?」

「戦線が持たない!!」

「矢の雨だ! それで牽制しつつ後退しろ!」


指揮官が死んでもあまり混乱が見受けられないドゥルーシ兵たちは流石かもしれない、

しかし…


『Aite ga warui … kana?』


謎の騎士は必死にボウガンを撃ちまくるゴーレム兵を優先して「撃ち」倒しつつ、

背を向けた兵士たちは異常な速度で追いついて切り捨てていく。


「た、たった一人にドゥルーシの機士部隊が蹂躙されていく…」

「本気出したシオンたんでも蹂躙ってレベルまではいかねーな」


シュリールとウィンダリアウスは自分たちがすっかり傍観していることに気付くのは

謎の騎士がドゥルーシ兵を「全滅」させてしまった時のことだ。


…。


「あんまり経験値にならないな」

「どう考えても戦力差が有り過ぎます。一方的な展開に何かを得られるのは

運よく生き残った弱者だけでしょう」

「変に深いな」


ギヨームはいつも通りに喫煙をしようとして、むせる。


「忘れてた…ちょっとずつ吸おう」

「まるで赤ん坊のようです」

「お前が高高度に居るのが分かってるだけにむちゃくちゃ腹立つな」


現在もトリスは高高度、それもギヨームのほぼ真上に滞空しながら彼に

俯瞰としての戦場の見取り図を送信し続けている。

ギヨームの独り言に必ずコメントを添えながら。


「それでギヨーム様。先ほどから貴方を

雁首揃えてボケーっと眺めている現地人がお二人いますが…?」

「…お前まさかこの会話も全部通訳したりしてんじゃないだろうな?」

「…しまった! その手があったか!」


浄司は無言で上空に銃を乱射した。当たらないのはわかっている。

だが撃っておかねばならんのだ。

しかしその行動で傍観者だったシュリールとウィンダリアウスが我に返る。


「えーと…? おいトリス。こっち降りて通訳機構を起動してくれよ」

「不本意ですが了解しました」


シュパシュパと音を立てながら近距離テレポートを繰り返して降りてくる

トリスを目視確認して、ギヨームは兜を脱いだ。


「%$#……人間?」

「UHGVC…顔だけはそれで間違い無いみてーだな」


ギヨームは現地人であるシュリールとウィンダリアウスが喋っている言葉が

ちゃんと聞き取れることを確認したのち、頑張って笑顔…

社会人時代の営業スマイルの名残を作った。


「お、ちゃんと言葉が通じたな」

「!? ひ、人の言葉を喋った?!」


いちいち驚く二人の反応にはもう慣れっこだ。

≪アブソルト・ユーゲント≫時代でもこの手のイベントは嫌と言うほど見ているのだ。


「やぁどうも。街に行こうと思ってたら、何やら看過できそうにない事態を

目撃したものだから、ついつい少数勢に加勢してしまったんだが…不味かった?」

「……」

「……」


ギヨームの定型文じみた挨拶…警戒を解くなら多少すっ呆けた様子を見せたつもりだが、

シュリールもウィンダリアウスも警戒色を示したままだ。

ギヨームは固まった笑顔のままで体内通信で自分の周りを鬱陶しくウロウロする

トリスに話しかけた。


「(おいトリス。この二人やりにくそうな感じだぞ?

ちゃんと通訳機構働かせてんのか?)」

「(類似率70%ですからね。30%の誤差で

通訳に不具合があったのかもしれませんね。例えば英語の分かる日本人に

笑顔で「ファ☆キンジャップ」と言っちまったような)」

「(ちょ、だとしたら致命的過ぎじゃね?)」


ふと、ギヨームはウィンダリアウス達の後ろで倒れている兵たち…

アウグストゥス王国の騎士を見やる。

皆それぞれ大けがを負っているが、胸は上下しているようだ。


「あのさ、そこで倒れているお仲間さん達の治療とかしないの?」

「……血を流し過ぎて、もはや虫の息だってーの…」

「あー…でもまあ『首がつながってて心臓が動いているなら何とかなる』はず」

「何を馬鹿な事を言ってるんですか…!」


ギヨームはとりあえず警戒心むき出しな二人には近づかないようにして、

倒れている正に虫の息な兵士に近寄る。


「……おいトリス。どんな感じだ?」

「このままでは後10分で死にますね。間違いなく」

「10分も生きてるのか…体力凄いな」


ギヨームはアイテムストレージからファーストエイドキットを取り出し、傍に置く。


応急処置ファーストエイドキットだもんな…どれ、

ちょっとエレメンタルアーツの『ナノリメイカーΔ』で」


ギヨームはそう呟いて、天国の母親が見えるとか言い出した末期的な状態の

アウグストゥス兵に向けて手をかざす。するとその手から

銀色の霧のようなものがスプレーの如く噴射され、

兵士の体を顔以外綺麗に包み込んだ。


「おい!? テメー何を…!」

「どうかそのまま動かないでください。

ああ見えてギヨーム様は集中を乱しやすい豆腐メンタル野郎なので」

「トリス。お前こそが集中を乱す元凶だからちょっと口を慎め」


今にも飛び掛かってきそうだったウィンダリアウス達というか

ウィンダリアウスの顔面すれすれにトリスが現れ、制止する。

ちなみに銀色の霧のようなものに包まれたアウグストゥス兵は

何とも言えない顔をしながらも、安らぎに満ちた表情を浮かべ始めている。


「あーそうか…内側の損傷が激しいから…へぇ…にしても丈夫だなこの兵士さん」


やがて銀色の霧のようなものが掻き消える頃には、傷口は愚か

来ていた鎧さえも綺麗になった状態で横たわるアウグストゥス兵の姿が現れる。


「「?!」」

「おいトリス。他に生きてる兵隊さんは?」

「この周囲では…132のうち58がどうにか生体反応を示しています」

「オッケー。じゃあ『ナノリメイカーΘ』を周辺に散布しちゃうか」


驚きのあまり固まってしまったウィンダリアウス二人を余所に、

ギヨームは銀色の霧のようなものをあちこちに転がっている

今にも死にそうなアウグストゥス兵たちにばらまいていく。


…。


「おいトリス。何で俺らは怪我を治してやった連中に剣を向けられてんだよ」

「常識的に考えてくださいギヨーム様。『首がつながって心臓が動く』という

条件だけで死にかけている人を助けられるのは27世紀相当の医療技術が前提です。

この惑星は16世紀レベル推定の文明なのですから」

「こいつぁ…やっちまったな俺」



ウィンダリアウス達も浄司が何をしてくれたのかは頭では理解しているつもりなのだが


「…あんた…魔族ディアーボロなのか? それとも人化できるドレイクか? 

…よもや邪神マグナデウスか、その眷属ってことは無いだろうな?」

「『目に見えるレベル』の精霊を引き連れている時点で不気味だと思いましたが…

陛下の推測も納得できます…!」


どうしても目の前の人物…らしき謎の騎士の底知れぬ何かに戦士としての

勘が継承を鳴らしているのだ。


「いや、一応俺人間なんだけど」

「嘘にしちゃー酷すぎるぜ。ただの人間に『人を死の淵から余裕で元に戻す』なんて

化け物じみたことが出来るわけねーだろ」

「おうふ…取りつくシマもねぇ」


少し胃が締め付けられそうになったギヨームと呼ばれた謎の騎士は

流れるように喫煙をする。


「ぶっほぅ!?」

「学習してくださいギヨーム様」

「だってよ…折角助けた連中と一触即発状態とかさ…

こんなもん吸わなきゃやってられねえじゃん…」

「ギヨーム様の兵装であれば、ここに居る60人くらい余裕でしょう」


ギヨームにトリスと呼ばれる『精霊』らしき光の球体は

何の感情もこもっていないような声で、そんな事をサラッと言う。

きっと事実なのだろう。自分たちではそのほとんどを敗走からの壊滅に

追い込んだドゥルーシ帝国の機士数百人をたった一人で…

しかもアウグストゥス七騎士でも本気じゃなければ一撃では倒せないゴーレム兵を

まるで害虫でも追い払うかのように打ち倒してしまったのだから。


「……本当にアンタは一体何者だ?」

「だから…人間だって言ってるじゃん…」

「正確に言うと地球連邦日本国出身地球連邦防衛軍

第17部隊『クリークフォース』大隊長ジョージ・ナミオカ。通称ギヨーム様です」

「名前以外は喋ってもしょうがないだろ!

…改めて言っておくが、ギヨームってのは愛称みたいなもんだ。

本名は浪岡浄司なみおかじょうじ。ナミオカがファミリーネームな」

「……ジョージはともかく、ナミオカって家名は聞かないな」

「どことなくソルデウス人の名前に似た響きがしますね」

「あの謎多き極東のか?」


そこからまた話が続かなくなって沈黙。


「よし、ここは一つ…飯でも作って好アピールと行こうじゃないか」

「あまり賛成できかねますが…相手も人間ですからね。妥当かと」


そう言いだしたギヨームはどこかで見たことのあるような調理器具を沢山…

何処からともなく出したのだ。これには全員が絶句した。

マジックボックスと言う見た目以上に大量にアイテムを保管できる魔道具は

宝物庫や兵士たちの倉庫などに多く転がっているのは周知だが、

とはいえマジックボックスは最小でも大樽なみの大きさがあるのだ。

だというのにギヨームはそれこそ懐から入るわけのない器具を多量に取り出したのだ。


「何をしや――」

「お静かに」


飛び掛からんとしたウィンダリアウスの前にトリスが現れる。

このトリスなる『精霊』もまたギヨーム同様得体が知れない。

それはこの『精霊』がこちらの言葉を瞬時に解してギヨームに何らかの方法で

通話させていることが見てとれたこともある。


「んーと…どうせなら現地の食材がいいな…お、おあつらえ向き」


上を見ていたギヨームがそう言ったかと思えばそのまま先ほどの銃を数発発射した。

ほんの数十秒後、ギヨームの前方に人間の五倍以上はある大きさの鳥が落ちてくる。


「か…怪鳥ヒュッケム…!」

「遥か彼方の空の王者が…ハエみたいに落とされた…?」


驚愕するウィンダリアウス達を他所に


「おいトリス。こいつ食えるのか?」

「ええ、問題ありません。肉質は地球で言うところの比内鶏クラスです」

「マジで?」

「マジです。悲しいことに私のスキャンは嘘偽りが出ません」


などと談笑しながらギヨームは嬉しそうに怪鳥ヒュッケムを捌いていく。

実に手馴れた手つきだ。


「おお、身離れが良い鳥肉♪」

「人間にとっては美味の類でしょうね」


あっという間に鳥が綺麗に捌かれ、これは見たことがあるボウル…のような器に

胸肉やモモ肉、臀部ボンボチ肝臓レバーとこれまた綺麗に盛られる。


「あーっと…ソースはどうするかな?」

「ここは無難にトマトで良いのでは?」


実に淡々と会話をするギヨームは、再び懐から…トマト…に良く似た野菜を取り出し、

まな板で細かくしっかり刻んだ後、小さな竈のような装置にフライパンらしき容器を乗せ、

竈に火口なしで点火し、軽快に炒めていくと…

それは嗅ぎ慣れた香りがするソースに…というか…


「え、ちょ、それマンマの…ゲフンゲフン…もしかしてトマトソースか…?!」

「他に何に見えるんだ?」


もう後の手順はこちらでも見慣れた光景だ、一度ソースを別容器に移し、

軽く水筒から出した水で洗ってオリーブオイルを引いたフライパンで鳥肉を炒め、

ニンニクやら香草といったどう見てもこちらで見慣れた食材と調味料と

先ほどのソースをあれよあれよと合わせていくうちに…気づけば誰もが知っている

アウグストゥス国民の家庭の味、鳥肉のトマトソース煮が出来上がった。


「どれどれ…」


ギヨームはソースの絡まったモモ肉を一口。

一口噛み締めたかと思ったらガッツポーズらしきポーズを決めた。


「それじゃあ…」


次にギヨームは胸肉を一口。

しっかり咀嚼して飲み込んだ後…「くっそ…ワイン飲みたい」と一言。

気づけばウィンダリアウスは鍋のそばに近寄っていた。


「……ち、ちくしょー! 罠でも知ったことかぁ!」


ウィンダリアウスは笑顔のギヨームから差しだされたフォークと、

皿に盛られた鳥肉のトマトソース煮を受け取ってがっついた。


「普通に旨い! 行きつけの大衆食堂トラットリアにも負けてねー!

ちくしょー! 俺もヴィネ(ワイン)が飲みてー!」

「ずるいですよ陛下! 私だって食べたいのに!」


戦いの後の空腹にも負けたのだろう、シュリールもウィンダリアウス同様に

マンマの味とも言える料理に飛びついたのを切っ掛けに、我も我もと

アウグストゥス兵士達が料理に群がってくる。


「口に合って良かった良かった」

「まぁギヨーム様調理師免許取得してますからね」

「なーおい、お代わりくれよ! まだ食い足りないんだよ!」

「…とりあえずこの鳥肉を使いきれるだけ使い切ってしまうか」


こうしてギヨームは、アウグストゥス国王を初めとするアウグストゥス兵達の

胃袋ごと心を掴むことに成功した。


………。


……。


…。


汚いゲップをするアウグストゥス兵達のすぐそばには、

骨とか羽毛とかがとっ散らかっていた。何の骨とかは言うまでもないことだ。


「要するに、『世界の果て』にある故郷ニホン国から腕試しの旅に来たと…?」

「まぁそっちの尺度で言うとそうなるかな」

「『世界の果て』ですか…」

「そんな胡乱げな顔で見られてもな…」


ギヨームの話は荒唐無稽なことが多かったが、その実力や生活力を鑑みれば

全てを疑うのは騎士としてどうなのかと思ったので、ウィンダリアウス達は

「今は敵意なければ良し」と考えてギヨームの話を信じることにした。


「それで、ギヨームさんは近くの街を探していたと?」

「ああ。流石に連続の徹夜だからさ…宿屋で寝落ちログアウトしたくて」

「ろぐあうと?」

「あ、いや一眠りね、一眠り」


所々妙な単語を口走るのは異邦人が故なのだろうと割り切る。

何気にここまで数日ロクに眠っていないという話には少々驚かされるものの、

聞いていてなかなか楽しい話も多かった。


「ドゥルーシの連中を蹴散らしたのを見てなかったらよー、

未だにアンタのこと嘘つき呼ばわりしてたぜ」

「しかしドラゴン討伐ですか…お一人でなんて伝説の勇者みたいなことをしますね」

「伝説の勇者…?」


ギヨームは伝説の勇者グランヴェールの話を知らなかった。

アウグストゥス王国にはその子孫でもあるシオンがいるというのに。


「おいおーい♪ 流石に『世界の果て』で暮らす連中は知らんだろー?」

「陛下…? 何を飲んでいらっしゃるのですか?」


気づけばウィンダリアウスはギヨームと共に黄金色の液体が入ったコップを

片手に頬を軽く染めながらノリが軽くなっていた。


「水で倍に薄めても単純に20%だもんなぁ…(ギヨーム)」

「この"うぃすきー"ってのは旨いなー!

あの鶏肉が残ってたらツマミにしたかったぜー!(ウィンダリアウス)」

「ま、まさか…(シュリール)」

「まさかしなくとも酒ですね。酒精はワインの軽く三倍ありますよ(トリス)」

「ちょ…!」


流石にこれは駄目だと思ったシュリールは

「お酒は無事に帰還してからです!」と涙目のウィンダリアウスから

仕方なく酒を分捕った。


……。


…。


連れられるがままにギヨームがやってきたのはアウグストゥス王国。

古代アウグストゥス統一帝国の直系の子孫が起した「正統王国」と呼ばれる国だ。


「人間以外の種族が多いな」

「俺様の国以外だと多種族国家はアルメルリルカ公国くらいだからなー」


かつて統一帝国時代に数多くの属州や朝貢国を抱え、それゆえに

大量の異種族の奴隷を集めて発展した経緯がある。

ちなみに奴隷制度は先々代の国王が廃止したことに起因するが、

それによってアウグストゥス人の多くがエルフやオーガ、

ケモミミ獣人や有翼人種。果ては妖精や亜精霊の血を引く混血人である。

ゆえにその多くが戦闘と魔術の才に長けており、最下層の階級カースト

『開拓民』と呼ばれる日本で言うところの屯田兵みたいな人たちである。


「よーお前ら! 剣振ってるか?」

「あ、王様。はい、今日も元気に素振り千本ですよ」

「え、王様…?」

「ん? 言ってなかったか? 俺様一応この国の現国王陛下やってんだぜ」


一般のアウグストゥス人は「平民」ではなく「兵民」と呼ばれるのも

国民が基本的に何らかの軍職に係っているがゆえだ。

だが、そうであるからこそアウグストゥス王国が周辺国家から

安易に侵略やら領土侵犯されないのである。

実際先代国王の時代にスパルティアと呼ばれる鬼将軍が率いた百人程度の部隊で

数千人のフラヌベルガー軍を追い払ったという伝説があるくらいだ。


「あの、シュリールさん。あそこで下着一枚で走りこみしている連中は?」

「逃げる訓練でしょうね」

「逃げる訓練て…」

「本当は逃げながら武器防具に自爆魔法を付与して敵に投げつけながらやるのが

ベストなんだが。コストがアホみたいにバカ高くつくからあの格好なんだよなー」

「いやいやいやいや…」


基本的にアウグストゥス兵は「負けそうになったらさっさと逃げる」という

戦略を基本としているクセにふざけたものである。


「それで…俺の寝床を提供してくれるって言う話は…?」

「ん? 俺様の城の客間あるからそこ使えばいい」

「良いのか?」

「助太刀と上手い飯の礼ぐらいさせろよー?

俺様の国のヴィネはどれも口当たりの良い一級品だぜ?」

「むむむ…!」


口当たりが良いと言われては実はキツイ酒があまり飲めない

にわか酒好きなギヨームには魅力的だった。


………。


……。


…。


その日は初対面だらけにもかかわらず酒宴と化した。

ギヨームは痛覚遮断機構をうっかり使いそうになるほど飲まされたのだ。


「何だこの酩酊感…」

「体内にナノマシンが入っていなかったら間違いなく急性アルコール中毒で

ご臨終モノでしたね」


ギヨームはものすごくフカフカした布団が引かれたベッドに倒れこむ。

一回寝込んだとき痛かったのでアーマーの類はちゃんと外していた。


「状況の整理は明日ログインしてからにしよう…」


ギヨームはログアウトと呟き終える前に意識を手放した。



<ミッション3「勢いでやらかした停戦からの同盟」>に続く


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