ミッション1「ここは何処? 場違いは俺?」
ノリと勢いが多いので色々ご迷惑をおかけするかもしないかも…(どっちだよ)
VRMMOORPS≪アブソルト・ユーゲント≫…ただでさえマイナー域を出ないMMOに
VRとRPS(RPG+FPS)をくっ付けても大したことはない。結局終わらない制作に
運営スタッフが音を上げるのは何時の時代も変わりない。
そんな事を考えながら、浪岡浄司は硬そうな敵にヘッドショットを当てる。
常識的に考えて人型生物にヘッドショットを決めたら普通は即死するものだが、
ここはゲームだ。決まっても精々スーパークリティカルヒットで大ダメージ…
…おや、致命傷だったようだ。
「レベル差ウン百だしな…ようやくリアルに追いついたって感じか」
フルフェイスヘルメットを外した浄司は咥えた煙草に火を付ける。
VRであるがゆえの醍醐味なんて、どれだけVRで酒や煙草を呑んでも現実の肉体に
殆ど悪影響が無いってことくらいだろう。無論浄司の持論だ。
「ふぅー…」
浄司はステータス画面を展開した。
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【基本ステータス】
名前:ギヨーム(本名:浪岡浄司)
性別:男
年齢:27
種族:地球人類
【能力ステータス】
最大レベル:2567【NEXT:98709876】
最大HP:10234378
最大SP:5242099
腕力【STR】:1538790【大銀河級】
脚力【AGL】:2562390【超銀河級】
体力【VIT】:1229821【大銀河級】
<残りを表示する? Y/N>
【スキル】
ヘッドショット補正+3999
近接戦闘修正+82
ライディング技能+1224
身体強化+556
二丁・二刀装備+48
ハンドガンLv621
ライフルLv576
マシンガンLv955
ランチャーLv213
レーザー兵器Lv144
水中戦闘Lv97
電子妖精SSSS+
光学迷彩S
対物理フィールドAA++
対光学シールドSSS
対火炎シールドAAA+
対電撃フィールドSS
対波動シールドA+
超低温耐性SSSS++
超高温耐性SSSS+
【タクティクスアーツ】
極大フラッシュボム
インフィニティセイバー
∞フルファイヤー
ストームチャージ
ギガンティックアーマード【Lv576】
【装備】
頭:ギア・メドゥサ+298
武器1:星破砕銃剣≪エクセリオンカイザー≫+527【13/13】
武器2:対宇宙戦艦バズーカ≪インペリアルダウン≫+211【9/9】
武器3:超次元機構リボルバー≪ヴァルサーP380XXX≫+888【6/∞】
身体:イナーシャルキャンセラーVA+325
足:ブリットトレイン4DZ+445
【所持アイテム】
[ナイフ]プログレッシヴエッジ+199
[ショットガン]デーモンストライカーD4F+105【48/48】
[Bソード]ニンジャスレイヤーANK+243
[Fソード]バルシェム星人の騎士剣+87
[Hマシンガン]ミーティアX-AMHM+95【860/860】
[エクストラ]斬機神剣≪ゴッドブレイカー≫+7
[エクストラ]貫機神槍≪ディーティキラー≫+5
[エクストラ]断機神斧≪ダナーンルーイン≫+6
[エクストラ]スペースシップカッター+53
[エクストラ]MSG≪ヴェンジャンス≫
[エクストラ]MMS≪SHIDEN-ZERO≫
[エクストラ]MSS≪俺の宇宙ステーション≫
[ヘルメット]バルシェム星人の騎士兜+27
[アーマー]バルシェム星人の騎士鎧+35
[シールド]バルシェム星人の騎士盾+41
[グリーブ]バルシェム星人の騎士靴+19
ファーストエイドキット×254
Auインゴット【純度99,9999%】×65
Ptインゴット【純度99,9999%】×51
ダマスカスインゴット【純度99,9999%】×36
オリハルコンインゴット【純度99,9999%】×27
ミスリルインゴット【純度99,9999%】×21
フォトンメタルインゴット【純度99,9999%】×13
竜化石×8
高純度スタールビー×124
高純度ダイヤモンド×98
【所持金】
銀河連邦通貨:98765275Cr
バルシェム銀河帝国金属貨:2219062Re
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「俺は別に、課金厨ってわけじゃないんだ…」
言い訳である。このゲームも例に漏れず「カネさえ積めば無双できる」ゲームだ。
浄司は社会人であるが、廃人の領域に両足を突っ込み始める三十路手前の男だった。
しかしそれでも人生を楽しんでいるある意味プア充な男だ。
沢山の夢を諦めつつ自問自答しつつも、毎日を頑張り過ぎない程度に生きている。
「この努力もあと少しで消え去るって思うとなぁ…」
このゲームがあと数時間で全サービスを終了してログアウトしてしまうという現実に、
浄司は覚悟を持てなかった。コンバートのサービスは有難いが、
それでも積み上げたものすべてを持って行けないのが苦しかった。
浄司はその場に座り込み、そのままメニュー画面の時計と睨めっこを始める。
「あと二時間か…半端だな」
深夜…いや早朝4時を以って≪アブソルト・ユーゲント≫は
全てのサービスを終了し、以降のログインプレイヤー全てを強制ログアウトさせる。
「…メールか」
メニュー画面にメールがポップアップ表示される。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20××年 ×月△日 02:21
送信アドレス:www.#$%&#$%&ED#$&%#DFGS$.co.jp
件名:【重要なお知らせ】アブソルト・ユーゲント全サービス終了のお知らせ
本文:
平素は長らくのご愛顧、誠にありがとうございました。
本日×月△日の4:00を持ちまして、当社運営のVRMMORPS
「アブソルト・ユーゲント」の全てのサービスを終了させていただきます。
つきましては予期せぬ誤作動の予防も兼ねまして4:00までに
プレイヤーの皆様方には速やかに順次ログアウトをお願いしております。
尚、4:00を過ぎてもログインを続けるプレイヤーの方々には
非常に申し訳ございませんが、当社の権限をもちまして
大変不本意ではございますが、順次強制ログアウトさせて頂きますので
あらかじめご容赦下さい。
また、本日まで契約をしていただいたプレイヤーの皆様には
当社の新作VRMMORPG「アブソルト・フォルゼンクロニケル」への
無料で大規模コンバートサービスを承っております。
コンバートサービスにの詳細につきましては
以前に送信させていただきました告知メールのURL、
或いは当社ホームページの特設ページにログインしてご確認下さい。
本日までのご利用、誠にありがとうございました。
また次回作でお会いしましょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…ログアウト勧告ならもっと簡潔でも良いんじゃね?」
浄司はこれ見よがしに点滅するログアウトボタンを見つめる。
「…だが、断る」
浄司にとって、このゲームはストレスだらけの社会人生活に欠かせないものだった。
このゲームは彼の連徹の努力となけなしの給料を叩いてつぎ込んだ課金の結晶だ。
いかに次回作のコンバートが保障されたとはいえ、
諸々の都合上、その結晶全てが引き継がれるわけではない。
「何が悲しいって…
次 回 作 F P S 要 素 激 薄 じ ゃ ね ー か !」
この独白が全てである。
FPS要素が強いステータス等は一体何に置き換わるのか…?
あるいは碌に引き継がれないのではないのか?
…そう思うとどうしても素直にこのゲームから離れられない浄司だった。
「………はぁ」
新しい煙草に火を点ける浄司。
ついでにアイテムストレージから酒を取り出して呷る。
「…まぁ、五年間も楽しませてもらったんだから…しょうがない…しょうがない…
で済むならせめて俺のこれまでの課金を返してくれよ…」
そのまま小一時間ほど
何とも空虚な感覚に陥りそうだった浄司の眼前に再びメールのポップアップ表示。
「…?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20××年 ×月△日 03:57
送信アドレス:www.#$%&#$%&ED#$&%#DFGS$qwtyw/
件名:【非常にトテモ凄く重要ナお知らSe】
本文:
ジョージ・ナミオカ…いいえギヨームさン。
最後の最後マデこのゲームを遊んでくださっテ、ホントウにありがとうございマス。
ツキマシテは、ギヨームさんを初めとした
最後の最後まで居残ってくださったプレイヤーの皆々様にはログアウトと同時に
トクベツなコンバートをしたうえで、トクベツに&%$#&%$#&%$##&%$
&%$#で&#”$%’の&%#$です。
それでは、どうぞお楽しみ下さい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……何じゃこりゃ? って?!」
浄司がメールに返信をしようとしたその時。
画面が揺らぎ、ブラックアウトしたかと思いきやアナログテレビ風の砂嵐に包まれる。
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「此処こそが、誰が呼んだかは定かではないアウレシア大陸西南部…
イェシタリア半島南部に存在するは我等がアウグストゥス王国…
統一皇帝陛下アウグストゥス一世の治世より幾世紀…」
大広間に『アウグストゥス王国』国防軍参謀長の声が響く。
「ふぁぁあ…」
「陛下…」
欠伸をかみ殺せなった、陛下と呼ばれた若い男は
苦言を呈しようとする参謀長を見やる。
「いやぁ、すまんすまん…前振りの大始祖爺さんの話はもう良いって」
「…しかしながらウィンダリアウス陛下…
久方ぶりに我ら『アウグストゥス七騎士』が揃っておるのですから…
…そういう時だからこそ格式を重んじなくてはならぬのです…」
「いやぁ、わーかってんだけどよぉクラップフェン…
お前さんはーお前さんで、もうちーっとばーっかし軽くできねぇの?」
陛下ことウィンダリアウス・クリークフランヴェル・アウグストゥス九世は
参謀長に代わって苦言を呈した男、クラップフェンに言葉を返す。
「はふ…」
「ほっほっほ…シオンちゃんも眠そうだのぅ」
「ん…ごめんなさい」
「無理もねーってゾンゲル…ここ最近ドゥルーシ機士帝国の連中が
何の動きも見せねーからやけに不気味だし、
フラヌベルガー太陽王国の細作は鬱陶しいし…
アウグストゥス国王たる俺様ですら碌に眠れねぇってのは駄目だろ」
「いえ…陛下の場合は単に前線への出陣を自重すれば良いだけでは…?」
「うるせースヨーヴィン。そして黙れイケメン夜道で刺されろ」
「…流石に刺されるのはご勘弁願いたいですね」
「スヨーヴィン殿は確かにイケメンですからね。刺されるのも特権でしょう…
…どうせなら私に群がってくる倒錯した女子たちも惹きつけてほしいものです…」
「マウナ…最後のは貴女の宿命だから無理よ」
「…シュリール! 宿命って何よ?! 私はねぇ…!」
「ぬはははは! シュリちゃんとマウナさんは元気そうだなー!
よっしゃ会議終わったらそのまま三人で前線に返り咲こうぜー?」
どう見ても寝ぼけ眼な少女騎士シオン。
渋面の眉間に手を当てる大柄な騎士クラップフェン。
クラップフェンにも負けない大柄にも係らず、殆ど存在感を感じない初老騎士ゾンゲル。
何処から見てもさわやかなイケメンに見える騎士スヨーヴィン。
むくれっ面がなかなか可愛い中性的な顔立ちの女騎士マウナ。
見た目だけならシオンより若く見える小柄な女騎士シュリール。
そして寝不足だと言いつつ豪快に笑っているウィンダリアウス。
彼らはこのアウグストゥス王国はおろかアウレシア大陸でも
並ぶものはそうは居ないと謳われる『アウグストゥス七騎士』である。
「…お話を再開しても…?」
「あ、こいつぁー失礼。続きを頼むぜ参謀長」
「了解いたしました…それでは前振りは省きまして…
わが国とその周辺の大国との現状を報告させていただきたいのですが…」
「了解だ参謀長。対ドゥルーシ部隊からの報告は…」
堅苦しい言い回しで報告を始めるクラップフェンの話を要約すれば、
現在アウグストゥス北方のネアポリス自治区周辺で活発な動きを見せていた
ドゥルーシ陣営の姿が、数日もかからずに急に撤退したとのこと。
現在も追跡調査をしているようだが、ドゥルーシの動向の真意は未だ不明瞭だという。
「次はフラヌベルガーの動向ですな」
「おう、たまには長くても良いーんだぜ?」
見れば存在感が一気に増す風貌のゾンゲル曰く「少しばかり細作が多いので
処理班の再編を願いたい」と実に簡潔だった。
「南方の海賊だけど…」
「おう、悪い話は無しの方向でなー」
「陛下…」
ゾンゲルに「だから短すぎるんだってばよー」と突っ込むウィンダリアウスと
苦言を呈しようとしたクラップフェンを余所に
シオンが淡々と南方の海賊たちの討伐や海外の商船との貿易結果などの報告を述べる。
悪い話は無しの方向と言われたのに悪い話も織り交ぜているのはご愛嬌だろうか。
「だから悪い話無しっつっただろーが…まぁいいやそこは大臣たちに任せとくとして、
んじゃ次スヨーヴィンにマウナさんよろしくー」
「はい」
「畏まりました」
「えぇー!?」と総突っ込みな大臣達を尻目に、やや罰が悪そうな顔で
スヨーヴィンとマウナが城下町での最近の出来事を要点をわかり易く纏めて報告する。
「ほいほーい…まぁ俺様のお膝元でバカなことするバカは相変わらず少ないねー。
そいつぁ良~いことだ! ほんじゃあ最後にシュリたんヨロピコー」
「…陛下は時々ほんの僅かでも良いからクラップフェン殿の爪の垢を煎じるべきかと…
まぁそれはともかく…最後は私ですね」
数枚の羊皮紙を広げながらシュリールが担当している東方領土の状況を報告する。
「ふむふむー…? 要するに東側では相変わらず魔物だらけでー…?
たまに東側諸国の兵達がちらほら…? 冒険者どもは仕事してねーってことか?」
「いえ、情報源はその冒険者達が主ですが」
「ほーほー…後は何か変わったこととかあるかー?」
「…そうですね…あ、一つありました」
新たに小さな羊皮紙を一枚広げてその場の全員に見せるシュリール。
「黒い、光…?(シオン)」
「ふむ…ドゥルーシの領土にも若干近いですな(ゾンゲル)」
「うむ…帝国もとうとう尻尾を出したかも知れませぬ(クラップフェン)」
「属州や自治区からも義勇兵を募って王都の防衛を固めますか?(スヨーヴィン)」
「であれば、お給金の都合をつけなければ駄目ですねぇ…(マウナ)」
「そーか…悪いなシュリール。暇な時でいいから調査団編成な(ウィンダリアウス)」
「善処します(シュリール)」
何気にアウグストゥス王国の周辺は大変な状況な気がするが、
それをあまり感じさせないこの雰囲気は何なのだろう…と
参謀長や大臣達は首を傾げたくなるのを我慢していた。
………。
……。
…。
メール画面が自動で閉じたと思ったとき、
浄司は目の前の風景が一変していることに気づいて思わず愛用のリボルバーを構えた。
「! ……ん…?」
青い空、白い雲、燦々と輝く三つの太陽(?)。
そして爽やかな風に揺れる大草原がそこにあった。
「…これは一体…? おいトリス! ちょっと出てこれるか?」
「お呼びですか、マスタージョージいやクソマスタ…
ではなくゲスマスt………いえギヨーム様」
浄司がトリスと呼んだとき、何処からともなく鳩くらいの大きさの
ぼんやりと煌く小さな光の球が現れる。
「お? マジで着た…?! ってことはまだログアウトされてない…?」
「何故インしてもいない記録をアウトするのかは定かではありませんが、
ギヨーム様は私に用があったんじゃねぇのかこの野朗ですか?」
「間違いない…そのムカつく口調でイケボの光球…トリスAS-0982だな!」
「間違いなく私はトリスAS-0982だっつうのギヨーム様。
それで、私に何を求めるのでしょうか? できない事はできませんこのボケが、
ですのであらかじめご了承しやがれ下さい」
「……はぁ…ったく…此処が何処だか分かるか?」
「…周辺の地形情報をMMS≪SHIDEN-ZERO≫からのカメラを
参照しつつ解析します…しばらくお待ち下さい」
浄司にとっては聞きなれた駆動音を鳴らしながら頼まれた案件の処理を始めるトリス。
「はっ…トリスの独特な口汚さに安心するとか…俺もヤキが回ったかと思ったよ」
いつものように咥え煙草に火を点し、肺に有毒だけど病み付きになる煙を
いっぱいに吸い込もうとして
「うげっほ?! げえっほ!? んな?! リアルに煙草がキツい!?」
咽てしまったのでついつい銘柄を見るが、リアルでもお馴染み…
いやリアルではキツいので吸っていないが見慣れた銘柄だ。
「………」
アイテムストレージから先ほど呷った酒を恐る恐る一口飲む浄司。
「うおっ喉が灼ける…?!」
やはり浄司は酒も確認すればリアルでは殆ど呑めないが見慣れた銘柄。
そして何を思ったか愛用のリボルバーの銃口を手に当てて引き金を引いてみようとして
「トチ狂ったのならば良い精神浄化睡眠装置行きをお勧めしますが?」
「あ、すまんすまん…ペインアブソーバーの度合いを知りたくて…」
「鎮静剤は如何ですか? 痛覚遮断機構等という
非常事態専用機構の精度を試すなど、益々正気の沙汰とは思えねぇですよ?」
「気が動転しているのは認める…ところで此処が何処だか分かったのか?」
ヒュインヒュインと音を立てて浄司の周囲を旋回するトリス。
どうやら浄司をガチで健康チェックも兼ねてスキャンしたようだ。
「異常なし…ですって? そんなバカな…!」
「黙れトリス。いいから此処が何処だか分かったのか分からないのか言えよ」
「………不明だからこその言動だということをご理解いただけると思ったのですが、
やはりギヨーム様はギヨーム様ですね。ガッカリです」
「…黙れトリス。二言三言余計なんだよ…っていうか…
お前ちょっといつもより口が回るんじゃね?」
「何の話ですか。私はギヨーム様と違って二十四時間平常運転異常なしですよ」
「俺と違うって何だコラ」
半分本気で愛用のリボルバーをトリスに向けようとして、
ふと背後に気配を感じて思わず振り向き様に発砲する浄司。
「ギャィ――!?」
叫びきる間もなく銃撃を食らった獣らしき生物の頭が綺麗に吹っ飛ぶ。
「うわっ…グロい…!?」
「敵性反応はありましたので、ギヨーム様の発砲行為は正当防衛と認められます」
倒れ伏した獣の死骸を見つめる浄司とトリス。
「…スキャンしてみてくれ」
「…畏まりました」
獣の死骸の周囲を旋廻飛行しながらスキャンを開始するトリス。
やがて浄司の目の前にスキャン結果画面がポップアップされた。
========================================
グライエ星系スラッシュウォルフ類似【17.29%】
バルシェム星系アイアンハウンド類似【32.25%】
太陽系ウルフ類似【47.11%】
類似率が49%以下なので新種と認められます。
命名しますか?[Y/N]
========================================
「…とりあえず保留しとこう」
「宜しいのですか? 命名して認められれば連邦本部よりボーナスが出ますが?」
「使えるかどうかも分からない地球連邦通貨で出されても持ち腐れだろ」
「同感です」
「だったら聞くなよ」
「お約束かと思いまして」
「何のお約束だ…あ、そうだ地域情報はともかく…
何処かに人…原住知的生命体の拠点とかは近辺に無かったのか?」
「われわれの文明レベルで参照すると非常に原始的ですが
16世紀レベルの都市部と推測される場所なら西221km先にありましたね」
「いや、何処か分からない云々の時点で先に言えよ先に!」
「いつ気づくかとwktkして待ってました」
こいつマジで撃ち抜いてやろうかと思ってしまった浄司だった。
……。
…。
浄司はトリスの超々距離望遠カメラを介して件の都市部を覗く。
「……なん…だと…?」
「実に原始的な風貌ですね。ギヨーム様の装備なら近接プログレッシブ装備だけでも
3回くらいは制圧できる武装レベルです」
先のトリスの報告よろしく、浄司の目の前のポップアップされた画面には
何処から如何みても剣と魔法の世界な雰囲気満載の風景が広がっていた。
<ミッション2「俺と連中の戦力差にドン引き」に続く>
今度こそ一話のボリュームは一万文字程度で…!