エクササイズ・ディエゴ-5
ディエゴガルシア島 4月17日 1051時
F-15Cが滑走路にタッチダウンし、減速してエプロンに向かった。今回は佐藤は遊ばなかったようだ。ホーネットやファイティング・ファルコン、フランカー、ファルクラムも着陸する。
今回の演習は普段とは少し長めの2時間ほどになり、暫く飛んでいなかったパイロットたちには少し堪えたようだ。彼らはすぐにシャワーを浴び、着替えた後デブリへとオペレーションルームへと向かった。
そこにはすでにスタンリーが上座に座り、原田とリーが両隣に座っていた。
「さてさて」スタンリーが口を開く。
「今回の演習ご苦労だった。全員、腕は衰えていないな。まだここは完璧な状態でないのによくやってくれた」
オペレーションルームのモニターにはそれぞれのファイターパイロットのフライトレコーダーカメラも映像が流れている。
「さてさて、次回はどんな内容にするかは決めていない。だが、どんなシナリオにも対応できるよう、各自準備しておくように、以上」
スタンリーは締めくくった。
ディエゴ・ガルシア島 4月17日 1315時
C-5Bギャラクシー輸送機と、B747-8F貨物機が、相次いで離陸していった。その直後、Il-76"キャンディット"やAn-124"コンドル"輸送機が着陸する。これらの機体は、後方支援を頻繁に依頼する、"闇航空会社"が持つ航空機だ。
傭兵部隊が跳梁跋扈する昨今、彼ら彼女らの移動や、物質の輸送を支援するのをビジネスチャンスと見なした連中も現れた。連中の多くは、空軍出身だったり、または、操縦の腕は一流だが、かつて勤めていた航空会社から、性格的、人間的に問題ありとされて退職勧告を受けたり、更には馘にされたりしたパイロットたちだ。そうした連中が集まって、航空機を買い漁り、運送業を始めた。
貨物機の扉が開き、中から航空機の部品や整備用の機材、弾薬、トラックやジープ、タンクローリーといった車輪が出て来た。50人近い"ウォーバーズ"の技術・製品スタッフが、納品書と運ばれてきたものを照らし合わせ、きちんと注文通りの品が注文通りの数あるかどうか確認している。確認された物資は、更に検品を行う技術班に回された。
技術班は、特殊な検査機材を使い、ミサイルや爆弾、JDAMやペイブウェイ、KABの誘導キットなどの検査を開始した。傭兵部隊の増加で、国家以外の連中による武器の取り引きが拡大した今では、兵器産業の売り上げもうなぎ登りで、メーカー1社だけでは生産が追い付かず、主要な国防産業業界では、幾つかの中小メーカーと取り引きし、自社の製品をノックダウンまたはライセンス生産させることで、供給を拡大している。
しかし、中には悪質な業者も少なくなく、いい加減な製法で製造されたミサイルや爆弾による傭兵や軍の将兵の死傷事故が相次いでいるのも、また、事実である。そうした悪質業者は、事故がある度に、傭兵部隊のブラックリストに載り、一切の取り引きが出来なくなってしまったり、仲間を殺された恨みから、傭兵部隊から攻撃を受け、"全滅"させられた業者もあった。先人たちが、そうした痛い目に遭いながらも、粗悪な製品を売り付ける悪質業者は、未だに駆逐される様子はなかった。