エピローグ
ディエゴガルシア島 6月29日 1208時
長い滑走路にセスナ172Mが着陸した。ゆっくりとタキシングして、戦闘機やヘリが並んだエプロンにすっと入り込んだ。エンジンが止まると、中からは私服のポーランド人が出てきた。中央カフカス連合は2週間前に崩壊し、加わっていた傭兵は戦犯として訴追されることを免れるために世界中へ逃亡していった。今は、アゼルバイジャン政府やアルメニア政府がインターポールを通じて彼らを追跡していた。傭兵部隊は戦闘終了が宣言されると同時にカフカス地域から脱出し、また次の戦場へと渡っていった。
「よお。調子はどうだ?」
ビーチクラフト350の離陸準備をしていたスタンリーが話しかける。
「まずまずです。あれからだいぶのんびりさせてもらいましたから」
カジンスキーが答える。今日は、戦闘機による訓練を休み、それぞれが思い思いのやり方で一日を過ごす予定でいた。
「なるほどな。ところで、新しく人間を引っ張ってきたことは話したかな?」
「おや?聞いていないですね。いつやって来るのですか?」
「まあ、近いうちに来る。君らと気が合えばいいのだが・・・」
「大丈夫ですよ。戦闘機乗りは連帯感は強いですから」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
「ところで、ハワードやジョンはどうしています?捕虜になったことで、PTSDにでもなっていなきゃいいのですが・・・」
「それについては問題ないよ。奴ら、明日には夜間飛行訓練をすると言い出している」
佐藤はハンガーで私有しているL-39アルバトロスの離陸準備をしていた。燃料は満タンで、機体の調子も良さそうだ。ふと、人の気配を感じて振り返ると、原田が立っていた。
「なんだか楽しそうですね」
彼女はL-39の機体の周りをじっくりと見て回る。
「オレグにセスナを貸したからな。その代わり、こっちを操縦させて貰うことにした」
「練習機ですよね。乗った感じはどうです?」
「かなりいいよ。イーグルより飛ばしやすい」
すぐ外では、コルチャックがフリスビーを投げている。彼の愛犬であるラブラドルのハッセウィンドが空中でそれをキャッチした。
すると、佐藤は耐Gスーツとヘルメットを原田に投げてよこした。彼女は驚いたが、上手く受け止めた。
「乗ってみるか?AEWのオペレーターだと、外の様子がレーダー越しじゃないと見えないから退屈だろ」
原田は少し戸惑っていたが、すぐにそれらを身につけて後部座席に座った。
L-39がゆっくりと滑走路から離陸した。真っ直ぐ雲ひとつ無い青空を目指していく。しかし、佐藤はこの後、アクロバットと戦闘機動を行ったため、その仕返しとして夕食後に原田からのプロレス技の餌食になることは全く想像していなかった。




