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ウォーバーズ  作者: F.Y
侵攻開始~全面戦争
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決戦

 グルジア上空 6月10日 1204時


 バラーノフは戦闘機のコックピットに収まって、色々と考えていた。一体、何が間違ったのか。どこで歯車が狂ってしまったのか。目の前には、自分が築きあげようとした帝国の残骸が広がっている。だが、答えは既に見えている。傭兵部隊。奴らが余計なことに首を突っ込みさえしなければ、こんなことにはならなかったはずなのだ。だから、奴らに報復するのだ。アメリカに代わって『世界の警察官』気取りをしている、愚かな民間人共に。警察や国境警備隊で経験を積もうが、軍人上がりだろうが、所詮、PMCは民間人だ。奴らに戦争の何がわかる。奴らに、本当の戦争というものを教えてやろう。


「いたぞ。敵の爆撃機を発見。先に始末する」

コルチャックが2発搭載していたR-77の安全装置を解除した。このミサイルは射程が非常に長いので、爆撃機の撃墜に有効とされている。

「ロックした。FOX1」


 大きなミサイルが煙を曳いて飛んで行く。しかし、多くの傭兵部隊の戦闘機はまだ抱えているミサイルの射程に敵機を捉えていなかった。


 バラーノフはアフタバーナーに点火すると、マッハ2.8という驚異的なスピードで傭兵部隊に向かっていった。部下のMiG-23やクフィル等が後に続く。もはや破れかぶれの状態だった。


 最初のに戦果を上げたのはコルチャックだった。放ったR-37が2発ともTu-22を直撃したのだ。だが、敵もこのまま黙ってはいなかった。味方のミラージュ2000CやトーネードF.3が爆発して落ちていった。パラシュートは見えない。

「クソッタレめ」

 彼がぼやく。だが、うかうかしている暇は無かった。すぐに敵味方が入り乱れ、実にヴェトナム戦争以来の一大ドッグファイトが始まった。


 コガワは敵のクフィルに狙いを定めた。だが、相手は相当な手練れで、ロックしても、すぐに回避機動を取り、射程圏から逃れてしまう。F/A-18は敵機の動きにあわせて上昇、下降、旋回を繰り返す。そんな中、いきなりコックピットに警報が鳴り響いた。いつの間にか、敵機がレーダーでロックしてきたのだ。

「クソッ!」

 コガワは追跡を諦めて回避機動を取った。急上昇させて、上向きの旋回機動をする。しかし、後ろに付いたMiG-29はしつこく追ってくる。やがて、レーダーにロックされたとを知らせる警報が鳴った。ビー、ビー、ビー!

「クソッタレ!落とされてたまるか!」

 彼は既に空になっていたセンタータンクを投棄した。まだタンクは翼に2本残っているが、これで多少は軽くなったはずだ。しかし、ロックオン警報がミサイル飛来警報に変わった。

"ビービー、ミッソーアラート。ビービー、ミッソーアラート"

 機械的な声がミサイルの接近を知らせる。後、数秒で生死が決まる。今度は機体を上下逆さまの状態にして、急降下しつつ水平へと位置を戻す機動を試してみた。スプリットS。そして、上昇させながら、今度はチャフとフレアをばら撒いた。F/A-18Cの後ろに花火のような光と煙が飛び散る。ミサイルは騙されてくれた。落ちていく火球に狙いを変えると、真っ直ぐに落ちていった。


 グルジア上空 6月10日 1215時


 カジンスキーのMiG-29がSu-22を狙う。旧型の戦闘機はパワーで劣り、あっという間に接近を許してしまい、機関砲で穴だらけになった。次の獲物を探していると、Tu-22を見つけた。R-77を発射する。ミサイルは爆撃機の左側の可変後退翼の付け根に命中し、それを引きちぎった。今度は隣のバックファイアの翼に機関砲を浴びせる。爆撃機は回避機動を取ろうとしたが、ファルクラムから逃れることは出来なかった。


 コガワを追っていたファルクラムは、今度は自分が追われる番になっていた。傭兵のAV-8BハリアーⅡを見つけて追跡していた。しかし、ハリアーは推力偏向ノズルを使って垂直離陸に近い機動を取り、楽々とミグの後ろに回りこむ。そして、GAU-12から25mm劣化ウラン弾を発射した。余裕があったならば、彼はこの獲物に弾痕で自分の名前を描いただろう。燃料タンクを撃ちぬかれたミグは煙を上げながら墜落していった。


 バラーノフは妙に腹が立ってた。馬鹿にしていた傭兵に、次々と味方を撃ち落とされていく。捕虜を奪還され、切り札の爆撃機は全滅し、味方には遂に脱走する者まで現れた。そこに、ふと1機のF-15が目に入った。そのイーグルはサイドワインダーを発射して、自軍のSu-30Mを撃墜する。そこで彼の怒りにスイッチが入った。アフターバーナーを全開にして、そのイーグル目掛けて急降下した。


 2機のミラージュF1と1機のJA-37ビゲンを撃墜していた佐藤はフォックスバットがこちらに向かってくるのを見た。ミサイルの残弾数を確認する。AMRAAMが2発、AIM-9Xが3発。十分だ。彼はF-15の機首を上げて、フォックスバット目掛けて加速した。


 バラーノフはドッグファイトをすることを選んだ。敵機をあっさりと撃ち落とす気は無かった。イーグルとフォックスバットがマッハ2ですれ違う。お互いに急旋回すると、バラーノフはすぐに背後を取ろうとした。しかし、佐藤はそんな律儀な事はしなかった。JHMCSでフォックスバットの姿を捉えた。投影された緑色のキューがロシア製戦闘機の姿と重なり、赤色に変わる。ビー、という音が聞こえ、彼はミサイルを発射した。「フォックス・ツー」


 バラーノフはほぼ並走状態のF-15が前方にミサイルを発射するのが理解できなかった。なぜ今のタイミングで発射したんだ?それとも誤操作か?いずれにせよ、奴は貴重なミサイルを1発無駄にした。しかし、視界の端に何かが飛び込んできた。一体何かと正面を見ると、真っ直ぐAIM-9Xのシーカーヘッドが向かってきた。それが、バラーノフがこの世で見た最後のものだった。

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