救出作戦-4
グルジア 地図に載っていない基地 6月10日 1145時
C-17AグローブマスターⅢのエンジン音が力強く格納庫に響き渡る。イヤーマフはそこら辺に放って置かれていた敵の物を頂戴した。
「エンジン異常なし。電気系統よし。燃料系統、油圧系統ともにOK。第1エンジン、出力70パーセント・・・80・・・・98パーセントで安定。第4エンジンスタート」
コーベンとグラントが輸送機の離陸準備をしている間、コールやミッチェル、ロスらは武器を持って敵の襲撃に備えた。
『どんな様子だ?脱出できそうか?』
ロスのイヤホンからブリッグズの声が聞こえてきた。
「もうすぐだ。でかいクジラが出てくるから待ってろよ」
『早くしてくれよ。敵さんがまたこっちに向かってきているらしい。ヤバイことにならないうちに逃げ出そうや』
グルジア上空 6月10日 1148時
だが、"ヤバイこと"へのカウントダウンは始まっていた。Tu-22Mが4機、大量の爆弾を抱えてこっちに向かってきていたのだ。中央カフカス連合は基地防空から焦土作戦に切り替えたのだ。敵に基地を利用される位ならば、破壊してしまう、というのがゲオルギー・バラーノフの考えのようだ。
「敵機確認!方位357、距離340マイル!全部で8機!マッハ1.2で基地へと向かっています!」
原田はレーダースコープに映った機影を見て困惑した。殆ど基地は陥落しているのに、なぜ敵機がやって来るのか彼女には理解できなかった。
「クソッタレめ!焦土作戦か!」
スタンリーは吐き捨てるように言った。
『おーい、誰か応答してくれ。こちら"カンガルー宅急便"。誰か・・・・』
突然、無線から聞き覚えのある声が流れてきた。GURADのようだ。
「ハワード・・・君なのか?」
スタンリーはやや困惑した様子で無線に答えた。
『ボス!来てくれると信じてましたよ!こっちは飛行機を離陸させようとしている所です。今はどうなっています?』
「ハワード・・・・良い知らせと悪い知らせがある。良い知らせは君らを救出できるかもしれないということ。悪い知らせは、敵の爆撃機がそっちに向かっている、ということだ」
『わかりました。できるだけ早く離陸します。それでは』
「ガス欠寸前だぞ。あと10分遅れていたら、墜落していた」ヒラタがぼやいた。
"ウォーバーズ"の戦闘機の編隊は先程攻撃していた飛行場から少し北に離れたところで空中給油の順番待ちをしていた。兵装の残りの方も十分とは言えない。僅かに空対空ミサイルと機関砲弾が残っているだけである。他の傭兵部隊の戦闘機も次々と空中給油を受けている。
『ウォーバーズ・フライト、緊急事態だ。爆撃機が飛行場に向かっている。迎撃を急いでくれ!』
F-15Cを先頭に、"ウォーバーズ"の飛行隊は空中給油を終えると、敵機の迎撃へと向かった。他の傭兵部隊も後から続く。空爆の時に上がってきた敵の迎撃機の数が少なかった事が幸いして、兵装の残りにはまだ余裕があった。
グルジア上空 6月10日 1151時
ゲオルギー・バラーノフはMiG-25のコックピットに収まり、かつて自分が築いた本拠地を目指していた。後ろには残り少なくなった部下たちを引き連れている。前方をじっくり見てみると、最大の本拠地が爆撃されて炎上しているのが見えた。だが、それももう、問題ではない。もうこの基地は必要なくなった。だとしたら、ここを占領している奴らごとまとめて焼きつくしてしまえばいい。敵をただで帰すつもりは無かった。既に、死を覚悟している。それならば、その前に1機でも多く撃ち落として、エースパイロットとして死のう。それが彼の考えだった。
グルジア 地図に載っていない基地 6月10日 1154時
C-17はのろのろとタキシングして、滑走路のエンドに入った。燃料は満タンだが、なるべく機体を軽くするために最低限度の備品を除いて、貨物は全て捨ててきた。
「最終チェック・・・・燃料、エンジン、フラップ、エルロン、ラダー、全て異常なし。離陸する」
コーベンはグローブマスターⅢのスロットルをゆっくりと前へ押し出した。ほんの数十秒程度の時間なのに、離陸までの時間がもどかしい。速度計の数字がやけにゆっくりと上がっているような気がする。やがて、輸送機は地面から離れ・・・・空へと飛び上がった。
「"ゴッドアイ"こちら"カンガルー宅急便"、離陸した」
コーベンがそう言うと、無線越しに歓声が聞こえた。
グルジア上空 6月10日 1154時
コーベンが離陸を宣言した途端、スタンリーは思わず拳を振り上げて飛び上がった。原田とリー・ミンが抱き合って喜ぶ。コックピットでもケマルとトムソンがハイタッチをした。
「やったぞ!救出成功だ!」
グルジア 地図に載っていない基地 6月10日 1201時
基地に連行されていた一般市民や捕虜を載せて傭兵部隊のヘリが次々と離陸していった。かくして、救出作戦は成功したが、まだ戦いは終わっていなかった。




