エクササイズ・ディエゴ-4
ディエゴガルシア島 4月17日 1006時
演習の最中にC-17が一機、ディエゴガルシアに着陸した。この輸送機には国籍マークは無く、代わりにライフル銃を持つ鳥のマークが描かれている-勿論、"ウォーバーズ"の所有機だ。グローブマスターⅢはエプロンに駐機すると、後ろのカーゴランプを開けた。整備員と警備兵が駆け寄って、ロードマスターであるスティーヴン・コールが荷物を下すのを手伝った。
その荷物は、ありとあらゆる飛行機のスペアパーツであり"ウォーバーズ"がブラック・マーケットで手に入れてきたものだ。PMCが跳梁跋扈する現在は、軍用機、戦車、駆逐艦、潜水艦のパーツまたはそれらそのものを手に入れるのはちょっとしたコネとお金さえあれば個人でも手に入れるのは容易だ。
「随分多いな。まだあるのか?」
整備員が言う。
「まだまだ。これからネヴァダのスクラップヤードとここを最低30往復くらいしなきゃ」
コールが答える。
「全くご苦労なこったな。パイロットは同じ航路ばかりで退屈してるんじゃないのか?」
「そうでもないさ」
梱包されたF-15の主翼、F/A-18のエンジン、Su-27のレードームなどがハンガーへと運ばれる。
「次はミサイルや爆弾を持ってくる。明日の夜明け前には戻ってくる予定だ」
「今はバラバラになった飛行機で。次は爆弾か」
「なあに、信管はバラして別々にして運ぶから、空中で爆発したりはしないさ」
コールは再びC-17に乗り込んだ。
荷物の積み下ろしと燃料補給、整備を終えたグローブマスターⅢがエンジンを再始動させ、タキシングを開始する。
「いつも思うんだが、どうしてこんなでかくて重い金属の塊がこう軽々と飛んでいくのかね?」
近くにいたM4を持った警備兵はそうひとりごちた。
ディエゴ・ガルシア島 4月17日 1131時
新居に滞在できたのは、僅か1時間半程であった。拠点の移動が始まってから、まともに新しい基地で休めた試しが無い、とハワード・コーベンは思った。彼らは、物資の輸送で忙しく、アメリカやカザフスタン、インドなどとディエゴ・ガルシア島を頻繁に往復している。途中の拠点で休息は取っているものの、疲れているのは明白であった。
「ディエゴ・ガルシアタワーへ。こちら"カンガルー"、離陸許可を」
『ディエゴ・ガルシアタワーより"カンガルー"へ。離陸を許可する。ハワード、帰ってきたらたっぷり休ませてやる。次からの物資輸送は、業者を雇うことにした』
無線からゴードン・スタンリーの声が聞こえてきた。
「感謝します、ボス」
『今回ばかりは、君らを働かせ過ぎているからな。自分でも反省しているよ』
「なぁに、物が無ければ、今後の活動方針もビジネスもあったものじゃないですからね。ちゃんと持ってきますよ」
『なんなら、帰ってくる前に、向こうで遊んできても良いぞ。何も、急ぎの物では無いし、数日はビジネスの依頼は受け付けるつもりは無いからな。こっちだって、引っ越したばかりでバタバタしている』
「わかりました。何かお土産でも買ってきましょうか?」
『いや。何も買ってくる必要は無い。君らが、無事に戻って来さえすればな』
「アイアイ・サー。では、行ってきます。通信終わり」
ハワード・コーベンは、C-17Aの進路を北西に向け、国際武器市場が開かれているバーレーンを目指した。