救出作戦-2
アゼルバイジャン サンガチャルイ基地 6月10日 1024時
滑走路から多種多様な軍用機が離陸した。MC-130H、ミラージュ2000、MiG-23・・・・・。その殆どは傭兵部隊のもので、アゼルバイジャン正規軍のものは非常に少ない。戦闘機が先導し攻撃機はその中に護衛される、という形の編隊を組み、敵機による迎撃に備える。AEWやAWACS、空中給油機は一部、トーネードF-3やMiG-25の護衛を受けながら後方から飛んで行く。これだけの一大攻勢は、傭兵に乗っ取られたグルジアが周辺国に対する攻撃を始めて以来のことである。また、ヘリ部隊が敵レーダー施設からの補足を避けるために、匍匐飛行で侵入する。
『いいか。まずは敵の防空網を攻撃する。国境を超える前に音楽を流すから、その隙に対レーダーミサイルをぶっ放して奴らの目を潰す。捕虜がいる可能性が高いから、下手に建物に爆弾を落とすな。落とすのなら、滑走路にしてくれ。以上だ』
スタンリーが全員に向けて無線で指示を出す。
「了解だ"ゴッドアイ"。ところで、いつ頃から音楽をかければいいんだ?」
EA-6Bのパイロットが訊く。
「レーダーの反応が出てきてすぐだ。奴らの目を潰してやれ」
グルジア・アゼルバイジャン国境付近 6月10日 1101時
どん曇りの空を"ウォーバーズ"の5機の戦闘機が編隊を組んで飛んでいる。その数キロ東には他の傭兵部隊のトーネードIDSの4機編隊がいる。彼らの役目は対地攻撃で敵車両を攻撃して、地上部隊への脅威を排除することだ。更には、制空権を掌握する役目を担ったSu-27の飛行隊も飛んでいる。そろそろ国境を超えるため、敵機が接近して来る頃だ。
「Kuバンドレーダーの照射を確認した。HARM発射用意」
ヒラタはAGM-88Eの発射準備を始めた。MFDのスイッチを押して、"AARGM"を選択して最終安全装置を解除した。やがて、ロックオンを知らせる、良好なトーン音が聞こえてきた。
「発射」
F-16やEA-6B、トーネードECRがAGM-88やALARMを一斉に発射した。マッハ2.9という猛スピードで発射されたミサイルは、敵のレーダーから発信されている電波を捉え、真っ直ぐにそこを目指した。敵の方は全く反応できなかった。ジャミングでレーダースコープが殆ど真っ白になっているので、反応する間もなくレーダーアンテナ類を吹き飛ばされる。
『敵レーダーの破壊を確認。引き続き、敵を攻撃せよ』
グルジア 地図に載っていない基地 6月10日 1104時
「レーダーが作動しなくなった!クソッ!破壊されたんだ!対空戦闘用意!」
クーデター軍のパイロットが慌ててそれぞれの戦闘機へ走る。すぐにタキシングを開始し、迎撃に向かおうとした。
「敵戦闘機がタキシングしているな。地上で破壊してやれ」
コガワはAGM-65を選んだ。戦闘機を破壊するには威力が大きすぎるが、最適なものが他に無い。
「発射」
2発のマーヴェリックミサイルは真っ直ぐに落下するように飛んだ。片方はタキシング中のSu-30MKに命中し、もう片方は駐機しているTu-22を真っ二つにした。だが、それでも離陸を開始した機体がいる。
ハリアーとYak-38が駐機場からそのまま垂直に離陸を始めた。武装は短射程の空対空ミサイルのみだ。更に、滑走路からミラージュやJ-8、更には古めかしいMiG-19が離陸していく。離陸した機体は雲霞の如く傭兵部隊の機体に襲いかかった。
「敵機が離陸しました。全部で10機程度です」
リー・ミンはレーダースコープを見て言った。IFFの表示に注意しつつ、次の指示を考えていた。
「護衛機にやらせろ。それから、今のうちにヘリを基地上空に向かわせろ。地上部隊に制圧させるんだ」
「ええい!対空兵器と戦闘機の制圧はまだなのか?急がないと、救出が間に合わなくなるぞ」
オスプレイのコックピットでブリッグズがぼやき始めた。目を凝らしてみると、目的地の近くで何度も爆発が起きているのが見える。
『ネガティブ。敵機が上がっています。制圧が完了するまで待機して下さい』
「滑走路破壊爆弾は?アレは無かったのか?」
イアン・コナリーが不満気に言う。
『滑走路の破壊はできません。C-17は丸ごと奪還する予定です』
原田が冷たく言う。
「クソッタレ!」
グルジア 地図に載っていない基地 6月10日 1113時
独房の中でハワード・コーベンは鈍い爆発音のようなものを感じた。一体、何事かと辺りをキョロキョロ見回す。すると、今度は体を凄まじい衝撃波が襲った。反射的に手で頭を庇い、丸くなって伏せる。なんと、独房のコンクリートの壁が大きく抉られ、鉄格子がぐにゃぐにゃに折れ曲がったり、折れたりして、丁度、抜け出せるくらいの隙間が出来ているではないか!目の前には、見張りに立っていた兵士が倒れている。そして、彼が持っているAK-74が地面に転がっているのを彼は確認した。
「何だ?今の音は?」
スティーブン・コールも先ほどの衝撃音を聞いていた。やがて、吐き気を催しそうになる"グキッ"という音の後に、何やらゴソゴソと物を探る音が続いた。
「おい、今のは何だ?」
斜め右向かいに監禁されているクリス・ミッチェルに呼びかける。
「わからないわ。何かが爆発したみたいだけど・・・・」
ふと、扉の前に人が現れた。その人物は自動小銃と鍵の束を持っている。コールは自分の目が信じられなかった。その男は同じように閉じ込められていたはずのハワード・コーベンだったのだ。
「今、出してやる。待ってな」
コーベンは独房の鍵を次々と開け、仲間を助けだした。ベルトに挟んでいた拳銃と予備弾倉をコールに渡す。
「一体、何事なんだ?」
「わからん。だが、ようやくボスが来てくれたんじゃないないのか?そんな予感がする」
次はジョン・グラントの独房へと向かった。他にも監禁されている人間もいるようだが、いちいち構っている余裕はない。
「何があったんだ?」
グラントも何が起きたのかわからない、と言った様子だった。
「さあな。だが、外に出てみればわかると思う」
コーベンは銃の薬室に弾丸が収まっており、弾倉にも十分な数の弾が装填されているのを確認すると、収容所の外に出た。




