ミサイル・ハンティング-6
グルジア某所 6月7日 1907時
AH-64Dが梢を擦るくらいの低空で飛んでいる。後ろからは傭兵部隊のMi-24VやMH-60L-DAPなどが続いている。ヘリを飛ばすには、かなりリスクの高い状況だ。上空では傭兵部隊とテロリストの戦闘機が入り乱れて空戦となっていて、誰もそんなものに巻き込まれたくはなかった。しかし、低空を飛ぶとなると、今度は携帯式の地対空ミサイルや対空機関砲に撃ち落とされる危険性が高くなる。ところが、地上部隊の援護に攻撃ヘリは欠かせない。おまけに、更に前線を飛び、偵察をしているOH-58やOH-6は大した武装が無い上に、ハインドやアパッチのような強固な装甲板が無いため、更なる危険に晒されているのだ。
「こちら"アナコンダ"。何か見えるか?」
『こちら"タイガー"。ネガティブ。FLIRには反応は無し』
『"スパイダー"より"タイガー"へ。目視で探すしか無いか?』
「こちらアナコンダ。レーダーで探ってみる」
ベングリオンはレーダースコープを見てみた。探知モードを何度か切り替える。攻撃ヘリの中で、このような複数目標を同時に追尾・補足できるレーダーを装備している機体は少なく、AH-64DとMi-28Nくらいのもので、大変高価な代物だ。
「いたぞ。敵装甲車と思しき車列を発見。IFFに反応無し」
「もうちょっと近づいてみよう。どんな奴らか確かめたい」
ツァハレムが提案する。
『ネガティブ。無用な危険は冒したくない。"イーグルアイ"はなんと言ってる?』
Mi-24Dに乗った傭兵のが無線で呼びかけてきた。
「了解だ。一度、"イーグルアイ"に確かめてもらおう」
先行していたOH-58が、"隠れ家"にしていた林の梢からローターマストに上に搭載しているMMSをスッと出した。
「BRDM-1が4両とBTR-80が6両、BMP-2が10両いる。IFFに反応しないから、我々の味方では無いな。繰り返す。この車列は味方ではない。ミサイルランチャーも無い。攻撃して良い。繰り返す。こいつらは敵だ。ミサイルランチャーは無い。攻撃せよ」
『こちら"マングース"。ヘリの音が聞こえる。そのカイオワは味方か?』
「そうだ。君らを撃っているのは、BRDMやBMPか?」
『そうだ!何でもいいから早くぶっ放してくれ!クソッ、また味方がやられた!但し、林の中は撃つな!繰り返す!林の中にいるのは味方だ!』
無線からは爆発音や銃声、着弾音が聞こえてきた。どうやら、味方は相当な苦境に立たされているらしい。
「"イーグルアイ"より各機へ。林の西側にいる装甲車を全て排除せよ。但し、林の中は撃つな!繰り返す、林の中の熱源は味方だ!敵を赤外線ストロボでマークするから、そいつを撃ってくれ」
地上部隊の兵士が次々と赤外線ストロボを敵目掛けて放り投げた。しかし、そこで1つ問題が起きた。混戦のさなか、林の北側にいる傭兵の一人がストロボを誤って東側にいる味方の方へと投げてしまったのだ。そして、それに気づいた人間は誰一人いなかった。
「ようし、あれだな。この林の西側だ。ロケットで一掃しよう。ミサイルは生き残った装甲車に使え。できるだけ節約するんだ」
ベングリオンはTADSSで捉えた敵の姿を確認した。暗視モードで見ると、赤外線ストロボの煌きがはっきりと見える。
「了解だ。発射!」
アパッチやハインドのロケットポッドから次々の2.75インチロケットが発射された。
攻撃ヘリから凄まじい勢いで火の付いた矢のようなものが飛んで行く。ロケットは対戦車ミサイルほどの威力は無いが、それでも対人/対非装甲目標に対しては絶大な威力を発揮した。
『上空のヘリ!射撃中止!撃つな!撃つんじゃない!』
無線から半狂乱とした声が聞こえてきた。そして、すぐにヘリからの射撃が中止される。
『こっちは味方だ!撃つんじゃない!ブラヴォー・ゴルフ31にいるのは味方だ!繰り返す!ブラヴォー・ゴルフ31にいる人間を撃つな!』
『何ぃ!?赤外線ストロボの光が見えたぞ!どうなっているんだ!?』
『救援のヘリをよこせ!負傷者を後送しろ!』
『まずは応急処置だ!』
グルジア上空 6月7日 1931時
ミラージュ2000から放たれたMICA-IRが最後に残っていた敵のMiG-23を撃ち落とす。傭兵部隊とアゼルバイジャン空軍は戦闘区域の制空権を確保した。敵機の姿は無い。そこで、航空作戦は空中哨戒と近接航空支援へと切り替わった。
「敵機の撃墜を確認。制空権はこっちのものです」
リー・ミンがスタンリーに伝える。スタンリーもレーダー・スコープの表示を確認し、探知距離を何度か切り替えたが、映ったのは味方機だけだった。
「ユウとニコライ、オレグを呼べ。護衛をしてもらおう」
「了解です。"ウォーバード1"、こちら"ゴッドアイ"。"4"と"5"を連れてきて、護衛をしてください」
『了解、"ゴッドアイ"。ミサイルはまだ3発残っているから十分だろう。それから、燃料がそろそろヤバイ。タンカーを寄越してくれ』
コガワは最後のGBU-12をスカッドミサイルのランチャー目掛けて投下した。向こうでは、傭兵部隊のA-10が地上に向かって機関砲を撃っている。
「こちら"ウォーバード3"。対地兵装無し。これよりCAPに入る」
「やれやれ、やっとこっちの出番か。おい、燃料の残りは?」
KC-135Rの機内でドミンゴ・ヴェガが言う。空中給油機は戦線から離れた所で戦闘機の護衛付きで待機していた。
「まだまだたっぷり残っているよ。あと10時間は飛んでいられる。敵機は?」
シャルル・ユベールが狭いブーム・オペレーション・キャビンから無線で呼びかけてきた。
『敵機は排除した。制空権はこっちのものだ』
『"バイソン"、聞こえるか?こちら"ウォーバード1"』
「"ウォーバード1"、どうぞ」
ピーター・ギブソンが答える。
『燃料がそろそろまずい。給油してくれ』
「了解だ。少しそっちに行こうか?」
『ネガティブ。SAMが飛んでくる危険性があるから、そっちで待機してくれ。10分後に合流』
「了解。10分だな」




