ミサイル・ハンティング-5
グルジア某所 6月7日 1837時
R-27T1が命中し、ハリアーが爆発する。パラシュートらしきものは見えなかった。もう1機のハリアーはミサイルに気づいたのか、フレアをばら撒きながらエンジンノズルを下向きにしてホバリングしてやり過ごそうとした。ミサイルは獲物を見失い、くるくると螺旋を描きながら落ちていった。
「クソッタレ!外しちまった!」
コルチャックが毒づく。
『もう1機はこっちに任せろ』
佐藤のF-15が上昇するハリアーに向かう。だが、それに気づいたハリアーのパイロットは、エンジンを下向きにして180度回転し、機首をこちらに向けてきた。
「ちいっ」
佐藤は操縦桿を倒して、右側に避けた。その0.2秒後にハリアーの動体の下に取り付けられたアデン機関砲から放たれた30mm砲弾が先ほどまでF-15Cがいた空間を飛び抜けていった。
彼は一度、F-15を真っ直ぐ飛び出させてから緩やかに旋回した。ハリアーやF-35BといったVTOL機能をもつ戦闘機に巴戦を仕掛けるのは危険だ。ヘリコプターのようにホバリングしたり、機首を回転させたりする動きで簡単に後ろに回りこまれてしまうし、たとえこちらが追いかける側になったとしても、空中でホバリングする動きで急停止され形勢逆転、だなんてこともあり得る。そこで、佐藤は無理してドッグファイトに持ち込もうとせず、一撃離脱戦法を選んだ。
一方、コルチャックとカジンスキーは別の敵機の相手をすることになった。飛んできたのはシュペル・エタンダールが2機。
「随分古い戦闘機だな。最後に活躍したのはフォークランド戦争じゃないか」
コルチャックがボソリと言う。だが、当のシュペル・エタンダールはエンジンを全開にすると、フレアを撒きながら離脱しようとした。
『おい、奴ら逃げていくぞ。どうしたんだ?』
「さあな。もしかしたら、空対空ミサイルを積んでいなかったのかもしれん。だとしたら、俺だって無理せずにそそくさと逃げる方を選ぶね」
『またお客さんだ。2時方向』
「おっと。今度はまた戦闘機かな?」
グルジア某所 6月7日 1849時
アゼルバイジャン陸軍特殊部隊がミサイルも発見した。巧妙に森のなかに隠された輸送起立発射機は武装した見張りに護衛されており、近づくのは容易ではなさそうだ。しかし、幸運なことに先端部のノーズコーンが取り外されている。しかも、弾頭が無い。
「こちら"マムシ"。目標を発見した。スカッドと思われるミサイルが1基。これより座標を送る」
『こちら"ハヤブサ"了解。見張りは?』
「見張りは少ない。弾頭部が空っぽだ。繰り返す。弾頭部は開いていて空っぽだ。近くに弾頭も無いようだ。今から座標を送る」
『了解だ。レーザーで照射してくれ』
「了解」
特殊部隊員の一人がSOFRAMと呼ばれる奇妙な装置を取り出した。これはレーザー照射器だが、工事現場の測量で使われるものとは違い、混線したり、敵に欺瞞されたりしないようにレーザーには固有のコードがある(周波数で決められる)。彼は2km離れた所からレーザーでミサイルを捉えた。レーザーは不可視光なので、映画で描かれているものと違い、緑の光線が伸びていったり、赤い点のような光が見えるようなことは無い。ただ、照準器の十字線でターゲットを捉えて、スイッチを押すだけである。
「ターゲットを捉えた。攻撃する」
ジェイソン・ヒラタはF-16の兵器選択画面からGBU-12を選んだ。MFDには標的を捉えた『Target Rock On』の文字が表示される。
「投下」
ヒラタは誘導爆弾を投下した瞬間、機体が少し揺れるのを感じた。そして、投下すると対空攻撃を避けるため、エンジンのパワーを上げながら少しきつめのターンでその場から離れた。
GBU-12は弾体後部に取り付けられた安定翼を開いた。やがて、真下に向けられたシーカーが反射されたレーザーを捉え、カナードで向きを調節すると、地上に置いてあるスカッドミサイルへと落ちていった。
グルジア某所 6月7日 1850時
佐藤は遂にハリアーのパイロットの運の尽きを見た。急旋回した時に、丁度、ハリアーがこちらの機関砲の照準にスッと入ってきたのだ。すかさず引金を絞る。20mmの劣化ウラン弾がコックピットと機体を引き裂く。次の敵機を探したが、レーダーには僚機以外、何も映っていない。目視で探してみると、少し離れた地面が爆発するのが見えた。
「命中だ。このミサイルは吹っ飛んだ。次を探そう」
特殊部隊員はSOFRAMのスイッチを切ると、撤収しようと腰を上げた。しかし、立ち上がって三歩も歩かないうちに仲間の頭が破裂したトマトピューレの缶のようになった。
グルジア上空 6月7日 1858時
『こちら"マングース"攻撃を受けている!なんとかしてくれ!敵はBMPとBTRだ!クソッ!軍曹がやられた!早く援護を・・・』
E-737の機内で管制をしているリー・ミンの無線から声が聞こえてきた。
「こちら"ゴッドアイ"座標を送って下さい」
『助かった。こちら"マングース"座標はエコー・ノヴェンヴァー56だ!繰り返す!エコー・ノヴェンヴァー56!』
「ヘリの援護を向かわせます。10分だけ耐えてください」
『"ゴッドアイ"より"アナコンダ"、敵車両を排除してください。座標を送ります』
「こちら"アナコンダ"。離陸する」
着陸していたAH-64Dがエンジンを回し始めた。周囲には武器を持ったアゼルバイジャン陸軍の兵士が警備している。攻撃ヘリ部隊は燃料と武器の補給を受け、待機していたのだ。
「ようし、出番だ。第一エンジン点火・・・・第二エンジン異常なし」
ベングリオンがアパッチのエンジンをスタートさせ、"指差し点検"で機器の状態をチェックする。
「兵装システムオン。セイフティ解除。IHADSS、TADS共に異常なし」
「エンジン異常なし、出力60パーセント・・・70、80、90、97パーセント。離陸」
AH-64Dはゆっくりと飛び上がり、草や木の枝を巻き上げながら暗い空へと消えていった。




