ミサイル・ハンティング-4
グルジア某所 6月7日 1814時
オスプレイからジャック・ロス、デヴィッド・バーク、ロン・クラークの3人がラペリングで地面に降り立った。全員がM4とP226、"対人接着剤放射器"で武装している。ロスはクルーチーフのジェームズ・ルークがロープを機内に回収するのを確認すると、右手の拳を上に向けて円を描くように振り回し、帰投するよう合図した。V-22は少しずつプロップローターを傾け、飛行機モードになって離脱していった。
「ようし、まずはミサイルを探すんだ。見つけたら座標をボスに知らせる。そして、弾頭の種類を特定する。その後、どう対処するかは弾頭によって変わる。何か質問は?」
ロスが言い終えると、バークもクラークも首を振った。
「ミサイルはスカッドが殆どだそうだが、中にはイラク製のアル・フセインやパキスタン製のガウリなんかが混ざっているとの情報もある。とりあえず、TELを見つけたら、まずは弾頭部分を調べてそいつの種類を特定する。通常弾頭ならばそのまま吹き飛ばすが、万が一NBC兵器の類だったら、そのまま確保だ。発射装置の電子部品の一部を破壊して、発射できないようにするだけだ。下手にNBC兵器を吹き飛ばして、プルトニウムや炭疽菌なんかがそこら中に撒き散らされるようなことだけは避けなきゃならない。そんなことをしたら、俺たちが死んじまう。おまけに危険なのは弾頭だけじゃない。燃料に使われている非対称ジメチルヒドラジンやケロシンが皮膚を吸い込んだり、皮膚についたりしたら最悪だ。あっという間にあの世行きだ。あからNBC防護服とマスクを用意したのさ」
「なるほど。それで、NBC兵器が搭載されている可能性はどれくらいあるんだ?」
クラークが訊く。
「わからん。旧ソ連が正確なNBC兵器の保有数を公表するわけがないし、STARTⅠとⅡの調印で減らした分もあるが、崩壊後のゴタゴタで行方不明になった特殊弾頭もかなりの数になる、という話もある。油断は禁物だ。それに、テロリストどもが持ち込んだ分もあると考えると、かなりの数になると考えた方がいい」
「最悪だな」
「そう言っても、ミサイルを放置する訳にはいかない。排除しておかないと、カスピ海沿岸地域にとって大きな脅威になる」
「さらに、持ち逃げされても厄介だ。奴らが他のテロ集団に値段を釣り上げて売り飛ばさないとも限らない」
「で、もし化学兵器や生物兵器の類が見つかったらどう処理するんだ?」
「我々が位置を知らせて、遠くからレーザーで照射する。戦闘機からテルミット弾頭を搭載したミサイルを撃ちこんで貰う。3000℃を超えるような高温で燃やすから、何も残らない」
「わかった。行くぞ!」
コマンド部隊は森の中へと消えていった。
グルジア某所 6月7日 1832時
ロスたち3人は慎重に森の中を進んだ。敵がミサイルの近くにクレイモアを仕掛けていないとも限らない。まだ微妙に明かりが残っているが、既に夜の帳が降りていて、そろそろ暗視ゴーグルが必要になってくる。幸いにも夜空には星が多く光っており、赤外線ランプを使う必要は無さそうだ(※注 赤外線ランプを使う暗視ゴーグルは星明かりが無い事を心配しなくて済むが、同じ暗視装置を持つ敵に居場所を知られる危険性がある)。彼らは必要の無い会話をせず、ハンドサインだけでお互いに合図を送った。
グルジア上空 6月7日 1837時
「司令、マッハ0.6で敵機が接近しています。2機ですね。このまま進むと、オスプレイとアパッチに15分で追いつきます」
リー・ミンがスタンリーに知らせた。
「迎撃に向かわせろ。それから、ちょっと戦闘空域に近づきすぎだ。ハリーとハッサンに少し離れるように言わないとな」
「司令、燃料補給をしないといけません。少しこの空域を離れます」
そんなことを話していると、パイロットのハッサン・ケマルが呼びかけてきた。
「了解だ。ドミンゴとピートに予定の地点で合流するように知らせてくれ。それから、次からは50マイル程離れてくれ。ここだと近すぎる」
「くそっ、今度は敵機かよ。オレグ、ニコライ。ついて来い」
佐藤はF-15の翼を振って合図すると、アフターバーナーに点火してマッハ2.2まで加速させた。MiG-29とSu-27も後から続く。
『敵機が追いつくまで時間がありません。急いで下さい』
佐藤は無線の送信スイッチを2回動かして答えた。
「いたぞ。こいつはハリアーだ。IFFに応答なし。敵機だな」
コルチャックはSu-27のIRSTとレーダーで敵機を確認した。コックピットのMFDの赤外線画像に、イギリス製のVTOL攻撃機の特徴的なシルエットが映っている。
「こいつとは間違ってもドッグファイトはしたくない。これを使おう」
コルチャックは兵装選択画面を表示させ、R-27ET1を選んだ。
「FOX2」
ミサイルが翼の下のランチャーレールから離れると、ロケットモーターに点火して飛び去った。




