ミサイル・ハンティング-3
グルジア某所 6月7日 1803時
先に攻撃してきたのはハインドの方だった。9M113コンクールス(NATOコードネームはAT-5"スパンドレル")対戦車ミサイルを2発発射した。
「クソッ、ミサイルだ!逃げろ!逃げろ!」
ベングリオンが罵り始めると同時に、コックピットの中でミサイルアラートがけたたましく鳴り響く。ツァハレムはミサイル妨害装置を作動させ、チャフとフレアをばら撒きながら急上昇させてから宙返りで反転し、更にバレルロールに近い機動でミサイルを振り切ろうとした。
対戦車ミサイルは速度が決して遅いわけでは無く、ヘリを撃墜出来ないことは無いのだが、基本的には地上を走る最高時速90km程度の戦車や装甲車を攻撃する目的で設計されているため、機動性が高く、時速290kmで飛ぶ戦闘ヘリを撃墜しようというのは困難が伴った。初めはシーカーがアパッチのエンジン放射熱を捉え続けていたものの、宙返りするヘリの機動に着いて行けず、地面に衝突して爆発した。
「ざまあみろ!今度はこっちの番だ!」
ツァハレムは兵装選択画面で"MIM-92"を表示させた。このアパッチには全部で4発のスティンガーミサイルが搭載されている。TADSSでMi-24を捉えると、画面上のキューの色が白から赤に変わり、はっきりとロックオンしたことを示した。
「FOX2!」
スティンガーが発射され、弾体が炎と煙の尾を曳きながら飛んで行く。Mi-24は回避機動を取ろうとしたが、重く、愚鈍な機体はテールパイプを吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられた。
「まだいるぞ!」
ベングリオンが警告した。更にKa-25が2機、飛んで来た。コマンド部隊を載せているらしい。しかし、ツァハレムの反応は早かった。IHADSSで敵機を捉えると、30mmチェーンガンの引金を絞った。Ka-25が火を吹きながら墜落する。
「やったぞ!撃墜だ!」
グルジア上空 6月7日 1811時
空挺隊員を載せたC-130T輸送機が夕闇の中を飛んでいる。例によって、このハーキュリーズはPMCが持っているもので、中にはPMCオペレーターとアゼルバイジャン正規兵の混成の空挺部隊が載っている。
「降下地点まであと3分だ。全員、降下に備えよ」
全員が酸素マスクを身につけ、ガスマスクとNBC防護服を持ち、防弾チョッキやタクティカル・ベストを着ている。湾岸戦争の時にスカッドミサイルを捜索していたSASの隊員とほぼ同じ格好をしている。彼らの任務は、ミサイルを発見し、無力化することだ。しかし、NBC弾頭が搭載されている可能性のある弾道ミサイルを下手に破壊してしまうと、そこから核物質やウイルス、毒ガスが漏れだす可能性があるので、下手に爆破することは出来ない。そこで、まずは弾頭部を回収してからミサイルそのものを爆破する、という作戦が取られることになった。そのため、地上部隊のミサイル捜索班は酸素トーチやバール、ボルトカッターといった大型工具を持っている。
「あと20秒・・・・・・10秒・・・・・・5、4、3、2、1、降下!降下!」
空挺隊員が大きなターボプロップ機から次々と吐き出されていく。彼らは両手両足をムササビのように大きく広げ、暫く自由落下した後、次々とパラシュートを開いた。
降下したエフゲニー・ゴルキィ中尉は右腕の高度計を見た。2万6000フィート、2万5000フィート・・・・・。ゴルキィは9400フィートでパラシュートを開いた。ふと、周りを見渡してみると、他のパラシュートが見当たらない。どうやら風に流されてしまったようだ。クソッ。しかし、地面はどんどん迫ってくる。ゴルキィは仕方なく、着地に適した場所を探し、パラシュートのリップコードを上手く操った。丁度、森の一部が広く開けている所を見つけ、そこに着地した。
ゴルキィはまず、パラシュートを畳んで森の中へと走った。そして、パラシュートを地中に埋め、地図を広げてコンパスを片手に現在地を特定しようとした。どうやら予定地点から南東に23km程流されてしまったらしい。仕方がない。今は最初の降下予定地点に向かうのが最適な判断だと彼は考え、手にしたタボール自動小銃に弾倉を叩き込むとボルトを引き、更にMP446ヴァイキング拳銃を点検し、スライドを引いて初弾を薬室へ送り込むと、安全装置がロックされていることを確認してからレッグホルスターへ戻した。
一方、他の隊員たちは予定通りの降下地点へ着地していた。隊長のセルゲイ・オルロフ少佐は点呼をする前に一人いないことに気づいてはいたが、念のため、人数を数えたが、やはりゴルキィ中尉がいない。
「多分、風に流されたんだろう。無線で連絡できるか?」
「やってみましたが、どうやらジャミングをかけられているようで、連絡がつきません」
「くそっ。続けてくれ。連絡がついたら教えてくれ」
「了解です。我々はどうします?」
「まずは任務が優先事項だ。そして、ゴルキィは連絡がつき次第、回収する」
オルロフはそう言うとタボールを持ち、先頭を進んだ。




