攻撃計画
グルジア某所 6月3日 1356時
ハワード・コーベンは独房の窓(というよりは小さな鉄格子)から外の様子を眺めた。一体、ここがどこ(グルジア国内ということ以外は)なのかも、外で何が起こっているのかも、この小さな窓から見える範囲以上の事はわからない状況だ。彼が知っていることといえば、同じ基地内の違う独房に仲間が拘束されていること、敵からはおおよそジュネーブ条約に則った扱いを受けていること(元軍人であることを明かしたのが功を奏した可能性が高い)、同じ時間に食事が出されること、決まった時間に尋問が行われること、シャワーを5日に一度浴びれることくらいだ。輸送機がと装備がどうなったのかは分からないが、敵にいいように利用されていることは容易に想像できた。尋問官の兵士以外の人間との接触は禁止され、仲間が無事かどうかもわからない。
もしかしたら、助けは来ないのではないのか?戦争が終わるまでこのままだろうか?PMCのオペレーターという立場上、自分を拘束している武装集団にとって不利な証拠を持っているとされて、戦闘終結後も開放されないのではないか?だが、頭の中では脱出プランも毎日練っていた。しかし、それは味方がここを空爆または襲撃してくれることが前提であった。
しかし、未だに不思議なのが、この組織の正体だ。連中の服装はバラバラで、中にはグルジア軍の正規兵の姿を見かけるが、様子からして、どうもグルジア軍のコントロール下にいないような感じがした。見かける階級章はどれも伍長以下で、将校も中尉以上は見かけない。何かおかしなことが起きている、とコーベンは確信した。考えられるとしたら、こいつらの傀儡政権が誕生したか、またはグルジア政府がグルだったか、ということだ。
トビリシ国際空港 6月3日 1403時
ゲオルギー・バラーノフは死んだ前グルジア大統領の官邸には入らずに、このトビリシ国際空港で攻撃部隊を指揮している。エプロンを見ると、旅客機の姿は見当たらず、その代わりに戦闘機、攻撃機、輸送機、爆撃機、空中給油機などが並んでいる。グルジア国内の全ての空港・飛行場は新政府軍に接収され、民間の飛行機は定期便、プライベート機も含めて国際線も国内線も全て運行を停止させられている。彼は最新の勢力図を見た。アルメニアか壊滅状態で、今や国土の9割を占領している。政府は首都エレバンから脱出し、どこかの山奥で地下に潜り、臨時政権を立てて抵抗運動を指揮しているようだ。だが、抵抗らしき抵抗といえば、バラバラになったレジスタンス組織が小火器や爆発物よるテロ/ゲリラ的な攻撃程度で、簡単に新政府軍に鎮圧されている。傭兵まで雇った隣国とは大違いである。今は、ほぼアルメニアを支配した。次の目標を考えなければならない。アゼルバイジャンは今のところは難しい。強力な傭兵部隊がいて、攻撃する度に退けられている。だが、彼は部隊配置、部隊規模、手持ちの兵器、地下資源の資料、そして周辺国の最新の状況を重ねあわせ、次なる目標を決めた。更に南。イラン。
バラーノフはグルジア国内の爆撃機飛行隊、空中給油機飛行隊、地上配備巡航ミサイル部隊、短距離/中距離弾道ミサイル部隊をイランとの国境近くへと移動させるよう指令を出した。次々と弾頭も列車で運ばれていく。通常炸薬、燃料気化爆薬、テルミット爆薬、そしてVXやサリンといった神経剤を搭載した弾頭も一緒に運ばれていく。ミサイルはDF-3、スカッドC、CJ-10、3M14TEと多種多彩だ。これらのミサイルはアルメニア国内のバラーノフの部隊が支配している地域へと運ばれていった。




