UAV
アゼルバイジャン サンガチャルイ基地 5月27日 1804時
MQ-1CとMQ-9がそれぞれ3機ずつ、夕闇の空へ上がっていった。無人機は北へ向かっていったが、国境を超える寸前に編隊を解き、それぞれの方向へ散らばっていった。無人機はレーダーに探知されるのを避けるために低空飛行し、レーダーとカメラで地上の様子を探索し始めた。MQ-1CにはSAR-GMTIとAN/AAS-52、MQ-9にはAN/APY-8とMTS-Bが搭載されている。SAR-GMTIとAN/APY-8は対地レーダー、AN/AAS-52とMTS-Bはセンサーカメラだ。どの無人機もAGM-114を翼のパイロンに1発ずつ搭載して武装している。今回の任務は偵察のみだが、武装もしている。だが、交戦の可能性は無いとアゼルバイジャン/PMC連合軍は考えていた。このドローンはドイツのPMCの所有物で、この会社は主に各種無人機による偵察や攻撃を受け持っている。オペレーターは衛星通信を介してニュルンベルクの本社から操縦しており、現地に派遣されるのは整備員と兵装、燃料担当の要員とその他補助要員だけである。
「9.11の時は、まだ無人機はようやく偵察機として実用化が始まったばかりだったのに、それから10年もしないうちに攻撃機に変化してしまった。今後の戦争は一体、どうなってしまうのだろうか」
偵察機のカメラの映像を見ていたミハイル・カーメネフがボソッと呟いた。
「湾岸戦争の時すらテレビゲームみたいだ、と言われていましたが、これこそ本当の『テレビゲームみたいな戦争』ですよ。なにせ、人間は乗っていないのですから」
無人機のうち1機を操作していたハンス・フィンケが答えた。彼はドイツ空軍でUAVのオペレーターを務めていた。彼は、私服姿で分厚い黒縁メガネをかけ、その金色の髪はボサボサだ。もう少しマシな身なりをしていれば、ファッション雑誌のモデルといっても通用しそうな顔つきなのだが。
「で、撃ち落とされても人は死なない、長時間任務になればいつでも交代できるわけか」
「そうです。パイロットにとっては死なない、疲れてもすぐに交代できるという長所がありますが、戦場と自宅を行き来する、つまり、日常と非日常を短時間で何度も行き来することになるので、有人機とはまた違った精神的負担もあるとする米軍のレポートもあります」
「なるほど。無人機も長所ばかりでも無いのだな」
「更に、無人機特有の問題もあります。まずは、遠隔操作のため、コントロールが安定しない可能性がある点。以前、アメリカでは操作不能になったMQ-8が暴走する事件がありました。それから、ハッキングされると敵に利用されてしまう点。実際にそれを実行できたのかどうかは不明ですが、イラン政府がRQ-170をハッキングして捕獲したと発表した事件がありました。それが可能だった場合、武装したUAVは敵に利用され、味方を殺し始めます。勿論、データリンクは暗号化されていて、それを解読して別の遠隔操作電波を割り込ませ、乗っ取ることは難しいと言われていますが、理論的には不可能では無いと言われています」
「ふむふむ」
「今のところ、敵の姿は無さそうですね。バッテリーギリギリの少し前まで粘ってみましょう」
「あとちょっといいですか?」
ゴードン・スタンリーが口を挟んだ。少し焦って、落ち着かない様子だった。
「何でしょう?」
フィンケが若干、訝しげな顔をして答える。
「もし、どこかで輸送機の残骸らしきものを見つけたら、すぐに教えて下さい。仲間の消息に関わることなので・・・・」
「わかりました。何の輸送機を見つけたら良いですか?」
「C-17です。未だに破片や残骸が見つかっていないので、撃墜されたのではなく、戦闘機で要撃され、拉致された可能性も考えています」
「わかりました。見つけたらお教えしましょう」
グルジア上空 5月27日 1956時
無人機は荒れた岩だらけの土地の上空を静かに飛んでいる。人影は無く、時折、小動物が歩いているのが確認出来るだけだ。
テロリストキャンプを空爆するパターンと同じように、できるだけ高度を取っている。そうすれば地対空ミサイルや高射砲の攻撃をいち早く察知できる。ただ、赤外線ジャマーやチャフ/フレアディスペンサーも装備しているため、敵の攻撃をある程度妨害できるものの、機動性は劣るためF-16のような高機動で躱すことはできない。人気のない荒野を飛ぶ不気味な飛行機は、まるでUFOそのもののようだった。実際、この飛行機が開発中の時期にテストフライトが行われていた基地ではUFOが現れたという噂がいくつも流れたことがある。
この奇妙な飛行機は、もう暫く、グルジア上空を飛び続けた。
アゼルバイジャン サンガチャルイ基地 5月27日 2021時
フィンケはバッテリーの状態を見た。残量が半分近くまで減ってきている。
「こいつは駄目だ。そろそろ引き返さないと、1機捨てることになる。一旦、作戦は中止します」
「ううむ」
カーメネフは残念そうにため息をついた。
「仕方ないですよ。無人機は貴重なんです。ここで使い捨ててしまったら、今後の作戦に確実に支障が出ますよ」
「そういうことならば仕方あるまい。作戦は中止だ」
アゼルバイジャン サンガチャルイ基地 5月27日 2114時
6機のUAVは静かにサンガチャルイの滑走路に着陸した。敵の偵察を恐れて、着陸後、即座に大きな緑色の防水シートを掛けられて強化ハンガーに入れられた。




