真相
サンガチャルイ基地 待機室 5月27日 1401時
「さてさて。こいつはややこしくなった。我々を攻撃していたと思われていたグルジアが攻撃を受けて、混乱中だ。ロシアやイランは軍の警戒レベルを一段階上げたが、それ以上の行動には至っていない。むろん、何者の仕業なのかは不明だ。おまけに・・・なんだ?」
ブリーフィングルームで待機状態にあったアゼルバイジャン軍正規兵や傭兵、義勇兵にミハイル・カーメネフが話しかけていると情報将校の少尉が分厚い書類の束を持ってやって来た。カーメネフが差し出されたものを数行読むとその顔から見る見るうちに血の気が引いて行った。
「なんということだ・・・・・。これは確かなのか!?」
彼は少尉にそう言った。
「間違いありません。グルジア政府内に置いていた資産(注;海外に置いている諜報員のこと)からの情報です。敵はどうやらグルジア軍ではなかったようです」
「わかった。待ってくれ・・・・このままここに集まった全員に君から説明してくれ」
少尉は唾を飲み込み、大きく息を吸い込んで自分を落ち着かせ、マイクに向かって話し始めた。
「速報が入りましたので状況を説明いたします。先程、グルジアの大統領府が武装集団に襲撃され、大統領を含む閣僚数名が死亡。トリビシでもゲリラが暴れ回り、市民に多数の犠牲者が出ている模様です。また、この武装集団には脱走したグルジア軍正規兵が多数参加している模様です。我々は今まで、グルジア軍が重武装化し、我が国の天然資源を狙って侵攻しているものと思い込んでいました。半分は当たっていましたが、半分は全くの的外れな考えでした。最新の情報によると、グルジア軍は訓練のために外部から傭兵、もしくはPMCを呼んでいたようです。これは入札によるものでしたが、とある組織が時間ごとに入札価格をどんどん下げていったようです」少尉はそこで一息ついた。
「当然、経済的に苦しいグルジア政府は最安値を提示した、中央アジア及び旧ソ連衛星国出身の元軍人による組織に軍の訓練を依頼しました。しかし、奴らには裏の狙いがあったようです。奴らはチェチェンやオセチア、アフガン等で暴れていましたが、タリバーンの崩壊やロシア軍の攻撃によって住処を追われ、新しい拠点を探していたようです。そこで目をつけたのがカフカス地域です。奴らはまともなPMCや傭兵であると偽って、グルジア政府と取引をした。しかし、この契約の交渉中に奴らはグルジア政府を転覆させる計画を練っていたようです。ここで大量の武器を持ち込み、革命の下敷きを作る。訓練後、軍にプレゼントするとでも言っていたのでしょう。その間に兵士を金で懐柔したり洗脳したりして自分たちの側に引きずり込んだのでしょう。そして、グルジア政府が気づいた頃にはもう遅い。あちこちで叛乱が発生し、収集がつかなくなっている、というのが現在の状況です。お分かりいただけたでしょうか?」
少尉はその場の全員の顔を見回した。
「だいたいは理解できた。つまり、奴らは自分たちの居場所だったパキスタンやアフガンから逃れた。しかし、なかなか落ち着ける場所が見つからなかった。そこで、身分を偽って入り込めそうな国を探した。そこがたまたまグルジアだったわけだ」カーメネフが言う。
「そうです。それに、今回の件で調べた所、奴らはスイスとサウジアラビアにダミー会社を作っています。表向きの業務は貿易及び株式、債権、外貨のトレードですが実際には資金洗浄をしているようです。こうした金を奴らはチューリッヒやルクセンブルク等を通して自分たちの口座にプールしています。活動資金として」
「なんてこった。グルジア政府が自体を把握していなかった訳だ。これからどうすべきか」
「まずは敵の動向を探らねばなりません。次回の作戦はどうする予定でしたか?」
「何も決まっていない。向こうの出方次第だ」
「ならば、偵察機を出した方が良さそうですね。それも無人の」
「よし。次の作戦はこれで決定だ。無人機で奴らがどうしているのか、覗き見してみようではないか」




