Indiscriminate Bombing
アゼルバイジャン上空 5月24日 0521時
軍用機の編隊が南下している。Tu-22MやSu-24、トーネードIDS、ミラージュ2000等がこの編隊に混ざっていた。この軍用機はトブスという町へと向かっていた。
「ここを攻略したら、首都まで一直線だ。建国万歳!」
テロリストのパイロット他の仲間を鼓舞した。全ての攻撃機は爆装を満載し、攻撃準備完了といった感じだ。
早朝のトブスは静かな町で、今起きている戦争にはまだ無縁でいた。住民は通常通り仕事や学校のために起きて、朝食のパンにバターを塗って暮らしていた。しかし、それはあっという間に打ち破られた。巡航ミサイル、長距離空対地ミサイルが飛来し、町は火の海と化した。駐屯していたのはわずかばかりの警察官と消防士、軽歩兵部隊一個小隊に過ぎず、航空機はヘリが2機だけだった。対空機関砲は旧式のZSU-57-2が6門だけで対空ミサイルは無く、最初のミサイルの攻撃で全てが破壊されてしまった。
北東にあるハチマスという町は巡航ミサイルの攻撃を受けた。CJ-10、RK-55、KH-90といった長距離空対地ミサイルが着弾した。弾頭には通常の高性能爆薬やブラストボムが使われ、多くの民家を焼き払い、または吹き飛ばした。消防車が空爆の最中、疾走したが多くの避難民の自家用車によって立ち往生し、そのせいで消火・救難活動が妨げられ、多くの犠牲者を出す結果となった。なんとか空爆を免れた病院や体育館が臨時の救護所として軍・警察が徴用を始めたもののあっという間に負傷者でいっぱいになり、また、多くの医者や看護師、衛生兵が空爆の犠牲となったため、救護活動は困難を極めた。
次に狙われたのは石油コンビナートだ。攻撃機のパイロットはタンクやパイプに狙いを定めた。凄まじい炎が巻き起こり、その場にいた人間のほぼ全てを焼死または窒息死させた。火だるまになった人間が海に飛び込み、体の一部、または全てが炭化した死体がそこらじゅうに転がる。石油タンクは高温と炎によって溶け、潰れた。
サンガチャルイに空爆の報告があったのは、それが始まってから約20分もたった後だった。カーメネフは慌てて側近と傭兵部隊の幹部を集めた。
サンガチャルイ基地 5月24日 0700時
「敵がどこから来たのか目星が付いた。グルジアのバツミのようだ」
ブリーフィング・ルームに集まった正規兵、義勇兵、傭兵、PMCオペレーターを前にミハイル・カーメネフが状況説明を開始した。
「奴ら、いくつかのグルジア軍の基地を占拠しているようだ。また、これには軍から離反したグルジアの軍人の手引きもあったと見られている。武器もかなりの数が奴らの手にわたった事は予想できる」カーメネフは一息置いた。
「そこで、ここバツミの基地を攻撃して、奴らの空爆能力を奪うのが今回の目的だ。航空部隊と小規模な歩兵部隊のみに参加は限定。機甲部隊や中隊規模以上の歩兵部隊は不参加とする。以上、解散」
兵士たちが一斉に立ち上がったが、そんな中、オレグ・カジンスキーはまっすぐ自分のボスの方へ歩いて行った。
「一大作戦になりそうですね。ところでユウはどうします?」
「この作戦に奴の上空援護は必要だ。今すぐ引きずり出して来い。もし寝ていたら叩き起こせ」スタンリーは命令を出した。
営倉に再び足音が響く。今度やってきたのはリー・ミンだ。彼女は鍵を持っている。
「さてさて、出てきてお仕事をしてもらいましょうか」
「せっかく気持ちよく寝ていたのに」
佐藤がベッドから起き上がり、大きく伸びをするとテーブルの上に置いたメガネに手を伸ばした。
「みんな待ってますよ。上空で護衛してもらうのにあなたほど頼りになるパイロットはいませんから。それからケイが遊び相手がいなくてしょんぼりしていましたよ」
「冗談じゃない」
「また相手をしてあげてくださいな。あなたは気に入られているのですから」リー・ミンは鍵を開けた。
「もう見張りの仕事は終わりかい?」すぐ前の椅子に座って新聞を読んでいたブリッグズが話しかけた。
「そうです。あなたには空爆する地点のマーキングをしてもらうので、早く準備に行ってください」
「あいよ」ブリッグズは大きく伸びをすると、両腕をぐるぐる回しながら歩き去った。




