営倉
サンガチャルイ基地 営倉 5月21日 1821時
数時間後、佐藤は手錠を後ろ手にかけられ、営倉内のベンチに座っていた。鉄格子の扉にテーブルとイス、ベッドが一つずつ。窓はガラスが無くこれも鉄格子になっている。扉の外にはテーザーと警棒、拳銃を身に着けたブリッグズが見張りに立っている。カーメネフは見張りの兵を追加で付けようかと言ったが、スタンリーはどうせ脱走はできないし、する気はないだろうとして断った。
「よう。気分はどうだ?」ブリッグズが鉄格子から話しかける。
「最高の気分だね。寝起きだからまだボーッとしているが、少ししたらスッキリしてくるはずだ」
「そいつは良かった。解放されたらボスはすぐに復帰させるとさ。よかったな」
「今は何時だ。時間の感覚が無くなった」
「ええーっと、夕方の6時半か。そろそろ飯の時間だな。心配するな、食わせてやるよ」
「ほう」
「便所には行きたくないか?どこか具合は悪くないか?」
「大丈夫だ」
「そうか。行きたかったら言ってくれ」
「ところで外の状況はどうだ?」
「あまり変わらんようだ。敵の正体は未だに不明。ああ、それから、いつになるかはわからんが、閉じ込めている時間はもう少しで終わるようだ。もう頭は冷えたろう?」
「ああ」
「それならいいんだ」
「銃はどうした?」
「これだよ」ブリッグズはレッグホルスターに入ったシグザウエルP228を指差した。
「弾はブラックタロンか?」
「ゴム弾だ。撃たれたらミミズ腫れだな。脱走を試さないで良かったな」「どうせならグレーザーにしてくれよ」
やがて足音が聞こえてきた「ほら。飯の時間だ」
原田は黒パンとボルシチ、ピロシキ、紅茶の乗ったプレートを持ってきた。
「おい。腹を空かせた雛鳥はここだ」
ブリッグズが大袈裟に手を振って見せた。彼は鉄格子のカギを外し、原田を中に入れた。
「食事です。しっかり食べて次の作戦に備えるように、と司令官からの命令です」原田がテーブルにプレートを置いた。
「やれやれ。手錠を外してくれ」
「だめです。司令官から手錠は外すなと命令されています」
「は?」
「そういう事ですので」原田はピロシキを差し出した。
「おいおい。子供じゃないんだから」
「命令です」佐藤は渋々原田の手からピロシキを食べた。
「やれやれ。お熱いこった」ブリッグズは背後で何が起きているのかを察してニヤニヤし始めたが、彼は決して振り向こうとはせず、かわりに口笛を吹きながら拳銃の手入れを始めた。




