拘束
サンガチャルイ基地 5月20日 1904時
「間違いない。コーベンたちは誘拐された可能性が高い」
再度捜索を行って帰ってきたジェームズ・ルークがボスに報告した。
「しかし、なぜだ?そもそも、今回の輸送には飛行機のスペアパーツも兵装も無い。ただの無線機や工具とかだし、ここでも楽に調達できるものばかりだ。物資の強奪が目的だったのか?」
「恐らくは、情報が目的だったのかと」
「ううむ。だとしたら、向こうから接触があってもおかしくない。誘拐なら、何らかの要求をこっちにするのが普通だ」
「そうとは限りませんよ」口を挟んだのはジャック・ロスだ。「最悪のパターンですが、輸送機と物資を奪った上、クルーは拷問後処刑。以前、シリアの武装組織がトルコ軍の輸送機とクルーに対してやってる。そこから漏れた情報で攻撃されたトルコ陸軍の1個歩兵大隊が全滅寸前に追い込まれたことがあります」
「何てことだ」スタンリーは天を仰ぐと、両手で顔を覆った。「すまない。少し一人で考えさせてくれ」彼は軍からあてがわれた執務室へと戻って行った。
サンガチャルイ基地 格納庫 5月20日 1911時
ハンガーに置かれたF-15に、整備員を連れた佐藤が近づいてきた。隣に燃料車が置かれ、AMRAAMとサイドワインダーを乗せたウェポンローダーもある。佐藤は自衛用に持っているH&K USPをホルスターに収め、さらにAK-74SUも持っている。戦闘機にかけられたタラップを登ろうとした、が、後ろからタックルされた上に、地面に引き倒されて四の字固めにされた。
「何を始める気ですか」原田が言う。
「偵察に行ってくるだけだ。1時間もあれば戻る」
「そうじゃないですよね?一人で生きて帰れますか?」
「平気だ。奴らの空戦の腕は大したことは無い」
「戦闘機だけではないですよ。SAMに捕まったらどうする気ですか」
「運に任せるさ。どうってことは無い」佐藤は立ち上がろうとするが、原田は離そうとしない。
「では僚機を連れて行ってください。1機だけで飛ばす訳には行きません」
「そうしたら僕の計画に意味は無い。これは1人で行く隠密行動にするつもりだ」
「どうして拳銃だけでなくて自動小銃も」
「万が一撃墜された時のためだ。小っちゃいのだけでは心もとない」
「では自殺任務とわかった上で行く気ですね。報告しておきます」
「好きにするがいいさ。帰ってきたら、営倉にでもぶち込めばいい」
「ではそうさせてもらいます」原田が無線機に何事か話し、暫くするとロスとバークがやってきた。腰のベルトにはテーザーと拳銃が収まっている。ロスは手錠を取り出したが「そんなものは必要ないよ」と佐藤は彼について行った。




