敵地
グルジア上空 5月20日 1851時
Su-34に囲まれたC-17は地図に載っていない大きな飛行場に強制着陸させられた。4000×55mくらいはあると思われる滑走路が2本あり、エプロンもやたらと広く、An-225が数十機も駐機できそうなくらいだ。
「でかい飛行場だな。アンダーセンやネリスくらいの規模がありそうだな」コーベンが窓から下を見て言う。
「ここは・・・・グルジア領内みたいだな。しかし、こんな基地があるとは聞いたことが無い」ジョン・グラントがGPSで位置を確認した。
「多分、旧ソ連時代に使われていたが、放棄されたんだろ。そういう基地はロシアをはじめ、旧ソ連構成国とかアフリカやアジアにはゴマンとあるさ。誰も見向きもしないから、目立たないだけさ」
「なるほど。テロリストにはもってこいの隠れ場所だな」マーシャラーが大きな輸送機を格納庫へと誘導した。
グルジア某所 地図に載っていない基地 5月20日 1857時
コーベンらが飛行機から降りると、M14やヘッケラー&コッホG-3A3からノーリンコ95式自動小銃やKH2002カイバー等、古今東西様々な自動小銃を持った敵兵に囲まれていた。全員が黒いマスクで顔を覆っているので、どんな連中かわからないが、人種的にはどうやらヨーロッパ系、中東系、アジア系、アフリカ系が揃っている。服装も武器も統一されていないところを考えると、こいつら傭兵だな、と彼は思った。グルジアやロシアの正規軍の服装や装備を持った人間は一人もいないようだ。グラントは仲間に身振りで『まずは何も喋るな』と合図した。兵士の集団の奥から、白髪で頭が禿げかかり、髭を生やしたスラヴ系の男がやってきた。あいつがボスだな、とコーベンは目星をつけた。
ゲオルギー・バラーノフは捕虜を見まわした。男が3人、女が1人。全員が白人。アメリカ軍だろうか。しかし、輸送機にはアメリカ空軍のシリアルナンバーに加えて民間の登録番号も描いてある。
「お前たちは一体何者だ。ここで何をしている」
「生憎、名前と古巣以外の情報は明かせないのでね。俺はハワード・コーベン。元オーストラリア空軍で、引退した時は少佐だった」
「ふむ。私もかつては軍にいた。もう何年も昔の事だ。君はまだ若そうだが、軍には何年いた?」
「士官学校を含めると約10年。その後はリストラされてね」
「それで、今は誰に雇われている?」
「勿論、アゼルバイジャン政府だ」
「君は傭兵か」
「ああ。そうとも言える。ただ、誰にでも手を貸す訳ではない」
「ふむ。我々も同じだが、今回は利害関係がグルジア政府と一致してね」「ほう」コーベンは相槌を打った。こうなったらできるだけこの男に色々と喋らせて、少しでも多くの情報を得るのが得策だ。
「ここ一帯に新しく国を作ろうと思ってね」
「それで、グルジアの大統領は何と言ったんだ?」
「奴は既に我々の操り人形だ。領土と資源が倍増するなら、喜んで手を貸すとな」
「目的は石油やガスか」
「そんなチンケなものには拘っていない。建国したら次は領土拡張だ」
「チンギス・ハンのつもりか」そう言われてバラーノフは大声で笑いだした。
「これはいい。面白い奴だな。おかげでお前を生かしておく理由が一つできたよ。もう暫くしたら、また会おう。では」バラーノフは歩き去った。




