人質
アゼルバイジャン上空 5月20日 1631時
PMC、傭兵、アゼルバイジャン軍連合部隊の攻撃により、武装組織はザカラタから撤退を開始した。双方ともにかなりの犠牲者が出たものの、最終的には正義の味方の勝利たなった。敵を退けた連合部隊は次なる目標を攻撃するための準備に入った。
"ウォーバーズ"のC-17A輸送機がアゼルバイジャン領空に入った。彼らは物資を運び、サンガチャルイへと向かっていた。制空権の6割方が連合軍の手に渡っていたので、特に護衛を付けずに飛行していた。
「こいつはいい。最高だね。連中より3時間ほど遅れたがな。ヴェガとギブソンはもうサンガチャルイに到着しているだろ」
"ウォーバーズ"のC-17の機長であるハワード・コーベンは相棒のジョン・グラントに言う。
「だな。今、奴らはどうしているって?」グラントが聞き返す。
「ザカラタとバカランの中間あたりを攻撃しているようだ。ここを奪還したら、敵の補給路はほぼ無くなる」
「補給路は大事だ。昔から言うだろう?"戦争というものは、胃袋でするものだ"とな」
「ナポレオンか」
「そうさ」
「おい。レーダーに反応だ。お客さんか?」
「だとしたらまずいな」
国籍マークの無いSu-34が4機、C-17に迫っていた。どれも空対空ミサイルをフル装備して、マッハ2で飛んでいる。どうやらテロリストの機体のようだ。戦闘機は灰色の愚鈍な獲物へと向かって行った。
「クソッ!高速の目標4機!こっちに向かって来る!IFF反応無し!」コーベンが叫んだ。
「ECM、IRジャマー作動!エンジン全開で逃げろ!」
C-17はその大きさに似合わない機敏な動きで旋回した。大きく機体を傾けて旋回し、急降下と急上昇を繰り返した。フレアをばら撒いて、ミサイルのロックオンを外そうとする。が、所詮は輸送機であることには変わりはなく、戦闘機の編隊に取り囲まれてしまった。前後左右を塞がれてしまい、逃げ場は無くなった。後ろからSu-34がコックピットから見えるように数回、機関砲から曳光弾を放った。しかし、撃墜を狙っているのではなく、パイロットに射撃を見せ付けるのが目的のようだ。C-17の前に出たSu-34が翼を数回振った。
「最悪だな。捕まっちまった」コーベンが相棒にこぼす。
「今のは何?何があったの?」
ロードマスターのクリス・ミッチェルがコックピットに向かって言った。
「敵機だ。我々は捕まってしまった」
グラントはそう言って、救難信号ビーコンを一度作動させてすぐに切った。




