建国宣言
ディエゴガルシア島 5月1日 1156時
「ただ今入ったニュースによりますと、グルジア南部、アゼルバイジャン及びイラン北部で活動していた武装組織が建国宣言をしたそうです。彼らは、ゲオルギー・バラーノフ氏をリーダーに複数の国のテログループが関与していると見られており、かなりの武力を保有しているものと思われます。アゼルバイジャン政府はこの組織に対抗するため、正規軍に加えて外人傭兵部隊を編成していますが、戦力が不足している状態のようです。また、これに対してイラン政府は静観を決め込み、ロシア政府は関与を否定した上で、鎮圧のために軍を送り込む計画は無いと発表しました。アゼルバイジャン政府のイワン・トラボフスキー国連大使は安保理に鎮圧のための多国籍軍派遣を要請しましたが、フランスやイギリスが難色を示したため否決されました。一方、グルジアやアルメニア、イランは武装組織の国内流入を防ぐために、アゼルバイジャンとの国境を封鎖するとの考えを示しており、アゼルバイジャン政府はますます苦境に立たされそうです。しかし、ここの石油資源がテロ組織の手に抑えられた場合、世界経済はかなり危機的な状況になると見られていますが、どの国も資金難で軍による介入には消極的な姿勢を変えていません」
CNNのキャスターがここまで話した所で、ジョン・グラントがチャンネルを変えた。
「やれやれ、ついにここまで来てしまったか。カフカスが抑えられるとどうなる?」
目の前でラザニアを突いているニコライ・コルチャックに話しかけた。
「カスピ海沿岸はガスや石油の宝庫だ。イランやロシアもパイプラインを引いているから、そいつがテロリストに抑えられるとなると、相当な痛手になる。石油は1バレル200ドルを超えてしまうんでないか?」
「そんなにか?そうなったら、俺たちだって商売あがったりだぜ」
「ああ。だからボスはどうするのか真剣に考えているそうだ。間接的に、我々に降りかかってくる問題もいくつかあるからな」グラントとコルチャックは引き続き、侃々諤々の議論を戦わせた。
「呼びましたか?ボス」
佐藤がスタンリーの部屋に入ってきた。
「おお、ユウ。まずは一杯やろうじゃないか。まあ、座ってくれ」
スタンリーはグラスを2つと高級なブランデーを持って執務室のテーブルに置いた。
「知っての通り、アゼルバイジャンだ。国連やロシア軍は介入を拒否した。どっちに転んでも政治的ダメージが大きい上に、なにより戦力を割けない状態だからな」
「行きますか」
「そうだな。このまま石油価格が上がっては我々も商売上がったりだ」
「わかりました。出発はいつです?」
「早くて2週間後にしよう。その前にブリーフィングと訓練を入念にする」
「了解です。他の連中は納得しますかね?」
「多分な」
「では、始めますか。計画を考えておきましょう」
「うむ。こういう時こそ我々の出番だ。誰も手を挙げて、前に出て来なくなった時に、正義を行使するという」
「ですね。奴らを懲らしめてやりましょう」佐藤はそう意気込んだ。




