サンガチャルィ防空戦-3
アゼルバイジャン サンガチャルイ基地北270km 4月27日 1819時
傭兵部隊のファントムとタイガーのパイロットはようやく自分たちに接近している機影に気づいた。
「サンガチャルィタワー。こちらロート1、不審な機影を発見。迎撃する」
「こちらサンガチャルィタワー。了解。注意して接近せよ」
2機の戦闘機は敵機に向かってアフターバーナーを吹かした。どちらもIRH空対空ミサイルであるサイドワインダーしか搭載していなかったため、ドッグファイトを挑むことになった。戦闘機パイロットにしてみたら最悪の状況だが、致し方が無い。
ハリアーのパイロットはこちらに先程まで自分たちに背中を向けていた敵機がこちらに向かって来るのを確認した。やる気になったか。面白い。奴の腕を試してやろう。まあ、ハリアーに巴戦を挑むだなんて腕によっぽど自信のある奴か大馬鹿者のどちらかしかないだろう。奴らがどっちなのかはすぐにわかることだ。
F-4E、F-5とハリアーの編隊はお互いに頭からすれ違った。ファントムとタイガーは共に旋回しながら機首を敵機に向けようとした。が、ハリアーはそんな律儀な事をする戦闘機では無かった。推力偏向ノズルを傾けると、機体を支点に機首の向きを180度ターンさせ、敵機の後ろを取った。
クソッたれ!なんて飛行機だ。ファントムのパイロットは初めて見る機動に心底驚いた。彼はファントムを旋回させながら敵機の後ろに回り込もうとした。
「おい!奴はどこだ!」後席のWSOに怒鳴った。
「後ろだ!ぴったり付いて来る!」
パイロットは僚機の位置を確認しようとした。いた!しかし、独楽のようにクルクルまわる小さな戦闘機にF-5は苦戦を強いられていた。
F-5のパイロットはハリアーに追いつくのに苦労していた。F-5は小型、軽量のため、一般的にドッグファイトに強い戦闘機とされていた。しかし、今回の敵はさらに上だった。後ろに追いついたと思ったら空中で静止、あるいは垂直方向に上昇され、すぐに逃げられる有様だった。もし坂井三郎やゲルハルト・バンクホルンがまだこの世に生きていて、このVTOL戦闘機の機動を見たら愕然となったであろう。一度は獲物になるものの、すぐに飛行機にあるまじき動きで逃れ、ハンターへと立場が逆転するのだ。




