サンガチャルィ防空戦-2
アゼルバイジャン サンガチャルイ基地北240km 4月27日 1816時
F-5FタイガーとF-4EファントムⅡが編隊を組んで、やや傾いた日ざしを受けながらパトロールをしていた。彼らは国境を超えないよう注意しつつ、周囲を飛んでいる不審な飛行機がいないかどうか警戒を怠らなかった。
「サンガチャルイ。こちらロート1、異常なし。これから北西ルートを通ってから帰投する」
「ロート2、右に同じ」2機の戦闘機は旋回すると、基地へと戻るルートを取った。
彼らの動きは2機の戦闘機に追跡されていた。戦闘機はなんとナイトアタックタイプのAV-8BハリアーⅡで、元々はアメリカ海兵隊が使っていたものだ。ハリアーにはサイドワインダーがやロケットポッド、増槽が搭載されており、明らかに長距離での行動が考えられた装備だ。
「バッテリオン、こちらブルーアロー1。敵戦闘機らしき機体を発見。交戦許可を乞う」
「ブルーアロー1、交戦を許可する。敵機を撃墜せよ」後続隊にいた指揮官が攻撃命令を出した。
ハリアーは空中でくるりと回って、ファントムとタイガーの方に機首を向けた。この小さな戦闘機のエンジンはアフターバーナーを持たず、最高速度はおよそマッハ0.9足らずだ。しかし、垂直離着陸のために利用する、ロールスロイス・ペガサスエンジンは約90度の推力偏向ノズルを持ち、機動性はジェット機の中では恐らくは最高クラスだ。固定翼機なのにヘリコプターのようにホバリングしたり、機首の向きを簡単に360°回すことができる運動性能を持ち、ドッグファイトを挑むには最悪の飛行機だ。後ろを取ったと思ったら、急停止して上昇し、いつの間にか後ろに回り込まれている。この戦闘機が猛威を振るったのは1982年のフォークランド戦争で、イギリス海軍のハリアー相手にアルゼンチン空軍のミラージュやダガーなど約28機が犠牲になった。国籍マークの無いハリアーは獲物目がけて飛んで行った。




