帰路
インド上空 4月24日 2031時
767の機内はチャーター専門会社らしく、普通のエアラインと座席の配置は一線を画していた。ギャレーにはバーカウンターがあり、機体後部には仮眠室やシャワールームすらあった。「さっすがチャーター専門の航空会社だ。内装が豪華だねえ」ロスはビールをちびりちびり飲みながら、機内を見まわした。
「元々、どっかの金持ちが持っていたものですが、金融危機で手放したものを我々が買い取ったのです」バーテンが話しかける。
「ほう。まあ、我々も似たようなことをしているがな」
「我々にはルールがありまして、輸送を頼んだ人間の正体は詮索しない、荷物についても聞かない、目的も聞かない。ただどこかからどこかへ頼まれた人や物を運ぶだけ。それで終わり。もちろん、こうして話しているあなたの名前も一切聞かない。それで商売が成り立っています」
「当節は国の権限が色々な所で及ばなくなってきた。おかげで、俺らのような人間の食い扶持を仕入れるネタがそこらじゅうに転がっている」ロスはピーナッツを口へ放り込んだ。
「おっ、ここで飲んでたか。ボスが衛星電話で呼んでるぞ」ブリッグズがバーに入ってきた。
「やれやれ。のんびりしていたらこれだよ」
インド上空 ボーイング767-300ER機内 2035時
「全員集まったか。ではここでデブリーフィングにしよう。疲れているだろうから簡単に済ませよう。帰ってきてからするとなると尚更辛いだろうからな」
衛星電話からスタンリーの声が聞こえた。
「先ほど報告した通り、Mi-24を見かけたのとAn-3と交戦した以外、目立った事はありません。どちらも国籍マークやレジナンバーが無く正体は掴めませんでした」ブリッグズが答える。
「元々がロシア軍やカザフ軍が持っていたものだと思われますが、誰が使っているのかはわかりません。撃墜できていればよかったのですが。そうすれば、我々がいた証拠を最小限に抑えられたのですが」ロスが補足する。
「いや。どっちにしろ、奴らはヘリが戻ってこなければ不審に思うはずだ。見つかったのはまずかったが、撃墜となるともっとまずいことになる危険性がある」
「たとえ撃墜したとしても、政府軍の仕業に見せかける方法もあったと思いますが」
「私としては、君らがそこで戦死したり捕虜になったりする方がもっとまずい事だと思っている。殺されたり、捕虜になったりするくらいなら、そいつを撃ち殺す方が数億倍マシな選択肢だ。とりあえず、全員無事でなによりだ。では、こっちに着くまでゆっくり休んでくれ。以上だ。通信終了」衛星電話が切れた。
ディエゴガルシア島 4月24日 2105時
「さて、どう思う?」スタンリーが佐藤に訊く。
「どう思うも何も、敵はただのテロ組織とは思えません。これだけの重武装となると、ロシアやイラン、カザフ辺りが関与しているのを疑うべきです。もしくは、かなりのコネと組織力をもった武器密輸組織が裏にいる可能性が高いです」
「アルメニアかグルジアは?」
「グルジアがそんな力を持っているでしょうか?アルメニアもただ軍を維持するだけで精一杯の状況なんですよ」
「ううむ。どうしたものか」
「とりあえず、義勇兵もいることですし、暫く我々は静観してみましょう」
「それもそうだな。少し様子を見てみるとしよう」




