偵察-3
アゼルバイジャン 4月24日 1826時
コナリーとブリッグズはバラキューダーで飛行機に隠蔽工作を施し始めた。「おい。これはどうする?」ブリッグズは緑色に塗られ、金属でできた、やや反り返った弁当箱のようなものをコナリーに見せた。それには四つの"脚"が付いており『FRONT TOWARD EAEMY(こっち側を敵に向けよ)』と注意書きがある。指向性対人地雷、M18クレイモアだ。仕掛け線やリモコンでの遠隔操作で起爆できる、罠としては非常に便利な代物で、特殊部隊のみならず、通常部隊でも好んで使われる。
「やめておこう。出かけた連中は仕掛けられている事を知らないし、無暗に無線で知らせたりして、万が一誰かに傍受されていた場合、作戦は失敗だ」
「わかった。無線は緊急時のみ使用だったな。暗号化されていても、安心はできんからな」
「あと、サプレッサーを銃に付けておけ。万が一、ぶっ放す羽目になったら、盛大に銃声を聞かれる事になるからな」
アゼルバイジャン 1831時
ロス、クラーク、バーグは銃を持って慎重に進んだ。途中でロスがほか二人にサプレッサーの使用をし指示した。交戦した場合、銃声を聞かれる訳にはいかない。暫くするとヘリが近づいてくる音が聞こえたため、3人は素早く物陰に隠れた。ヘリはMi-24Dハインド。強固な装甲と高い火力を持つため、歩兵や車両にとっては大きな脅威だ。1979年からのアフガン内戦で侵攻したソ連軍がその威力を見せ付けて以来、旧東側諸国や第三世界各国に広く輸出されており、PMCでも保有している組織は多い。
「あんなのに見つかったら最悪だな。あっという間にミンチにされちまうよ」バーグが小声で言った。ロスは小さな双眼鏡でハインドの機体をじっくり見ると「妙だな」と呟いた。
「何がだ」バーグが言う。
「国籍マークはおろか、ナンバー、所属部隊記号、PMCのロゴも無い」
「どういう事だ?」
「さあな。このハインドに乗っている奴らは、どうしても正体を知られたくないんだろ。まあ、乗っている連中が正規軍ならば、いくつか交戦法規に触れているのは確かだ」
クラークはリスクを承知でハインドの写真を数枚撮影して、タブレットからデータを本部に送った。
ディエゴガルシア島 4月24日 1903時
ディエゴガルシア島のオペレーションルームにクラークからの写真が届いた。『Mi-24D 所属不明 国籍マーク・機体ナンバー無し』とメールで補足されていた。
「これはどういうことだ?なんでそんなヘリが飛んでいるんだ?」スタンリーは首を捻った。
「恐らく、アゼルバイジャンに侵攻したのは正規軍では無いのでは?」コルチャックがそう推測した。
「かもしれん。しかし、目的が何なのかがまだわかっていない。肝心なのはそこだからな」
「軍用飛行場や油田施設を攻撃したとなると、アゼルバイジャンという国自体の破壊が目的では?最終的に首都を占拠して、国を乗っ取る」
「そうなると厄介だ。相手はただのテロリストじゃない。しかし、その場合は、奴らはそのうち正体を自ら明かすことになる可能性がある。政府を破壊した後、自分たちが国を乗っ取ったことを世界に向けて公表する必要性が高いからな」
「どうします?このまま情報収集を続けさせますか?」
「一旦引き上げさせろ。無用な危険を冒すことは無い」"ウォーバーズ"のボスは命令を下した。




