密使-3
ディエゴガルシア島基地 4月20日 2215時
ディエゴガルシア基地がにわかに慌しくなった。M2重機関銃を据えたハンヴィーが誘導路や駐機場に展開し、FN-F2000を持った警備兵がエプロンに並んだ。航空機は全てハンガーに引っ込められ、ホークミサイルやVADS、ゲパルトも稼働状態でまさに厳戒態勢だ。「来たぞ、アレだ」双眼鏡で滑走路の向こう側を見ていたスタンリーが言った。
G550がGCAでノロノロとアプローチして滑走路にストレートインした。そのすぐ上をF-15とSu-27が編隊を組んで、一度飛び去って行った。ビズジェットはやはり何のマークも無く、なんと登録記号すら消されていたのだ。ドアが開き、タラップが下がると細身で白髪の男が降りてきた。彼は「おお。儀仗隊が迎えに来てくれるとは思わなかったよ」と冗談を言った。スタンリーが前に出た。
「突然の訪問になってしまって申し訳ありません。私はセルゲイ・ジューコフ。アゼルバイジャン大統領の密使として来ました。今回の任務は極秘扱いだったので、随行員とこの私、大統領、そしてあなたがたしかこの事は知りません」スタンリーがジューコフの手を握った。
「ここの司令官のゴードン・スタンリーです。詳しい話は中で聞きましょう」スタンリーは警備隊に下がっていいと合図すると、自室へと向かった。
ディエゴガルシア島基地 司令官室 4月20日 2249時
「だいたい目的はわかります。例の攻撃の件ですな」
スタンリーがジューコフに言った。
「はい。コントロール・リスクス社に何とかしてくれる人はいないかと訊ねたところ、あなた方を紹介されました」
給仕が二人にコーヒーを差し出した。ジューコフは礼を言って一口飲んだ。
「あなた方の軍ではどうしようも無いと」
「もう知っているかもしれないですが、わが軍の航空基地はほぼ壊滅し、空からの攻撃には全くの無防備です。生き残ったパイロットや対空部隊の兵士はいますが、持っている戦闘機の約6割、対空兵器の5割を失ったため、我が国の航空戦力は無に等しい状態です」
「失礼。では残りの4割から5割は・・・・」
「恥ずかしいことに、ほとんどが稼働状態にありません。今はPMCや傭兵に援助を求めている状況です」
「どのくらい集まりましたか?つまり・・・援助は?」
「地上部隊に関しては、いくつかの傭兵組織や義勇兵の援助を取り付けました。しかし、航空部隊が非常に少ない状況です」
「つまり、あとは戦闘機や攻撃機だけ・・・と」
「そういうことです」
「すぐには返事はできませんが、考えておきましょう。今日はもう遅いので、来客用の宿舎を使ってください」
「ありがとうございます」
ジューコフは案内役の警備兵に付き添われて司令官室を後にした。




