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ウォーバーズ  作者: F.Y
戦争の鳥~南海に戦士は舞い降りる
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ディエゴガルシア島

 インド洋 ディエゴガルシア島 4月12日 1300時 


 かつてはイギリス領でアメリカ軍が租借していたインド洋の島。そして、アフガニスタンの「対テロ戦争」が行われていた頃大規模は米軍航空部隊が駐留し、空爆作戦の拠点だった場所。現在、ここは放棄され、どの国にもこの小さな島にある大規模な軍事施設は見向きもされなくなっていた。よって、とある企業が数十年にわたってこの島の施設全てを利用する契約を結んだ時も、誰も気になどかけなかった。

この島の新たな主となったのは、PMCである"ウォーバーズ"と呼ばれる連中だ。彼らは遺棄されたレーダー施設、格納庫、滑走路、弾薬庫、住居、対空ミサイル陣地などを復活させ、完全にこの島を「領土」にしてしまった。そんな滑走路に、1機の戦闘機がアプローチしてきた。大きな機体を持ち、その胴体側面と主翼の下にはAIM-120CとAIM-9Xの2種類のミサイル、胴体下には燃料タンクをぶら下げている。アメリカ製の制空戦闘機、F-15Cイーグルだ。F-15は一度滑走路上を低空飛行で通り過ぎたあと、再び着陸進入をしてからタッチアンドゴーでまた飛び去り、三度目のアプローチで機首を持ち上げ、エアブレーキを開いて着陸した。

『あんまり遊ばないでください』

 パイロットのインターコムからはそんな声が聞こえてきたが、彼にはそんな注意はどこ吹く風だった。イーグルを操縦していたのは佐藤勇、元航空自衛隊の腕利きだ。インターコム越しに佐藤に注意したのは、同じく航空自衛隊に所属していた原田景。もともとはE-767空中管制機のオペレーターだった。

「いざという時のイメトレだよ。全く、頭が固いな」

 佐藤はF-15をエプロンにタキシングさせながら無線越しに言った。

『史上最年少でアグレッサー入りしてから、やりたい放題し過ぎですよ』

 原田は呆れたようだったが、それでも彼女は苦笑を抑えきれなかった。航空自衛隊の飛行教導隊は全国から腕利きを選抜することで部隊を維持していた。さらに、飛行隊長は隊員の"ちょっとしたお遊び"に目をつぶる伝統があったため、佐藤のやり口はよく知っていた。

『では、着陸で遊んだのでデブリーフィングは真面目にやってください』原田は冷たく言い放った。


 インド洋 ディエゴガルシア島 4月12日 1303時 


 佐藤はイーグルをエプロンまでタキシーさせ、降機チェックをしていると今度はF-16CJがAMRAAMとサイドワインダー、CBU-87を満載した状態でゆっくり降りてきた。珍しくGCAをリクエストしたか、と佐藤は思った。そのF-16を操縦しているのはジェイソン・ヒラタ。元アメリカ空軍第13戦闘飛行隊の所属で、パイロット資格を取って間もない2003年にはイラクでミグを1機撃墜した経歴の持ち主だ。佐藤よりは10年ばかり先輩で、実戦経験もしているため、最も頼りになる男の一人だ。目を凝らしてみると、F-16の後ろから、細身の戦闘機が近づいていた。F/A-18C。これにはAIM-9が2発とMK77ファイアボム4発を搭載している。パイロットは元アメリカ海兵隊VMFA-122所属のパトリック・コガワだ。コガワのホーネットは一度滑走路上空をそのまま通り過ぎて、旋回しながら減速して着陸した。オーバーヘッドアプローチだ。F-16とF/A-18はイーグルの両隣に駐機した。

「おい、ユウ。また怒られてるじゃないか」ヒラタはクックっと笑いながら言った。

「ジャパンのアグレッサーじゃこの程度のお遊び、日常茶飯事さ」佐藤は返す。

「まーあ、精鋭部隊だから多少のルールの捻じ曲げは・・・・ということか」コガワが言う。


 再びエンジン音が響き、3人は顔を上げた。オレグ・カジンスキーの乗ったMiG-29Kとニコライ・コルチャックが乗ったSu-27SKMが着陸してきた。

「今日は忙しいな。これからまだまだ降りてくるんだろ?」コガワは佐藤に言った。

「ああ。C-130にKC-135があとざっと10機くらいか。それからE-737が1機」

「なんという部隊移動だ。まあ、今まで、NATO加盟各国の飛行場を転々としていたから、やっと腰を落ち着かせる場所ができたって事か」

 佐藤は無駄話を打ち切って、愛機が置かれているハンガーに向かって行った。整備員がF-15Cのまわりを歩いて、様々な項目をチェックしていた。佐藤は、整備員の邪魔にならない程度に機体をみて回った。しかし、自分を後ろからこっそり眺めていた人物には気づかなかった。不意に黒い影が佐藤にヘッドロックを加える。彼は「やられた」と同時に「またか」と思った。

「くそっ、管制の仕事を投げ出しやがったな」

「許可は得ています。あなたに制裁を加えるようにいわれました」

飛びついてきたのは原田だ。彼女の攻撃でメガネが2メートル程飛んだ。整備員がニヤニヤしながら二人を見ている。

「おいおい勘弁してくれよ」

佐藤は振り払おうとするが、原田は離さない。

「さてさて、指令があなたたちをお呼びなので早くデブリに来てください」

 原田は佐藤の耳元で囁いてから解放し、歩き去った。

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