合流
ディエゴガルシア島 4月16日 1811時
夕暮れのディエゴガルシア島にKC-135が着陸した。これからやってくる飛行機の移動を支援していたのだ。
「そろそろ来るぞ」
双眼鏡をで滑走路の向こう側を見ていたコルチャックが言った。やって来たのは二つのプロペラを持った小型飛行機だ。しかし、そのプロペラは少しずつ上向きに角度を変えていく。CV-22オスプレイは飛行機からヘリコプターに姿を変えた。"ウォーバーズ"はこのVTOL機を救難、軽輸送、地上管制に利用している。オスプレイはヘリパッドに向かい、激しいダウンウォッシュを巻き起こしながら着陸した。中からはクルーチーフのジェームズ・ルークが降りてきた。
「待たせたな」
彼は迎えに来た佐藤にそう言った。
「オスプレイだとパヤレバーからここまで来るのに大変だっただろ」
「ああ。結構きついね航続距離的には平気だけど」
パイロットはロバート・ブリッグズとイアン・コナリー。共にアメリカ空軍出身だ。
「こいつを持ってこれなかったら、地上部隊がおじゃんになるところだった」
コルチャックは機体を眺めていった。その後ろでKC-135がタキシングして格納庫へと向かった。
「我々の訓練はいつから?」ルークがコルチャックに訊く。
「さあな?ボスが待ってるから、まずは会ってくれ」
「了解だ。それから、予備機のフェリーはどうする?またグアムを往復しなきゃダメか?」
「いや、これからは輸送機で運ぶようにするみいだ」
「了解だ」
ルークは格納庫から出てきた仲間を呼ぶと、司令室へと向かった。
次に飛んできたのはポレットエアラインのAn-124だ。青と白に塗られた巨大な飛行機はエンジンを逆噴射させて滑走路を四分の三程進んだ所で止まった。
「おいおい。こんなものまでチャーターしたのかよ」
コルチャックは勘弁してくれという風に言った。
「やっと俺たちのオモチャが届いたか」
いつの間にかシモン・ツァハレムとデイヴィッド・ベングリオンが傍に立っていた。
「遅かったな。さっきのオスプレイで来たのか?」
「そうさ。あれが無いと困るだろ」
中から出てきたのはAH-64Dアパッチ・ロングボウだ。
「確かにな。こいつの援護が無いと、救難に向かうオスプレイが撃墜されちまうからな」
オスプレイとアパッチ・ロンクボウ。これらの機体は、"ウォーバーズ"の救難部隊の機体だ。万が一、パイロットが撃墜された場合は、オスプレイが救難に向かい、アパッチが救難機とサバイバーを敵の攻撃から守る。戦場で活動するには、救難機と言えど敵の攻撃に激しく晒されるため、武装ヘリによる援護は不可欠だ。
ディエゴ・ガルシア島 4月16日 1819時
ブリッグズとコナリーは、司令官に挨拶をするために、近くにいたスタッフにゴードン・スタンリーの執務室の場所がどこか尋ねた。が、自分たちが向かうまでもなく、ボス自ら顔を見せに来た。
「やあ、ロバート。長旅ご苦労だったな。今日は疲れているだろうか、もう宿舎に行くといい。こっちだ。案内しよう」
「アメリカ軍が使っていただけあって、そこそこな状態ですね。それにしても、アメリカさんはアジア太平洋地域に展開するための重要拠点だというのに、よく手放しましたね」
「それだけ維持が難しくなったということだろう。現に、日本とヨーロッパ、オーストラリア以外の軍事拠点を次々に閉鎖しているくらいだからな」
アメリカは現在、国防予算の大幅削減から(と、言ってもアメリカに限った話では無いが)日本、ヨーロッパ、オーストラリアを除く軍事拠点を次々と閉鎖していっている。そうなると、中東に睨みを効かせる拠点が、NATOの共同利用基地に指定されているトルコのインジルリク基地になってしまっているが、アメリカからしてみたら、致し方ないという状態だ。こうしたアメリカの国力低下も、傭兵部隊の勢力拡大を後押しする結果となっていた。『世界の警察官』の役割を、傭兵たちが肩代わりしているのだ。