襲撃
アゼルバイジャン キュルミダル基地 4月23日 2341時
アゼルバイジャン軍の基地は、米軍でいうところの"デフコン2"の状態に入っていた。先日の哨戒艇撃沈事件で両国の緊張は高まり、その影響からか、昨日から原油が1バレルあたり10ドルも値上がりする有様だった。政府はイラン空軍のよるものだと非難していたが、当のイラン政府は否定し続けた。
レーダースコープを見ていたイワン・ジューコフは何か映ればすぐに警告できるように集中していた。しかし、それでどこまで対処できるかは甚だ疑問だった。今、使える戦闘機は2機のフォックスバットだけで、それもミサイルは1発だけ。機関砲弾は3分の1しか積んでいない上に、燃料も1時間飛べるかどうかしか無い。これでは運が良くければ敵機をなんとか撃墜できる程度で、戦力とはとても言えない。今では、小~中規模な国の正規軍よりも"民間人"であるPMCの方が強力な軍事力を備えているというおかしな世の中になっている。PMCの中には戦車や戦闘機はおろか、戦略ミサイル原子力潜水艦まで持っている有様なのだ。暫くすると、何かが映り、すぐに消えた。
「おい。何か今、映らなかったか?」ジューコフは同僚のダンコーに言った。「さあな。鳥か何かじゃないのか?」
しかし、先ほどレーダーに映ったのは鳥などではなくタラニスだった。タラニスはイギリス製の無人偵察/攻撃機でイギリス軍に配備され、一部のPMCも利用している。12機のタラニスはきれいに編隊を組んでキュルミダルを目指していた。基地まであと少しまで迫ったとき、2機のタラニスはALARM対レーダーミサイルを2発ずつ発射した。
「何だこれは?」ダンコーはレーダースコープに2つの奇妙な反応を見つけた。
「方位276。マッハ3で飛んでくるぞ」
「ミサイルだ!」ジューコフが叫ぶ。司令官のセルゲイ・コマロフはすぐに反応した。
「大変だ!対空戦闘用意!」
MiG-25は敵機を迎撃すべく発進準備をしていた。しかし、離陸する間もなく、ミサイルで破壊された。
滑走路上はまさに戦場になっていた。空対地ミサイルが炸裂し、ZSU-23-4が見えない敵に向かって砲弾をまき散らす。しかし、タラニスは巧みに砲弾を避け、兵装を使い切った機体は"カミカゼ"攻撃を仕掛けてきた。滑走路にはクレーターが掘られ、格納庫は潰れ、弾薬庫と燃料タンクが爆発炎上し、近くにいた多数の将兵を死なせた。敵の襲撃が終わった頃にはキュルダミル基地は廃墟と化していた。




